Fate/starlight   作:小仏トンネル

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第32話 決戦 アサシン陣営:破

 

「ウオオオオオォラァッ!!」

 

「───ふんっ!!」

 

セイバーは裂帛の気合いと共に飛び上がり、抜き身の刀剣の柄を両腕で握りしめ、咆哮の気合いをそのまま叩きつけるかのようにして、全体重を掛けて刀を振り下ろす。開戦から間も無く、彼の一振りによって隻腕になった暗殺者は、もう一度襲いかかったその一太刀を、今度は腕ではなく、大剣の刃で鋭い鉄の音と火花を散らしながら受け止めた

 

「良い刃だな、剣士の英霊よ。しかし、その刃にはいささか技が足りぬ」

 

「かっ!お褒めの言葉は結構。技に関して言やぁ、確かに儂はセイバーだが、生憎と剣士じゃなくて鍛治師なモンでなっ!お行儀よくとはいかねぇぜ!!」

 

開き直ったようにハッと笑って、セイバーは刀を振り下ろした体勢から、右の足下の虚空に脇差しほどの抜き身の小刀を生成して、あろうことかソレをそのままアサシンの腹部目掛けて蹴り飛ばした

 

「───シャアッ!?」 

 

まるで暗器の如き奇襲。暗器の扱いに関して言えば、もちろんアサシンクラスに軍配が上がる。しかしそもそもの巨躯。余程の事がなければ、同じ方法ならまず当たると踏んでの戦い方だ。故にセイバーの蹴った小刀は、彼の鎧をその切れ味で容易く貫通して脇に刺さり、アサシンを呻かせた

 

「其処か───っ!!」

 

「な、にっ…!?チイッ!!」

 

痛みにより、否応にもほんの一瞬だけ緩くなる大剣に込める力が解かれると見込でいたセイバーだった。しかし、アサシンはまるで痛みでもないかと言うように、そのまま大剣を押し込んでセイバーを弾き飛ばし、更にはその重さを感じさせない速さで、今度は彼の方から刃を閃かせた

 

鍔迫り合っていた体勢を崩され、後ろによろめいたセイバーは、アサシンに続いて浴びせられる斬撃を、舌打ちと共に刃で受け止める。だがその結果、脆くもその一振りは砕け散り、余った勢いを殺すようにしてセイバーはその身を捻らせて低空で回転した

 

「でやあああああっっ!!」

 

ズガンッ!!アサシンの大剣が回転するセイバーの横を通り過ぎて、アスファルトを深く抉り切った。その振り下ろされた両刃の大剣を抑え込むように、セイバーは回転していた体の勢いをそのままに両腕を振りかぶり、新たに両手に生成した刀剣を叩き下ろし、ガインッ!と両断にこそ至らながったが、確かにその大剣の挙動を封じ込めた

 

「ライダーッ!!!」

 

「了解っす!」

 

セイバーの叫ぶような呼び掛けに応じて、鋲が埋め込まれた木刀を振りかぶりながら、ライダーがアサシンの懐へと踏み込んでいく。そして切ることを念頭には置いていないその刀を、角が生えた頭蓋骨そのものとも呼ぶべきアサシンの頭部へと全力で打ち下ろした

 

ゴガンッ!!あまりに痛々しく鈍い音。直撃。手応えも十分。加えて頭部への攻撃、仕留めきれずとも意識の混濁くらいは狙える、と目論んだライダーの思考は、殴打した木刀を握る両手から跳ね返ってくる痺れによって打ち消された

 

(硬、すぎるっ…!?)

 

「まだまだ青いな、騎乗兵よ。首を出せ」

 

「ぐっ!ごおっ!?」

 

こともあろうに、重量もあるライダーの木刀を頭部そのもので、かつ頭蓋骨に一つの罅を許すことなく受け止めたアサシンは、今なおセイバーに抑え付けられている大剣の柄から右手を離し、驚愕と両腕の痺れで怯んでいるライダーの首下に掴みかかった

 

「ずあああああッッッ!!!」

 

「「うおおおおおおおああああああっ!?!?」」

 

そしてアサシンは軽々とライダーの全体重を右腕一本で持ち上げると、彼の首根っこを振り回して、今もまだ大剣を抑え込んでいたセイバーに投げ付け、二人まとめて地に落とした。そして自由になった大剣を右手に掴み直すと、眼窩で蒼炎を光らせる視線をアーチャーへと向けた

 

「来るか!アサシンよ!佳かろう!頑強なるその体!今一度蜂の巣にしてくれる!」

 

胸元で組んでいた両腕を大きく踊らせ、アーチャーは背後の空間に50、100、200…ともはや数えきれないほどの火縄銃を一瞬で壁のように展開した。そしてその戦略的な規模を誇る銃口達が、全てアサシンたった一人に向けられ、その弾丸が放たれようかという寸前のことだ

 

「何処だ!!!!!」

 

ボオオオオオオッッッ!!!アサシンの仮面の下、燃え上がる骸骨の眼窩で眠る蒼炎が一際強い光を放った瞬間。アーチャーが展開した火縄銃の中心が蒼炎で焼き尽くされたかと思えば、仕込まれていた火薬に誘爆して燃え広がっていき、全て嘘だったかのように青い炎の尾を引いて焼け落ちていった

 

「なんじゃとっ!?こんな、馬鹿な事が…!?」

 

「一度その火に灼かれた我が身。同じ手にそう何度も倒れるつもりはない、弓兵よ」

 

「─────うっ!?」

 

アーチャーの前に、夜が訪れた。火縄銃を展開した時には、まだアサシンとの間合いは十分だった。しかしアサシンが、その巨躯全てを影のような、闇のような黒い霧で包んだ次の瞬間、アーチャーの目の前を、全く同じ黒い霧が発生して彼女の視界を覆い、その霧の中心から巨躯を誇る骸骨の剣士が姿を見せた

 

「では死ねいっ!!!」

 

「ツアアアアアアーーーッ!!!」

 

瞬間移動と呼んで相違ない方法で移動したアサシンが眼前に現れ、面食らって生唾を飲むアーチャーに向けて、アサシンはこれ以上ない殺意を込めて右腕の大剣を持ち上げて振り下ろした。しかし彼女こそは、日本が誇る最も偉大な戦国武将。驚愕に打ちのめされた表情を一瞬で引き絞り、腰の帯刀を鞘走らせ、真っ向から暗殺者の大剣と斬り合っていく

 

ギイイインッ!!鋭く甲高い音。鍛え上げられているとはいえ、女性らしいその細い両腕でアーチャーは見事にアサシンの大剣を受け止めていた。当然、生半な刀であれば、折られるかそのまま切られていたハズだった

 

「明神切、と命銘された刀じゃ。そこなセイバーが、此度の同盟の為わしに鍛った極上の業物ゆえ、そう簡単には折れんぞアサシンよ」

 

しかし彼女が帯刀していたのは、日本の歴史上でも五本指に数えられる名工が手ずから鍛えた、彼の抜き身の刀剣とも違う鍔と柄が付いた業物の正式な刀、明神切村正。同盟締結の条件の折、セイバーから賜ったその刀で、アーチャーはニヤリと笑いながらアサシンの大剣と鍔迫り合った。しかしその最中、彼女の耳を清夏の悲鳴に似た叫びが劈いた

 

「咲季っち!?アーチャー援護お願い!!」

 

その声にアーチャーは思わず背後を見やった。見れば咲季が燃え上がる炎をその身に抱えてのたうち回り、清夏が空中で見えない鎖に縛られるかのように浮いている。一瞬でも見れば分かる芳しくない状況に、アーチャーは左半身を捻って、今も大剣と鍔迫り合う刀から左手を離して横薙ぎに振るった

 

「チッ!撃てえっ!!」

 

ダダダダダダッッッ!!!アーチャーは火縄銃を言われるがままに撃ち放った。結果を確かめている暇はない。今もまだ巨躯の暗殺者と斬り合っている。三騎のサーヴァントをこうして十分に相手取れている、絶大な強さを誇るアサシンが、アーチャーの左手が離れた隙を見逃すはずがなかった

 

「織田信長公。生前最期に見た焼け落ちる本能寺。その地獄の業火はまだ、その脳裏に焼き付いているか?」

 

(─────不味いっ!?!?)

 

鍔迫り合う刀を大剣で明確に押し込まれ、大剣の重量をそれでも支えようと膝を突いた瞬間、敗色を悟った思考がアーチャーの脳裏をよぎった。骸骨の双眼が蒼く燃え、火縄銃を一度に焼き尽くした鬼火をこの至近距離で、直接浴びせられようものなら…という最悪のシナリオは、黄色の鈍い一閃と共に吹き飛ばされた

 

「ンの野郎がっ!!!」

 

ドガァッ!!文字通り駆け込んできたライダーの木刀が、アサシンの大剣の横っ腹を殴り飛ばした。意図せぬ瞬間に徒手になった右手。そして対するアーチャーは斬り合っていた大剣が吹き飛んで、腕ごと流されてはいたが、決して刀を手離してはいなかった

 

「かああああああっっっ!!!」

 

「ズアッッッ!!!!!」

 

重なり合う咆哮。アーチャーは大剣が吹き飛んだのを好機と見て、思考よりも早く刀を胸元へ引き絞り、アサシンの左眼目掛けて突きを放った。対するアサシンはその刀の切先が襲い来ると分かってなお、眼窩の蒼炎を輝かせた

 

「ぐおおおおおおっ!?!?」

 

「か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ っ !?!?」

 

速度で軍配が上がったのは、アーチャーが放った渾身の突き。アサシンの骸骨を模した左眼の窪みを的確に貫き、眼球の肉を突いた確かな手応えを感じつつ奥に眠る鬼火を掻き消した。しかしそれでもアサシンの右眼が放つ蒼炎は健在だった。突きを放った直後のアーチャーの無防備な左肩を、爆発的な炎で焼き尽くし、両者はそれぞれの傷の痛みに叫び、また呻いた

 

「もらったあああああっっっ!!!」

 

アーチャーの刺突に呻いたアサシンの、無防備になった背中目掛けてセイバーは大きく跳んで、抜き身の刀剣を振りかぶった。肩に羽織った白の外套が風に靡いて、鈍色の光を放つ一閃とともに闇を打ち払うかに思た瞬間、アサシンの体は闇の霧となって姿を消した

 

「遅い」

 

「ごふっ!?ぶぅあああああああ!?!?」

 

無情にも空を切るセイバーの刀剣。そして彼の横に移動する威圧感。左眼に突き立てられた刀をそのままに、影の霧と共に驚異的な速さで移動したアサシンは、宙を飛んでいるセイバーの腹を抉るように右拳を振り上げ、拳を鳩尾に喰らったセイバーは太い息と唾液を漏らした

 

アサシンは右拳を引き戻し、そのまま左足で踏み込んで右の回し蹴りを喰らわせ、練達の格闘家と見紛う連撃でセイバーの肢体を吹き飛ばした。学園の塀に叩きつけられたセイバーはガガアンッ!と音を立てて崩れた瓦礫の下敷きになり、その瓦礫ごとアサシンが視線を燃やそうと、残る右眼の蒼の篝火が閃いた時だ

 

「オラァッ!!!」

 

「─────ヌウッ!?」

 

先ほどは振り下ろした木刀を、剥き出しの頭蓋骨の硬さそのもので受け止められた。故に、ライダーが打ち込んだのは振り上げ。正確無比に骸骨のアゴをかち上げ、その衝撃で突き刺さったままだったアーチャーの刀が左眼から抜け、銀光を振り撒きながら宙を舞った

 

「冒険者舐めんなっ!暗殺者っ!!」

 

「シャアッ!?!?」

 

そして即座に横薙ぎの一撃。ドゴッ!!と木刀がアサシンの腹部を纏う鎧を打ち込み、埋め込んだ鋲が鉄の肌を削り取りながら、彼の巨躯を吹き飛ばす。アサシンは頭蓋骨の下で僅かに喀血しながら車道を滑り、ザリザリと爬虫類のように五つの爪が尖った両足のブーツで踏ん張り、倒れることなく静止した

 

「はあっ…はあっ…チッ!いくらなんでも膝くらいは突いてもいんじゃないっすかね……」

 

「よもや三人掛かりでこれとはの。なんとも末恐ろしい英霊よ」

 

「あぁ、アーチャー。左肩は無事っすか?それと、コレ返しとくっす」

 

殴打された腹を庇いながらも、そのまま立ち直したアサシンの隻眼とライダーが睨み合いになる。その頑強さに息を切らして舌を打つライダーの横に、左肩が焼け焦げて剥き出しになったアーチャーが並び立った。そして攻防の最中に、アサシンの左眼から抜け落ちた刀を、ライダーは足下から拾い上げ、そのまま彼女に手渡した

 

「おぉ、すまんの。肩は気にする程のモノでもない。状況が状況ゆえ、別におぬしが明神切を使っても文句はなかったんじゃがな」

 

「いいんすよ、一身上の都合ってヤツっす。しかし開幕で左腕切り落として、ついでに主武装の大剣を落として、ダメ押しで左眼を潰したとはいえ、まだまだ元気そっすね、あのジジイ。ちなみにセイバーは?」

 

「今ちょうど瓦礫の下から起き上がっているところじゃ。仮にも最優のクラス、その上で彼奴の人とナリじゃ。そう簡単に折れるハズもなかろうて」

 

アーチャーが一瞥した視線の先では、ガラガラと赤茶色のレンガを起き上がらせた身体で掻き分けながら、セイバーがゆったりと姿を見せていた。首に手を当ててゴキゴキと調子を確かめるように肩周りの骨を鳴らして、額から髪と同じ色の血を垂らしながらも、路傍に血混じり唾を吐き捨てた口端でニヤリと笑い、両眼に闘志を漲らせていた

 

「・・・畜生、滾ってきたな。たまにはこういう戦に出てみるモンだ」

 

「フッ、それ見たことか。何が鍛治師か、わしに勝るとも劣らん戦好きではないか」

 

「アーチャー!お願いっ!!」

 

瓦礫から嬉々としながら身を起こしたセイバーを見て、フンッと鼻を鳴らしてアーチャーが笑ったかと思えば、その背後をマスターである咲季の鮮烈な叫びが突き刺した。その呼び声に天下の将軍は黒い外套を翻しながら振り返り、振り向きザマに右手を構えた

 

「ライダー!わしの身を任せるぞ!放てえっ!」

 

「うっす!!ウオオオオオォォォォッ!!!」

 

アーチャーの指示の下、ライダーが雄叫びを上げながらアサシンに突進していく。その背後で、空中に無人の火縄銃が数十に展開され、その銃口全てが一人の少女に向けられようかという時だった

 

「何処だ!!!!!」

 

真夜中の闇を晴らすように爆裂する特大の鬼火は、アサシンが隻眼となってなお凄絶な威力と規模を誇っていた。彼は今もなお自分の懐に突撃してくるライダーを無視し、アーチャーが展開した火縄銃を全て焼き尽くした

 

「チィッ!此奴め、一度ならず二度までも…!じゃが!このまま大人しく引き下がるわしと思うてくれるなぁっ!!」

 

聖杯戦争の開戦以後、初めて火縄銃を本格的に使用した戦いにおいて、アサシンが放つ業火を前にその戦法をほとんど完封されたアーチャー。故に、その右手には一振りの業物。彼女は手に入れたばかりの名工の刀を逆手に持って大きく振りかぶり、その切先を広に向け、まるで槍投げのように投擲した

 

「─────T(トゥール)

 

アーチャーのまさかの攻撃に、広は大きく双眸を開いたが、それでも彼女の指先は滑らかに橙色の軌跡を描いていく。一面が半透明の水底の波紋のように揺れる壁が現出し、カキンッ!と甲高い音でアーチャーの投擲した刀を弾き飛ばした

 

「チィッ!今のわしではこれが限度か…!我ながらなんと不甲斐なし…!」

 

「俺が三流だからって!余裕のシカトこいてんじゃねぇぞオラァッ!!」

 

アーチャーが苦肉の策で放った投擲を弾かれて舌を打つ。その時既にライダーは視線を燃やしたアサシンとの間合いを詰め切っており、アーチャーが彼の怒号に振り向いた瞬間、ライダーの木刀による殴打は無情にもアサシンの右腕一本に受け止められていた

 

「ライダー!?無茶を押すでない!!」

 

「ぐ、おっ…!?ぬぁああああああっっっ!!」

 

「非礼を詫びよう、騎乗兵。しかしその太刀筋、未だ未熟───故に、消えい!!」

 

ライダーは渾身の一振りを受け止められてもまだ、アーチャーの静止の声を振り切り、せめて一矢報いようと懸命に木刀を押し込んでいく。アサシンの影のように黒い籠手と、ライダーの木刀に埋め込まれた鋲がガリガリと鬩ぎ合う中、もう一度全てを焼き尽くす鬼火が視線に迸るかに思われた瞬間─────

 

「令呪を以て命ずる!ライダー!ありったけの全力で宝具ぶちかましてっ!!今この瞬間のために!リーリヤのためにっ!!!」

 

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