私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

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モジュロってなんですか?


第41話 再来

 現代では呪術師といえば日本中を飛び回って呪霊や呪詛師を祓うイメージがあるが、この時代、呪術師戦力が京の外に出ることは滅多になかった。

 というのも、そもそもこの時代、呪術師というのは『朝廷を守護する戦力』であったからだ。そこから発展して京の平和を守るのも呪術師の仕事ではあったが、その外で呪霊騒ぎが起ころうと呪詛師騒ぎが起ころうと、それは本来呪術師の仕事ではなかった。一応そういうのに対処する術師もいたが、そういうのも呪詛師と呼ばれていたのがこの時代だ。

 もちろん、あまりにも派手にやりすぎる呪霊や呪詛師がいれば、朝廷としても対処しなくてはいけないので、遠征に出ることが全くなかったわけではない。ただ、そうした場合でも術師の身体能力を活用した移動が主であって、つまり()()()()で済む遠出しか、私は経験したことがなかった。

 

 

「…………まさか馬とは」

 

 

 私は今、人生初めての乗馬をしていた。

 

 ちなみにこの時代、意外にも馬は貴族生活に身近だった。

 貴族の神事では現代でいう競馬みたいな儀式があるしな。生で見たことはないが、貴族教育を受けていた時代にも存在は知っていたし、何なら術師として活動するようになってからも、叔父上が競馬大好き民だったこともあって話題には事欠かなかった(競馬にイカサマしようとした術師を退治するみたいな任務もあったし)。

 

 ただ、それでも女の身である私に乗馬の機会があったかといえばそれは明確にNOだ。貴族の淑女が馬に乗る必要なんて皆無だしな。

 当然ながら、馬の乗り方など知る由もないのだが──今回のところは、馬を操る"乗尻"の後ろに乗せてもらっている。正直知らない男の後ろに乗るのはすこぶる居心地が悪いが、消費体力のことを考えるとこっちの方が圧倒的に良いのは間違いないしな……。

 

 

「術師様を背に乗せることができて、光栄ですよ」

 

 

 私の呟きに呼応したのか、乗尻(騎手のこと)の男が柔和な声で語りかけてくる。

 ちなみに、この男は加茂家の人間であり、術師……とまではいかないが、呪術の心得のある人間である。現代で言うところの補助監督だな。

 

 

「こんな小娘がですか? 加茂家の方はお上手ですね」

 

「お戯れを。先の関白が遺された一の姫にして安倍家でもその名を轟かせる神童。私程度の乗尻では到底釣り合いませぬ」

 

「…………それが私の評判ですか」

 

 

 安倍家で名を轟かせてるあたりは別にいいが(事実なので)、先の関白が遺された一の姫っていう風評は頭が痛いなぁ……。

 これ、しょうもな父派の残党とか残ってたりしたら、さっさと片付けないとなんか神輿として知らぬ間に担ぎ上げられて叔父上と強制対立ルート突入になったりしないか? ちょっとこの件が終わったら調べてみようかな……。

 

 

「では、轟かせている名に恥じぬよう、まずは背を預けて頂いているアナタの命は守らねばなりませんね」

 

 

 そう言って、私は同じように走る周辺の馬へ視線を巡らせる。

 涅漆鎮撫隊から派遣された術師は(乗尻の準備の関係で)全部で四つの隊に分けられている。第一隊には天使が割り振られており、私は第三隊に位置している。ちなみに佳子は第四隊だ。術式的にアイツこそ第一隊に割り振られるべきじゃないだろうかとは思うのだが、おそらく晴明翁の過保護でも発動しているのだろう。

 私の近くには、全部で五人の術師がいる。私の他には全員二〇代以上の男性で、乗尻のサポートを受けているのは私だけだ。まぁ連中はどいつも貴族崩れだからな。乗馬の心得くらいはあるのだろう。

 ちなみに、コイツらは一応同じ涅漆鎮撫隊所属ではあるのだが、全員が全員安倍家の所属というわけではない。安倍家が掻き集めた精鋭には変わりないのだが、厳密には藤原所属だった私が出向と言う形で加えられたように、他の家の訳ありさんが紛れ込んだりしている例もある。そうでなくとも、安倍家の傍流とか菅原家の親戚みたいな連中もいるしな。

 確か、事前のブリーフィングでは私の隊にいる五人のうち三人は安倍家の傍流、二人は取り立てられた流れの呪詛師だった。もっとも、呪詛師といっても地方で自衛のために活動していた術師のようなもので、言ってみれば"田舎の大将"みたいな連中だが。

 

 

「…………()()()()()()()でもその余裕。やはりアナタを背に乗せることができて光栄だ」

 

 

 乗尻は、そう言って笑った。声色だけでも、その笑みが引き攣っているのは分かったが──。

 

 

 ────今回の任務は、「十束剣片式(とつかけんべんしき) 刀津貴(とつき)」の迎撃だ。

 かつて唐に渡った術師"入唐八家"の一人、「常暁」。彼が生前扱っていた、彼の術式が焼き付いた最強の式神──それが「刀津貴」である。彼の死後も呪具として残り続けた「刀津貴」は、「大元帥法」によって封印されていた。しかしその封印は、我が愚かな従兄殿によって解放されてしまった。

 現在、従兄殿(あるいはその手勢)と「刀津貴」は大和国にいる。

 私達は、大和国にいる「刀津貴」及びその制御権を握る人間の討伐の為に今こうして馬を駆っているわけだ。

 

 事前のブリーフィングでは、到着時間は早くても一刻半(三時間)ほどと言われていた。私達が京を発ってから、そろそろ一刻が経つ。あと半刻ほどで大和国に到着する訳だが……しかし私の警戒は、このタイミングになって最高潮になろうかというところだった。

 といっても、別に難しい話があるわけではない。単純に、主犯が従兄殿なら狙いは京なのだから、攻めて来るんだしもっと早くに会敵するだろうという判断である。

 個人的には、京を発ってから半刻もしたら馬に乗った従兄殿with刀津貴と遭遇する可能性すら考えていたのだが、どうも従兄殿は馬には乗っていないらしくこの時間まで誰にも会っていない。……ただ、流石に狙いが京なのに移動していないという愚は、いくら七光りの無能である従兄殿でも冒すまい。

 となると、そろそろ先行している部隊の戦闘音やこちらへの襲撃が近づいて来てもおかしくはないが……。

 

 ちょうど、そう考えていたところだった。

 

 ズドッドドドドン!!!! と、人の身体程の直径もある大岩が無数にこちらに降り注いできたのは。

 

 警戒していたお陰で私は蛇腕を発現して大岩を容易く弾けたが、他の連中はそうもいかなかった。というか、ガッツリ警戒していなかったら私でも対応できないほどの速度だったと言った方が正しい。

 他の連中は…………血煙だな。南無三。仇は取ってやる。

 

 

「うっ、うわっ、うわぁっ!? なっ、これは……」

 

「狼狽えないで。刀津貴の攻撃です。呪力は…………薄いな。遠距離砲撃……?」

 

 

 …………妙だな。

 大和国まで馬の足であと半刻という位置まで来たのだ。何なら、刀津貴本体が襲ってきてもおかしくないはずなのに、この瓦礫から感じられる残穢は数百メートルといった距離を渡って来たものでは到底ない。

 もっと離れた……数キロレベルの超遠距離砲撃でないと、ここまで薄い残穢にはならないだろう。

 つまり、刀津貴は大和国の外へ一歩も出ていないということになる。……遠距離砲撃があるから京への攻撃も大和国に引き籠ればいいというハラか? あるいは、合理性など一切ないが、怖気づいた無能の従兄殿が引き籠る決断をしたか?

 …………どちらも違う気がする。現に刀津貴の攻撃は正確に我々を壊滅させているのだ。

 

 

「……裏に誰かいる、か」

 

 

 考えられるのは、戦略性を持った籠城。

 何らかの縛りによって刀津貴に焼き付いた「毀式操術」をカスタマイズして、超長距離砲撃を可能としているのだろう。追手を壊滅させた後でじっくり京に直接乗り込むのか、あるいはそのまま超長距離砲撃で京を火の海にするのかは分からないが、我々程度ならこれで十分だと判断しているのは間違いない。

 …………ナメやがって。

 

 

「此処までで十分です。体力は十分温存できました。此処から先は私一人で向かいます」

 

「っ! し、しかし……!」

 

「分かりませんか?」

 

 

 言いながら、私は馬を降りて前に進み、それから乗尻へと振り返る。

 どうせ大和国まであと一キロ程度だ。このくらいならば全力疾走でも大した疲労はない。それより、非戦闘員に着いてこられる方が面倒くさいんだよ。向こうが正確にこちらを砲撃してくることができるのなら、馬みたいな小回りの利かない駒はむしろ足枷になるし。

 

 

「足手まといだから帰れと、そう言っているんです」

 

「………………!!」

 

 

 コイツは、私のことをガキだと思って心のどこかでナメている。

 私が下がれと言っているのに抗弁しようとしたのが何よりの証拠だ。だから、あえて高圧的に命令する。

 とはいえ流石に、向こうもプロだ。その一言で完全に分を弁えたのか、無言で頷くと、馬を翻して京へと走り去っていった。そうそう、そうやって戻れば第四隊が襲撃を受ける前に情報が伝わるし、京にも情報が伝わる。……まぁ帰路で砲撃されなければの話ではあるが、そのあたりは祈るほかない。私と一緒に行ってたら間違いなく死んでただろうし。

 

 

「さて……同道していた術師は本当に死んだかね」

 

 

 改めて周辺の呪力を探ってみるが、やはり生きている術師はいなかった。精々、咄嗟に呪力で防御しようとした残穢が残っている程度である。

 ……凄まじい威力だな。質量攻撃というのはあるが、そもそもその前提となる質量を超遠距離まで運動エネルギーを保持したまま射出するだけの、術式のパワー。流石にこれを近距離で取り廻せたら敵なしすぎる。いかに儀式によって存在を維持している──存在自体が特殊な縛りによって成立している代物であっても、流石にこのパワーを縛りなしで成立させることは不可能だ。寄ればまだ何とかなるだろう。

 

 それに、何らかの方法でこちらの位置を把握している件についても気にかかる。

 ──そう。この砲撃の前提として、向こうが私達の位置を把握しているのはほぼ間違いない。別途式神や飛行可能な術師を用意している……この線はないだろう。もし仮にそういうものがあるとしたら、飛行可能な天使が対処していないわけがない。おそらく第一隊は私達よりも先に襲撃を受けているはずだから、天使なら空中で砲撃を迎撃したはず。監視の目があるならもう既に潰しているはずだ。

 だとすると…………。

 

 

「…………「毀式操術」、破壊したものを式神として操る術式……か」

 

 

 ()()()()()操る。

 ……もし、破壊した物質が式神化しているのであれば。

 その式神が視聴覚のいずれかあるいは両方を有している可能性もあるんじゃないか?

 言うなれば、大陸間弾道ミサイルのようなものだ。ミサイルそのものにセンサーのようなものが備わっていて、それで弾頭そのものが対象を判別して砲撃している。そう考えれば、この精密な遠距離攻撃にも納得がいく。

 

 だが、だとすると厄介だな。

 特殊な準備を必要とせず、刀津貴のみの力で超遠距離砲撃を可能としているわけだ。距離の関係上、防御しさえすれば自壊して術式効果の対象外になってくれるようなので「受けても追尾してくる」ような最悪の仕様ではないのが救いだが……最低でも一キロを、どでかい砲撃を防御しながら行軍か。スタミナの消耗が心配になってくるな…………ここで「禊浴」を使うか? 呪力量をブーストすれば、先ほどの砲撃程度なら大した消耗もなく対処できるが…………どちらにせよだな。「禊浴」は限りあるドーピングだ。刀津貴本体との戦闘が控えているのに、今使用するのは悪手だろう。

 

 

「…………此処で佳子を待つか? ……それが一番消耗を抑えられそうだな。アイツがいれば「否定」で簡単に回避できそうだし」

 

 

 結局、分散したことで手間が増えてしまったな。

 そんなことを思いつつ、後続の佳子を待つ姿勢に入ったと同時──

 

 

「良かった! 無事だったかい、尊」

 

 

 遠くの空から、天使が舞い降りて来た。

 安倍邸づきの女術師揃いの巫女服は多少の汚れこそあるが、明確な傷は認められない。やはりというか、天使もまた先程の遠距離砲撃は無傷で乗り切ったらしい。

 

 

「なんとか。ただ、周りの術師は殺されました。生き残りは私だけです」

 

「そうか……。残念だ。こちらは私が空で迎撃したこともあり、全員生き残っている……が、少々困った状況になっていてね」

 

 

 …………困った状況?

 第一隊・第二体も砲撃によって小回りが利かなくなっているのだろうか。だとしても、天使がいるならごり押しで大和国まで入り込むことはできそうなものだが…………、

 

 

「"新手"が、出てね」

 

 

 そんな私の思考の上を行くように、天使は語った。

 一体誰を──そんな疑問は、遠くから轟く()()によって断ち切られることになる。

 

 雷の音。

 稲妻を操る拡張術式。

 

 

「…………まさか」

 

「かつて、君と佳子が撃退した特級呪霊だ。ヤツが出た。私が相手をしても良かったが……それだと刀津貴がフリーになる。頼む尊、ヤツの相手を引き受けてくれないか?」

 

 

 特級呪霊、「滂沱」。

 

 数年前に私のことを一度殺した呪霊が、再び私の前に立ちはだかって来た。




主人公の尊と佳子のイラストを描いていただきました!

【挿絵表示】

アルト1/4さん(@arutozenkaku

ありがとうございました! 佳子のヴィジュアルがどことなく調子に乗ってるときの五条先生っぽくてムカつくのが素晴らしいですね!
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