ゆうぽむの間に挟まりたくねぇ!   作:ぁさ

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11-④

 

 

「―― 終わりじゃないよ。これで終わりになんて出来ない。まだ、伝えたいことがあるから」

 

 

 19時……スクールアイドルフェスティバルの終演時間を超えて、ようやく雨は上がった。

 悔しさ、やり切れなさ、申し訳なさ。あらゆるものに苛まれて俯く私の手を取った歩夢に連れてこられた虹ヶ咲学園前ステージには、大勢の人が詰めかけていた。

 

 "まだ、終わって欲しくない"

 

 そう思ってくれた……今回のフェスを、心から楽しんでくれた人たちが。

 学園に掛け合って利用させてもらえることになったという、最後のステージに集まっている。

 

 

 その晴れ舞台に……私の大好きなスクールアイドル達が、姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後のステージに集まっていただいたみなさん!そして、モニター越しに見てくれているみなさん!今日は私達と一緒に楽しんでくれて、本当にありがとうございます!」

「ちょっとアクシデントもあったけど、みんなのおかげでこのステージに立つことが出来ました!」

「今日は、いろんなステージを周って、みんなとツナガルことができて、とっても大切な一日になりました」

 

 

 かすみちゃんが、愛ちゃんが、璃奈ちゃんが。

 みんなへの心からの感謝を告げる。

 

 

 

 

 

「スクールアイドルフェスティバルは、みんなの夢を叶える場所!私達同好会は、グループとしてではなく、ひとりひとりがやりたい夢を叶えるスクールアイドルとして歩き始めました!」

「一人で夢を追う事は簡単ではなくて、それぞれが、それぞれの壁にぶつかったけど……」

「その度にだれかが誰かを支えて、今日、ついに大きな夢を叶えることが出来ました!」

 

 

 しずくちゃんが、果林さんが、エマさんが。

 これまでの道程に、思いを想いを馳せる。

 

 

 

 

 

「私達は、ひとりだけど、ひとりじゃない!」

「今までみんなに支えて貰った分、次は私達が、みんなの夢を応援します!」

 

 

 彼方さんが、せつ菜ちゃんが。

 バラバラであるはずの同好会が、重ねたひとつの心を、宣言する。

 

 

 

 

 

「……これからも、躓きそうになる事はあると思うけど……」

 

 

 そして……歩夢が。歩夢の、想いが。まっすぐで、ただただ純粋な、歩夢の想いが。

 

 

 

 

 

「『あなた』が私を支えてくれたように、『あなた』には、私が居る!」

 

 

 自信が持てなかった自分を支えてくれた『あなた』へと、降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この想いは一つ!だから……全員で歌います!」

 

 

 隣にいる誰かの手を握り続けてきた、みんなの手。

 縛り付けるためでも、しがみつくためでも、寄りかかるためでもない。

 想いを伝え合うために、繋いできた手。

 

 それがいま、『あなた』へと、伸ばされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「

 『あなた』のための歌を!! 

」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その手を。

 

 

 私は。

 

 

 私は ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 沸き立つ観客席から離れた一角。

 ベンチに座り、組んだ膝に頬杖をついて、つまらなさそうに。

 けれど、ひと時たりとも目を離さずにステージを見つめ続ける少女がひとり、そこに居た。

 

 

「あっ!居た居たマイエンジェル!」

「……はぁ?それってボクのこと?」

「ちゃんとお礼しようと思ったのにいつの間にか居なくなってたんだもん!会えて良かったー!」

 

 

 他者を遠ざけるオーラを纏う少女に、しかし物おじせずに声を掛ける者が訪れる。

 虹ヶ咲学園作曲同好会。

 今まさにステージで披露されている最終曲。その作曲を締め切り間際で仕上げた、当人だった。

 

 

「別にお礼なんて良らない。ちょっと気が向いたから邪魔しただけ」

「そうはいかないよ!この曲を完成させられたのは、エンジェルちゃんのおかげなんだから!感謝してもしきれないって!」

「……はぁ。分かった分かった。大げさなんだから」

「大げさじゃないっ!こーんなに良い曲になったんだもん!」

 

 

 適当にあしらおうとする少女に、部長は尚も詰め寄る。

 

 少女が作曲同好会に現れたのは、部長が迫る刻限に焦りながらも出来に納得がいかないと練り直し続けていた、その時だった。雨宿りのために迷い込んだ学園、その中に細く響く、未完成ながらも心を震わせるメロディ。それに引き寄せられた少女は何を言うでもなく、空いたキーボードを叩き始めたのだ。

 その旋律は、言葉以上に雄弁だった。嵌っていた袋小路から抜け出すためのキッカケ。部長にとっては、天からの救いに等しかった。

 

 

 

 

 

「……横から口出しされて、しかもそれを採用したんでしょ?作品を自分だけで仕上げられなかった悔しさとか無いの?」

「そりゃああるけど……私ね、あの同好会の子達の作曲、いっぱい任せて貰ってたんだ。渡された詩は、どれも魅力的で、やってると凄く楽しくて。それを歌ってくれてる時なんて、世界が煌めいて見えて……本当に充実してた。その良い刺激があったから、自分のオリジナル曲作りも捗って捗って!」

「…………」

「いつまで任せて貰えるか分からない。でもだからこそ、虹ヶ咲の皆が初めて全員で歌うこの曲は、今までで最高のものにしたかったの。これまでの感謝を込めた、いわゆる集大成、的な?」

「…………」

「つまり、私にとってはこの曲が最高の形で出来上がる事が、今日この日の一番の夢だったの。私のプライド以上に大切な、ね」

「…………」

「その気負いのせいでドツボに嵌っちゃってたんだけどね、たはは……ほんっとーにありがと!」

 

 

 トゲのある言葉も、つれない反応も意に介さず、話を続ける部長。

 聴き流しているかのように微動だにしなかった少女は、しかしそこまで聞いて。

 

 

 

 

 

「……そっか。あの子達の歌は、キミが作曲してたのか。やるじゃん、キミも、あの子達も」

「え?」

「旅行のついでにたまたま立ち寄ってみただけだったけど、収穫だったよ。インスピレーションが湧いてきた。これからに活かせそうだ」

 

 

 口の端を僅かに緩めて、そう部長に告げた。

 部長は知る由もないが、それは一足早くプロの世界へ身を投じた作曲家からの、最大限の賛辞だった。

 

 

「……スクールアイドル、か……ハハッ、まぁ、これっきりの縁だろうけどね」

「……そうかな?」

「……そうだよ」

 

 

 それきり口を噤み、じっと。

 二人で並び、曲が終わるまで、ただじっと、目の前の光を見つめ続けた。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 後悔に塗れ、くすんだ、プラチナシルバーの珠玉。

 心のままに煌めく9色の虹は、その表面にすら眩く反射していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?おねーさん手ぶらですか?」

「え?……えぇ、そうよ。さっき着いたばかりで、何も持ってないの」

「こんな最終盤に!?いやでも、間に合っただけ良かったですね!ある意味、雨に感謝です!」

「そうね。ちゃんとこの眼で見たかったから、嬉しいわ」

 

 

 ペンライトが乱れ舞う観客席の中。腕を組んだまま、直立不動でステージを見上げていた一人の女性に、偶然隣にいたファンが声を掛けた。

 ショルダーバッグを肩にかけただけの女性は内心で驚きつつも、それを表に出さずに微笑みかける。そのあまりにも完成された表情に、思わず胸を跳ねさせた。意識してみれば、今まで気がつかなかったのが不思議なほどに常人ならぬ存在感を放つ女性だ。こちら側ではなく、あちら側に居るのが自然であるような。

 

 

「……本当に、みんなバラバラなのね」

「っあ、虹ヶ咲ですか?そうですね!みんなソロアイドルですし!」

「なのに、みんなでも歌えるのね」

「とびっきりのサプライズですよ!なんかもう、わたし、胸が"きゅううううう"ってなっちゃって!」

「……分かるわ、その気持ち」

「ですよねっ!」

 

 

 衣装だけではない。

 好みも、パフォーマンスの練度も、信念すらも一貫していない。

 女性の類まれな観察眼は、僅かな時間のステージからすら、そこまで読み取っていた。

 だからこそ。

 

 

「本当に……あんな場所が、あったのね」

 

 

 彼女たち、そして観客たちの共鳴が、まるで異世界の出来事のように感じられていた。

 

 

 

 

 

「はいっ!」

「……?なぁに?」

「ペンライト、おひとつどうぞ!せっかくなんで振ってってください!」

 

 

 そんな、異世界の住人から差し出された施し。

 一緒に輪に加わろうと誘う、純なる善意。 

 

 その手を少しの間、見つめた女性は……しかし柔らかにペンライトを押し返し、踵を返す。

 

 

「……ありがとう。でも、いいわ。そろそろ帰らなくちゃいけないし」

「えっ!?もうですか!?来たばっかりなのに!?」

「本当に強行軍だったのよ。今度はちゃんと準備してくるわ……えぇ、きっと」

「そうですかぁ……」

 

 

 そのまま立ち去るかと思われた女性は、けれど何かを思い出したかのように首だけ振り返った。

 その視線の先にあるのは、差し出されていたペンライトの光。

 

 

「……あなたは、あの真ん中の子が好きなの?」

「へ?あ、はい!歩夢ちゃんイチオシですっ!」

「歩夢……そう……その色は、ピンクでいいのよね?」

「はい!"ライトピンク"ですっ!」

「謝々!縁があったらまた会いましょう。じゃあね!」

「あっ……行っちゃった。不思議な人だったなぁ……」

 

 

 その言葉を最後に、最寄り駅へと向かい始めた女性。

 かつかつと鳴る踵の音は、周囲の喧騒に溶け消え、その興奮をあたりに悟らせることは無い。

 

 

 

 

 

『"Light Pink"……"淡い"……いいえ、"煌めくピンク"。そう訳す方が相応しいわね。だって、こんなにも貴女の光が心に焼き付いちゃったんだから』

 

 

 ステージに見惚れる観客たちは、気づかない。

 

 

『……不思議。ポテンシャルは他の子達の方が高そうなのに。他の子達も、とっても魅力的なのに。貴女が、もっとも"普通"なのに……なんで貴女にいちばん焦がれるのかしら?それとも……"だからこそ"、なのかしら?』

 

 

 今ここに、先ほどまでとはまるで違う、獰猛な笑みを浮かべた傑物が居ることに。

 

 

『分からないわ。分からないなんて、面白いわ!それに栞子も、この学園に通ってるのよね……うん、やっぱり決めた!』

 

 

 幾人もとすれ違いながら自問自答を繰り返していた少女は、観客の群れの最後尾を抜けきり、更にしばらく歩いたところで……最後にもう一度だけ、振り返った。

 

 

 

 

 

『歩夢!いずれキチンと相見えましょう!その時までに自分を高めておくわ。貴女よりも、貴女達よりも、もっと、もーっと煌めく、黄金の……そう!"ピンクゴールド"のスクールアイドルとして!貴女達の前に立つ!そうしたら一緒に遊びましょうね!』

 

 

 周りに誰も居ない、ただ一人の世界で。

 その胸にトキメキを萌芽させた寂しがりやの怪物(モンスター)が、人知れず歓喜の叫びを上げていた。

 

 

 

 

 

「 ―― キャハッ!楽しくなってきたわッ!」

 

 

 

 

 

 

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