Fate/starlight   作:小仏トンネル

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第17話 サーヴァント・ライダー

 

「誘いに乗ってくれたことは感謝するっすけど、戦い方まで指図される謂れはないっすよ」

 

ガインッ!と鈍い音。そして銀の光。アーチャーが腰の帯刀を鞘走らせ、木刀を真下から弾き上げた。本来であれば木製の棒切れを両断してもなんらおかしくない切れ味を誇る業物だが、鋲の部分に当たったか、ないし根本は魔力で編まれた木刀だからか一刀両断とはならなかった

 

「チッ。ランサーよりはマシな武人かと思うておったが、マスターの令呪による指示でもなければよっぽどの仕事人か…さもなくば武人でない英雄か。マスター!ヤツの狙いはハナッからおぬしじゃ!わしの傍を離れてくれるなよ!」

 

「分かってるわ!カバーお願い!」

 

渾身の振り下ろしの後、ライダーが即座に横薙ぎの一撃。しかしアーチャーが今一度刃で鈍く弾く。ライダーの木刀は、数えきれない鉄の塊が打たれていることや、振り方からしてそれなりの重量に見える。しかしその重さを感じさせる挙動が彼にはないという点で、相当の筋力があるか武具の心得は一線を画する英霊だと見受けられる

 

(クラスメイトを傷つけたくないだなんて、所詮は社交辞令ってこと?マスター狙いが貴方の指示なら中々に役者じゃない、葛城リーリヤ。でも、それはそれで結構なことだわ!)

 

更にアーチャーの刀と相対しつつも、ライダーの視線は常に咲季の方へと注がれている。咲季は英霊が誇る超人的な動きに対処するため、身体強化を全身へと巡らせ、ライダーとアーチャーから距離を取るように足を運ぶ。命の危機があると分かってなお、ようやく訪れた全力を尽くす勝負に彼女はニヤリと口許で笑った

 

「ライダーさん!もっと踏み込んでも大丈夫!私もサポートくらい出来ます!」

 

「いやいや、流石にサーヴァント相手にそれは無理でしょマスター。まぁ陰キャらしくそれなりに頑張りますよ、っと」

 

ドゴッ!ドゴッ!ガツンッ!鈍い音が連続しながらライダーの木刀が次々に振るわれ、たちまち小川の岸が荒れ果てていく。アーチャーは身を翻し、正確無比に彼の一撃を躱していた。しかし、ライダーの狙いは最初からマスターである咲季だ。アーチャーの奥にいる彼女に肉薄しようと、弓兵にところ構わずズンズンと突進しながら木刀を振るっていく

 

「チッ、ライダー。よもやおぬし、わしに毛ほどの興味も示していないとは言うまいな」

 

「やいや、流石にそんな事は。多分どう見ても俺より強いっすからねアンタ。それならなおのこと、マスター潰しは理に適ってる。まぁ現状は日本刀で戦ってくれてるんで良いっすが、アンタもクラス通り弓使ってマスター狙い始めたら俺のこと言えなくなるんでよろしくっす」

 

「屁理屈を。単一の武芸だけで武人が務まるわけがなろうて。騎乗兵の棒切れもろくすっぽ捌けぬ英霊なぞ片腹痛いわ!」

 

「そっすか。まぁ棒切れだろうが、俺にかかりゃ立派な剣でね。こんなナリでも一応そういう時代の王様兼冒険者だったプライドもある手前、血生臭い戦働きで負けるわけにはいかねぇっすよ!!」

 

ライダーの木刀は鋲が打ち込まれていることもあり、高い硬度を有している。さらに大きさと質量でアーチャーの日本刀にも勝る。それ故に刃への攻撃は難なく弾けるが、刀身への攻撃は一撃で刀を折られる可能性がある

 

「せやっ!ハッ!かあああっ!!!」

 

「ふっ!よっ。せいやっと」

 

それを分かった上で、アーチャーは躱わすべき攻撃、及び弾くべき攻撃を瞬時に見極めていた。ランサーとの戦いのような金属がぶつかる甲高い音は少ないが、代わりに空気すら圧迫する重い衝撃が何度も大地を揺らしていた

 

(・・・それで、肝心要のマスターであるあなたは何もしないの?葛城リーリヤ)

 

踏み込んでくるライダーを制してくれるアーチャーの功績もあり、咲季も冷静に状況を見つつ軽いステップで二人の戦闘から距離を取れていた。しかし、彼女が更に気掛かりにしていたのはその奥。銀髪のクラスメイト、今や敵であるマスターの葛城リーリヤ

 

リーリヤは会敵して以後、自身のサーヴァントが敵サーヴァントを抑え込み、あくまでもマスターを狙って突進しているのを、その場から動かず身構えて、ただ見据えている

 

(アーチャーに刀で戦うように指示しているのは私。相手もまたサーヴァントである上に、本来の領分でない以上、私を庇いながら戦って優勢に立てないのは仕方のないこと。けれど、今はまだその時じゃない。それはアーチャーも承知してるはず)

 

今もなお本来の弓兵クラスがすべきでない戦い方で、ライダーの突撃をいなし続けているのは流石の一言に尽きる。しかし現状は咲季達が防戦一方、リーリヤとライダーが優勢であることは疑いようがない。ただ守り続けているだけでは、相手が倒れることはない

 

そしてこれは聖杯戦争。7人のマスターが、サーヴァントを使役し、最後の1人になるまで殺しあう。つまり守るだけでは終わらない。敵を倒さなくてはならない。ならば、攻めるためには。せめて攻めも守りもなく、対等な条件で戦うためにすべき事。咲季の中で既にあるその答えは二つ。そして、その内の一つ───

 

(それなら、今の彼女が。天下の戦国武将が私に望むことは───!)

 

「────ツアアアアアァァァッ!!!」

 

「うおっ!?とぉ!?」

 

気合いの咆哮と共に木刀を潜り抜けて躱し、マスター目掛けて突進してくるライダーに、アーチャーはついに自分から踏み込み、その刀を二筋に交差させながら閃かせた。袈裟斬り、直後に切り上げる逆袈裟斬り

 

連撃の僅かな隙間を縫って、反撃へと転じたアーチャーの刀は、切り上げた切先をライダーの右肩へと掠らせた。微かながらも血が噴出するが、ダメージと呼べるものでもない。しかし、それでもライダーを怯ませるには余りある一撃だった

 

「突っ込めマスター!!!」

 

「分かってる!よくやってくれたわ!!!」

 

アーチャーが踏み込んだように、咲季も後方にステップを踏んでいた脚を、初めて敵に向かって踏み出した。バウンッ!と彼女の体が空気を割く音がして、魔術で強化された投足は瞬く間に二人のサーヴァントとの間合いを詰め、そのすぐ側を駆け抜けた

 

「ヤッべ!?リーリヤ!今俺が───!」

 

「易々と行かせるわけなかろうがうつけェ!」

 

「チィッ!」

 

ただの一瞬の隙を突かれ、その一瞬で己の背中を許したライダーは、すぐさま振り返って赤髪の少女の背を追おうとした。しかしこれを好機にと、アーチャーが鬼の形相で滝のように刃を浴びせてくる。舌打ちと共に木刀を横に構えつつ、遂にライダーは突進から後退へと転じた

 

「ら、ライダーさん!!」

 

「生憎だけど!サーヴァントにマスターを狙わせるだけで勝てるほど、この戦いは甘くはないのよ!葛城リーリヤ!!」

 

常人どころか、プロのアスリートとも比にならない全速の一歩を踏み出して、咲季はリーリヤへと握り拳を向けて飛び掛かった。サーヴァントの名を叫びながら、リーリヤは肉薄する咲季に驚愕したが、しかしその表情は一秒と経たずに引き締められた

 

彼女は今にも殴り掛かろうかという咲季を前に、尚も動くことはなかった。瞬時に両腕を持ち上げ、右手の拳を突き出す。しかしその指先は人差し指と親指が突き出ており、右肘に左手を添えていた。つまるに、まるで拳銃を構えるかのようなジェスチャーで、リーリヤは力強く叫んだ

 

「ガンド!!!」

 

ガンド。ルーン魔術の一種。呪う相手を指差し、体調を崩させる呪い。しかし使い手の力量に比例して強力なモノはその弾丸で壁をも穿ち、場合によっては即死させる事すら有り得る。魔術師の界隈では知らぬ存ぜぬは許されない、基本のキのような魔術。しかしそれ故に簡略化の一途を極めた、単純かつ合理的なシングルアクションの攻撃魔術

 

「そんなモノ!当たるワケないでしょっ!!」

 

リーリヤの術師としての力量は測れない。故にそのガンドの威力は受けない事には測れない。しかしその一撃で倒されては元も子もない。故に咲季は咄嗟に空中で身を翻し、魔術で強化した全身を思いっきり振り、空気を投げるようにして体を空中でスライドさせる。しかし、確かな違和感を覚えたのは、今まさに自分が身体を逃したリーリヤの指先を見つめた時だった

 

(・・・ガンドの弾を…撃ってない!?)

 

咲季を射抜くはずだった指先に、指し示す虚空の先に、黒い呪いの弾丸はなかった。つまりリーリヤのジェスチャーと叫びは、相手を騙すための、ガンドを撃つという見せかけ、ブラフに過ぎなかった

 

(でも、じゃあ…なんで……?)

 

しかし、だとすれば。と、咲季の心にはその行動が引っ掛かった。躱されると分かって撃たなかったのなら理解もできよう。しかし撃たない理由もない。別に対して魔力も必要としない、相当の使い手でなければ必殺の一撃にもなり得ない魔術を出し惜しむ必要があるのか

 

ガンドの斜線上にライダーがいたのか、否。逃げるための時間を稼ぎたかったのか、否。回避行動を取らせたかったのか、否。つまり、つまりだ。それはブラフではない。目的はガンドそのものではない。リーリヤが唱えた魔術、その本質とは何か。それを咲季が閃いたのと、事象が起こったのは全くの同時だった

 

(───合図!!!)

 

ボゴウッ!!隆起する地面。爆散して飛ぶ川砂利。まるで地雷を彷彿とさせる轟音。それはリーリヤと咲季の間合いの真ん中で起こった。礫となって襲いかかる無数の石に、咲季は腕を交差させて防御姿勢を取った

 

「なんっ…!?」

 

ガツガツと全身に当たる無数の石。しかし身体強化により硬度を上げた彼女の体に、その程度の飛び道具では擦り傷一つ負わせられない。しかし、その隆起して噴出した土壌の向こう。いわば地雷そのもの、地雷だったモノ。それこそがリーリヤが叫んだ合図の意味だった

 

瓦礫の向こうでも分かる、闇夜に光るライトグリーンの両目。朝焼けのような橙色の長髪。そして袖を捲ったワイシャツと、腰に巻いたセーター。水色のリボンとチェックのスカート。リーリヤと同じクラスメイトの、そして彼女の親友。紫雲清夏は、曝け出している腕と脚に、魔術回路が放つ青白い光を浮かばせながら、飛び散る川砂利と共に咲季へと襲いかかった

 

「いけるっ!!」

 

「甘いわね!そんなの所詮は小細工よっ!!」

 

地面から丸ごと人間一人が飛び出してくる光景に驚愕こそすれ、咲季は効きもしない石礫を無視して、襲い来る清夏へと右拳を振り抜いた。しかしそこに手応えはなく、そこにいたはずの清夏は既に彼女の脇を通過していた。つまり地面から突出した少女は、正面で完全に相手の虚を突いた上で、相手の正面に立つ気は最初からなかったのだ

 

「しまっ──!?」

 

気づいた時には既に遅し。微動だにしなかったリーリヤ。ガンドのブラフ。合図からか、そもそものマスター狙いは清夏の存在を気付かせないためのモノだったのか。何重にも張り巡らされた、相手の思考の裏の裏を更に突いた作戦の末、清夏は見事に咲季の背後を取った

 

そして清夏は、青白く光る両腕をそのまま咲季の首へと回し、後ろ頭を自分の肩に抑えつけるようにして完全にロックした。更に両脚をまるでクワガタの鋏のように広げ、獲物の両腕を挟みこんで完全にその動きを封じ込めたところで、咲季を抱え込んだ清夏の背中が地に堕ちた

 

「んぐうううううっっ!?!?」

 

スリーパーホールド。一般にプロレスなどで広く知られるようになった組み技にして絞め技。まんまと清夏のスリーパーをキメられた咲季は、一回り背丈が高い清夏との体格差も相まって、絡め取られた腕を外す事もできず、なす術なく首を絞められた

 

「キマッた!ライダーそっち持ち堪えて!!!」

 

「ふぐっ!?はぎ!づうっ…!?」

 

「OKっすマスター!こっちは何がなんでも抑えるっすよ!」

 

「ま、マス…!?謀ったな貴様らぁぁぁ!!!」

 

腕を絡め取られながらも懸命にもがこうとする咲季を抑えつけ、鍛え上げられた腕で頸動脈を締め上げながら、清夏はライダーへ叫んだ。背後から聞こえた声に、作戦の成功を確信したライダーは、激昂するアーチャーを抑え込むべく、果敢に木刀で切り掛かっていった

 

「どう、咲季っち?あたしの身体強化の組み技も中々のモンでしょ。悪いようにはしないから、今だけは大人しく堕ちてくれると、あたしもリーリヤも助かるんだよ…ねっ!!」

 

「かっ!?はっ…!?あゔっ…!?」

 

(まず、い…!完全にキマってる…!清夏も、強化、して…腕、抑えられ…外れ、ない…!息、できな…くる、し…このま、じゃ…堕ち…思考、まとまらな……)

 

がっぷりと組み伏せられ、咲季の視界は明滅した。頸動脈から脳への血流を妨げられ、徐々に思考が停止していく。今も自分の首を絞め上げている清夏の腕を外そうにも、咲季の両腕は彼女の両脚に絡め取られ、もはや脚をバタつかせて身を捩るくらいしか抵抗する手段がない

 

「んっ!ぐっ…ふーっ!ふぐぅーっ…!?」

 

「・・・ごめん、咲季っち。多分めっちゃ苦しいよね。だけど恨まないで。あたしもリーリヤも、命を賭けてこの場に臨んでる。だから今は…今だけは、堕ちてっ…!」

 

咲季が全身に張り巡らせていた身体強化魔術も、思考が鈍っていくのと比例して弱まっていく。反対に清夏もまた身体強化魔術を行使しているため、清夏が絞めあげる力と、咲季が踠く力には差が開き始めている。故に、この状況から自力で脱する術はもうない。それが咲季が消え掛けの思考で導いた最後の答えだった

 

「れい、じゅを…もっ、てめい、ず…あっ、ちゃ…ひ、なわを…」

 

「───ッ!?このっ!大人しくしてったら!」

 

「んぐううううううぅぅぅ!?!?!」

 

掠れた声で、最後の力を振り絞り、咲季は令呪を使ってアーチャーへの指示を行おうとした。途端に赤く光る左手の三弁の花びら。しかしそれを察知した清夏は、咲季をその体に乗せたまま、地に着いている背を反りあげ、絞め上げる力を更に強くした。発声による令呪への呪文も強制的に停止され、咲季は最後の思考が導いた対抗手段すらも奪われてしまった

 

(・・・あ、ヤバ。わた、し…まけ…や…だ……)

 

それが、花海咲季の最後の思考だった。ホールドに抵抗する全身の強張りが段々と解けていき、絡め取られていた腕もだらりと垂れていく。そして、ぐるん。眼球がまるごと回ったかのように咲季の視界は暗転して、彼女の体はピクリとも動かなくなった

 

確かな手応え。自分に乗っている咲季の全身の重みが増して、カクンと大きく首が揺れた。完全に彼女がノビて、意識が堕ちているのを清夏は確信した。口許で歯を見せながら静かに笑って、念押しで意識を最後まで刈り取るべく力もうとした瞬間のことだった

 

「清夏ちゃんっ!!!」

 

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