「・・・順を追って説明しよう。まずは、私というサーヴァントと、マスターである千奈の出会いについてから」
一頻り泣き腫らした顔をそのままに、あたし達は、今もまだ眠り続けているアーチャーと、まだ復帰は出来ないのか、バーサーカーを除いた六人で、花畑に小さな円を作った。それぞれが思い思いの姿勢で楽に座り、あたしと咲季が落ち着きを取り戻したところで、この花園の世界の主であるキャスターが話を始めた
「最後にセイバーが召喚され、聖杯戦争が始まる2日前に、私は千奈の家にある蔵書庫で、彼女が偶然に魔術書を手に取り、偶然召喚される形で現界し、彼女と主従契約を結んだ。そして次の日、生徒会室で莉波が、隠し忘れた千奈の令呪を見て、彼女がマスターであることを見抜いたところに、私が千奈を庇おうと姿を見せたんだ」
「しかし彼女は、千奈が私の魔術によって籠絡されているのではないかと、まるで彼女の実の姉であるかのように自ら盾になったんだ。まるで信頼を得られない事に困り果てた私は、マスター莉波に対して、信頼を得られるまで同盟を結ぼうと持ちかけたんだ」
「そ、その事については、今となっては私は本当に申し訳ないと思っていて…その後で助けてくれた事もあって、今はきちんと信頼しているから、気にしないでね?」
その当時のことを思い出しているのか、少し口元を綻ばせながらキャスターが莉波先輩を一瞥して言うと、莉波先輩は恥ずかしげに頬を掻いて、たははと笑いながらその時のことを否定するように手を振って言った。この世界からとって見れば、新参者のあたし達三人が、そんな彼女達の様子見ていると、キャスターはまた一人でに話し始めた
「そして莉波とバーサーカーと同盟を結び、迎えた聖杯戦争初日。ランサーとアーチャーの対峙、セイバーによるランサーの撃退。しかしその夜、この聖杯戦争に巻き込まれてしまったマスターへの説明を終えた監督役の少女が、忽然と姿を消してしまった」
「そう、君たちも知っての通り。有村麻央。ルーラーのマスターで、今回の聖杯戦争の監督役。レディ麻央の不在に最初に勘付いたのは、彼女の親友である莉波だった。彼女の行方を追うべく、莉波は寮内の痕跡を調べて、レディことね、レディ咲季に前日の夜に会っていた事に気づいた」
「その事実と、会って何をしていたかを確認するべく、その日の夜、彼女はセイバー陣営に接触を試みた…と、ここまでの事実に相違はないかな?莉波」
「・・・うん、間違いないよ。あの時はごめんね、ことねちゃん。私、麻央が連れ去られた事にばかり意識が向いちゃって、ことねちゃんを疑うことしかしてなくて、冷静になれてなかった…本当に、ごめんなさい」
「い、いやいやいや!いいんですよ莉波先輩。もしもあたしが同じ状況に置かれたら、あたしだってそうなると思いますから。今はこうしてお互い無事に再会できたんですから、それでお互いあの夜の事は水に流しましょう」
「・・・ごめんね、ことねちゃん。重ね重ねになるけれど、本当にありがとう」
深々とあたしに頭を下げて謝罪の言葉を口にした莉波先輩に、あたしは何もそこまで謝罪される覚えはないと、何度もブンブンと両手を振ってから笑顔で答えた。それを見た莉波先輩もまた、少しばかり気が引けたのか不安そうな顔になったが、それでも笑顔でお礼を言ってくれた
「・・・うん、二人の蟠りが解けて、私としても何よりだよ。では話を戻すのだけれど、セイバー陣営と接触を試みた莉波だったけれど、彼女らに非はなかったと分かるのも束の間。篠澤広の率いるアサシン陣営がその場に乱入。そして彼女こそが、監督役のレディ有村のルーラーを倒し、彼女の預託令呪を奪う為にその身柄を軟禁している張本人だと分かった」
「そして莉波は怒りの感情が赴くままに、バーサーカーと共にアサシン陣営に戦いを挑んだ。そしてバーサーカーの暴れ振り、アサシンの強大さから、マスターを護ることを優先したセイバーがレディことねを連れて撤退した」
「・・・なんだぁ、手前。まるで全部見てきたかのような口振りじゃねぇか。バーサーカー陣営の事は同盟を組んでたから分からなくもねぇが、なんで儂らの事までそんな細かく分かりやがる?」
訝しげな表情で、胡座をかいて頬杖を突いたセイバーがキャスターに言った。正直なところ、それについてはあたしも思っていた。今回のアサシン陣営と美鈴とアヴェンジャー、そしてあたし達の戦いを土俵際で助けたのは、まぁ多くの陣営が絡んだ戦いだから観戦するのも分からなくもない
けれどバーサーカーとアサシンの戦いを、あたしとセイバーの状況まで、まるで全て手に取るように分かっているかのような口ぶりでキャスターが話せる事は、あたしにとっても不思議だった
「・・・まぁそれについては、無論見ていたからね。バーサーカーと莉波は同盟を組んだ味方であり、見守るのは当然さ。君達の状況についても、実際その場にはいなくとも、見ていればなんとなく分かるものだよ」
「話を戻そう。そしてバーサーカーとアサシンが真っ向から対決する局面を迎え、バーサーカーの暴走を御しきれずに、莉波の魔力が尽きてしまった。そこをレディ広のガンドが狙い撃ち、莉波が手痛い一撃を受けるのと同時に、バーサーカーもまた、アサシンにあわや現界を保てなくなるほどの手痛い一撃を浴びせられてしまった」
「マスターの魔力は尽き、回復もままならないサーヴァントの二人を、篠澤広はどうせ消えゆくだけの命だとその場に捨て置いた。その戦況を見ていた私は、心の底から申し訳ないと思いつつも、この固有結界を展開して瀕死の彼女達の治療に当たった」
「・・・・・ここまでは、私が
「・・・・・えっ?はぁ…?」
キャスターが今までの語り口調だった口振りから、意味深に口にしたその台詞を聞いた瞬間、あたしは思わず、というか理解出来ずに素っ頓狂な声を出して、そのまま首を傾げた。周囲を見れば、セイバーもまた同じ反応だったが、それ以外の三人は、その言葉の意味を正しく理解しているかのような顔つきだった
しかしその三人の中で、咲季だけは理解して話しを聞いている顔つきの中に、何かを懸念しているような視線でキャスターを見ていた。それもまたキャスターには分かったかのように、彼は敢えて咲季に視線を重ねて続けた
「星の内海、切り取られた空、物見の台、大地に花が咲き誇る理想郷」
「───『
訊ねるように名指しで呼ばれた咲季は、ゆっくりと瞳を閉じた。そしてため息を一つ。それから閉じた瞳を開いて、悠久に続く花畑の中心に浮かび、聳え立つ塔を見上げながら口を開いた
「この空間を見た瞬間から、なんとなく察しは付いていたわ。けれど、かの理想郷の実態がこんなにも殺風景だとは思わなかったわ。花の魔術師さん」
「あはは、手厳しいね」
「・・・魔術師であれば、あなたの名前を知らない人はまずいないわ。多くの神話、伝承に語られる神代の魔術師達の中でも頂点にいるであろう一人。アーサー王伝説のウェールズ王妃と夢魔の間に生まれ、かのブリテンの騎士王、アーサー王の誕生を予言し、アーサー王を世界で最も有名な聖剣と共に王として導いた、人類史でも有数のキングメイカー」
「花の魔術師『マーリン』。それがあなたの真名でしょう、キャスター」
「・・・ご名答だよ、レディ咲季」
アーサー王伝説。あたしは読んだ事もないし、詳細な内容までは知らないけれど、その名前くらいは聞いたことがある。そのアーサー王伝説に出てくるマーリンという名前の魔術師が、キャスターの真名であることを言い当てた咲季は、彼の言葉に続いて言った
「でしょうね。だからこそ、私から言わせてもらうと解せないわ。アーサー王伝説の逸話通りなら、あなたはこの理想郷と塔を封印して、永遠に出る事も死ぬ事もないまま、カムランの戦いという悲劇を回避出来なかった自分の罪と向き合いながら、人類史の終わりの日まで世界をその目で…現代の世界のあらゆる場所を見通す『千里眼』で眺めていると伝わっているわ」
「つまり、伝承通りならあなたはまだこの世界に生きている。死んでいないのなら、英霊の座に登録される道理がない。つまり現状、聖杯戦争で私達マスターがどんな触媒を用いても、マーリンという英霊を召喚することは不可能のハズよ。あなたという存在は紛れもなく過去の英雄だというのに、英霊でもないあなたが聖杯戦争に参加している現状は、酷く矛盾している。この点についてはどうなの?キャスター」
「・・・え、えっ?キャスターさんは、英霊ではないのですか?」
「・・・ごめんよ、麗しのマスター千奈。隠していたような素振りになってしまったが、私としては悪気はなかったんだ。そして、これからボクがする話を、どうか軽蔑せずに、そしてどうか心して聞いてほしい」
神妙な面持ちでキャスターに問いかけた咲季に答えたのは、彼はでなく彼のマスターと呼ばれる千奈だった。おそらくはあたしと同じで千奈もアーサー王伝説を深くは知らず、今初めてその事実を知ったのだろう。咲季の言葉に少なからず動揺して、隣に座るキャスターへと視線を泳がせた千奈に、花の魔術師は申し訳なさそうな視線を向けながら、彼女の艶やかな茶色の髪を優しく撫でながら言った
「レディ咲季の言う通り…私は現代であれば、この世界のあらゆる場所を問わずに見通すことの出来る眼、千里眼がある。そして私はアーサー王伝説の伝承通り、この閉ざされた世界の中で、この眼を通して君達人間が織りなす営みを見ていた…ハズだったんだ」
「しかし私の千里眼が見通す世界の未来がある日を堺に突然、見えなくなってしまった」
「・・・そのある日を堺に、ってのがさっき言っていた、聖杯戦争二日目の夜だと?んで、その眼で未来が見えなくなるってのは、実際のところどういう問題があるってんだ?」
自分の目を右手で覆いながら言ったキャスターに対し、問いかけたのはセイバーだった。今もまだキャスターを疑って掛かっているような彼の態度に、キャスターは深く頷いて答えた
「その通り。そして千里眼が見通す世界が見えなくなるという事はつまり、私が千里眼の権能を手放したか、誰かが意図的に世界の運命を仕組んでいる、ないしは………」
「・・・え?ちょ、ちょっと冗談でしょう!?」
「・・・えっと、ごめん。素人のあたしは話の内容ざっくりにしか分かんないんだけど、咲季は何をそんな驚いてんの?このマーリンってキャスターの千里眼が見えなくなるって、そんなヤバい事なの?」
キャスターの話をほとんど聞き役に徹していたあたしは、そこで初めておずおずと手を挙げてマトモな発言を試みた。というのも、話の最中に声を裏返した咲季もそうだが、同じ魔術師である莉波先輩も、この話しを聞くのは初めてなのか、思考を驚愕に飲まれて口元を両手で覆って言葉を失っている
加えてセイバーも、まるで信じられないものを見たか、聞いたのかような、瞼を大きく見開いた顔で言葉を失っていた。それを見たあたしは、いくら自分が素人とはいえど、それほどの事柄を話半分に聞いていることは出来なかった
「・・・ことねに分かるように説明すると、この魔術師…マーリンの千里眼っていうのは、現代の世界で起こる全ての事象を、場所を問わずに見通すことができる魔眼のようなものよ」
「そしてこの千里眼が機能しなくなるということは、所有者がそもそも千里眼の権能を失っているか、何者かの魔術行使ないしは外的な要因で千里眼の視覚を阻害されている。けれど現代の魔術師が、キャスターの千里眼を封じれる程の技量があるとは思えない。だから、残された可能性はたった一つ。それは………」
「見えていた世界、それ自体が無くなる…という可能性があるってことよ」
「・・・は、はぁ!?ちょっとタンマタンマ!それってつまり…!?」
いくつかの可能性を挙げた中で、しかしまるでその可能性が一番濃厚であるかのように、最後の一節を咲季は強調して言った。それを耳にして、意味を理解したあたしは、先ほどの咲季と全く同じ反応をして、その瞳で世界の全てを見通してきた魔術師が口を開いた
「そう。この聖杯戦争を分岐点にして、ボク達が生きとし生けるこの世界が、明確な破滅に向かう可能性がある、ということだよ」