「・・・ま、マジで…!?いや、なんで…!?」
お茶を追加で二杯用意して、クッションをもう一つ、部屋を片付けておけ…とだけ言い残した咲季の指示通りにして、あたしが部屋で待つこと丁度30分後。部屋のインターホンが鳴って、今一度玄関のドアを開けたあたしは、そのドアを開けた先で広がっている光景に驚愕と同時に呆然とする他なかった
「紹介するわことね。まぁ今さら紹介するまでもないけど、紫雲清夏と葛城リーリヤよ。二人ともライダーのマスターで、私の方から今回の事の経緯を説明して、同盟に加わってくれることになったわ」
「・・・ら、ライダーのマスター!?」
「こんばんわことねっち〜。ことねっちまでマスターやってるって聞いてマジビビったわ〜」
「こ、こんばんわ。藤田さん」
ゾロゾロズカズカと新たにあたしの部屋に上がり込んできたのは、あたしにとってはクラスメイトの旧知の二人、紫雲清夏と葛城リーリヤだった。もはやあたしが想像していたのとは斜め上過ぎる展開に、頭の処理が追いつかないあたしを横目に三人は洋室の方へと歩いて行った
「う、うわ〜…何コレ、鍛冶場?ことねっち〜コレはヤバいよ。もしココが学生寮じゃなかったら退去料とかエグいって」
「す、すごい…アニメや映画で見るのとほとんど一緒です…周りが洋室なこと以外は……」
「狭い部屋で悪いけどどうぞ上がって。ほらセイバー退いて退いて。そのクッションを譲りなさい」
「な、なんでぇ藪から棒にゾロゾロと引き連れて来やがって。てかここはお前さんの部屋じゃねぇだろう。狭えのは認めるが、アーチャーのマスターのお前さんに言われる筋じゃねぇぞ」
「生憎だけどねセイバー。あなたが霊体化できないんだから、ここに全員集めるしかないでしょう?分かったなら退きなさい、レディーファーストよ」
咲季に言われたセイバーは、すごすごとその場を立ち上がると、さっきまであたしが座っていた一番奥の傍に移動した。それからあたしが変わらず奥へ、咲季が手前に。そして新たに清夏とリーリヤが、それぞれあたしの右手と左手に座り、初星学園の制服で正方形のテーブルが埋め尽くされた
「さぁことね、始めていいわよ。あなたがこの同盟の発起人でしょう?」
「え?い、いや始めろったって…今夜はよくぞ皆様お集まりいただきました…的な?」
「あ、あなたねぇ…宴会じゃないんだから。まったく、少しはマシな顔付きになったと思ったらコレだから…自己紹介よ。全員知ってる仲とは言えど、同盟を組むんなら当然でしょう?」
「あ、そりゃそっか。んんっ!えっと改めまして、藤田ことねです。セイバーのマスターをやってます。聖杯戦争には偶然に巻き込まれるような感じで参加したんで、魔術については本当にからっきし。多分、あたしがこの中で一番足手纏いだと思う」
「だけど、今回の件について放っては戦えないと思ったから、みんなの協力には感謝してもしきれない。咲季も清夏もリーリヤも、同盟に応じてくれて、本当にありがとう。これからもよろしく」
言い終わったままあたしは頭を下げて、もう一度改めて顔を上げると、三人はうんうんと頷いてくれていた。その優しさが嬉しくも少し恥ずかしくなったあたしは、後ろ頭を掻いてから順番を咲季へと促した
「じゃ、じゃあ咲季。次よろしく」
「えぇ、改めて花海咲季よ。アーチャーのマスターをしているわ。得意魔術は身体強化、他分野もまぁそこそこなら出来ると自負してるわ。寮長の麻央先輩は、入学前からお世話になっていた恩人なの。先輩達を助けたいと思う気持ちはことねと同じ。だから今回の同盟に参加させてもらったわ」
「じゃ、次はあたしね。紫雲清夏。リーリヤと一緒にライダーのマスターやってまーす。魔術については現代魔術に最適化されたヤツを大っぴらに、そこそこにって感じかな。何か一つを専攻したり、極めようとしたりはしてないから、得意も何もないかな。同盟については、リーリヤが参加したいって言うからあたしも同意した感じ。これからよろしく」
「え、えと…葛城リーリヤです。清夏ちゃんと一緒にライダーのマスターを…しています。だけど私もことねちゃんと同じで、魔術は何も使えません。張り合うわけじゃないですけど、多分ことねちゃんよりも、私が一番の足手纏い…です。それでも、私は寮長としてもアイドルの先輩としてもお世話になった麻央先輩と莉波先輩を、絶対に助けたいと思って、同盟への参加を決意しました…!よろしくお願いします!」
咲季と清夏の自己紹介は淡々と続けられ、特に魔術については、あたしもへぇ…と関心を持ちながら聞いた。しかしそれよりも胸を打たれたのはリーリヤだ。あたしと同じで魔術は使えない、という点には同じ境遇で引き合いに出された私自身も驚いた
それでも先輩達を助けたいと言った熱の籠った瞳と声は、自己紹介というよりは逃げ道を無くすための決意表明のようだった。そして彼女の自己紹介に聞き入ってしまったからこそ、あたしは最初の言葉に妙な引っかかりを覚えた
「・・・ん?あ、あれ?いきなり話の腰を折るようでゴメン。一騎のサーヴァントに対してマスターって二人で兼任出来るモンなの…?」
「待ちなさいことね、その前に条件を確認するわ。今回締結する同盟において私達の目的は、敵マスターである篠澤広と、彼女が召喚したアサシンの討伐。そして行方が分からなくなった麻央先輩と莉波先輩の身の安全の確保」
「この目的が達成されれば、私達はまた綺麗さっぱり聖杯を奪い合う敵同士よ。自己紹介で得意魔術を明かしておいて、何を今さらと思うかもしれないけれど、自分達にとって今後不利益になる可能性がある情報は伏せたままで構わないわ」
「これから連携していく上で色々と情報交換はするけれど、誰かが情報を開示したからと言って、等価に当たる情報を開示することを強要はしない。それぞれの判断で話してくれればそれでいいわ」
なるほど。と納得するのと同時に、やっぱり咲季を誘って良かったと心からあたしは思った。元はと言えば清夏もリーリヤも彼女が連れて来たから当たり前と言えばそうなのだが、魔術師でないあたしが分からないところにも気を配ってくれるし、何人に対しても彼女はフェアであろうと振る舞ってくれる。昨日胸ぐらを掴まれたのも、その心根から出た行動だったのかと思えば、後はスッとあたしの腑に落ちた
「・・・ん、オッケー。気遣ってくれてありがと咲季っち。まぁでも、それこそもう自己紹介で魔術使えないってリーリヤが言った後だし、逆にこれは同盟相手には知っておいて貰わないと困る事だからね」
緩く目を瞑りながらそう言って、徐ろにテーブルに隠れている膝下から右手を持ち上げて、その甲を見せたのは清夏だった。そこには左右対称の雫のような紋章が刻まれていて、雫の煌めきを表すような一画が既に失われたように滲んでいた
「順を追って説明すると、令呪って魔術師がサーヴァントを召喚して聖杯戦争に参加することで刻まれるか、逆に降臨する聖杯からマスターに選ばれて先に令呪が刻まれる事があるらしいのよ。その点であたしは後者だったんだよね。それでぶっちゃけると、参加する意志なんてなかったから、監督役に打診して聖杯戦争からは降りようと思ってたの」
「それでまぁ…咲季っちが聞くと呆れるかもしれないけど、ウチの家系はまだ三代しか続いてない魔術師の中ではひよっこ家系でさ。あたしのおじいちゃんが謂わゆる初代なんだけど、おじいちゃんが若い頃に魔術回路を発現して、一念発起したように二代目になったあたしのお父さんに魔術の家督を受け継がせたらしいんだ」
「しかし、いざ受け継がせてみたはいいモノの、ほとんど押し付けられるような形でプライベートの時間まで奪われるくらいの熱量で魔術を学ばされて、あたしのお父さんはかなり嫌気が差してたらしいんだよね」
「それでその後あたしが産まれて、その時はまだおじいちゃんが存命だったから、とりあえずお父さんは教えてる格好を繕うために、魔術刻印を移植して、あたしに魔術を一から教え始めたって感じ」
「だけどおじいちゃんが寿命で亡くなってからは、自分の代でそのまま魔術師の家系は終わらせるつもりだったけど、教えちゃった以上は後の事はあたしが決めていいよ。ってな感じで、そこからは教えてくれることもなくなって、やるなら独学で〜って感じだったんだ」
「だからその辺、あたしも魔術に関しては結構アバウトというか、一口に言えばいい加減でさ。聖杯戦争も願いが叶うのは魅力的だけど、あたしは別にいっかな〜…って思ってたところがぎっちょん。同室のリーリヤにこの入れ墨じみたモノを見られてしまったのが運の尽き」
「新手のファッションに自分の感性を刺激されたのか、あたしが不良になったとでも思ったのか、あまりにもしつこくコレについて聞いてくるリーリヤに、あたしはつい根を上げて自分が魔術師な事と、聖杯戦争についてをゲロっちゃったワケ」
当時のことを思い出しているのだろうか、リーリヤは少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら俯いて、その様子を清夏が揶揄うようにニヤニヤ見ていた。一方あたしと一緒に話を聴く側だった咲季は、頭痛を庇うように額に手を当てて、「あり得ないわ…」とだけ呟いていたが、清夏はそれを知ってか知らずか構わず続けた
「そしたらリーリヤが、私も協力するから参加しようって。どうしても叶えたい願いがあるから、必ず勝とうって言ったんだ。あたしはこの戦いが命懸けであることも、死んでもおかしくないことも知ってたから、あたしだけならまだしも、リーリヤを引き連れてなんて絶対参加しないって、テコでも首を縦に振らなかったの」
「そしたらリーリヤ、じゃあ清夏ちゃんが監督役の人に辞退を申し出たら、私が参加を表明するとか言い出したんだよ。あぁもう、これは流石に話した時点でドジったな〜…なんて後悔は先に立たず。それは流石にと思ったあたしは、リーリヤと二人体制で聖杯戦争に参加することを決めたの」
「後はまぁ、触媒用意して召喚儀式やって?めでたくもライダーを召喚して、念には念を入れて令呪一画使ってリーリヤの指示も極力聞くように〜って命令して。いざ聖杯戦争にライダー陣営として本格参戦!昨晩は咲季っち達と切った張ったの大勝負!しかし昨日の敵は今日の友!ってな感じで、今に至る〜…かな」
「ってなワケで、同盟を組む以上はここらで紹介しときましょう。あたしとリーリヤのサーヴァント、ライダー君でぇ〜っす!」
そこそこ長い経緯を説明し終えて、清夏がリーリヤの左後ろ辺りにヒラヒラと両手をはためかせて、あたしと咲季の視線を誘ったのだが、その先にはただあたしのベッドがあるだけで、何も起きない、誰も喋らない虚無の時間が続いた
「ちょっとライダー!ここで出てこないとあたしがただ恥ずかしいだけじゃん!・・・え?いや別にい〜んだって、同盟組むことはもう決まってるんだから。昨日だって咲季っちのアーチャーにアサシンと間違えられたんだから、いざ戦いになって同じようにセイバーにも間違えられて切られたらどうすんの。ほら、リーリヤからも言ってやってよ」
「ふぇ、ええ?じゃあ、えっと…ライダーさん。霊体化を解いてもらえますか?同盟を結ぶ以上は、みんなと仲良くして貰えると、私も助かります」
念話が繋がっているのか、清夏が宙空に向かって…まるで友達と話すような気さくな口調で喋ると、リーリヤも遠慮がちではありながらも、左脇に立っているのであろうライダーを見上げながら言った。すると数秒置いた後に、観念したかのようにヤンキー風の髪型と、しかしあまりそれを思わせない猫背で物静かそうな印象を受けるサーヴァントが姿を見せた
「・・・えと、うっす。サーヴァント・ライダー。召喚に応じ参上したっす。マスター共々、今後ともよろしくお願いしますっす」
「ほらね〜。こんな感じでライダーはリーリヤの言う事は結構聞いてくれるんだ〜。令呪が効いてるのか、清楚な感じの女の子に弱いヤンキーなのか、いやぁ見てて飽きないんだよね〜」
「いや、ちょ。マスター。本当に恥ずいんでマジで勘弁して下さい。いや、マジで…」
「そ、そうだよ清夏ちゃん。ライダーさんが可愛そうだよ。その…ライダーさんはただでさえコミュ症で陰キャさんって自分で言ってるしその通りなんだから…」
「ゔっ…!?」
「・・・あー、リーリヤ。それ逆にライダーにトドメ刺してるよ?自覚ある?」
「え、ええぇ!?ご、ごめんなさいライダーさん!私そんなつもりじゃあ…!!」
姿を現したライダーは、まるで手を焼く姉妹の面倒を見るような、気弱なお兄さんのように見えて、お笑い芸人ならかなり美味しいイジられキャラのようにも見えた。その会話と光景に、あたしの我慢は限界に達して、ついに堰を切ったように笑いが口から漏れ出した
「ぶふぅ…あは、あはは…あはははははは!!!あっは、あははははははははははは!!!」
「ちょ、ちょっとことね…笑わないでよ…わ、私だってライダーに失礼だと…思って、笑わなかっ…あ、あはは!あ〜っはっはっは!ひぃ〜っひひひひひ!あははははははは!!」
「くく、くくく。おぉアサシン。互いに女所帯で肩身が狭いだろうが、まぁ仲良くやろうや。儂は歓迎するぜ。あぁ悪い、ライダーだったな。こりゃ失礼。かか、わははははは!!!」
「・・・もういっそ、今からでも同盟破棄して欲しいっすよ…」
あたしと咲季からも、肩にポンと手を置いたセイバーからも、腹を抱えて笑われたライダーは、しかし実に寛容な英霊なのだろう。これがどこぞの国の王だったり、暴君なら笑い者にしたあたし達は今頃首を刎ねられているに違いない。清夏達からのイジられっぷりを見るに、これが日常茶飯事な本当に友達のような英霊で微笑ましいなとあたしは思った
「あは、あはは…あ〜笑った。まぁ、リーリヤの件も含めてライダー陣営の事情も一通りは分かったわ。清夏の魔術に対する軽薄さは…まぁ、よそはよそ、ウチはウチと言った感じで大目に見るわ。それじゃ、ウチのにも霊体化を解かせるわ。アーチャーよ。言い回しが気難しそうな所はあるけれど、根はいい奴だから安心して」
「くっくっく…あっはっはっ!さ、さーばんと…あーちゃー…じゃ、みなのもの、よきにはから…わははははははははははははははは!!ら、らいだ。おぬし…よもやわしを笑い殺す気か!あはははははははははははははは!!」
「・・・流石に笑い過ぎでは?いや、俺はいいんすけどね。本当、険悪なムードで同盟組んでやってくよりは。いや、本当っすよ?」
ライダーに続いて霊体化を解いてあたしの部屋に姿を見せたのは、聖杯戦争の開始当初から咲季から存在を聞いてはいたが、今日までその姿は見られなかったアーチャーだ。黒い軍服に、日の出を模した金色の装飾が付いた制帽、そして黒い外套と長髪が揺れる英霊は、ライダーとそのマスター達のやり取りに、腹を抱えるどころか、目尻に涙まで溜めて笑える気さくなサーヴァントなのだと、あたしには感じられた
「・・・さて。ここから先は、本当に各々の陣営に判断を委ねるわ。アーチャー、真名を明かしなさい」
笑いの空気から一変して、咲季はテーブルの上に組んだ手を置いて、神妙な面持ちで言った。そのセリフに、あたし含めたマスターも、サーヴァントも含めて全員が驚愕の色で顔を染めた。先ほどまで大声で笑っていたアーチャーも、眉間に皺を寄せて顔を顰め、姿勢を崩して座る自分のマスターである咲季を、文字通り見下ろしながら睨みつけるようにして言った
「・・・気は確かか、マスター。わしに名乗れと言うからには、相応の理由があるのじゃろうな?わしは寛容ゆえ、戯れも許そう。しかしそれが目に余るものであれば、言うたはずじゃ。素っ首、胴体と泣き別れることになると」
「えぇ、分かってるわ。理由もある。それに私だって言ったはずよ、あなたに損はさせないように努めるってね。まぁ黙って聞いてなさい。みんな、今から私はアーチャーに真名を名乗らせるわ。でも、宝具までは明かさない。真名から想像できる宝具を、精々みんなで好き勝手に想像すればいいわ」
「さっきも言った通り、私がアーチャーの真名を名乗らせるからと言って、あなた達もそれに合わせる必要はないわ。だけど宝具に関しては、文字通り必殺の一撃になり得るモノよ。同盟の目的を達したら敵同士に戻る人達に、私もおいそれとは明かさないわ」
「だけどもし今後、それぞれがアサシン陣営との戦闘で、仕留めるまでにもうひと押し、だけれど宝具の開帳、それに類する真名の開示が迫られる…という場面が訪れたとして、その場面で確実に敵を仕留められるように、躊躇しないように、いわばハードルを下げるために、私はせめてもの譲歩としてアーチャーの真名を明かすわ。しつこいようだけれど、強要はしない」
あたしから見て、いかにも神妙な面持ちで、真剣にこれからの戦局を見て言っているように思えた咲季の表情は、なにかを企んでいるかのように、冷や汗を一筋垂らしながら、少し口許が歪んでいるかのように見えた。すると同じような、したり顔で清夏が口を開いた
「・・・上手いなぁ咲季っち。あたしらにはもうアーチャーの真名がバレてるからって、開き直ってるわけ?こういうの、ドアインザフェイスって言うんだっけ?」
「正しくは心理的リアクタンスと、ブーメラン効果ってところでしょうね。正直に言うけど私にとって、ことねから持ちかけられたこの同盟は、アサシンと篠澤広という共通の敵を倒した後に、私自身の戦いを優位に進められる旨みがない」
「今さら同盟を降りる気もないけれど、現状で鑑みるに清夏もリーリヤも、ことねも、なんならライダーもセイバーも分かっているハズよ。この同盟で最も実力があるのは、間違いなく私とアーチャーよ。つまり上から目線で言うと、私達はあなた達が近い将来、倒せるかも分からないアサシンの討伐に協力してあげている。その上で、今後訪れるであろう場面の為に真名を明かすとまで譲歩している」
「私が言ってることの意味、もう全員分かってるわよね?いい、ことね?同盟を組んであなたは満足かもしれないけれど、交渉ってのは、本来こういうことを言うのよ」
「─────ッ!?」
あまりにも、あまりにも強かだとあたしは舌を打ちそうになった。咲季はアサシンを躊躇なく倒すためという建前を立てた上で真名を明かす。しかしてそれは、同盟で一番の実力者がここまでするんだぞ。というある種の脅迫であり、自分達が真名を知られるデメリットより、二人の真名を知るメリットを選んだ、彼女がアサシンを倒した後を見据えての発言だと、名指しで言われたあたしはもはや押し黙ることしか出来なかった
「最も実力がある、か。まぁ昨日のアーチャーはずっと日本刀で戦ってたし、手を抜いてたわけじゃなさそうだったけど、少なくとも本気じゃなかったんだろうね。それに咲季っちにあたしが組み技掛けられたのも、初見殺しの作戦があったからこそだもんねぇ〜。たはー、参ったなこりゃ。とんだ誘いに乗せられちゃったね。リーリヤ、ライダー」
「まぁ俺はマスター達が名乗れと言うのなら名乗るっすよ。真名を知られるのは確かに軽んじれはしないっすけど、名前だけで勝ち負けが決まるほど、簡単なモンでもないでしょう。聖杯戦争ってのは」
「・・・良いよ、清夏ちゃん。ライダー。確かにその瞬間が来た時に躊躇いが生まれるのなら、この場にいる誰の得にもならない。あくまで今の私達の目標は、麻央先輩達を助ける事。その後で咲季ちゃん達を倒す為の手立ては、また改めて考えればいい事だから」
「・・・言ってくれるわね、葛城リーリヤ。だけどそういう発言こそ、私好みってものだわ」
額を手の平で覆いながら、部屋の天井を仰いだ清夏は、たくらみ顔の咲季と、制帽を深く被って目元を隠し、口許を歪ませるアーチャーを一瞥してから、リーリヤに言った。しかしライダーに続けて口を開いたリーリヤは、持ち前の度胸の強さとも言える姿勢を視線にも込めて咲季に言うと、咲季も笑みを隠すことなく言った
「・・・すぅ〜…はぁ〜。セイバー」
「お前が決めろ、ことね。昨夜も言ったが、自分で決めなきゃいけねぇこともある。この同盟は、お前さんが始めた事だ。ライダー陣営はそうじゃねぇが、この咲季って娘を引き込むのを決めたのはことね自身だ。儂がせめてもの対策で真名を明かさなかったのは、今となっちゃあ申し訳ねぇが、こうなったのなら仕方ねぇ。儂は腹を括れる。だから、ことねが決めろ」
「・・・分かった。言おう、セイバー。少なくとも、多分あたし達がこの中で一番陣営としては実力不足だから。だったら、あたし達が名乗らないのは不公平どころか、不義理だと思う」
考えを巡らせすぎてパンクしそうになった頭を落ち着ける為、あたしは深い呼吸を一つ置いて傍で立つセイバーに視線を向けた。琥珀色の実直な眼であたしに言ったセイバーは、仕方がないと言いたげな視線と態度だったが、それを堪えてくれたようだ。それなら。彼の意思すらも不意にしてしまうようなら、あたしは同盟の発起人以前に、セイバーのマスター失格だと、覚悟を決めて口を開いた
「・・・決まりね。アーチャー、名乗りなさい」
「くく、くくく。佳い。まこと佳い余興じゃったぞ我がマスターよ。皆の者!心して我が真名を拝聴せよ!わしは尾張の国藩主にして!桶狭間の戦に始まり、かの戦国最強と呼ばれた武田の騎馬隊をも討ち破り!天下布武を掲げ天下統一に王手を掛け!かつて安土の城の天守閣よりこの国を見下ろした第六天魔王!覇王!魔人アーチャー!織田信長である!!!」
バサッ!と羽を広げるかの如く、赤い外套をはためかせて右掌を差し向けながら、アーチャーは口上を述べた。昨夜にはもう彼女達と戦って、既に当たりをつけていたのか、清夏とリーリヤはあまりに長いそれをラジオ感覚で聞いていた。しかし、あたし達はそうもいかなかった。セイバーは目を丸くひん剥いて絶句し、あたしはと言えば、驚愕がそのまま声となって口からまろび出てしまった
「・・・お、お…お、おお!?うおおおおおおぉぉぉ織田信長ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」