鳴潮女子に愛されすぎて眠れない。   作:クロウト

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ヤンデレ初めて書くので解釈違いが生まれるかもしれないっス。


Part 1 : 今汐

 

 

 

 

泣きたくなる様な痛みを負っても貴方は必死に剣を振るう。

 

たとえ目の前の敵が強大で、到底敵わない様な存在だとしても貴方は誰かを守る為なら自分の命すらも厭わない。

 

ある意味では自己犠牲の塊とも言えた。だが誰かを守る為に自分の身体を盾にする様子はまるでただ死に急いでる様に見えた。

 

余が今州の令尹として任命された時、初めて貴方を見た時。そこには柔和な笑みを浮かべている貴方が居た。優しさの塊の様な、そんな目をしながら。

 

だけど貴方は戦の事となると、そこにはもう柔和な笑みを浮かべた貴方は居なくて。ただ何かに駆り立てられる様に刀と拳を振るう傷に溢れた貴方が戦場に現れる。後に聞いた話だと夜帰軍にとって貴方という存在は、噂では鬼神の生まれ変わりなのでは無いかと言われていたそうだ。

 

 

余はそんな貴方を見るのが少しだけ怖くもある反面、寂しくも感じてしまった。

 

 

貴方は余の今州の令尹、その立場の重さと余が令尹としてまだ民に信用されてない事を察して、残像との戦いでどれだけ傷ついて痛みに暮れようとも、戦が終わると貴方は必ず余の元に現れてくれた。

 

 

子供ながらに今州の統治者でたる余にかけられる民たちからの欺瞞と羨望と期待から成る重圧───。時々、それらに押し潰されそうになる日もあったけれど、そんな時に貴方は余に手を差し伸べてくれた。今州の民たちの幸せを一緒に願う者として、貴方は余の想いを理解し尊重した。

 

 

その分け隔てない態度や誰彼も救けようとする英雄の様な殊勝な心掛けは表向きに見れば、夜帰軍の中で誰よりも優しく、誰よりも誠実な共鳴者として知られている事でしょう。

 

 

だけど──余は、知っています。貴方が残像に見せる怨恨や憤りはもう人間の域を出ているものだと。余は貴方の過去を知らない。だから余は貴方を簡単な綺麗事で慰める事は出来ない。

 

 

 

けど、それでも貴方が余や今州をその身を半ば犠牲にして救った様に。余もまた貴方の隣に居る事で、貴方の心が少しでも癒されるのなら。

 

 

 

余は、貴方のその優しさに全身全霊で応えたいです────。

 

 

 

 

 

 


 

 

涼しげな秋の風が、今州城を駆け巡る。貴方はそんな秋の訪れを感じる今州城の中を悠々自適に歩き回っていた。

 

貴方はここ今州城の夜帰軍に所属する共鳴者だ。夜帰軍とは精鋭の共鳴者達から構成された今州やその他の州が保有する軍事組織だ。現在、夜帰軍は今州北部で大量発生している残像潮を忌炎将軍を筆頭に食い止めており、夜帰軍の精鋭の共鳴者は皆、残像潮の撃退に注力を注いでいた。

 

だが、今日貴方は今州城の主たる令尹に呼び出しを食らった事と度重なる致命傷と流血によって貴方の身体はもう既にズタボロであり、これ以上戦ったら死ぬと言われる程の重傷を負った貴方は忌炎将軍直々に最前線から今州城の守衛へと引き戻された事が要因で貴方は今、今州城の最奥に聳え立っている辺庭にへと向かっていた。

 

 

暫くすると貴方は今州城と辺庭を繋ぐ昇降機が目に映り、貴方はそれに乗り込んだ。そして昇降機が登っていく間で貴方は何故、令尹に呼び出しを食らったのかを無意識ながらに考えてしまった。何か知らないところで粗相をしてしまっただろうか、はたまた自分が無意識で令尹様に対して何か不敬に当たる事をしてしまったのだろうか。理由は何にしても、貴方は令尹様との対談が終わると直ぐに忌炎将軍が居る北落野原にへと赴く為に素早く事を終わらせたいという気持ちが貴方の心の中で燻っているのが分かった。

 

 

 

─────まだ戦える。まだ救える。まだ殺せる。

 

 

不意にそんな貴方の心内に秘め善意と殺意が混ざり合った不完全燃焼の感情が込み上げて来る。貴方は自分の手の届く範囲内の人間ならできるだけ多くの人間を助けたいと考える人間だ。だからその為だったら貴方は自分を犠牲にする事も厭わないし、自身が死なない範囲だったら喜んで誰かのために自分の命を削ろうとも考える人だ。

 

そんな善意に狂わされた貴方だからこそ、今北落野原で命を削る自分の同士の姿を思い返して、自分の身体が強大な罪悪感に押し潰される様な感覚を覚えた。

 

 

今州の絶対的な守護者である歳主が居ない今、今州を守れるのは令尹様しか居なくなった。だからこそ貴方は自分自身が誰かを救う駒として殉じなければならないと考えており、その考えが徐々に貴方を蝕んでもいっていた。

 

 

 

──自分にもっと力があったら。

 

 

 

貴方はそんな罪悪感と不甲斐なさを覚えながらも、昇降機を降り。令尹が待つ辺庭へと向かっていったのだった...。

 

 

 


 

 

辺庭───、今州の統治者たる令尹の今汐とその側近である散華が居る場所。辺庭は令尹の居る場所。それ故に今州の民や夜帰軍に所属している者でさえもそこに立ち入りできる者は少ない。加えてその辺庭へ入るのを常に許可されている人間は指を折る程度にしか存在せず、そのうちの一人が貴方だった。

 

 

 

確かに貴方は夜帰軍の中でもかなりの古株だ。戦闘経験も根本的な来歴も今州の中ではかなり長いものだろう。だが、だからと言ってそれが今汐が居るところに無許可で勝手ながらに入るのを許されるものなのだろうか。貴方はその疑問については深く考えないようにしていたが、辺庭の絢爛な装飾を見た貴方は改めてその疑問を頭の中から掘り起こしていた。

 

 

 

 

──今州の空から出たる月の光が、辺庭を明るく照らす。まるで夜なんて始めからそこに無かったかの様に、辺庭に差し込んだ月光が貴方の姿を強調する。そして貴方が荘厳な雰囲気を放っている令尹様が居る部屋へと繋ぐ通路を歩み、その前へと辿り着くと 。

 

 

 

 

 

 

 

「 ... 時間通り、ですね。 」

 

 

そこには雪解けの様な白銀の髪と雲海の様な深い色をした瞳を携えた端麗な顔立ちをし、月光と相まって酷く妖艶な美しさを放っている少女───今州の令尹である

今汐その人が 、辺庭へと訪れた貴方の顔を静かに見据えていた。

 

 

「 ... ... 貴方とこうして会うのは、随分と久しぶりな気がします。いつもは北落野原での戦績を耳に挟む事でしか、貴方の活躍を見れないので...こうやって話すのはいつぶりでしょうか? 」

 

 

今汐は自分と貴方を挟む大きな暗褐色の事務机を避け、貴方に近付いて行く。貴方と今汐を包む辺庭の一室では、貴方達の距離は数歩だけ歩み寄れば直ぐに相手の身体に触れる事が出来てしまいそうな距離な為、今汐が貴方に近付いて来た途端。貴方は直立していた姿勢から跪く様な姿勢にへと移す。そして今汐が貴方の元までやって来ると───。

 

 

 

 

 

 

「 ──顔を上げて、立ち上がって下さい。 」

 

 

今汐は朗らかに表情を解しながら貴方にそう言い放った。貴方はただの夜帰軍の一端の兵士、加えて今汐は今の今州を統治する絶対的な君主。貴方はそんな君主と同じ目線で言葉を交わすのは不敬だと思い、跪く姿勢を取った。だが今汐は貴方が同じ目線で話す事を許した。否、そうであれと貴方に命令したのだろうか。今の貴方は今汐の言う事にただ従う事しか出来ず、貴方は地面を見つめていた顔を上げながら立ち上がる。そして、貴方の瞳には白銀の瞳で貴方を射抜く今汐の姿が映り込んだ。

 

 

 

「... ... ... 」

 

 

今汐が貴方の顔をジッと見つめる。今汐は令尹として今州を統べる者であっても、その見た目はまだ少女のそれとはあまり変わらない。だが今汐のその外見は少女と言うにはあまりにも大人びた雰囲気を放っており、全てを吸い込んでしまいそうな

白銀の瞳と雪の様に白い柔肌が貴方の視線に映り込む時、その唯一無ニの美しさに貴方は思わず引き込まれそうになる感覚を覚えた。そして今汐と貴方のそうした静寂の時間が数刻の間経過すると────。

 

 

 

 

 

「 ... また重傷を負い続ける様な戦い方をして来ましたね。 」

 

 

貴方は今汐のその見透かした様な言葉に身体を一瞬震わした。貴方は戦を重ねる度にその身体に生々しい傷跡も増える様な自分の命を顧みない戦い方を繰り返して来たせいか、自分の身体に刻み込まれる傷や痛みにはもう何も感じなくなってしまっていた。だからこそ貴方は自分がそんな自分の命を博打に賭ける様な闘い方をしたとしても何の恐怖も怯えもそこには無く、ただ敵を倒せば良いとそう考える様になってしまっていたのだ。

 

 

 

「 傷塗れになって、血の澱みを吐き出しながら死に物狂いで戦う...貴方の顔や腕に刻まれた大きな裂傷の痕はそうでないと出来ないものです。 」

 

 

そして貴方の近くへと居た今汐は、一歩一歩とまた貴方の元へと近寄り。互いの身体が少しでも奥へと進んだら触れ合ってしまいそうな距離にへとなった時、今汐の白く柔らかい両腕が貴方の頬へと伸ばされ───そして触れる。人が持つ体温の温もりが掌へと込められたものがそこにはあった。

 

 

 

 

「 ... ... 貴方は、自分の命を軽く見過ぎです。 」

 

 

 

今汐は貴方の顔に刻まれた傷跡を見れば、微笑んでいた表情から一転し、貴方がこれ以上痛みと共に傷を背負う姿を憂う様な表情となりながらそう言い放つ。その声色は微かに震えてもいた。

 

 

「 勇敢に敵に立ち向かうのは美徳でもあります。ただその為に自分の命を削る様な戦い方をしてしまっては、いつか貴方の命を貴方自身が殺してしまうことにもなりかねません。 」

 

 

───辺庭の一室で貴方に触れる今の今汐の姿は、令尹としての威厳のある姿では無く、ただ大切な人が傷付くのを必死で止めようとする幼い少女の様にも映っていた。貴方は今汐のその言葉に何も反論は出来ず、ただただ寡黙な表情を貫いたまま今汐の話を只管聞くだけしかその場でできる事は無かった。

 

 

 

「 余は、貴方に何度も救われました。まだ令尹と成ったばかりの時、余を傍で支えてくれた。今州の民の笑顔を守る為ならばと、あの時の貴方もそうしてボロボロになりながら必死に戦っていましたね。 」

 

 

今汐は幼いながらも今州の統治者───令尹としての地位に着いた者だった。しかし、彼女のその幼さ故に今州を正しくあるべき方向にへと導いてくれるのかと懐疑的な印象を持つ者が多く居た。その雑踏の話はいつしか大きな噂へと変わり、やがて今州の民達は令尹今汐を統治者とは思えないと言う者も居れば、嘲笑して罵る者もまた存在した。今汐は今州の民の笑顔を守りたいと切に願う少女、そういった邪心を持たぬ純粋な少女だからこそ、その民達の下世話で邪な感情を纏った言葉が耳に入る時、その純心が穢される様に今汐は葛藤と不安の垣間の中で精神を徐々にすり減らす時期というのもあった。

 

 

だが、今汐がその下世話な感情に流されず心を壊されずに今日も今州を統べる令尹として活動出来ていたのは貴方や今州城の人々の存在が多かった。

 

 

貴方は令尹今汐は純粋に尊敬していた。だからこそ誰にもその感情を吐露せずに絶対的な主を演じる今汐の姿を見て、不安を抱いていた。そんな貴方はある時から個人的な様で今汐と接する時間を作り、今汐の精神を徐々に癒していったのだ。

 

 

 

 

「 貴方が余に掛けてくれた言葉は一言一句たりとも忘れてはいません。その言葉に、余は何度も 、何度も、救われましたから。 」

 

 

 

 

だから───と続けながら、今汐は貴方の胸板に頭を添える様に優しく抱き締めた。頬に伸ばされた両手は貴方の腰に回される。少女の体温が夜帰軍の軍服越しに伝わって来る。今汐の声色は先程よりもその震えが強くなっていた。

 

 

 

「 ──これからは、夜帰軍としてでは無く... 、余の側近として、余の傍で、今州の民たちを守護してください。 」

 

 

 

今汐は貴方に恋慕の類を抱えていた。貴方が常に今汐の傍に居たからか、または今汐の冷え切ってしまった精神を貴方という大きな蝋燭の様な温もりが癒したからであろうか。どちらにせよ、今の今汐は自分の記憶の中にある貴方の優しさにもたれ掛かっている様な状態だった。

 

 

 

「 余は ...... 貴方が余の知らない所で痛みを背負って傷付き続けるのが、いつか貴方が何処かへ消えてしまいそうな気がしてしまって...それがとても怖いのです。」

 

 

 

貴方はその今汐の嘆願とも言える様な言葉に、ただただ唖然と聞き届けるしか出来なかった。貴方はいつしか血生臭い戦いに身を投じ続けることによって、自分の今州を守る為の誇りと矜持を捨ててしまった。その結果が、今こうして貴方の目の前で現れている。貴方はその事実に不甲斐なさと今汐に対する罪悪感に包まれていた。

 

 

「 不都合な事があれば言ってくれれば、余がその通りにしましょう。不満な事があるのなら、余が改善しましょう。どうしても貴方のその心に残留した復讐心が駆り立たせるのなら、余がそれを受け止めましょう。 」

 

 

 

 

 

 

 

「 だからどうか───、もう二度と余の傍から離れないでください。 」

 

 

 

 

 

 

 

 

今汐の瞳には少しだけの涙が溜まっていた。令尹として今州を統べる者が貴方にだけしか見せない弱さ、それは貴方にとって本来の自分を呼び起こす為の薬にもなれば、貴方の罪の証である呪いでもあった。貴方は今一度、今汐や己自身と向き合う必要がある。今州を守ると誓った戦士としての誇りを。そしてただ主人を想い、主人の為に剣を振るう騎士としての矜持を取り戻すべきだと貴方は考えた。

 

 

──だからこそ、貴方はその今汐の言葉を、久方ぶりに見せる笑顔と共に承諾した。

 

そしてその刹那 、今汐の顔が悲哀に満ちていた表情から希望や歓喜に満ち溢れた様な顔をしながら 、貴方の胸板に沈めていた顔を、また貴方の瞳の方へと向き直した。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「───...嗚呼 、やはり ... ... 貴方にはその笑顔がとても似合いますね。 」

 

 

 

久方ぶりに浮かべた貴方の柔和な笑顔を見た今汐は白銀の濡れた瞳の中にそれを映し出した。まるで長年の間、求めていた物が遂にそこに見出せたと言わんばかりに今汐はもう二度とその笑顔を忘れぬ様に、瞬きすら忘れて貴方の顔立ちを見つめていた。

 

 

 

 

「 ...余の願いを聞き入れてくれて.... ありがとうございます ... 」

 

 

 

月の光が二人を照らし込む。その白く朧げな光は今汐の切実な願いを体現する様に貴方の傷と泥で塗れた荒んだ姿に一筋の光と一人の少女の温もりが纏っていく事だろう。そして今汐は貴方の身体を先程よりも更に強い力で抱き締める。それは愛した人の暖かさと優しさを緩やかに自分の身体に刻み付ける様に今汐は頬を少しだけ赤く染めながら、また再び貴方の胸板に顔を沈めていた。

 

 

 

「 ... 今はまだ ... このままで居させてください。 」

 

 

 

貴方は今汐のその言葉に微笑ましく思いつつ、戦を度重ねた証でもある大きくゴツゴツしている掌を今汐の頭の上に乗せ、優しく撫でる。令尹の頭を触る、とは普通人であれば不敬罪に当たるだろう。だが貴方の手の温もりは今汐自身の癒しであったのか、今汐はそれを拒絶する筈もなく、ただ貴方の掌を通じて伝わって来る暖かさを実感し続けていたのだった ... 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──「 もう二度と 、離しませんからね ... ♡ 」

 

 

 





依存型好きなんだけど書くのが鬼むずい
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