Fate/starlight   作:小仏トンネル

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第39話 花海姉妹

 

「さて!では無事にこの同盟の全員の合意が取れたところで、今回の円卓会議の…まぁこの場に円卓はないけれども、最後の議題に移ろう!今後の我々の行動と、如何にしてアサシン陣営とアヴェンジャー陣営を打破するかについてを決めようじゃないか」

 

ゴホン、という咳払い一つの後、意気揚々と口を開いたのは、今や大所帯となったあたし達の同盟の中心人物となっているキャスターだ。広と美鈴達をどう打破するか…噛み砕いて言えばどう倒すかの作戦について。あたしにはてんで思いつかないが、その役割を理解しているであろう咲季がキャスターに言った

 

「そう言うからには、あなたには何か作戦や名案があるのかしらキャスター?」

 

「・・・それは、えっと…ごめんなさい……」

 

「察するにノープランってことね。それならそれでいいわ、むしろその方が私としてはやりやすいから。まずは戦力の確認ね。こっちは…って言ってもおかしな話よね。私達がどう戦ってきたか、そっちはずっと見てたって話だもの」

 

「それなら私から言えることは一つ。ことねは非魔術師よ。広との戦いでは決め手として最後の最後に配置したけれど、本音を言えば人手が増えた今は、極力前線には出したくない。次はそっちの陣営の戦力を知りたいわ」

 

「・・・・・」

 

当然だ。当然の理屈だ。あたしの心持ちとしては、いざとなれば前線に出る事も納得するし、出来る限りを尽くす。だけど広との戦いから、最後に美鈴が乱入があった時に、魔術が仕込まれた指の弾丸から咲季はあたしを庇ってダメージを負った。それを鑑みれば、あたしは咲季の言葉に口を挟む事もなければ、ただ俯くことしか出来ずに、続くキャスターの言葉を待った

 

「・・・そう言った後で申し上げにくいんだけれどレディ咲季。こちらの手数もあまり多いとは言い切れないんだ。私を含めた三騎のサーヴァントは手傷を癒せば問題なく動ける。しかしマスターは……」

 

「・・・はぁ…なるほど。頭数に数えられるのは姫崎先輩くらい、か……」

 

咲季の質問に答えたキャスターは、申し訳なさそうに言い淀んだ声で、あたしと咲季を除いた三人のマスターへと目線を泳がせた。その目線の意味を空気感で理解した咲季がため息交じりに言うと、莉波先輩もまた申し訳なさげに口を開いた

 

「えっと、ごめんね咲季ちゃん。私も全力を尽くすつもりではいるよ。だけど私はあまり魔術師としては腕が立つ方じゃないの。だから咲季ちゃんや清夏ちゃんみたいに、広ちゃんとも善戦できるとは言えないの……」

 

「・・・ならサーヴァント戦は据え置くとして、マスター側をどう崩すか…ということが肝になってくるわね……」

 

口許を緩く握った左手で隠しながら、咲季はいくつもの思慮を巡らせた呟きを漏らした。この話でわかったのは、この場にいる五人のマスターの内、魔術師を名乗れるのは咲季と莉波先輩の二人だけ。しかし魔術師の咲季である佑芽は…?というあたしからすれば当然の疑問が残った

 

「咲季。さっきは話の途中で遮られたけど、佑芽は魔術を使えない…みたいなこと言ってたけど、それは……」

 

あたしがその疑問が湧いた衝動のまま咲季に聞こうとした、その視線の隅で佑芽がやはり先ほどと同じく俯いたのを見て、あたしはひょっとして触れてはならないことに触れたのかと、慌てて口をつぐんだ。しかし、その様子がなおのことあたしの中の疑問を加速させた

 

キャスターの自力の介入があった千奈の召喚は別にしても、非魔術師であるあたしでも偶然とはいえサーヴァントを召喚できたんだから、魔術師の姉を持つ佑芽にサーヴァントの召喚儀式が出来た…という事実に疑問を持った咲季の言葉の矛盾があたしにはてんで分からないままだ

 

「・・・佑芽、話してもいいわね?」

 

「うん、いいよお姉ちゃん。これはあたしの問題だもん。そしてあたしは、今はこの同盟に参加してるマスターだもん。自分の事情を知ってもらわないことには、みんなに信用してもらえないでしょ?」

 

と。なんだかとても重苦しいような、覚悟のいるような話が始まるような、そんな話し方で咲季と佑芽の姉妹は頷きあった。あたしは何も、そこまでの何かを感じる話を明かしてほしい訳でもなかった。しかし、二人にしてもこれが命のやり取りの中にある事だと分かっているのか、話す必要のあることだと判断して口を開くのだと感じ取れて、あたしもまた意識を改めた

 

「魔術…ひいては魔術師なんてものの性質が分からないであろうことねと千奈にも分かるように話すと、魔術っていうのは、魔術師の家系が一子相伝で、親から子へ、子から孫へと自分の代で鍛えた魔術を、魔術刻印と共に受け継いでいくものなの」

 

「あぁ。えっと…確か清夏もなんか似たようなこと…」

 

「そうよ。そして花海の家系の魔術刻印と当代の当主は、姉である私が受け継いだの。魔術家系において魔術は一子相伝…つまり、兄弟や姉妹がいる場合は、どちらか片方を親が選んで継がせる事になるわ。まぁ、ウチの場合は私と佑芽のどちらに継がせるか、悩むまでもなかったんだけどね」

 

「・・・咲季ちゃん。それは、どういう…理由で…?」

 

あたしから見て、同じく魔術の家系を受け継いでいるのであろう莉波先輩は、おそるおそる、といった様子で咲季に訊ねた。すると咲季は、一度だけ佑芽の方を見た後に、何かを…否。あたしには知る由もない、遠いいつかを思い出したかのような、視界に映る花畑よりも遥かな遠くを見るような瞳で話し始めた

 

「佑芽はね、魔力はあっても、まるで魔術が使えなかったの。ことねは私の身体強化や、清夏の魔術や、広のルーン魔術を見たから分かるでしょう?私たち魔術師は、扱いたい魔術に応じて、体内の魔力の性質を変化させる必要があるの」

 

「その点で、広のルーン魔術なんかは特に分かりやすいわ。魔力の性質変化のために、魔術的意味合いを帯びた文字を刻む…という工程、いわゆる術式に自身の魔力を通して魔術を発動させる」

 

「そして佑芽には、この術式だったり、呪文といった、魔術を起動させるために必要な工程に、どれだけ頑張っても、魔力を通すことが出来なかった。端的に言えば、魔術師として最低限必要な才能や素養はあっても、絶望的に技術がなかったのよ。だから必然的に、花海の家系の魔術は、私が継ぐことになったわ」

 

「・・・ここから先は、なぜ麻央先輩が私の恩人になったのか、って話になるわ。ことねとは前回の同盟を組んだ時に言ったけど、理由は話してなかったから、折角だし話す事にするわ」

 

・・・?あたしは心の中で首を傾げた。佑芽の魔術が使えない事情は分かった。しかしその話が急に転換して、どうして麻央先輩の話になるのだろうか。確かに私達の行動の指標は、軟禁状態の麻央先輩を助けるという事に変わりはないのだが…という心の呟きを押し込んで、あたしはそのまま咲季の話に耳を傾けた

 

「佑芽に魔術の使用が不可能だと判断した私達の両親は、私に家督を継がせる事を選んだ。それだけなら、まだ良かった。だけど私の両親は、魔術家系同士の付き合いで、子孫が魔力を持たなかった家系に、まだ当時10歳だった佑芽を養子に出す事に決めたの。そして養子に出された魔術師家系の子は、まず元の家系には戻ることは無い。ほとんど勘当するのと一緒なのよ」

 

「自分で言ってれば世話のないことだけれど、こと()()()に関してなら、私は佑芽の足下にも及ばないわ。それこそ、もし佑芽が魔術を扱えるようになったら、私よりもよっぽど優れた魔術師になれる。それを当時の私は分かった上で、佑芽が私達家族から引き剥がされることに、どうしても納得できなかった。もちろん、妹と比べた私自身の才覚の無さもたっぷりと噛み締めながら、ね」

 

「そして佑芽が養子に出される家系が決まって、家を出る事になる1週間前の事だった。家の子供部屋で、二段ベッドの下で眠る佑芽が啜り泣く声を、私は聞いた。その涙が、家族と離れ離れになりたくない思いからの涙だ…なんてことは、私にとって考えるまでもなかった」

 

その時のことを聞きながら、同時にその時のことを思い出したのか、あたし達と一緒になって咲季の話を聞いていた佑芽の瞳の端に、ほんの微かな、しかし確かな雫が浮かんでいた。あたしからすれば、魔術師の家系なんて想像もつかないけれど、それはそれで複雑な関係や、固い掟のようなものがあることは、咲季が話す口調の重苦しさや、佑芽の涙を見れば、想像に難くなかった

 

「私はその夜が明けた次の日、佑芽のいない場所で両親に食ってかかったわ。佑芽を養子に出すのは絶対にダメだって。私たち姉妹はずっとこの家で姉妹でいたいってね。でも私の両親は、決して私の願いに対して首を縦には振らなかった」

 

「その後はまぁ…子どもの考えそうなことよね。佑芽を養子として貰う家の人間が来る前日の夜に、私は泣きじゃくる佑芽の手を引いて、夜逃げ同然で家を飛び出したわ」

 

「今でも、昨日のことのように思い出せるわ。あれは真冬の季節の中、酷い雨が降る夜だった。おかげで私たち姉妹が家を出る足音や声を雨音がかき消してくれた。だけれど、雨合羽や傘の一つじゃあ、真冬の夜の空気の寒さと、雨の冷たさは凌げなかった。一時間としない内に、私達の体力は削り取られて、精神も限界だった佑芽は、熱を出して倒れてしまった」

 

「私は熱に倒れた佑芽を背負いながら、冷たい雨が降り頻る夜の街を歩いた。まだ小学生の、年端もいかない姉妹が二人。交番に駆け込んでもまず家に帰されるだけだし、住んでる街のホテルに泊まるお金もない。佑芽と離れたくない一心で家を出た私だったけれど、あの日の夜はどんな夜よりも残酷で、この一晩すらどうにも出来ない自分の無力さを、心の底から呪ったわ」

 

「そんな中、私が考えついて、辿り着いたのは、私達の街から少し離れた丘道にあった魔術師のための教会…麻央先輩の家系でもある、有村家の聖堂教会に匿ってもらうことだった。私は藁にも縋る思いで、教会の扉を叩いたわ」

 

「そして扉を開いてくれた先にいたのが、麻央先輩だった。熱を出して倒れた佑芽を背負って、行き場を失った私は、本当に酷い顔だったんでしょうね。雨と涙で濡れた顔の私を見て、一瞬で凡その事情を理解したんだろう麻央先輩は、有無を言わずに私たちを快く教会の中へと受け入れてくれて、暖炉のある暖かい部屋に私と佑芽を通してくれたわ」

 

「佑芽を教会のベッドに寝かせながら、ようやく私自身も用意してくれた椅子に腰掛けた時…麻央先輩が私の冷え切った体の肩にかけてくれた毛布と、差し出してくれたコーンスープの温かさを、私は一生忘れることはないわ」

 

そう言った咲季の表情は、とても穏やかだった。本当に心の底から麻央先輩に感謝しているのだろう。ふと私達の輪を見れば、当時を思い出したのであろう佑芽はもう隠すことなくぐすぐすと涙を流している。そして如何にも感受性が豊かそうな千奈も、友人である佑芽の悲痛な過去を知って涙を流して、麻央先輩と友人の莉波先輩も、改めて彼女の人となりの良さを理解したような笑顔になっていた

 

「それから聖堂教会の神父を務める麻央先輩のお父さんに、私達姉妹が家族と離れたくないという願いを、私は隠すことなく、ありったけの思いでもって打ち明けたわ。こと魔術師の為の聖堂教会で、私達みたいな聞き分けのない子どもがいた前例が、なかった訳じゃないんでしょうね。麻央先輩のお父さんは私の願いを、最後まできちんと聞いてくれた」

 

「そして麻央先輩のお父さんは、翌日の家族同士の佑芽の養子引き渡しに立ち会ってくれたの。私たちの思いの丈と、魔術師としての家系のあり方と…けれどそれに対する人としての家族という天秤の在り方を、両親に説いてくれた。今にしても、こんなにありがたい事はないわ」

 

「半日にも及ぶ引き渡しも含めた話し合いの結果、両親は養子を取る予定だった相手の家系に必死に頭を下げて、相手も納得する形の、代わりになる何かしらの契約を取り付けたらしいわ」

 

「そして私たち姉妹は、無事に家に帰って、家出した事について両親にしこたま叱られたわ。だけど私の願いを突っぱねたこと、佑芽の本当の気持ちを聞かずに家族から離そうとしてしまったことを、ちゃんと謝ってくれて、私達は…花海家はこれからも一つ屋根の下、同じ食卓を囲めるようになった…とまぁ、こんなところかしらね」

 

そう言って、咲季は自らの過去の話を締め括った。あぁ…本当に良かったなぁ…なんて思いながら、あたしはいつの間にか自分の瞳から溢れていた涙を指で掬った。あたしもこの聖杯戦争がひと段落したら、家族に会いに実家に帰ろう。なんて思うくらいには、咲季と佑芽、花海家の話はあたしの心に染み渡った。それは同じ話を聞いていた千奈と莉波先輩、それからキャスターとフォーリナーとセイバーも同じようだった

 

「話が長くなったけれど、これが私が魔術師になった理由と、佑芽が魔術師になれなかった理由。そして私が麻央先輩を恩人として慕う理由よ」

 

「だから私は…花海家現当主、花海咲季はこの聖杯戦争には絶対に負けられないのよ。妹の佑芽が見ている前では、姉としての矜持を貫き通す。今度こそは必ず麻央先輩を助け出す。そして一緒に戦ったリーリヤと清夏の思いも継いで、あの篠澤広と秦谷美鈴を倒してみせるわ」

 

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