私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

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呪術廻戦、クリスマスイヴが命日のキャラ多すぎワロタ。
ワロタ…………。


第33話 急転直下

「尊、急報だ」

 

 

 『その時』は、突然やってきた。

 

 ──私が藤原に戻ってから早一ヵ月。

 長徳元年()月一〇日のことだった。

 

 

「君の伯父上が、逝去した」

 

 

 伯父上、死去。

 かねてより飲水病(糖尿病)によって倒れていた──というのも事実かどうか疑わしいが──伯父上だったが、昼過ぎ頃に死亡したとのことだった。

 書き物をしながら耳だけ傾けていた私は、即座に顔を跳ね上げて羂索の方を見る。

 

 

「…………確かか?」

 

「疑うのかい? この一ヵ月でそれなりに信頼関係を築いてきたと思ってたんだけどね」

 

「茶化すなよ。それくらい重要な情報ってことだ」

 

 

 へらっと笑った羂索に、私は真面目腐った表情のまま答えた。

 この一ヵ月で分かったことだが──羂索はこのように、真面目な話を不真面目なまま語ることが多い。なので、いちいちこいつの言葉尻にまともに取り合っていると話がいつまで経っても進まない。結果、私はほどよいところで羂索の妄言をスルーすることを覚えていた。

 

 

「死因は、やはり飲水病か?」

 

「表向きはね。ただ、死体は末期の飲水病にしては綺麗なものだったよ。()()()()()()

 

「…………」

 

 

 飲水病にしては綺麗なもの……つまり、治療が進んでいたということか? どうやって……とは聞くまい。呪術全盛のこの時代、呪術師など星の数ほどもいる。つまり……早い話が、伯父上は見つけたのだろう。飲水病を治療可能な術式を持つ呪術師を。

 そしてその上で死亡した──"一部を除いて"綺麗な死体ということは、つまり一部については明確な損傷、外傷があったということだ。それが意味するのは、即ち。

 

 

「殺したのは、父上の手の者だな?」

 

「…………。……やはり君との会話は良いね。滑らかで実に心地良いよ」

 

 

 羂索の返答は、迂遠な肯定。

 ……やはり、そうか。

 

 名目上、現在の都の頂点に立っているのは伯父上だった。

 伯父上は関白であり、藤原の氏長者。その権勢はこの都において右に出るものなど一人もいない。そう、一人もだ。帝も含め──最も"偉い"のは伯父上である。

 しかし、実際の勢力図は権力の"偉さ"を反映してはいない。ここ数年の呪術師軽視が祟り、藤原直属の呪術師戦力は大方叔父上が掌握している。そして叔父上の配下の呪いによって体調を崩した伯父上は、父と結託して呪術師戦力の強化に走った。

 私の耳に届いたのがこの動きの一端でもあった「大元帥法」への接触だったが……おそらくここには、飲水病を治療可能な術師の回収もあったのだろう。伯父上は目論見通り叔父上の呪いによる飲水病を打破できた。しかし、それは呪術師戦力の強化の為に距離を縮めていた父の権力強化にも繋がったとみるべきだ。

 

 そして多分、それこそが父の目的だった。

 ……そもそも、呪術師嫌いの偏屈親父であるところの父が、追い詰められたとはいえ全体重を呪術師に預けるような手を打つのが違和感だったのだ。だが、呪術師を集める動きが伯父上の警戒を掻い潜りトドメの一撃を入れる為の布石ならば、ある程度は納得できる。「あくまで呪術師など俺の策の為の駒にすぎない」──居丈高に言う父の姿は、想像に難くない。

 

 伯父上と距離を縮めた父のことだ。おそらく、関白になるまでの道筋は既に用意されているはず。

 父が関白になれば、いかに叔父上といえど表立って意に背くことは難しいだろう。関白の座は叔父上にとっても魅力……。ここで下手に関白の権威を落とすようなことは避けたいはず。

 となると、父が関白になって基盤を築く前に失脚させないと、娘である私も必然的に駒として動かざるを得なくなってしまう。そうなれば最悪だ。

 

 ……何が最悪って、多分数年もしたら失脚するであろう父の駒として、父の勢力に雁字搦めにされてしまうんだよな。

 関白になった父は、間違いなく私を入内させる。そして私を懐柔する為に、自分の勢力に深く深く食い込ませようとするだろう。私は呪術師としても優秀だから、ほぼ間違いなく呪術師戦力としても中枢に食い込む。そうして後戻りができなくなったあたりで──多分父は叔父上に敗北する。呪術戦によるものか、あるいは単なる政治の陰謀か、そこまでは分からないが、もって数年、五年はまずもたないだろう。

 入内するのはいい。だが問題なのは、そうすると私が敗軍の将になってしまうというところだ。なまじ父の配下として権力を得てしまえば、安倍に戻るにも叔父上の下で働くにもやりづらい。ぶっちゃけ、都を出て放浪の旅でもしながらどこぞに隠れている天元探しをして修行した方がいいレベルだ。

 ……別に詰みってほどじゃないが、数年も拘束された挙句に都落ちが一番マシな未来を掴まされるなど願い下げである。私の当面の目的である「呪術の習熟」にとっても邪魔極まりない。

 私にとって、父は此処で失脚して家督を叔父上に譲ってもらう方が都合がいいのだ。

 

 

「従兄殿は使えないのか?」

 

「残念ながら。七光りじゃどうしようもないね」

 

 

 ダメもとで問いかけてみると羂索は肩を竦めて両手を挙げた。……まぁそうか。となると、あとは……。

 

 

「安倍氏からは?」

 

「そちらもまだかな。……というより、君の相方の目立ちっぷりに苦慮しているようだ。何せ白髪に目隠し。こんな奇人を女御にしたら悪目立ちこの上ないだろう」

 

「………………返す言葉もないよ」

 

 

 一応、墨で髪を染めて包帯を外せば蒼眼を加味してもそれなりに目立たなくはなるんだがな……。それを抜きにしても、所作で目立つといったところだろう。……一ヵ月、か。まぁ佳子に最低限の礼儀を叩き込むにはまだ足りないな。

 

 

「とすると」

 

「ああ。先手を打つべき、だね」

 

 

 私と羂索は、互いに頷き合う。

 

 私と羂索も、この一ヵ月間ただ花嫁修業をしていた訳ではない。「大元帥法」に関与している父と伯父上の疑惑。これについて、独自に調査を進めてきていた。

 結果として伯父上の死を回避することこそできなかったが──その分、父の手駒である術師の動向を調査し、大和国に数人の術師と資材が運び込まれていた旨の押書(現代で言うところの契約書)を確認している。

 つまり、証拠は既に揃っているという訳だ。

 

 私達がここまで動かず留まっていた理由はシンプル。父が動き始め、こちらへの警戒が薄くなったタイミング──そこでその横っ面を叩くためである。

 

 

「そういえば荒事の場で見るのは初めてだが、ちゃんと戦えるんだろうな」

 

「いやいや。特級を祓ったことのある藤原尊一級術師には及ばないよ」

 

「抜かせ。どうせこの都よりもババァだろ、オマエ」

 

 

 軽口だが、これは私の立場からしても真っ当な推測の範疇である。

 術師の間では、天元の存在は現時点でも「五〇〇年も昔から生きてどこかに隠れ潜んでいるといわれる謎の術師」として伝えられている。初対面の時、羂索はその天元を引き合いに出した。まるで既知の間柄のようにだ。必然的に、平安京の成立、つまり建立が始まった延暦一二年──史書によると今からざっと三〇〇年ほど前──よりも前に生まれているという推測も成り立つわけである。

 

 

「くっく、どうだろうね。あるいは、私は見た目通りの年齢の小娘かもしれないよ? 魂が先か、肉が先か……興味深い問いだとは思わないか」

 

「興味深いと言うには、前提条件が漫然としているな。寝物語ならば面白いだろうが」

 

「これは手厳しい」

 

 

 軽口を叩きながら、私達は廊下を駆ける。

 私達が向かっているのは、父の居所──ではなく、大和国に向かって術師や物資を送る管理の記録をしたためた帳簿の在処だ。

 

 ……父は用心深い。

 己の失脚の起点となりうる情報を、自分の懐から出すことは絶対にしない。つまり、術師や物資を管理している帳簿の類は間違いなくこの家にある。そしてその帳簿は腹心によって管理させている。だが、伯父上が死んだこのタイミングは、父が成り上がる為の絶好の機会。当然、父は腹心の呪術師を連れて自分の地位を固めるために動く。つまり、伯父上が死に、父が関白そして氏長者に上り詰める為にこの家を空けたこの瞬間──ここが、最大のチャンスなのだ。

 

 そして、帳簿の場所は既に羂索が調べをつけている。

 帳簿は、母屋の奥。父の居室の畳の下に掘られた地下室の中に隠されている。これは羂索が調べた情報なので、間違いない。……毎度どうやって調べてるんだと不思議だが。

 

 

「…………」

 

 

 音もなく母屋を進んでいた私と羂索は、やがてどちらからともなく足を止めた。

 目当てのものを発見した訳ではない。むしろ、逆。そこに至るまでに障害があることを認めたのだ。

 

 ──呪力。

 

 呪霊によるものではない。術師による、呪力。それが襖の向こうから見て取れた。……父に雇われた呪詛師か。呪力量は…………そこまででもない。「禊浴」を使わなくても張り合えるレベルだ。等級にすれば、二級……よくて準一級ってところか。雑魚だな。

 

 

「……流石に、保険くらいは仕込んであるか」

 

「だとしても、この程度が保険ならお粗末と言わざるを得ないけどね」

 

 

 腰を落とし、拳を構え呪力を練る。

 敵の方も、こちらの動きを察したのだろう。襖の先で、もぞりと身動ぎをしたのが音で分かった。

 

 私が長い髪の一本を引き抜いたと同時──

 

 

 ドウッッッ!!!! と。

 

 

 爆炎と共に、襖が跡形もなく吹っ飛んだ。

 一瞬前に飛び退いて爆炎を回避しながら、私は思考を張り巡らせる。

 

 ──爆音と炎!? 炎の術式? いや延焼が少ない……爆心地は襖だ。とすると爆発の術式か? 爆発半径は精々二メートル……身動ぎと爆発までのラグを考えれば、攻撃過程が不可視であっても呪力の起こりを見てから回避は容易。

 それでも簡単に初撃の不意打ちという札を切ったということは、爆発を印象付けてこちらを及び腰にさせたい意識の表れか。だとすれば敵の目的は撃退ではなく時間稼ぎか……あるいは、爆発には何かしらの代償があるか。状況的にその両方ってこともあるな。

 

 敵の攻撃手段にアタリをつけながら、私は吹っ飛んだ襖の先にいる下手人の方へ視線を向ける。

 

 そこにいたのは、一人の僧だった。

 年の頃は、二〇代後半か。剃髪した頭に、無精ひげ。精悍な顔立ちだが、どこか煤けている。袈裟も粗末なものではないし、元はそれなりの寺にいたのだろうが……今はその栄華も見る影もない。ひび割れた絵画のような印象の男だ。

 そして何より重要な要素。

 その男は、口から血を流し──()()()()()()()()()()()

 

 

 ──爆撃、代償つき。

 ──原作、肉体を爆発させる術式。

 

 ────覚えがある。コイツ、死滅回游に登場した泳者(プレイヤー)黄櫨(はぜのき)って術師と同じ術式じゃないか!? あるいは、受肉前の平安の姿がこれか……。

 

 

「オマエ、何者だ?」

 

「どうでもいいだろ、俺が何者かなんて。つーか自分が何者かなんて本当に分かってるヤツなんかいるのかよ?」

 

 

 一瞬の弛緩。

 しかしその直後に炸裂が起こるであろう戦闘の間隙で、お互いに攻撃の一手を打とうと──

 

 

「はいど──んっっっ!!!!」

 

 

 ──した矢先、敵術師の横顔に馬鹿のドロップキックが叩き込まれた。

 

 

 …………あ……?

 呪力の起こりすら感じなかった……あの野郎、私達の未来を「確定」させたな!?

 

 

「わたしは自分が何者かなんてまるっきり分かり切ってますよ。聞きたいですか自分探し中のお坊さん。聞きたいでしょう教えてあげます特別に!!」

 

 

 ──そこにいたのは。

 普段の紅白の巫女服ではなく、気持ち華美な色合いの女房装束を身に纏った白髪の少女。

 目隠しの包帯を解くと、少女は自信満々に胸を張り、そしてこう宣言した。

 

 

「私は佳子。そこにいる尊の親友にして──超・天・才、ですっ!!!!」

 

 

 ……なるほど。

 確かにこんな奇人は、女御にはできないか…………。




会話のスムーズさを褒めてるのは真人と順平の関係性と同じなんですが、尊は「迂遠な肯定」扱いでいちいち取り合いません。ここが順平と違うところですね。
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