Fate/starlight   作:小仏トンネル

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interlude
第22話 サーヴァント・キャスター


 

「お爺様!別荘の蔵書庫を覗かせていただいてもよろしいでしょうか!」

 

ある日のことだ。倉本財閥ご令嬢にして、編入試験学園最下位のアイドルの卵、倉本千奈は学園近くで自らも住まう倉本家の別荘に訪れ、孫を愛でに来た祖父に勢いよく訊ねた

 

「おぉ〜千奈や。今は食事中じゃよ、元気が有り余ってるのもいいが、お行儀よくするのも忘れてはいけないよ。しかし急に蔵書庫とは一体どうしたのじゃ?確かにあそこには古今東西あらゆる部類の本が置いてあるとは思うが、何か欲しい本でもあるのかい?」

 

何よりも可愛い孫との食事中。優しくて怖いお爺様と千奈は評しているが、基本的には温和で大らかな人物だ。しかし年齢も高校生の孫を持つ程には相応に重なり、食事にかかる時間すら女子の千奈に劣り始めている。すっかりそんなお爺様より早く夕飯を食べ終わってしまった千奈が、何かを思い立ったように言い出したのだ

 

「はい!わたくし、明後日に学園に入って初めての試験、一学期の中間試験を控えているのですわ!その試験の為に今夜できる事を考えたのですが、蔵書庫にある歴史の深い本から、伝統舞踊や、歌唱法でわたくしに何か合うものを見つけられるのではないかと思ったのですわ!」

 

「おぉ、そうか。明後日は試験か。アイドルを目指して入った学園の初めての試験。それは大切じゃな。しかし伝統舞踊や歌唱法に関する本か。社交界ではダンスパーティもあったし、カラオケ大会なんてのもあって参考に買ったりもしたかな?まぁないこともないじゃろう。好きに見なさい。しかし蔵書庫には背の高い棚もあるからの、踏み台を使って手に取る時は気をつけるのじゃぞ」

 

「もう、お爺様!わたくしもうそんなに子どもでもありませんわ!そんなに心配していただかなくても大丈夫ですわ!」

 

「そうかそうか。では夕食も食べ終わったし、ワシはそろそろ家に帰るとするかな。千奈よ。中間試験で良い結果を得られるよう、頑張るのじゃぞ。目指すは上から一番じゃ。よいな?」

 

「お、お爺様〜!わたくし、編入試験では下から一番だったのに、二ヶ月そこらで上から一番になれなんて無理な話ですわ〜!」

 

「わはは。無理な事などない。他でもないワシがそうじゃったからの。ではまたの千奈。試験の結果、楽しみにしておるぞ」

 

「お、お爺様〜〜〜!!」

 

おしゃれな中折れ帽を被って、執事が開けたドアの向こうに吸い込まれていくお爺様を、千奈が悲鳴と共に見届け、ガチャン。と重い音を立てて食堂のドアが閉められた。食堂に残された千奈は、編入試験最下位だった自分に一番を取れというお爺様からの無理難題に、テーブルに突っ伏してぐで〜、と伸びていたが、やがて思い立ったようにガタンと立ち上がった

 

「いいえ!いつまでもこうしてはいられませんわ!例え一番は取れなくとも、明後日には中間試験ですわ!今は無理でも、いつかは星南お姉様のようなキラキラしたアイドルになるため!まずは一番下ではなくなることを目指しましょう!その為にも、先ほど言った蔵書庫から選りすぐりの知識を得なくては!佐藤さん!食器のお片付けをお願い致します!」

 

「はい。かしこまりました、千奈お嬢様。蔵書庫にはご一緒しなくてよろしいのですか?」

 

「はい!集中したいですし、それくらいは一人でも大丈夫です!」

 

「ご承知置きいたしました。どうぞお気をつけて」

 

日進月歩。人類には小さくとも倉本千奈にとっては大きな一歩を踏み出すべく、千奈は別荘の家政婦に食事の片付けを命じて、食堂を出た足をそのままに廊下を歩き、蔵書庫へと辿り着いた

 

「なんだか、久しぶりに入りますわね。参考になるいい本があれば良いのですが…」

 

ググッ。ギイッ…と古めかしい音で蔵書庫の厚い扉が開かれた。パチリ、と部屋の電気を付けると、ゆうに五十は超えている書棚と数えきれない冊数の本が千奈を歓迎した

 

「ひええ、相変わらずすごい量ですわ。少し探すのに骨が折れそうですわね」

 

中には歴史ある本も所蔵されているため、普段は家政婦や執事の掃除が行き届いており、目立った汚れも見当たらない。更にざっくりとではあるが本の部類分けをした上で陳列されている。しかし何しろ数が数。これだけ様々なジャンルの本がある中から、舞踊と歌唱に関する本が果たしてあるだろうかと千奈は不安になりながらも書棚を見上げながら歩き始めた

 

「えーと、ダンス…舞踊…舞踏…舞い…歌唱…発声…ボーカル…あっ!この辺りですわね!思ったよりいっぱいありますわね。ありがたい事ですわ」

 

それらしいタイトルの本が陳列されているの書棚を見つけ、千奈はゆったりと前に進めていた足を止めた。そして自分が求めている知識を書き記していそうなタイトルの本を探して、背表紙を指でなぞり始めた

 

「ん〜…『歴史と伝統文化から学ぶ歌唱と舞踊〜なぜこの二つの文化は融合したのか〜』す、素晴らしいですわ!わたくしが求めていた本そのものですわ!これにしましょう!……あら?」

 

厚めファッション誌くらいの背表紙の本を書棚から引き抜いて、表紙を眺めていた千奈。その時彼女は視界の隅に、背を紐糸で括られただけの、あまりにも古めかしい本を見つけた

 

「な、なんでしょう、この本…しょ、『召喚魔術の基本と応用』…?ま、魔術だなんて…お爺様ってばこんな物まで集めてましたの…?というか、こういった本は普通、日本語ではなくて英語圏の文字で書かれているものでは…?それとも、誰かが和訳したものなのでしょうか?」

 

歴史ある古い本達の中でも、殊更に古めかしい本を見つけて、思わず手に取ってしまった千奈は、厚紙の表紙に糊で貼られたような、筆で描かれた書体が崩れている日本語のタイトルを見て、いやに興味を惹かれ、そのままパラパラとページをめくり始めた

 

「・・・物質召喚…精霊召喚…召喚呪文の基本…使用用途と召喚に準備する物…と。なんというか、意外とちゃんと書かれていますのね、これ。こういった物って、普通もっと悪魔的な血の代償であったり、呪いの言葉なんてものが書かれていそうな物ですが…いえ、ちゃんとありましたわね…悪魔召喚の儀式……」

 

そこそこのページ数を蓄えた魔術書を、日本語で読めるのをいいことに、面白がって流し読んでいった千奈だったが、やがてあるページの一節を読んで、紙を捲る手と読み動く口を止めた

 

「聖杯戦争における、英霊召喚の儀式…ひゃっ!?」

 

瞬間の事だ。カッ!!と擬音が出ていそうなほどの眩しい光がその本を包んだ。突如として起こった不可思議な現象に、千奈が思わず古めかしい本をポトリと落としてその場にへたり込むと、バラバラバラバラバラッ!!と紙が破れかねない勢いで本のページが捲られながら暴れ狂い始めた

 

「い、一体何が起こってるんですの〜〜〜!?」

 

千奈が魔術書を置き去りにして、そのまま書棚の影に隠れてか細い悲鳴を上げた時、ドガァンッ!と爆発音が響いて、魔術書の周囲にあった書棚が道を開くようにして倒れていた。書棚に入っていた数々の本がバサバサと吐き出されるように落ちて広がっている、その中心で。一面が花畑のように彩り鮮やかな、けれど何の種類は分からない花が咲き誇った床から、腰を摩って立ち上がる白い人影を千奈は見た

 

「あ、あいててててて…初めて試みた方法とはいえ、着地がミソだねコレは。もし次に似たような機会があった時の参考に覚えておかないと…」

 

「ひ、ひょっとして…召喚儀式ですの…!?本を読んでいただけで、何かの間違いで成功してしまったんですの…!?せ、精霊召喚…いえ、ひょっとしたら悪魔召喚の……!?」

 

千奈の目の前、蔵書庫の中心に現れたナニかはぶつぶつと呟いて、一見したところ人らしく見えたが、人らしい格好をしていなかった。頭から伸びた白い髪は地に着きそうな程にまで伸び、足元の空間には土もないのに何故か花が咲いて、ゆらゆらと揺れている。それを切り取ったかのように、肩の周りには花を模した装飾を除いて真っ白なローブを身に纏っている

 

そして一層に目を引かれるのは、稲妻のように歪に伸びた枝の中に、展望台のようなモノを閉じ込めた不思議で巨大な杖のような物を、召喚されたのであろう人と思しきモノは手にしていた。そしてソレが周囲を見回していた視線と、千奈が書棚に体を隠しながら様子を窺っていた視線がカッチリと重なり、ソレは胡散臭そうな口調で千奈に話しかけながら歩み寄ってきた

 

「いや〜良かった、いたいた。大変失礼を承知でお尋ねしますレディ。あなたが今回、私の手を引いて召喚してくれたマスターかな?」

 

「い、いやああああぁぁぁ〜〜〜!わたくしは本を読んでいただけですわーーー!!わ、わたくしってばお肉もちっとも付いていなくて、こんなに小さいのですから!食べても絶対に美味しくないですわ〜〜!!」

 

男性と思しき少し低い声で話しかけてきたナニかに、千奈はすっかり怯えきって、ほとんど泣きじゃくるような子どものように喚きながら、へたり込んだまま体の前で何度も手を交差させ、白い悪魔からズリズリと後ずさっていった

 

「おっとおっと。これは中々激しい思い違いがあるようだ。あ〜、もしもしレディ?私は君を食べたりはしないよ。私は悪魔じゃなくて夢魔。というよりかは、君に幸せを届けに来た魔術師さ」

 

「・・・へぁ?そ、そうなんですの…?で、でもその…さっき召喚魔術…なる本の中の、悪魔召喚の儀式などを読んでいたら、あなたが現れたものですから、わたくしったらてっきり…」

 

「あはは、それは実に召喚のタイミングが悪かったようだねぇ。あぁそうだ。まずは自己紹介をしなければ。私の名前はキャスター。人呼んで花の魔術師。気軽にキャスターと呼んで欲しい。以後よろしくお願いするよ、レディ」

 

「・・・こ、これは大変失礼しました、キャスター様。丁寧なご挨拶。誠に感謝いたします。初星学園高等部アイドル科一年、倉本千奈でございますわ」

 

キャスターと名乗った男に対して、千奈は礼儀のある挨拶が出来る人物なのだと受け取ると、スカートについた埃をパンパンと払い落としながら立ち上がって、スカートの裾をたくし上げて作法に則った、仮にも令嬢らしい所作で礼をした。急なもてなしに目を瞬かせたキャスターは、少しだけ笑みを浮かべて彼女よりも上背があるため、見下してしまう視線をしゃがむ事で彼女に合わせ、差し出した右手に一輪の花をポン、と咲かせて言った

 

「ありがとう、契約はここに完了した。マスター。よければ私の…ボクの話を、聞いてもらえるかい?」

 

 

────────────────────

 

 

「───────と、これが君が参加する事になった聖杯戦争という魔術儀式の大雑把な説明さ。さぁマスター、ここは一つ。私と一緒に出会い、別れ、冒険、戦い、そして願いを叶える壮絶なスペクタクルファンタジーを繰り広げようじゃあないかぁ!」

 

「む、無理に決まってますわ〜〜〜!!」

 

その後。蔵書庫の倒れた書棚と散らばった本はキャスターが魔術であっという間に修復し、霊体化により不可視の存在となった彼を、千奈は別荘の自室へと彼を招いた。そしてキャスターを前にベッドに腰掛けた千奈は、今回キャスターを召喚したという事象の意味、そして聖杯戦争という魔術儀式の説明を受け、絶望感に打ちひしがれて頭を抱えていた

 

「あははは。まぁ大丈夫だよマスター。説明した通り、サーヴァントの現界には魔力供給が必要だが、私はキャスター。そもそもが魔術師のサーヴァントだからね。魔力についての心得はあるから、例えマスターがどれだけ貧弱で虚弱でもへっちゃらさ」

 

「戦闘面においては、基本的に私に一任してくれて構わない。まぁ本当に困った時だけ、その右手に刻まれた令呪の使用をお願いするかもしれないけれどね。無論、私が一人で気ままに戦う以上、勝とうが負けようがマスターの安全は保障するよ」

 

「まぁマスターにとっては運任せのガチャや競馬みたいなモノさ!マスターはこの豪奢が尽くされた家で、食事を用意しながら私が無事に帰ることを祈りって待っていてくれればいい。今の内に、叶えたい願いを一つ考えておいてくれたまえよ」

 

「・・・では、一つ質問をよろしいでしょうか。キャスターさん」

 

「あぁもちろん。この花の魔術師さんに答えられない事はない。何でも聞いてごらんよ」

 

どこか怪しい、一言でまとめるなら胡散臭い話だ。自分はしばらく待っているだけで、願いを叶える権利が与えられようなど。しかしその掴みどころのない、摩訶不思議な雰囲気もさることながら、キャスターには自分を導いてくれるような何かがあるのではないかと千奈は感じていた。そして彼の召喚とともに右手に刻まれた、分厚い装丁の本が見開かれたような見た目の令呪と、キャスターの顔を見比べながら訊ねた

 

「ど、どうしてキャスターさんはそんなにも聖杯戦争に参加したがるのですか?それと、どうして出会ったばかりのわたくしを、こうもよくして下さるのでしょうか…?あら、二つ聞いてしまっていますわ!ごめんなさい、わたくしったら端ない女ですわ…」

 

「あははは。別にいくつ聞いてくれても私は構わないよ。まぁ答えられないことはないと言った手前申し訳ないが、一つ目の質問には正直に答えられないんだ。今はまだ、ね」

 

「二つ目に関しては、私の眼と心がそうするべきだと言っているからさ。つまりもっと簡単に言うと、君は私に頼り、私は君を育てる。共に戦うというより、君の戦いと成長を見守る…というのが私の方針だ。報酬は…今日から始まる旅の思い出、そのものだよ」

 

「わたくしの戦いと成長…と言いますと、やはりそうは言っても、わたくしも戦わなければならない時が来ますの?であれば、やはりわたくしはこの令呪を然るべき人にお返しして、キャスターさんには他の、もっと優秀なマスターさんと契約してもらった方がよろしいのでは…?」

 

柔らかな口調と笑みで話してはいるものの、ひどく抽象的で、的を射ているのか分からないキャスターの言葉に、千奈の疑問は増すばかりだった。しかしそんな彼女の不安からなる疑問と、その思いとは裏腹に。自らを花の魔術師と名乗る男は首を振って、千奈の不安を取り除こうと穏やかな声音で言った

 

「そうとも。しかし怖がる事はない。私が言うマスターの戦いとは、武器や魔術を持って戦場で戦ってほしいということではない。選択の連続、自分はこうしたいと思った選択を、こうすべきと思った行動を取り、私に指示することこそが、マスター…千奈にとっての戦いだ。そしてその末に、一人の人間として大成する。君ならば、それが必ず出来ると私は信じている。だから私のマスターは、君をおいて他にいない」

 

「それは…一体どうして、そう思うのですか?」

 

「・・・ボクの勘だよ、マスター」

 

「ち、ちっとも当てになりませんわ〜〜!!」

 

悪戯っ子のような無邪気な笑みで、フフッと口端から漏れたような笑いを含みながら、キャスターは言った。千奈は両手をブンブンと振り回して、首どころか全身を横に振った

 

「ははっ。な〜に、何事もやれば出来るさ。私達の道行きを信じよう。これからどうぞよろしく。麗しのマスター、倉本千奈」

 

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