Fate/starlight   作:小仏トンネル

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第35話 友達

 

 

「───どうやら、無事に行ってくれたようっすね。ったく…救援があったことソレ自体は有り難いっすが、来るのが遅すぎるんすよ」

 

喚び出されたブリリアドーロに跨り、戦場からの逃亡を試みたセイバー達を庇うようにして、アサシンの追撃を阻んだ少女のサーヴァントを含めて、彼らは唐突に空間を圧搾した凄絶な光の中へと消えていった。それを見届けたライダーは、満身創痍の体で二人のマスターの元へと歩み寄り、主従の契約を結んだ本人である清夏の横に跪いて口を開いた

 

「・・・『あたし達以外のみんなを、逃がしてあげて』との令呪。あまりに酷でしたけど、確かに叶えたっすよ。マスター」

 

跪いた姿勢のまま、ライダーはうつ伏せに倒れていた清夏の体を優しく仰向けに返して、そのまま自分の膝に乗せて抱き上げた。どこか武骨ではありながらも、優しい彼の腕の中で、清夏は力なく笑いながら答えた

 

「あっはは…だよねぇ…ごめんごめん。だけどそうでもしないと…ライダーなら絶対、あたし達二人も何とかしようとしただろうから…そんなの、令呪使うしかないじゃん。みんなでこの場から逃げ切れるわけないって…分かっちゃったからさぁ…………」

 

猛毒に痺れ、喀血した唇を、弱々しく震わせながらも清夏は話し続けた。まだ歳端もいかぬうら若き、未来ある少女が、自分の命運を悟って、他者を優先する願いに、その心にどれだけの想いがあっただろう。それを思うだけで、ライダーはこの少女の運命を決定付けた聖杯戦争という儀式と、自分の無力さを深く呪った

 

「・・・手のかかるサーヴァントで、すいませんっす、マスター」

 

「・・・もぉ…マスターなんて呼ばなくてもいいのに。令呪は全部使い切っちゃったし、魔力なんてもうどんだけ踏ん張っても出てこないし、あたしとライダーを繋ぐもの、もうな〜んにもないんだから……」

 

完全に脱力した清夏の右手は、優しい腕に抱かれてライダーを見上げる彼女の体の上で横たわっていて、その甲にはつい先ほどまで刻まれていたハズの、赤い雫を模った令呪が何の跡も残さず綺麗さっぱり消えて無くなっていた

 

「・・・それなら、友達じゃあダメっすか。俺たちを繋ぐ理由。その方がマスターとサーヴァントより、よっぽどらしいでしょ」

 

「あはは…ライダーと、友達かぁ…めっちゃいいね、それ。マジでどうせなら、彼氏にしたいくらいなんだけど…リーリヤも…同じくらいライダーに惚れてるだろうしなぁ……」

 

「・・・はは、気持ちは嬉しいっすが、冗談でもダメっすよ。二人なら俺なんかより、もっといい男が大事にしてくれるハズっす。俺みたいな三下に惚れてるようじゃ、女の子としても、アイドルとしてもまだまだっすよ」

 

「このぉ〜、言ってくれるなぁ〜?陰キャのクセに」

 

柔和な笑みを浮かべながら、ライダーと清夏は話していた。夜空に輝く星々の中、彼らの口調と、彼女らを包む穏やかな雰囲気は、遠い時代の人間であることを思わせない、間違いなく掛け替えのない友達同士に見えていた。そして、紫雲清夏は、その時間を名残り惜しむようにして、囁くような静かな声で言った

 

「・・・ねぇ、ライダー。友達になって早速で悪いんだけど、あたしのちょっとしたワガママ、聞いてくれると嬉しいな……」

 

「うっす。なんなりとどうぞ。マイフレンド」

 

「あはは、サンキューマイフレーンド。それじゃあ、一つだけ、お願い………」

 

 

 

「─────最期は、リーリヤの顔を見て逝きたい」

 

 

 

仮初めの心臓が、止まるかと思った。息も絶え絶えの虚ろな瞳で、清夏が言った瞬間のこと。まだ楽しい人生を送れたハズの少女の最期が、こんな悲惨なモノであっていいハズがない。そんな思いで胸を締め付けられたライダーは、遂に溢れ出した涙を、しかし少女に見せてなるものかと、深く俯いて長い前髪で目元を隠した

 

そのままライダーは、膝の上で抱えていた清夏の体を、ゆっくりと横向きで地面に下ろした。そして彼女の傍らで倒れていたリーリヤもまた、今一度膝の上に優しく抱き抱え、深く瞳を閉じたその顔に掛かる銀色の髪を、静かに指でかき分けて言った

 

「・・・葛城リーリヤ。俺なんかを、カッコいい英雄だなんて言ってくれて、ありがとう。君もまた、俺にとって最高のマスターだった」

 

彼の言葉に対する、リーリヤの言葉はなかった。しかし、それでも。笑っていた気がした。気弱で控えめでありつつも、それでいて誰よりも強い芯がある、優しいなんて言葉では到底足りない、未来ある少女の笑顔を最期に、彼女を清夏と向き合うように横向きに下ろして、ライダーは立ち上がった

 

「─────行ってくる。清夏、リーリヤ」

 

「─────うん。さようなら、マンドリカルド。あたし達にとって、最高にカッコいい英雄。あたし達にとって……最後のともだち………」

 

向き合った二人の少女に背を向けて、ライダーはゆっくりと歩き始めた。現界を維持する為の魔力供給が切れ、今にも消し飛びそうな全身を強張らせて、背負った木刀を両手に握りしめながら、彼は今も闇夜の中に悠然と佇む巨躯のアサシンと相対した

 

「待たせて悪かったな。敵であり、なおかつ半端者の英霊の俺に、最期の別れを言う時間をくれたこと、感謝の言葉もない」

 

「佳い。しかし一つ問おう。何故に最後まで抗う、騎乗兵よ。既に勝敗は決した。その身、後はこの世より消えゆくを待つのみ。なればこそ、何故そうまでして汝は抗う?」

 

「アンタみてぇなお偉方のサーヴァントには分かりゃしねぇよ。勝つことはおろか、最後の手向けもロクに出来ねぇ、三流サーヴァントの気持ちなんざ」

 

「だがな。現代の道を歩く人々が誰も知らねぇような、英雄とも呼べねぇような俺だからこそ、俺はこの心を誓った二人のために、最後までこの身を捧げたいと思うんだ。遥か昔に失われたハズのこの命を、再び燃やし尽くすまで。こんな俺を友と認めてくれた、こんな俺を英雄と認めてくれた、主従を誓った心優しい二人の少女のために。俺は──────」

 

 

「闘わねばならぬと、思うのだ─────!!」

 

 

激闘の夜の果て。刃毀れが目立つ木刀の切先をアサシンに向けて、ライダーはその黒い瞳に強い輝きを携えて、言い放った。対して漆黒の大剣を地面に突き立て、厳かな仁王のような佇まいの暗殺者は、遠くで鐘が鳴ったような残響を思わせる重く低い声で、瞳の蒼炎を一際強く燃やしながら言った

 

「左様か。では汝を未熟と言った、我が禊を執り行おう。聞くが良い。晩鐘は汝の名を指し示した。死を以って我が馳走とする。タタールの王、誇り高き英雄、マンドリカルドよ。我が真名たるは山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

「─────うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!!」

 

死告天使(アズライール)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あはは、遂に天使のお迎えかな。めっちゃキレ〜…写真撮ったらすっごい映えるんだろうな〜。って、言ってる暇…ないか………」

 

猛毒が全身を回り、視界すらも朧に滲み始めてきた中、リーリヤの顔を見つめる清夏の前に、一枚の白い羽根がふわりと舞い落ちた。それに続いて、二人を優しく包むように、辺り一面に純白の羽根が雪のように降りしきる中、リーリヤは深く閉じたはずの瞼をゆったりと持ち上げて、もう何も見えてないであろう虚ろな瞳で、弱々しい声のまま口を開いた

 

「・・・すみ、かちゃん…大丈夫……?どこか痛いところとか、ない…?怖いこと、ない……?」

 

「ん、大丈夫だよリーリヤ。何も怖くない。だからリーリヤ、最後に聞かせて?聖杯戦争に参加してまで、どうしても叶えたい願いって…なに……?」

 

「・・・・・えっとね。清夏ちゃんの、足…重い病気だったりしたら…嫌だなって。いつかの、約束…一緒のステージで…踊ろうって………やく、そく………」

 

「・・・あはは…だよねぇ…………うん。なんとなくだけど、分かってた…………」

 

 

「分かってたハズ、なんだけどなぁ……!!」

 

 

葛城リーリヤの、ささやかな、けれど彼女にとって他の何にも変えられない願いを聞いた清夏は、たははと力なく笑って。しかし彼女の願いにソレとなく勘付いていて、こうなる運命があると分かった上で、この戦いに身を連ねた自分の愚かさと悔しさに、もう神経まで麻痺して瞬きも叶わなくなった瞳から、大粒の涙を溢した清夏の雫を、リーリヤが優しく右手を持ち上げて拭い取った

 

「泣かないで、清夏ちゃん。私はこの約束、忘れないから。きっと、忘れない。たとえ私が、何度生まれ変わっても、私達じゃない、別の誰かになっても、絶対に忘れない。いつか二人で、最高のアイドルになって…一緒のステージで…踊ろうね………」

 

「・・・うん。うん…絶対に…絶対の絶対に忘れない。たとえ何回生まれ変わっても…どんだけ遠くの国でも、この宇宙の…どんだけ遠くの星に生まれても…私がリーリヤを探し出す。自分に言い訳しないで…最高のアイドルに必ずなるから。そしたら、いつか絶対…二人で最高のステージで、踊ろうね……」

 

「ふふっ、うん。ありがとう…清夏ちゃん………」

 

そして。天使の羽根が舞い降る星空の下、静かに流れてゆく二人の時間の中で、コツコツと近づく足音が、やがて横たわる彼女達の頭上で止まった。カチャリ…という無感動な音が二つの銃口と共に二人の同い年の少女を見下ろした。同じく無感動な表情で、二人を見下ろしながら秦谷美鈴が口を開いた

 

「お二人とも、その苦しみの中で逝くのはさぞ辛いでしょう。あまり深い縁はありませんでしたが、同級生のよしみで介錯します。何か言い残すことはありますか?」

 

「あはは、だってさリーリヤ。何か、ある?」

 

「・・・・・うん、ある。言っても、いい…?」

 

「・・・ごめん、あたしもある。一緒、いい?」

 

「じゃあ…二人でせーので言おう?せーの………」

 

 

 

 

「「─────Jag älskar dig(愛してる)」」

 

 

 

 

ダァンッ!!………静寂に包まれた夜の中、仄かに香る硝煙と、残響がやがて消えた。二つの銃口を携えた散弾銃をゆっくりと手元に下ろして、美鈴は静まり帰った夜の中、踵を返した

 

「・・・死が、二人を別つまで。どうか叶うなら私達も…あなた達のように、ありたかった」

 

 

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