「───問おう」
覇気。そう呼んで差し支えない程の、思わず胃の中身が喉まで迫り上がり、空気からヒリヒリと伝わる、えも言わせぬ迫力。咲季自らが召喚し魔法陣の中心に立っている人物に、他でもない咲季本人が萎縮せざるを得なかった
着ている服は見紛うことなく軍人のソレだ。上着のボタンや袖の留め具、ブーツには余すことなく金が使われており、制帽の中心には黄金に輝く木瓜紋が彫られた朝日のような装飾。腰には黒の鞘に収められた一振りの刀。そして一際目を引かれるのは、召喚に行使した鮮血よりも一層に濃い赤が風に揺れている外套
「おぬしが不遜にも、我が威光に縋らんとし、この身を再び現世へと喚び戻した魔術師なるか」
しかし、服の上からでも何となく分かる体全体の線の細さ、腕組みをしていても少し丸みを帯びているように見える肩。咲季とほとんど変わらない小柄な背丈。その腰辺りまで夜の帳が如く伸びた黒髪。何より此方を威圧する声が、低いというよりはむしろ高いように感じる
(・・・女性?)
僅かな違和感から導き出される推測。この人物が咲季の用意した触媒に縁のある、咲季が想像した通りの人物で、史実通りならば間違いなく男性のはずだ。けれど目の前の人物から伝わってくる圧倒的なオーラや立ち居振る舞い、気難しそうな口調のほどは、歴史に学ぶその人『らしく見える』と思わざるを得ない
しかし目の前にいるのが誰であれ、召喚してしまった以上はもうどうしようもない。今この瞬間に重要なのは、召喚した英霊が誰かということではない。この英霊との主従関係をハッキリさせる事だと、咲季は召喚の際に左手の甲に刻まれた、三画の花弁を模した令呪を見せつけながら英霊の問いかけに答えた
「ええそうよ。私の名前は花海咲季。私が今回の聖杯戦争で勝つために、貴方をサーヴァントとして召喚したマスターよ!」
「うつけが」
一言。鋭い眼光。凄まじい威圧感。否応なく押し黙らされる。一挙手一投足を間違えれば、腰に帯びた刀が一瞬の内に鞘走り、令呪ごと左手首を切り落とされるか、もしくは首を刎ねられるのではないか。ここで三回きりの絶対命令権である令呪を使ってしまうか…という思いをすんでの所で思い止まった咲季は、続けて軍人風の英霊に言い放った
「うつけとは随分な言われようだけれど、私は本気でこの戦いに勝つつもりよ。そうでもなければあなたを喚ぼうだなんて考えもしないわ」
「・・・ほう。業腹だが貴様のような年端もいかぬ小娘が、わしと相対してまだ口を開けるその胆力だけは褒めてやろう。じゃがやはりうつけはうつけじゃ。おぬしの言う勝つことと願いを掛けることは同義ではない」
褒めてやるという言葉それ自体は嘘ではないのだろう。英霊の纏う空気感が幾分か和らいだのを咲季は感じていた。しかしまだこちら側を真の意味では信用してはいなさそうだ。明確な敵意、ないしは殺意がその眼光に込められている
「取り繕わずに答えよ。さもなくばおぬしの素っ首、胴体と泣き別れることになろう。わしを召喚した時点で、もはや勝つことなぞ当たり前じゃ。それはお主とて分かっておろう。この時代の戦なぞわしにとっては児戯に等しい。しからばお主は何ぞ勝利を渇望し、いずれ手にする聖杯におぬしは何を願う。答えよ」
同じ背丈、同じ目線に立っているというのに、常に見下ろされているかのような感覚。結局のところ、この問答はこの英霊による契約を結ぶ為の品定めだ。ここでこの英霊の機嫌を損ねれば本当に首を刎ねられると咲季も理解していた
ならば話は簡単だった。そもそもそんな常に相手の顔色を窺っているような主従関係では、聖杯戦争は勝ち抜けない。そもそもそんな品定めされるような立場にまで譲歩してやった覚えもない。たとえこの英霊に実力で負けていたとしても、負けるのが何よりも大嫌いな私が、こんな問答如きでビビって折れる訳がないと咲季は笑いながら言った
「聖杯に掛ける願い?そんなのないわよ。私はただ勝負をする為に、そして勝つためだけに聖杯戦争に参加して、あなたを召喚したのよ。強いて言うなら、この聖杯戦争に勝つことが私の願いよ」
「・・・・・は?」
咲季の答えに、軍服の英霊は鳩が豆鉄砲を食ったように、目を丸くして素っ頓狂な声を出した。あまりにも予想外の返答だったのか、英霊は聞き間違いではないかと問い直した
「のう小娘よ。わしは取り繕うなと言うたはずじゃ。お主はこの聖杯戦争で他でもないワシを喚んだ。わしの力があれば必ず勝てると踏んだからじゃ。それは聖杯に掛ける何としても叶えたい願いがあるからじゃ。違うか?」
「違うわ。私はね、目の前に山があったら登らないと済まないタチなの。この聖杯戦争にしても、戦いに勝利する事それ自体が私の最大の目的よ」
「あなたという英霊を選んで召喚したことについては、私があなたを喚ぶ条件を揃えていた上で私がその権利を破棄するのは、謂わゆる手抜きになってしまうわ。全力で掛かってくる相手には全力で相手をするのがスジでしょう?だから私は私が持てる全ての力…実力と運で勝負する為に、あなたを喚んだの」
「後はそうね…聖杯については、貰えるものは貰っておくと言ったところかしら。どうしても自力では叶えられない願いが見つかったら、その時にでも使わせてもらうわ。何かで世界一になりたいという望みはあるけれど、それは自分の力で成し遂げないと意味がないもの」
「・・・世界一、とな?それはこの日の本だけでなく、大海の果てに在る国をも全て堕とし、文字通りの天下統一を成し遂げようと?」
咲季が口にした言葉に、英霊はピクリと眉を潜め、少し怪訝そうに咲季へと訪ねた。しかし咲季はそれとは対照的に、フッと笑って口許を緩めて、自分の背後にあった大木へと身を預け、左手の甲に刻まれた三枚の赤い花弁を見つめながら話し始めた
「いいえ、そういう意味じゃないわ。私には一人の妹がいるの。とっても私に懐いていて、いつも私の後ろを付いてきて、甘えたがりで、私がいないと何にもできない手の掛かる妹なんだけど…それでもいつか私を追い抜こうとしてるの。私のことを誰よりも凄いと思い込んでいて、そんな私に勝とうと必死で頑張っている…誰にでも自慢できる可愛い妹がいるの」
「私はこういう性格だから、小さい頃から大抵のことは出来た。でも妹は鈍臭くてドジだから、周りの子からもよく馬鹿にされててね。いつも私が妹の代わりにその子たちに怒って、助けて、たまに喧嘩になって。そんなある日、私の悪口を言った奴に妹が泣きながら言ったの」
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『私のお姉ちゃんは、世界一すごいんだからぁ!』
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「ってね。そうは言っても私、色んな事が出来るってだけで、本当の意味で1番になったことなんてないの。世界一なんてもってのほか。だけど自分にとって誰よりも大切な妹を、嘘つきにする訳にはいかないじゃない?」
「・・・よもやとは思うが、それで?」
「悪いけどそのよもやよ。いつか妹が吐いた嘘を本当にしてやろうって、そう決めたの。だから私はいつか必ず、今必死で学んでるアイドルで世界一になる。でも魔術師として育った以上、魔術師の世界一になることも候補の一つではあったの。そこにこの聖杯戦争という機会が舞い込んできた。だから私にとって、この聖杯戦争は勝つことにこそ意味がある。それだけのことよ」
自分の過去と願いを話し終えた咲季は、右手の令呪を見るのを辞め、背中を預けていた大木から離れた。そして今一度自分が召喚した英霊と向き直り、その燃えるような赤の瞳をジッと見つめ返した
「・・・くく、くくくっ…」
すると英霊はしばらく間をおいて俯いたかと思えば、仁王立ちだった姿勢を緩く崩した。右手で制帽の鍔を掴んで顔を隠すように深く被り、哄笑を堪えるかのごとく肩を振るわせていた。しかして次の瞬間、堪えていた笑いを隠すことをやめ、歯どころか喉まで見えるような大口を開けて、月夜へと向けて高らかに笑い始めた
「かっかっか!あーっはっはっ!世界一すごい姉と、これを妹の嘘にすまいときたか!これはまっこと愉快じゃ!傑作じゃ!かっかっか!」
「・・・佳い。願望を叶えるためではなく、純然たる勝負に対する欲求。勝つことへの飽くなき渇望。我ながらまこと佳い運命の巡り合わせじゃ。わしの生きた時代に比べ、あまりにも腑抜けが増えた現世に臣下なぞ期待すまいとおったが…此奴め、わしの期待をよくも裏切ってくれおったわ」
「・・・なら私はこの場合、期待していいのかしら?」
「うむ。もう気を張らずとも良い。試すような真似をしてスマンかったの。もしもわしにとって気に食わぬ発言をするマスターじゃったら、首の一つでも刎ねてやろうと思ってたんじゃ」
「試すような真似どころか、人はそれを俗に試してるって言うのよ!」
「違いない!なっはっはっ!」
どうやら完全に打ち解けたようだと、咲季は安堵した。召喚してからこの瞬間までの、こちらを威圧していた時とは打って変わって、朗らかによく笑う女性だと咲季は思った。人としての器と言うのだろうか。厳格でありつつも、一度認めた相手の戯れを許してくれるような寛大な人物なのだという所見を持った
「よかろう、花海咲季。其方をわしの忠実なる臣下と認め、マスターを名乗ることを許そう。契約は此処に果たされた。我は此度の聖杯戦争において!アーチャーのクラスをもって現界した!我が真名は第六天魔王!乱世の戦国にて天下布武を掲げた覇王!織田信長である!」
織田信長。現代日本に於いてその名を知らぬ者はいないとまで言われる、第六天魔王の異名と共に天下にその名を轟かせた戦国時代の風雲児。そして何を隠そう咲季が触媒に使った火縄銃こそ、言わずと知れた長篠の戦いにて、戦国最強と謳われた武田の騎馬隊を見事に打ち破ったと言われる三千挺もの火縄銃の内、現代まで保存されてきた一挺だった
歴史上の偉人その人が、霊体とはいえ全盛期の姿で現代に蘇り、自分の前に立って、こうして対等に会話している。そんなひと塩の感動に打ち震えながらも、咲季は深く頷きながら答えた
「ええ。これからよろしく、アーチャー。私が触媒を用意した時に、召喚したいと思い描いた通りのあなたが応じてくれて良かったわ。でもまさか、戦国時代の栄華全てにその名を轟かせた武将が女性だとは思いもしなかったわ」
「む。後世に残された史実におけるわしは、男性として語り継がれておるのか?まぁわしとてそのように振る舞っておったからの。加えて噂話や昔話なぞ、その時代の人間が信じたい形に歪曲して伝わるものじゃ。是非もない」
「でも、却って好都合かもしれないわ。貴方の残した逸話の数々は本国の人にとってはあまりにも有名すぎるから。お世辞でもなんでもなく、日本人であなたの名前を知らない人なんて、まだ歴史の授業を受けていない子どもか、よっぽど物覚えの悪い人間くらいだもの。性別の違いもまた、真名を隠すいいカムフラージュになってくれるかもしれないわ」
必要ならば歴史の教科書の記述を書き換えねばならぬほどの、衝撃の事実を一人知ってしまった咲季。しかし英霊の召喚に成功した事が、今回の聖杯戦争の開催地は日本であることの裏付けだ。聖杯は確かにこの地に降臨している。ならば自分以外の参加者に日本人がいてもおかしくはない。その点では、本国では余りにも有名なアーチャーの真名を隠すのに、性別の違いは固定観念を崩さぬ限りはまずバレない絶好の隠れ蓑だった
「ほう。没後の今もわしの名はそこまで現世に知れ渡っておるのか。悪い気はせぬ話じゃ。しかしなんじゃ、マスターにとって使役するサーヴァントの真名がバレるというのは、そんなにも不味い事柄か?」
「不味いわ。今回の貴方のクラスはアーチャー。弓兵…言い換えるなら狙撃手だけれど、貴方の真名もさることながら、その武器である火縄銃の逸話もまた、日本人で知らない人はまずいないわ。相手に真名がバレて火縄の対策をされれば、私達は有効な一つの攻撃手段を失うことになる。ここぞという時を除いて、宝具も含めた貴方の火縄は必殺の一撃にしましょう」
「不必要に撃たず、平時はその腰に帯びてる刀で戦うのが得策ね。かの信長公は、馬術、弓術、槍術、剣術…その他全ての武芸で無類の強さを誇っていたと伝え聞いているわ。この史実に嘘偽りはあるかしら?」
「愚問じゃな。わしを誰と心得る?ただ本陣に引き篭もって策を弄する、どこぞの狸とは訳が違うわ。戦いの方針についてはそれでよかろう。じゃがお主はどうする?聖杯から得た知識では、魔術師とは本来、戦地から遠く離れた場所からチマチマネチネチと呪いをかける様な、陰湿な連中が多いとされているが、お主はそのネチネチした魔術でわしを援護すると?」
「・・・その発言は魔術師的には偏見に怒るべき場面なんだろうけど、否定はしないわ。だけど、その中でも私は例外な方よ。とりあえず一回見せてあげるわ。ついでに私が身を置く学舎もね。アーチャー、仮にも弓兵のクラスなら、距離くらいは感覚で分かってくれるわよね?」
聞きながら咲季は、左手の人差し指を軽く口に含んで唾液で湿らせると、中空にそれを立てて夜風の向きとその速さを確かめた。それから軽く頷いて、ヨシと呟くと両膝に手をついて軽く屈伸をすると、傍で興味深く様子を見ていたアーチャーに向けて言った
「それじゃ、ちょっと競争しましょ?ここから西南西に1.5キロ離れた先に、丸い形をした灰色の天蓋の講堂があるはずよ。その建物の屋上に先に着いた方の勝ち。どうかしら?」
「なるほど、そこが貴様の学舎ということか。よかろう。自らの実力を英霊相手に試そうというその意気や良し。なればこそわしも受けて立たねばな。して開戦の合図は?」
「今から一つ石を投げるわ。それが地面に着いた瞬間がスタート。私も魔術を使うから、あなたもどんな手を使っても構わないわ。それじゃあ、いくわよ!」
山に落ちている適当な石ころを一つ拾って、咲季は下手投げで空に向かって放り投げた。ほぼ垂直に投げられた石は月を背景にして、やがて引力と重力に従って落ちていくその最中。アーチャーは腰を低く保ちながら、今に駆け出す瞬間を待つ。対する咲季は、しゃがみこむような、跪くような体勢で、やがて口中で小さく呟き始めた
「───我が健脚は、大地より出でし生命によって育まれ。即ちその腱に宿りし跳力は地を割る巨人の投足なり───」
呪文。言霊という概念があるように、口にした言葉は本当になるという因果になぞらえ、魔術の起動を促す最も原始的な方法だ。咲季がその呪文を唱えると、彼女の爪先から脹脛にかけて、体内に宿る魔力の通り道である魔力回路が開き、その内に力を溜めていく。その回路を通して魔力が両脚の筋肉と溶け合い、世界を取るような陸上競技選手でも超えられないほどの跳躍力を可能にする
「どおりゃあああぁっ!!!」
カツンッ!という石が地面に落ちる音とほぼ同時にした音は、花海咲季の裂帛の気合いの叫び。そしてドゥンッ!!という山肌を抉るほどの脚力で以って、彼女の五体が宙に向かって跳び上がる音だった
苦労して登った山岳を一瞬の内に飛び出し、咲季の体は一切の遮蔽のない空中へと打ち出された。グングンと高度を上げ、風を全身で切りながら緩い弧を描き、走り幅跳びの空中姿勢を保ちつつ、弾丸のようなスピードで学園へと戻っていく
位置ヨシ、高度ヨシ。正確無比な計算で跳躍し、夜空を跳んだ咲季は、講堂まであと200メートルほどを2秒で到達し、その天井に難なく着地できると確信した。そして大地を駆けるアーチャーはまだその姿すら見えていない。勝利を確信し、着地姿勢を取った時のことだった
「先に待っておるぞ」
不意に風を裂いて真横から聞こえた声。バッと首を横に向ける。そこにはなんと、空中を文字通り弾丸の速さで奔る火縄銃と、その長大な砲身に乗り、まるで火縄銃をサーフボードのように乗りこなすアーチャーの姿があった。そしてそのまま、瞬く間に咲季の横を通り過ぎていき、空気抵抗をものともしないスピードで講堂の天蓋へと直進していった
「は、はあっ!?」
まさかの展開に口を突いて出る驚愕の声。そして無情にも過ぎ去る2秒。魔術強化を施した両脚で着地し、余った勢いを殺すために一度前転する。そしてバッと頭を上げた時には、既にアーチャーが余裕の表情で咲季を見下ろしていた
「どうやら此度の勝負、わしの勝ちのようじゃな。マスター」
「〜〜〜〜〜ッ!!想定内よ!ええそうよ!聖杯戦争にしたって、サーヴァントの相手はサーヴァントにしか務まらないのが定石だもの!流石の私もサーヴァント相手に勝てるなんて思ってなかったわよ!」
手を貸してくるアーチャーに引っ張り起こされながら、咲季は立ち上がった。誰よりも勝負ごとに意欲的で、その上で負けるのが何よりも嫌いな彼女が自ら勝負を挑むほどには、彼女なりに自分が研鑽した魔術に自信があったのだ。そして勝利を確信した瞬間に負かされ、こうも相手に余裕ありげにされれば強がりも出ようというものだった
「なっはっは!おぬしのような小娘がそう強がる事もあるまい。実際は本気で悔しいのであろう?顔にそう書いてあるわ、うつけめ」
「悔しいに決まってるでしょ!聖杯戦争に勝つ為に参加したって話もう忘れたの!?私は勝負で負けることが世界で一番嫌いなの!くやしい、くやしい…悔しい悔しい悔しい〜〜〜っ!!!」
「え、えぇ…本当に超悔しそうではないか。流石のわしもちょっと引くんじゃが…」
流石に脚部に巡らせていた強化魔術を解除しているとはいえ、講堂の天蓋を壊しかねない勢いで咲季は何度も地団駄を踏んだ。まるで子どものように悔しがる彼女を見て、アーチャーが若干引き気味に自らのマスターを見ていると、ようやく落ち着きを取り戻した咲季が軽く咳払いして話し始めた
「んんっ。取り乱してごめんなさい。負けた後に誇るような事でもないけれど、これが私の研鑽してきた魔術、身体強化魔術よ。私の体内を巡っている魔力回路に魔力を通す事であらゆる身体機能を活性化させて、筋力の増強から皮膚の硬化、また視覚、聴覚、嗅覚なんかの五感の鋭敏化、さらに体細胞分裂を促進させることで治癒を早めることも出来るわ」
「つまり私の戦闘スタイルは、この魔術に裏付けられた根っからの肉弾戦型。だから私は援護射撃や、遠隔攻撃の得意なアーチャーの階級で召喚される可能性の高いあなたを選んで触媒を見繕ったのよ。ネチネチしたのが得意な、いわゆる根っからの魔術師に私は当てはまらないわ。これで私の言っていた例外の意味、分かってもらえたかしら?」
「・・・それは良いが、先ほどぬしはわしの火縄を無闇に使うなと言うたではないか。なればわしらは二人揃って敵の懐に突っ込むことになるが?」
「分かっているわ。今の勝負でも分かった通り、やっぱり魔術師はサーヴァント相手には太刀打ちできない。だからアーチャーが火縄、ないしは宝具を抜いた時、真名を明かしてでも倒すべき場面になった時に、私も隙を窺って踏み込んで、火縄の弾幕を躱すのに必死になっている敵に、渾身の一撃を叩き込んで勝負をつける。というのが私のヴィジョンよ。まぁこれはあくまでも理想論だから、当面の方針は相手の出方に合わせて臨機応変に動くという認識でいいわ」
「なるほど、道理じゃ。佳い佳い。その性根から戦い方まで、戦場の華は愛でるわし好みのマスターじゃ。して、この足場にしておる場所がおぬしの学舎とな?わしの城ほどではないが、学舎と呼ぶにはあまりに大きい。加えて庭に町まであるとは、えらく贅を尽くした学舎よの」
咲季の話を聞きながらうんうんと頷いて、アーチャーは月明かりに照らされた初星学園の校舎を、制帽の鍔に右手を当てながら見回していた
「悪いけど、足場のコレは講堂よ。あなたの言っている町も含めて、塀で囲われてるところまで全部がウチの学園なの。小川を挟んで手前にあるのが体育館で、そこから中庭を西に進んだ先に私が所属してるアイドル科の校舎が──」
「屈めマスター!!!」