ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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11-②

 

 

「はー……やっと外に出れた……」

「副会長すっげー……トラブルの頻度は変わってないのにめっちゃ余裕できた……侑、後でこーいうトラブル捌くコツ教えといて貰いなよ。今後のためにも」

「そうだねー……今後?今後ってなに?」

「……虹ヶ咲の1stライブ、そのうちやるっしょ?どっかの箱でやるだろうから規模はフェスほどじゃないとはいえ、運営の参考になるじゃん」

「あ、そっか。単独ライブも考えないとだね」

「まずは目の前のスクールアイドルフェスティバルに集中しなきゃだけどね」

「……アナタが副会長から教えてもらっといてくれても良いんだけど?」

「やーだぷーぅ。ワタシ同好会メンバーじゃないしー」

「まだ言う?」

「いつまでだって言うっての……はー……しかし太陽が眩しい……あっちい……もうちょっと気温高かったらヤバかったわ、これ……」

「今の時点でも相当だけどね。歩夢たちにも気をつけるよう言っとかないと」

 

 

 軽口をたたき合いながら、侑と二人で詰所であるテントを出る。

 数時間ぶりに仰いだお天道様はお昼を超えてより元気になったみたいだ。もしワタシがスクールアイドル続けてて、もしこのフェスに参加するってなってたとしても、早々にギブアップして冷房の効いた部屋に引きこもってたんじゃなかろうか。この炎天下の中でパフォーマンスを続けているスクールアイドルたちには頭が下がる。そんな彼女たちの英気を養うのも、ワタシ達の仕事なわけだけど。

 

 

「よいしょっ」

「大丈夫?それ持てる?途中で潰れない?」

「大丈夫!今の私はパワー全開だから!」

「ホントかねぇ……」

 

 

 背負った保冷機能付きのバッグを揺らして侑は言うけれど、いまいち信用ならない。あの中にはみんなの分の飲み物やらタオルやらがギッチリ詰め込まれてる。こいつのへなちょこフィジカルでちゃんと届けられるのかな?

 ……まぁ、数が減れば重さも減るだろうし、大丈夫か。同じものを抱えるワタシも、人の事言えるほど力が強いわけじゃないしね。

 

 侑は東エリア、ワタシは西エリア担当だ。それじゃそろそろ行きますかね。

 

 

「んじゃ、そっちよろしくー」

「うん、そっちもね!」

「……さっきまで忙殺されてたのに、ヤケに楽しそうじゃん。そんなにみんなのステージ見るのが楽しみ?」

 

 

 本人が宣言してたとおりに妙に元気な侑が気になって、去り際を引き留めるようにそう言ってしまった。確かにワタシも楽しみには違いないんだけど、少なからず疲労があるのに、侑はそれを感じさせない。アドレナリン過剰分泌してるんだろうか。

 

 

 

 

 

「……ふふ、そうだね。みんながどんなライブしてるのかワクワクしてる、っていうのもあるし……」

 

 

 ワタシの問いかけに、侑は少し小首をかしげて微笑んだ後。

 

 

 

 

 

「なんだかんだ、アナタとさっきまで忙しかったのも、楽しかったし!……なーんて!じゃあまた後でねーっ!」

 

 

 返事を待たずにそう言い捨てて、担当エリアの方へと走り去っていった。

 

 

 

 

 

「…………ホントにちょーし出てきたじゃん」

 

 

 あぁやって色んな子をタラシてきたんだよな。ここんところご無沙汰だったけど、歩夢ちゃんと仲直りしてから吹っ切れた感じだ。相手がワタシで良かったね。耐性無い子があんな風にキラキラしながら言われたら勘違いしちゃうとこだ。まったく、侑ってやつはホントにもう。

 

 

「はぁ……」

 

 

 あーあー……パーカーあっちぃ。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 暫くの後。随分軽くなった背中のバッグを揺らしながら、ワタシはゴキゲンで運営テントへの道を戻っていた。別れる前の侑以上に元気になってると思う。あんなに良いものを見たら気力も充実するってもんだよ。

 

 

 

 

 

 かすみちゃんに髪飾り渡してるしずくちゃんとかね?

 

 音響でトラブってる愛さんと、それを助ける璃奈ちゃんとかね!

 

 いやぁもう美味しいなぁ!そういうとこは"原作"どおりで安心しましたよ!エリア分けの時にさりげなく担当する場所を弄って良かったぁ!

 

 

 

 

 

 もちろんライブも楽しんだ。通りがかった焼き菓子同好会や演劇部のブースも盛況だった。

 あっちも、こっちも、笑顔ばっかだった。

 

 ……うん。良いもの見たら、気力は充実する。真理だね。

 さって、指揮所で頑張ってくれてるだろう副会長と合流しないと!

 

 

 

 

 

『ねぇねぇニジガクの子達めっちゃ良くない?』

『分かるっ!東雲推しだけど靡きそー!』

 

 

 ぴくり。

 

 気合を入れなおしたところで、目の前を歩く二人組から漏れ聞こえて来た会話に、思わず聴覚が鋭敏化した。

 ワタシイヤーは地獄耳。上質なCPの可能性の足音と、推しへの称賛には敏感なのだ。

 

 

『わたし宮下愛ちゃんすっごい好き!曲聴いてるだけでめっちゃテンションアガる!何気にギャル系のスクールアイドルって珍しいし!』

『良いよねぇ愛ちゃん!でもねぇ、私としてはエマちゃんも捨て難いんだよねぇ。あんな優しいお姉ちゃんが欲しかった……ウチの横暴な姉も見習ってほしいよほんと……』

『あ、あはは……』

『でも皆良いんだよねぇ……あ、そうそう。歩夢ちゃんってどう?他の子が派手だからちょっと地味そうだなーって思ってたんだけど……』

『あぁ……なんか分かる。なーんか分かる。なーんでか印象に残るんだよね。そんで、応援したくなる、っていうか』

『ね!不思議な感じ!』

 

 

 態度には出さずに心の中で腕組みしながら頷きまくる。

 分かってんじゃん、この子達。その調子で箱推しへと沈んでいくが良いぞ。こっちの沼は深いぞぉ?けっへっへ。

 

 

 

 

 

『けど、来る前に予習してて良かったー!知らなかったら見落としちゃってたかも』

『ほんとほんと。そういう意味じゃ感謝だよね  ―― このブログに!』

 

 

 

 

 

「…………え」

 

 ……ぴたっ、と。

 その言葉に、頷きが止まった。

 

 

 

 

 

 

『ニジガクのみんなのこと、めっちゃ詳しく書いてるよねぇ。ちょっと気持ち悪いけど』

『これ書いてる人、よっぽど虹ヶ咲のことが好きなんだろうね。ちょっと引くけど』

『今日のフェスへの期待感、すっごい上がっちゃったもん』

『分かる!あとタイムロスが少ない周り方パターン教えてくれてるのは素直に嬉しい!会場広すぎだもん!』

 

 

 ニジガクにフォーカスしたブログは未だ少ないとはいえ、若干増えてきた。

 けれど目を通した中に、ワタシのそれほど癖が駄々洩れのものは無かった……なんというか、()()()()()()ブログばかりだったはず。

 そして先日、ワタシのブログには、色々と書き添えたスクールアイドルフェスティバルのエリアマップをアップした。

 

 ……もしかしなくても、これ。

 ……ワタシのブログのこと?

 

 

 

 

 

『東雲と藤黄のステージもちゃんと抑えてくれてるし、大助かり!……文章はちょっとアレだけど』

『紹介動画もアレだったけどね!あはは!よーし、次は彼方ちゃんのとこだー!』

『おーっ!』

 

 

 二人は笑いながら駆け出していく。

 当たり前だけど、すぐ後ろにそのブログを書いた本人が居るだなんて、気が付かないまま。

 いや、気付かれて欲しいわけじゃないけど。

 気が付かれても、困るだけだけど。

 

 

 

 

 

(……あれ)

 

 

 

 

 

 なんか……顔が、ニヤける。いま絶対気持ち悪い顔してる。

 

 

 侑や歩夢ちゃん、ニジガクのみんなみたいな、顔を知ってる人たちだけじゃなくて。

 見ず知らずの、本当に関わりのない誰かが、ワタシの書いたものを見てくれていた。

 それを、褒めて貰えた。

 

 もちろん、閲覧してくれてる人が居るのはデータ上は分かってた。

 好意的なコメントを貰えたこともあった。

 

 でも……こうして、実際に口から出た言葉を聞くと。

 なんか……なんていうか……

 

 

 …………なんか…………

 

 

 

 

 

「……んあ?」

 

 

 その時。

 

 もにょもにょとした感慨にふけるワタシを現実に引き戻すかのように。

 ぽつり、と。鼻の頭に、何かが落ちた。

 

 

「……うっげぇ」

 

 

 見上げた先には、風に吹かれて空を覆い始める、分厚い灰色の雲。

 

 はぁ。やっぱ優しいばっかじゃないね。この世界ってやつは。

 

 

 

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