今日も今日とてコンフェッティアの出口を探し続ける。相変わらず今が何日の何時か判然としないが、ほぼ間違いなく最初に迷い込んでから数日は経過しているだろうとデメトリアは思う。
「……そういえば今日って」
2月14日。今日は自分の誕生日だった(無論、体内時計が正常であればの話だが)と、デメトリアは不意に思い出した。唐突に頭に浮かんだのは周囲に満ちるスイーツと蝋の甘い匂いのせいか、あるいは暗闇を進む中で否応なしに意識せざるを得ない
隣を歩いていたペーパーにも彼女の呟きが聞こえたようで、薄い頭を反らすようにデメトリアの顔を見上げながら祝辞を口にした。
「あぁ、ありがとう。お祝いしてもらえるのは久しぶりで……」
現世で誕生日を祝ってもらえたのは数える程度だ。共働きの両親が揃って家に居る事は殆ど無く、居たとしても仕事疲れから食事を摂ってすぐに寝てしまう。ここ最近に至っては、朝と夜の挨拶程度しか交わしていない気さえする。
その寂しさが自分がホラー映画の世界ばかり見続けるようになった一因ではないか、とデメトリアは自己分析している。……そうやって現実逃避を重ねた末に、このホラー映画顔負けの「夢の国」に辿り着いたのなら皮肉としか言いようのない話だ。何日も眠りっぱなしの娘を、今頃両親は心配してくれているだろうか。
――普通、遊園地ってお客が帰りたいと思ったら帰れるものじゃないの? それともチケット買って入場したわけじゃないから私は客じゃないって事? だったら不法侵入扱いで良いから、さっさと追い出して現世に帰してよ……。
終わらない愚痴を心中で垂れるのも、もう飽き飽きだ。
そこでふとペーパーの姿が見えない事に気付く。ついさっきまで隣に居た筈なのに……思案に耽り過ぎて逸れてしまったのだろうか。
「ペーパー? ……ペーパー、何処!?」
辺りの暗がりや物陰に目を走らせ、声を張る。コンフェッティアで大声を出す事がどれほど危険かは重々承知している。だが同時に、暗闇で独りになる事、独りにする事の恐ろしさについても誰よりも分かっているつもりだ。だから大人しく等していられない。
自分の声に異常が釣られてやって来るかも知れないなど、この時ばかりは一切頭を
――まさか異常? デメトリアは恐る恐る背後を振り返り、暗がりから現れたモノクロの影を見て肩の力を抜く。
「ペーパー……お願いだから、急に居なくならないでちょうだい。異常どうこうより先に私の寿命が縮むわ……」
小柄で儚いモノクロの画用紙は、闇の中に容易に溶け込んでしまう。デメトリアとしては、自分の見ていないところで
そんな彼女の内心を知ってか知らずか、乾いた足音と共に戻って来たペーパーは自身より頭半分高い位置の紫眼を見上げてくる。安堵と呆れの混ざった溜息を付くデメトリアだったが、その薄っぺらな両手が背後に回されている事に気付いた。何だろうと首を傾げた彼女の眼前に、掌の上に乗っていた物が突きつけられる。それが何なのか気付いた瞬間、半ば伏せられていたデメトリアの両目が大きく見開かれた。
「それって……!」
デメトリアの視線を奪ったそれは、ペーパーの両掌の上に乗っかる大きさのカップケーキ。赤いブラッドオレンジの皮で細工されたカップの中に、ブルーベリージャムが練り込まれた薄紫のケーキ。デメトリア自身の「色」を表したようなカップケーキの頂点には、小さな蝋燭が一本。
「もしかして、私のために?」
ペーパーは一つ頷き、スイーツショップで手持ちのチケットと全て引き換えにして用意してもらったと答える。
恐る恐る手を手を伸ばしてカップケーキを受け取る。落とさないよう慎重に両掌で掬い取り、肘を曲げて胸の前に引き寄せる。朧げに光る蝋燭の
「……ありがとう、ペーパー。ここに来てからずっと悪夢を見てるみたい……って思ってたけど、こんな風に祝ってもらえるならコンフェッティアもまだ捨てたものじゃないわ」
――まあコンフェッティアのバースデーサプライズにはあまり期待できそうもないが。特にデリリーニなど、一体何をしでかす事やら。
再びこくりと頷くペーパー。画用紙と黒鉛の顔は相変わらず変化を感じられないものの、一本線の口がほんの少し綻んだ……ようにデメトリアには見えた。
「ねえ、君は自分の誕生日覚えてる?」
ペーパーはふるふると首を振る。
「そっか……じゃあ、思い出したら教えてちょうだい。今度は私からプレゼントなり何なり用意するから!」
Q.どうしてたった2千文字書き上げるのに3カ月も掛かったんですか?
A.脳味噌は創作をしたくてたまらないのに、身体が睡眠を訴える……という事が数カ月間続きました……。