私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

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本年もよろしくお願いいたします。
犬島の呪霊の術式についてはこちら


第36話 逆贄

 ゆらりと、羂索の体が揺れるたびに、その首元から大型犬の式神が現れる。

 

 犬島の呪霊が保持していた術式。

 発現した犬型の式神が嚙みついた対象を「追放」──任意の場所に瞬間移動させる。それを何度も繰り返せば、確かに素早く移動することは可能だろう。

 

 

「この術式の面白いところは、実は自分を対象に取れるところでね。自分を対象にとったときの挙動がまた興味深いんだよ」

 

 

 発現した犬の式神を撫でながら、羂索は楽しそうに言った。

 ……ふむ? なるほど、とすると……。

 

 

「自分を「追放」した場合、発現した式神もまた自分の移動についていって、同じ距離を保ち続ける。つまり、複数の式神を用意して移動を繰り返していけば、他者を連れて無限に移動し続けることもできるというわけだ」

 

 

 順番的には、

 

 ①私を「追放」する

 ②自分を「追放」先に「追放」させる

 ③再度私を「追放」する

 

 の手順を延々と繰り返していく訳か……。変わり映えはしないが、確かにこの方法なら通常の数十倍以上の速さで移動することができる。

 ……そして今の術式の開示によって、術式出力も向上したというわけだしな。

 

 

「大和国までどのくらいでつく見込みだ?」

 

「「大元帥法」の発動に必要な呪具の調達には、秋篠寺へ向かう必要がある。ここからだと……四半刻もしないうちに着くよ」

 

 

 三〇分足らずか……。

 ……大和国のあたりって、多分だけど奈良くらいだよな? 前世が無学すぎて確信が得られないのがもどかしいのだが……京都から奈良ってそこそこ遠いはずだし、かなり速度が出るんだな。

 

 

「通常であれば向こうもまだ到着はしていないはずだからね。途中で追いつける算段だ。まだ十分に間に合うよ」

 

 

 言いながら、羂索は私に式神を噛みつかせる。

 瞬時、目の前の景色が変わり畳の蹴散らされた部屋に出た。……向こうの部屋で戦闘音が続いている。佳子がまだ戦っているらしい。

 

 

「やぁ、まだやっているようだね。では今のうちに行こうか」

 

「……だな」

 

 

 一瞬、佳子に何も言わずに移動することによって、佳子が予想外の動きをしないか心配したが……まぁ、だからといって書置きを残しているような暇もない。

 なんだかんだで佳子だってもう一二歳、放っておいたらおかしな判断をするほどガキという年齢ではない。ここはひとつ、佳子を信頼してこっちの目的の方を優先しようか……。

 

 そう考えていると、またしても景色が瞬時に切り替わる。今度は父の邸宅の屋根と同じくらいの高さの空中に出た。

 

 

「さぁ、此処からはどんどん行くよ!」

 

 

 羂索の移動についてきた式神が、代わる代わる噛みついて「追放」を仕掛けてくる。

 まるで空を飛ぶようにして、地形を無視しての移動。──下手をすると、現代で車に乗って移動するよりも速いかもしれない。それにこれなら、上空から敵を視認して急襲を仕掛けることができる。

 

 

「……この術式。やはり犬島の呪霊のものだよな」

 

 

 私は地を行く人々を確認しながら、羂索に話しかけた。

 あの場面ではすぐに行動する必要があったからいったん棚上げしていたが、今なら時間がある。

 

 

「いや、そうとも限らないよ? 呪霊と同じ術式を持つ場合というのもありえるし」

 

 

 しかし、羂索はやはりというべきか、はぐらかすつもりのようだった。

 だが、そんな理屈が通るわけがない。

 

 

「単純な術式ならともかく、「噛みついたものを「追放」させる犬型の式神を発現する術式」が被る訳がないだろう。言い逃れにしてももう少しまともなものにしろ」

 

 

 私はそう言って、羂索の方へ一瞥をくれる。

 ……こうは言ってみたが、この程度で羂索が術式の情報を白状するとは思っていない。そもそもはぐらかすということは、羂索はこの場で自分の術式を説明する気などないということだ。

 別に、私としてもそれでいい。私がこの場でこの話をするのは……今後私に対して「術式効果を説明する縛りで術式出力を上げる」という手を取らせたくないからだしな。

 

 

「…………生み出した呪霊の術式を利用することができる、のか?」

 

 

 それだけでは流石に限定的すぎるが、実際に起こしている現象としてはそういうことだろう。

 下手に推測を混ぜるよりも、まずは出発点を定める。考察はそこからだ。

 

 

「いや、それだけではないな。正確には、呪霊を生み出すという行為に付随する何か。それが術式使用の条件になっているはずだが……」

 

「あーやだやだ。他人の術式を目の前で詮索するなんて無粋だと、安倍家では習わないのかね」

 

「オマエだけ私の術式を知ってるのは普通に不公平だろうが」

 

 

 どうやら本当に術式の詮索はされたくないらしい。お茶らけた調子で肩を竦められたので、私は軽い調子で言い返しておいた。

 ……これ以上深入りして変にこじれても面倒くさいのでここでやめておくが……ここでそういうリアクションをしたということは、おそらく方向性としては間違っていないのだろう。おそらく、「縛り」……? 「縛り」を結んだ相手の術式を利用する術式?

 ……まだちょっとぼやけている気がするな。それに、もしそうだとしたらすでに祓われた呪霊の術式を今も利用できているのが「縛り」を介した術式というイメージと微妙にそぐわない。乙骨の「模倣(コピー)術式」のように、何らかの条件を満たせば対象を殺しても使用可能というような形が近い気がする。

 

 

「それは君が術式効果を隠す努力をしていないからだろう? 私はそのへんちゃんと気を遣ってるし。術師の作法だよ、こういうのは」

 

「……私の術式にそんなことをする余裕がないと分かっていて言っているのか、その言いぐさは……」

 

 

 しれっと煽ってきた羂索に私が低い声で唸るように言うと、羂索は耐えきれないとばかりに噴き出した。この野郎、「蛇匣(ナーガ)」を使って頭から丸呑みにしてやろうか。

 ……まぁ、こんなことを言っておきながら運用については佳子にも隠している部分があるし、その点については言いっこなしではあるんだがな……。まぁそんなことをいちいち正直に言ってやる義理などない。せいぜい、コミカルにブラフを張ってやるだけだ。

 

 

「ほら、拗ねるなよ。千切が見えてきたぞ」

 

 

 と、話を逸らす目的も込みで羂索が言う。

 視線を下ろしてみると、そこには長髪の男の姿が。

 

 ……呪術師って、呪力の関係か頭髪の色素異常がけっこう多いんだよな。佳子や五条悟もそうだし、原作だけでも虎杖悠仁、三輪霞、両面宿儺、裏梅……。三輪に関しては明確に「髪を染めていた」というエピソードすらあったくらいだし。

 

 何が言いたいかというと、その男は日本人離れしたプラチナブロンドの髪をしていた、ということだ。

 さらっさらのストレートヘアを流して歩く和装の男は、上空にいる私たちにまだ気付いていないようだった。

 

 ……年齢は、三〇代半ばほどか。神経質そうなすらりとした顔立ちに無精ひげが特徴的だ。身なりからしておそらく貴族の血筋。しかし服はところどころボロいので、出奔したか何かなのだろう。全体的に、高価な壺に埃が被ったような──そんな印象の男だ。

 

 

「やる気のほどは?」

 

 

 真下にいる金髪の男──千切に視線を集中させながら、私は羂索に問いかける。

 犬島の呪霊の術式を自分の生得術式と言い張る以上、おそらく戦闘は不得手と言いたいのだろう。となるとメインは私、サブは羂索という形になる。いや、もしくは自分は完全に雲隠れするという可能性もあるな。……まったく噴飯ものの理屈だが。

 

 

「残念ながら私は直接戦闘は苦手でね。それに千切とは知己だ。悪いが身を隠させてもらうよ」

 

「もとより期待はしてない」

 

 

 そう言い返すと、羂索は短く笑いながら姿を消した。

 まぁ分かっていたさ。……此処から羂索の監視下で千切を倒さないといけなくなるっていうのもな!

 

 

 まず、奇襲は成功しないとみていい。

 高所からの落下を無傷でやり過ごすためには呪力防御が必須。だが呪力を出していればさすがに手練れの術師に気づかれないのは不可能だ。つまり私の落下は確実に千切に気づかれる。

 瞬間移動の余地が残っていればそれでもよかったのだが、羂索はとっとと消えやがった。つまり私はこれから、確実に迎え撃たれる奇襲を敢行しなければならなくなったというわけだ。ふざけんな。

 

 そして案の定。

 

 ぐりん、と千切が空を見上げた。

 

 

「それで奇襲のつもり? お嬢ちゃん!」

 

「お茶目は嫌いか、(びん)そぎ男!!」

 

 

 言いながら、私は髪を一本引き抜く。

 千切は懐から一枚の紙を取り出すと、それを私に差し向けてきた。この挙動は──!!

 

 

 「再契象」!!

 

 蛇匣(ナーガ)」!!

 

 

 発現されたのは一匹の牛。

 それが、通常あり得ない跳躍を見せて空中の私を狙い撃つ。角による刺突と重量と加速による衝撃の両面を狙った一撃だ。

 

 それに対し、私は空中で「蛇匣(ナーガ)」を発現し、それを足場にして地面に向かって跳躍する。跳躍と同時に呪力の小爆発を生み出し、私は地面に着地する。

 

 

「コイツ、速ッ……」

 

「遅いな。それじゃ都ではやっていけないぞ」

 

 

 この移動法は、単行本で明かされていた「宿儺の移動法」というヤツだ。

 宿儺は空気の面を認識して空中ジャンプもできるしジャンプの瞬間呪力を少量放出してさらに加速する移動法をしているという。まぁ、空気の面とかは私には理解不能なので再現不可なのだが……呪力の放出による加速については、まだ真似をする余地がある。

 実際、この移動法はすごい。試しに佳子との組手(術式禁止)でやったら無限に背後を取りまくって佳子を怒らせることに成功したほどの加速だった。ざまぁみろ。反転を覚えてから調子に乗りすぎなのである。

 

 

 そして空中では、牛に突撃された「蛇匣(ナーガ)」がそのまま体をのたうたせて牛を叩き落していた。

 今回発現した「蛇匣(ナーガ)」は、長さにして五メートル程度の中型。それに応じて体の太さも細くなっているが、その分小回りも利くようになっている。

 私は「蛇匣(ナーガ)」に地面を掘り進むように命じながら、押書を焼き切った姿勢から急ぎ腕を引き戻そうとしている千切の懐に潜り込む。切断……は流石に間に合わないか。やるなら……こっちだな。

 

 接近戦攻撃が来る──と覚悟している千切を嘲笑うように、私は間合い一歩手前で足を止める。

 

 ……この女御の衣装でも、きちんと袖は機能している。

 その事実を確認した私は、ニヤリと千切に笑みをくれてやりながら、

 

 

 拡張術式「蛇道虎穴(じゃどうこけつ)

 

 

 安倍氏邸宅に安置している「壺」と私の袖に作った「壺」を繋ぐ。

 直後、私の右手からペットボトルの水をばらまいたみたいに「毒液」が撒き散らされる。──そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()、である。……服の中に忍ばせている契約書の数々にとっては、さぞ効いてくれることだろう。

 

 

「!!」

 

 

 「再契象」!!

 

 

 直後、であった。

 千切の懐から「大量の水」が発現する。

 

 

 …………!! コイツ、もしや「灌漑の押書」を…………!?

 

 この時代、旱魃(かんばつ)は人命にかかわる深刻な事態だった。農業用水としても飲料水としても、雨の降らない時期における水の価値は計り知れなかった。それこそ、帝が園遊会のために作った庭の水を灌漑のために用いたりするほどに。

 そして当然、そのためのやり取りには莫大な価値が発生する。……それに伴って、契約だって存在するのは当然の流れだ。その水を……!?

 

 いや、それ以上に重要なこと! それは千切の術式では、発現した物品に対して()()()()()()()()()()()()()()()ということ!!

 

 

「ソイツを押し流せ!!」

 

 

 …………野郎…………!!

 

 

 術式順転 「禊浴(けいよく)」!!

 

 

 保存していた毒液の五分の一──量にしておよそ一〇リットル程度を呪力に変え、私は膨大な呪力に任せて横合いに思いきり跳躍する。ドッ!! とほとんど爆発に吹っ飛ばれるような勢いで、私は殺人的な奔流を躱す。

 空中で回転して制動した私は、もう一体発現した「蛇匣(ナーガ)」を足場代わりにして跳躍を中断した。

 もっとも、なりふり構わない跳躍によって発現した「蛇匣(ナーガ)」は早々に真っ二つになってしまったが。やはり発現速度を重視した式神では強度が足りていないな。

 

 ……最初に発現した「蛇匣(ナーガ)」は……叩き潰されているな。まぁアレをもろに食らえばそうもなるか。

 さて。

 

 

「どこでだ?」

 

 

 首を鳴らしながら、私は千切へと問いかける。

 額に汗を一筋流しながら、千切は油断なくこちらへ相対していた。その様子を見て、私はさらに続ける。

 

 

「どこで、私の術式効果を知った? そこまで多くならないようにしているんだがな……。「蠱毒呪法」の術式効果を知る存在は」

 

 

 少なくとも、藤原氏には私の術式は秘匿してやってきた。

 安倍氏の中でも晴明翁と佳子には私の術式は教えているが、それ以外の術師には(天使なども含めて)私の術式は教えていない。平安の世など、誰がいつ敵に回るか分かったものじゃないからな。敵に回らないと信じられる……いや、敵に回ったとしても教えたことを後悔しない者にしか、術式は伝えていないはずだが。

 あとは羂索くらいか。……現状だと、ヤツから流れた可能性が一番高いが……、

 

 ……いや、違う。まだ一つルートが残っていた。

 滂沱だ。

 あの呪霊には私の術式を見せたうえで、殺し損ねている。ヤツがほかの呪詛師とつるめば、そこから私の術式が漏れる可能性はありえる。

 

 …………くそ、どっちにしても面倒くさいな。

 私の術式が初見で看破される可能性も、目の前の術師があの一瞬で対抗策を打つ頭を持っているのも……。

 

 

「教えるわけないでしょ。教えたら君、情報源を殺しに行くんじゃない?」

 

「殺せるなら、な。羂索なら殺すのも骨だ」

 

 

 私がそう答えると、千切はぴくりと眉を動かした。

 そういえば、千切は羂索と知己だとヤツ自身が言っていたな……。……ってことは、羂索から漏れたか? これは。あのアマ……次会ったら顔を溶かしてやる。

 

 

「条件を二つ提示しよう」

 

 

 「壺」を解除し、私は髪を二本ほど抜く。そうしながら、千切に向かって続けた。

 

 

「一つ。即座に投降し「大元帥法」の解除を断念すること。

 一つ。私の術式内容を知った経緯を説明すること」

 

 

 二本の髪を握り込む。

 千切は何も言わない。攻撃を行うこともしない。……できない、といった方が正しいのだろうが。

 その事実を認識しつつ、私は足を止め、千切に向かって改めて言う。

 

 

「これを満たせば、命だけは助けてやる。破れば命は奪うがな。これは「縛り」と取ってもらっていい」

 

「…………論外♡」

 

「残念だ。なら一度死んでから考え直すといい」

 

 

 直後、私の両肩から腕ほどの太さの「蛇匣(ナーガ)」が一本ずつ()()()




そろそろ「現在の蟲毒呪法」の能力詳細を出さねばなと思いつつ、ずっとタイミングを逃しています。
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