だってしょうがないじゃないか! ジップ誕生日だもの!
「惨めだね。無様だね。どんな気分? モノクロのガキ」
塗料工場の地下――打ちっぱなしのコンクリートと剥き出しの鉄に囲まれたコンフェッティアの牢獄は、看守ジップが管理する彼女の城であり、真っ当な
現実世界の遊園地でもそうであるように、コンフェッティアにも厄介な客は少なからず紛れ込むもの。園内の設備を壊した者、係員に対し横柄に振舞った者、スイーツや土産物を盗もうとした者……それら面倒を起こした客は速やかに牢獄へ送り込まれて反省を促されるか、あるいはそれが叶わなければジップ主催の特別なショーの「アシスタント」を務めさせられる。
もっとも、異常の現れる前――遊園地が正常に開園している間は、拷問器具も処刑台も埃を被ったままだったのだが……今は来客が訪れていた。
冷たい鉄柵に囲まれた刑場の中心、天井から垂れ下がった鉤付きの鎖で逆さ吊りにされた画用紙の子供・ペーパー。モノクロの
「工場に忍び込んだ挙句よくも散々逃げ回ってくれたよね。分かってる? 私の時間と労力を無駄にした罪は重いよ」
ラズベリーを思わせる赤い瞳が黒鉛そのものの黒い瞳を覗き込む。黒く塗りつぶされた瞳に浮かぶのは怯えと、それと意地。ジップを恐れている癖に目を逸らそうとせず、まだこの窮地から逃れられる希望があるとでも言いたげな表情。
実に気に入らない。モノクロならモノクロらしく何も考えず震えていればいいものを。
逸れた連れ合いを探していただけで、自分は何も悪い事をしていない――そんな如何にも子供じみたペーパーの言い分をジップは鼻で笑った。
「知らなかったの? モノクロは存在そのものが罪だ。『何も悪い事をしてない』じゃない、お前が今こうして生きてる事自体が悪い事なんだよ」
存在そのものの全否定は
「ペーパーに手を出すな」とエリオスから強く言い聞かされたが、ジップに言わせればエリオスの態度のほうがよほど奇妙だ。治安と秩序を預かる身として何事も例外を作るべきではない、モノクロの存在を許してはならないのだ。増してや、異常どもの魔手を搔い潜り、自分の監視からさえ逃れるようなモノクロなど。
「だから安心してよ。私がお前に罪を償うチャンスと、私の『ショー』に出演するという栄誉を与えてあげる」
身長150センチにも満たないペーパーと、身長190センチ近いジップ。二人の体格差は歴然で、無理やり引っ張られたペーパーの目元が苦痛に歪む。それを見たジップの口元が釣り上がる。普段同僚たちの前で浮かべる無意味な微笑とは違う、明確な嗜虐を孕んだ笑みである。
何処にあるかも分からない耳元に口を近づけて囁く。
「何が良い? ノコギリ? 炎? それとも水? 私は慈悲深いからね。薄汚いモノクロのゴミガキのリクエストにもちゃんと答えてあげる」
コンフェッティアは遊園地。子供たちの願いを叶えるためにある場所なのだから。
何度も自分の目と手とをすり抜けた幼気な魂が自分の手の内にあり、生殺与奪は全て自分の気分次第。それが可笑しくて堪らない。デリリーニにもエリオスにも、それに他の
高揚した気分のまま、震える薄くて細い画用紙の脚を引っ張り、その長身を折り畳んで腿に唇を落とす。
「もう絶対逃がさないから――
初めて呼ぶ子供の名は、そのまま処刑の宣告に外ならなかった。
腿へのキスは支配の意。
ジップは「憎さ余って可愛さ百倍」とばかりに粘着してくるタイプだと思っています。