Fate/starlight   作:小仏トンネル

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第40話 マスター:魔術師

 

「ごめんなさい、話を戻すわ。それで、マスターとして前線に立てるほどの腕が見込めるのは私だけ。サーヴァントはキャスター、フォーリナー…そして回復の次第でセイバー、アーチャー、バーサーカー…って解釈で相違ないかしら?」

 

「うん。全くもって相違ないよ、レディ咲季」

 

他ならぬ咲季の口から花海家の過去の話があって、少しだけ強引に話が戻された。戦力の確認を取った咲季の質問に、キャスターが答えながら頷いて、あたしはセイバーに訊ねた

 

「えと…セイバー、傷の具合はどう?」

 

「あぁ。魔力も体力も、キャスターのこの結界のお陰で徐々にではあるが、良くなってきてる。傷の見た目はそれなりに見えちまってるだろうが、こんなのぁ少しの魔力さえありゃどうにでもなる。明日の夜までには何とかならぁ」

 

「私のバーサーカーも、広ちゃんのアサシンに負わされた傷は相当深かったけど、霊体化して休養に専念させたからか、魔力のパスから鑑みても、多分明日の夜には問題なく戦えるくらいには回復してると思う」

 

「私の方も、アヴェンジャーに負わされた傷はほとんど完治したかな。まぁ、傷に関しては…と言ったところだけれど……」

 

セイバーは胸の斜め十字に入った傷を手で撫でながらも、あたしの心配を払拭するように、いつもの彼らしい物言いで答えた。後に莉波先輩も続いて答えると、キャスターが少し意味ありげに言って、その意味を理解した咲季がため息を吐いた

 

「・・・えぇ、そうよね。キャスター、明日の夜までに、私のアーチャーが回復する見込みは?」

 

私たちが花畑に円になって座り込んでいる、そのすぐ脇で今も眠り続けているアーチャーを一瞥して、咲季はキャスターに訊ねた。曰く、セイバーの傷も、バーサーカーの傷も、ひいては魔力までも、このキャスターの宝具である固有結界の効果で回復しているらしい。ともなれば、先のアサシンの戦いで、腹を貫かれるほどの酷い傷を負ったアーチャーの回復具合の判断は、キャスターにしか分からない事だ

 

「・・・正直に言うなら、厳しいだろう。確かに私の固有結界は、この場にいるだけで回復の効果を受けることができるが、その速度は私の魔力量に委ねられる。そして、私のマスターである千奈は、非魔術師であることもあって、魔力をほとんど持っていない。そして私の自前の魔力は、もう底が見えかかっているのが現状…と言ったところかな」

 

「・・・なるほど。現状が芳しくない事実は変わらないってことね」

 

キャスターの言葉を聞いて、咲季の眉間の皺は更に深く濃くなっていく一方だった。しかしそれ以上に、強く唇の端を引き絞ったのはキャスターのマスターを担っている千奈だった。あたしと同じ非魔術師の彼女は、自分が彼の足を引っ張ってしまっていると思ったのか、その右手に刻まれた、見開かれた本のような残り二画を残す令呪をあたし達に見せながら言った

 

「であれば、わたくしの令呪を使用して、キャスターさんの魔力を回復させます。それなら如何でしょうか?」

 

「・・・うん。令呪ほどの魔力の塊で回復する魔力量であれば、何も問題はなくなるよ千奈。ただ…」

 

「い、いやいや…あたしでも流石に令呪の大切さは分かってるって。何もそこまでしなくても、明日の夜じゃなくてまた次の夜まで…あっ……」

 

そこまで言って、あたしはまさに昨日言った自分自身の発言を思い出した。こうしている間にも、麻央先輩が広の元で軟禁されている時間は長引いている。明日の夜にはもう丸4日も軟禁されている事になる。昨晩は万全を期する為にあたし達の回復に浪費してしまった。もうあまり悠長にしていられる時間の余裕がないのは、考えずとも分かることだ

 

「・・・今ことねが気づいたように、今も軟禁されている麻央先輩の衰弱が軽んじれないのもそうよ。だけどそれ以上に勝負を急がなければならないのは、広のアサシンに回復の時間を与えてしまうのは、私達にとってあまりにもリスキーだわ」

 

「アサシンの回復…ってぇのは?俺達が撤退する際には、奴はマスターの令呪で一瞬で回復しきっていただろう?ならこれ以上時間を置いても大差はねぇんじゃねぇのか?」

 

「いいえ、セイバー。問題はそこじゃないわ。あなたも最後の…ライダーの宝具を受けてなお、アーチャーの前に立ち塞がったアサシンの姿を見ていたハズよ」

 

あたしの言葉を肯定しつつ、咲季はそれ以上の難題を見抜いていたような口ぶりだった。そんな彼女の言葉に反応したのは、会話に出てきたアサシンと激闘を繰り広げたばかりのセイバーだった

 

「戦闘続行スキル。セイバーの対魔力、アーチャーの単独行動、ライダーの騎乗スキルといった、クラスごとに与えられるスキルとも、宝具とも別の一部のサーヴァントが持つ固有のスキル。たとえ現界を保てなくなるようなダメージを受けても、今一度死の淵で踏み止まる事ができる…令呪や回復魔術による外傷の治療とも異なる…いわば生存能力よ」

 

「これは憶測でしかないけれど、このスキルの再使用までには必ず時間が要る。そうでなければそのサーヴァントを倒す術がなくなってしまうわ。あのアサシンはただでさえ、先の戦いでは三騎のサーヴァントでやっとマトモに相対できたような相手よ。この戦闘続行スキルが使用可能になるまでの猶予は、出来る限り与えたくはないわ」

 

「・・・ってことは、やっぱし次の夜までには決着をつけなきゃならねぇ…な」

 

「そうなるわ。ごめんなさいことね、今何時か分かるかしら?」

 

「あ、えっと…今ちょうど日付変わったくらい」

 

セイバーが後ろ頭を掻いての唸るように口にした言葉に、咲季は頷いた。そしてそのまま彼女に時間を聞かれたあたしは、ポケットからスマホを取り出して、画面に表示された時間を見た。深夜0時。つまりあたし達に残された時間は、後ろ倒しにしてもあと24時間を超えるかどうか、といったところだ

 

それを踏まえた上で、咲季は考えをまとめるように、トントンと何度か緩く握った左手で自分の額を叩いて…細く息を吐いて。そして。その手の甲に刻まれた三枚の花弁を模った令呪を一瞥してから、千奈に向けて差し出して言った

 

「千奈。私の令呪を二画、あなたに譲渡するわ。いくら同盟を組んでいるとはいえ、回復をお願いするのは私達だもの。まず一画を使って、今のキャスターの魔力を回復して。そうすれば回復の速度を上げて、アーチャーの傷と私達の魔力を全快させられるでしょう?そしてもう一画は、これからキャスターが回復の為に使った魔力を、明日の夜の開戦の直前に使って欲しいわ」

 

「に、二画…!?」

 

その発言を聞いて、血相を変えて言葉を失ったのは佑芽だった。かくいうあたしも、同じ能力でセイバーを回復してもらっている手前、流石にそれは…と、なんなら向こう見ずにも思えてしまう咲季の発言を危惧して口を開こうとして、割って入ったのは莉波先輩だった

 

「待って咲季ちゃん。なら、最初の一画はせめて私に譲渡させて。元を辿れば、キャスターの今の魔力不足は、バーサーカーと私の治癒に消費した分も含まれているんだもの。咲季ちゃんが義理を果たそうと思うのも分かるけれど、だったら私もこの条件は譲らないよ」

 

「・・・なるほど。姫崎先輩がそう言うなら、その条件でいきましょう。千奈とキャスターも、それでいいかしら?」

 

「え、ええ。言い出しっぺはわたくしでしたから異論はありませんが…本当によろしいのでしょうか?」

 

「いいんだよ千奈ちゃん。今のままだと私達、キャスターさんと千奈ちゃんにお世話になりっぱなしだもの。せめてこれくらいはさせて?」

 

「もちろん私としても異論はないよ。なんだか責任重大になりつつある立場になってきて、少し気遅れしてしまう部分はあるけれどね。では千奈、莉波、お互いに令呪の刻まれた手を重ねて。譲渡の為の心霊魔術は、私が代行しよう」

 

キャスターが言うと、千奈と莉波先輩は互いに頷き合って、令呪が刻まれた右手を重ね合った。そしてキャスターが囁くような声で呪文を唱えると、莉波先輩が三画を残していたティアラのような令呪の内一画が赤い光の明滅と共に失われた。そして千奈の小さな手に重ねていた莉波先輩の手がゆっくりと離れると、そこには千奈の令呪が三画の濃い赤色で刻まれたモノに戻っていた

 

「・・・ありがとうございます、莉波お姉さま。ではキャスターさん、令呪を以って命じます。今一度、実り豊かな魔力を、貴方に…」

 

ポウッ…と、優しく温かな赤い光が、千奈の右手を中心に灯った。その光は、やがてキャスターの身を柔らかく包み込んで、溶け込むようにして消えていった。すると途端に、キャスターの理想郷に咲いている、一面桃色の花畑が風もなくザワリと揺れて、甘い蜜のような香りがあたしの鼻にも届いたかと思えば、不思議な高揚感を全身に感じた。そしてそれを、実際に言葉にして出したのは佑芽だった

 

「う、うわ…!なんか、こう…言葉に出来ないけど…今すっごい体軽い感じする……!あたし、今だったらなんでも出来そう!」

 

「・・・ふぅ。ありがとう莉波、そして麗しのマスター千奈。おかげで私としてもかなり楽になったよ」

 

「・・・流石は花の魔術師マーリン、といったところね。篠澤広と秦谷美鈴を倒して、同盟が解消された後は、この全快の状態でのあなたを倒さないと…と考えただけで億劫になるわ」

 

「買い被りすぎだよ、レディ咲季。さて、これで明日の夜までに我々は体力、及び魔力について懸念することはなくなった。後は……」

 

「・・・広と美鈴を…どうやって倒すか……」

 

キャスターのセリフに続いてあたしが呟くように言うと、あからさまに空気が変わったように感じた。確かに、莉波先輩と咲季の令呪で、とりあえずあたし達は現状は万全を期して戦いに臨むことは出来る。かといって、それであの二つの陣営を倒せるか、と言われれば…なんて。そんなのは魔術師でもないあたしにも分かることだった

 

「・・・一つ言えるのは、あのアサシンは本当に強かったわ。もちろん、そのアサシンを従えている篠澤広本人も、全力の私と清夏が、死に物狂いで戦って、その他の条件や運否天賦が噛み合って、ようやく一縷の隙を生み出すことが出来る…それだけあの陣営は、まず負けを知らない。一対一じゃこの場にいる誰もが勝ちの目を見ることすら出来ないわ」

 

「かといって秦谷美鈴と、あのアヴェンジャーとかいうサーヴァントの存在も軽んじることは出来ないわ。篠澤広ほどではないでしょうけれど、死霊魔術を扱う彼女の腕前は相当なモノのハズよ。乱入なんて形で、正面から実力を測れた訳ではないけれど、私が全力でやって互角か…更に上をいかれている可能性もある」

 

「それを踏まえた上で私から言えるのは、あのアサシンには絶対に三騎以上のサーヴァントを当てがう必要がある。今回の戦績がその証拠よ。そして篠澤広の相手は、私と誰かもう一人の魔術師かサーヴァントが。そして残りで…秦谷美鈴とアヴェンジャーと戦う…といったところね」

 

・・・咲季の分析に続いて重く苦しい沈黙が、あたし達を支配した。サーヴァント同士の実力も、魔術師同士の実力も、結局あたしには測れない。ただあたし達は一度、とっておきの作戦すらも破られて広達に負けている。あたし達の同盟が3組から5組になったのは単純に数的有利だと感じるけれど、向こうの2組に、そんな単純な計算が通じるだろうか…というあたし達の沈黙を破って、セイバーが不意に手を挙げた

 

「発言いいか、アーチャーのマスター」

 

「ええ、勿論よセイバー。何か策があるなら、遠慮なしに提案して欲しいわ」

 

「あぁいや、すまん。策があるって訳じゃあねえ。だがここにいる全員で共有しとかなきゃならねえ事だ。あのアヴェンジャーって奴の真名についてだ」

 

「えっ!?あ、アイツの真名が分かるのセイバー!?あんな少ししか戦ってないのに!?」

 

「あぁ、ことね本人には言ってなかったな。儂ぁ刀鍛治だ。刀の事なら見れば大抵の事はわかるし、打ち合えば確信を得られると自負してる。だから儂ぁそっちの莉波って娘のバーサーカーと一合やっただけで、その真名を見抜いた。そして今回も同じだ。あのアヴェンジャーの二刀が、儂の鍛えた刀と打ち合った。打ち合った…んだがなぁ………」

 

あたしはアヴェンジャーの真名を如何にも分かったような口振りで話すセイバーに、裏返った声色で勢いのままに聞いた。しかしそれに答えてくれたセイバーの声は、段々と彼らしからぬ遠慮がちな声になっていき、最後に大きく肩が上下するほどのため息を吐いた

 

「・・・結論から言うと、アヴェンジャーが振るっていたあの二刀の刀は『痣丸』ってえ銘の刀のハズだ。痣丸は平安時代の平氏『平 景清』が使っていたと伝承されている、曰くつきの呪いを持つとされる妖刀だ」

 

「痣丸の歴代の持ち主達は、その多くが眼玉を失ったり、眼の病を患ったって逸話がいくつも残されてる。そんであのアヴェンジャーは、まるでその眼を覆うような仮面を付けていた。まぁこれらの特徴から類推すりゃあ、あのアヴェンジャーの真名は…まず平 景清で間違いねぇだろう。と、思うんだがなぁ………」

 

「・・・セイバーにも見抜かれちゃってたし、もう皆にも分かっているだろうから言うけど、私のバーサーカーの真名は源 頼光だよ。それで私は、召喚した自分のサーヴァントの逸話を、バーサーカー本人に聞いたり、改めて色々と調べたりしたの」

 

「頼光も含まれる源氏…その源氏とは切っても切れない縁にある、平氏についてもね。もちろん詳しく書かれた歴史書には、景清の名前も、痣丸についても書かれていた。だけど伝承通りなら、痣丸は二振りの刀じゃなくて、一本の佩刀だったって伝わってたよ」

 

なおもどこか言い淀むセイバーが、何を言わんとしているのか察したのか、口を開いたのは莉波先輩だった。そして先輩が召喚したサーヴァントは、歴史の上では浅からぬ縁があったようで、セイバーは莉波先輩によってその懸念を見抜かれた自分の態度に、少し怪訝そうに…しかしどこか面白そうに鼻息一つで笑った。続いて咲季が会話に割って入った

 

「・・・伝承通りなら、よ。噂やら伝聞なんてものは、時に歪曲して伝わることだってあるわ。言っておくけど、私のアーチャーなんて、歴史の教科書で学んだのと、そもそも性別すら違ったんだから。刀が一本か二本か…なんてそれに比べたら些事じゃない?だったら私は、セイバーが見抜いた、アヴェンジャーの真名を平 景清とする推理は、信用に値すると思うわ」

 

「・・・かもしれねぇな。だがあくまでも、()()()()()()、くらいに思っておいてくれ。痣丸についてもそうだが、あのアヴェンジャー本人は…刀を握る手から本人に至るまで、怨霊のような、怨念のような、まるであの仮面で覆われた、別人の怨讐を被らされているような気がしてならねえ。景清本人だと決めつけるのは、少し早計だと儂は思う」

 

「・・・なるほどね、分かった。ありがとうセイバー。だけど、その情報を加味してアヴェンジャーの相手をするべき私達の最適解は……」

 

「・・・私の、バーサーカーだね」

 

セイバーのアヴェンジャーに対する分析を頭の中で整理して、咲季は細い溜め息と喋りながら共に目線をゆるりと動かした。そして彼女の言葉の意味と、視線の意味を理解した莉波先輩は、いつもの物腰柔らかで優しい人格者な彼女から出るとは思えない程の、覚悟が決まったような呟きで言った

 

「分かった。アヴェンジャーと美鈴ちゃんの方は、私とバーサーカーが何とかするよ。ただ、それにあたって一つだけお願いがあるの。私とバーサーカーが戦う時は、キャスターの固有結界の中で、その能力の恩恵を受けながら戦うことは出来るかな?」

 

「・・・なるほど。バーサーカーの魔力消費の多さを、私の固有結界のバフで補おうということだね。分かった、では私はバーサーカーとアヴェンジャーとの戦闘をサポートしよう。もちろん、レディ美鈴と莉波の戦いもだ。彼女自身も言っていた通り、莉波はあまり前線に出る戦いは不得手らしい。条件から鑑みても、私が適任だろう」

 

「莉波先輩とバーサーカー、キャスターが美鈴と戦うなら…残ったのは………」

 

「・・・そうね。私と佑芽とことね。この三人が従えるサーヴァント達で、篠澤広とアサシンを相手にすることになるわ。二人とも、それからフォーリナーとセイバーも、それで決まりでいいかしら?」

 

莉波先輩の提案にキャスターが賛同の意思を示して、残された陣営はあたしと花海姉妹だった。前の同盟から引き続いて、すっかりこの同盟のまとめ役となった咲季に訊ねられた佑芽が最初に答えた

 

「うん。あたしは魔術師じゃないけど、広ちゃんを止める為なら、出来る限りを尽くすよ!北斎ちゃんも!」

 

「おん。あさしんだかなんだか知らねえが、ますたあの友人が道を踏み外しそうだってんなら、おれも全力で筆を振るうさ」

 

葛飾北斎…改めて葛飾応為さんは、少女の見た目からは想像も出来ない男らしい台詞と共にドンと胸を一つ叩きながら言って、マスターの佑芽にウインク一つと頼もしい笑みを向けていた。どうやらこの二人も、サーヴァントとマスター間の関係は良好なようだと思っていると、セイバーがあたしに話しかけてきた

 

「・・・ことね。儂は今晩の戦いで、お前が作戦通りに、勇気を振り絞ってあのアサシンのマスターに向かって飛び出して、令呪まで使って掴みかけた勝機を、儂はモノに出来なかった。思えばランサーの時も、儂は任せておけ…なんて大言抜かしたくせに、結局はことねの令呪に助けられちまったな。これもまた、サーヴァントとして情けねえことこの上ねぇ話だ」

 

「儂は今の自分が情けなくてしょうがねぇ。だが、だからこそだ。だからこそ、ここだけは今の儂に決めさせてくれ。今一度アサシンの相手を、儂に任せてはくれねぇか。契約を交わしたあの夜の…ことねを必ず守る、必ずことねの願いを叶えさせるという約束を………」

 

「・・・・・ばか」

 

「果たすため、に……あ、あん?」

 

「バカッ!バカだって言ってんだよ!この…こんのバカセイバー!!」

 

セイバーが萎れた声で、座ってるあたしに目線を合わせるようにして膝なんかついて、心底申し訳なさそうに言う声を遮って、あたしは花の絨毯から立ち上がって叫んだ。あたしの怒鳴り声に、セイバーは目を丸くして面食らっていたようだったが、あたしはそんなのお構いなしに続けた

 

「あたしはセイバーのこと、情けない奴だなんて思ったこと一度もない!そもそもあたしはあの日の夜に、セイバーに助けてもらわなかったらとっくに死んでたんだ!だからセイバーはあたしにとって!ずっとずっと!カッコいいヒーローのままなんだよ!それを情けないだなんて言う奴がいるなら!絶対にあたしがぶっ飛ばしてやる!!」

 

「・・・だから。セイバーはあの時みたいに笑いかけて、儂に任せとけって…あたしに言えばいいの。それだけでセイバーはあたしにとって、誰よりも強くてカッコいい、絶対にあたしを守ってくれるヒーローになれるんだから」

 

「・・・すまねぇ、ことね。おかげで喝が入った。あぁ、儂に任せろ。今度こそはあのアサシンを仕留める。必ずだ」

 

あたしの言葉を聞いたセイバーは、面食らっていた顔を緩めて、フッと小さく鼻先で息を漏らして笑った。それからあたしの前に拳を差し出してきて、あたしは彼の思いに応えるように、少し強めにゴツン!と右拳をぶつけた

 

「・・・そうね…そうよね…決めた。姫崎先輩、自分は前線に出るのは不得手だと言ってましたけど、私の推測が正しければ、それは少なくとも姫崎先輩の性格によるところが大きいハズです。きっと先輩は、魔術師や魔術に対する理解は深いハズです。そうでなければ、源 頼光なんてビッグネームのバーサーカーを従える程のマスターにはなり得ないハズです」

 

「私なりにそう考えた上で、一つ聞かせて下さい。姫崎先輩が得意とする魔術の分野は何ですか?」

 

「え、えぇ…?ほ、本当にそんな咲季ちゃんが思ってる程じゃあないと思うんだけどな……だけど敢えて答えるなら、魅了の魔眼の他に、錬金術なら全般的に扱えるよ。でも逆に言えばそれくらいしか………」

 

「・・・錬金術、か。それなら」

 

あたしがセイバーとの約束を新たに、決意を交わし合っているのを見た咲季は、何かを考えついたように莉波先輩に言った。咲季の言った事に対して、少し戸惑いながら返した莉波先輩の答えに、咲季は何かを思いついたように笑った。しかしその笑みをすぐに真面目な表情に戻して、その真剣な眼差しをあたしに向けて言った

 

「ことね。今セイバーが言っていたように、ことねは今夜の戦いで、私の作戦通りに勇気を振り絞って篠澤広の前に飛び込んでみせた。彼女を仕留め切れなかったのは、今回の作戦を立てた私の落ち度よ。ことねとセイバーが気にすることじゃないわ」

 

「だから私は、あなたを前線には極力出したくないと言った、先の発言を撤回するわ。ことねのその勇気と度胸…そしてセイバーのマスター足らんとする姿勢と、この同盟に至るまでの起点となった、ことねの聖杯戦争を自分なりに戦おうとする意志に賭けるわ」

 

「・・・それは、どういう…?」

 

咲季の真剣な眼差しと、発言の真意を測りかねているあたしが、首を傾げながら聞くと、咲季はすっと立ち上がって、あたしの胸を指差しながら、あたしにとって驚愕の一言を口にした

 

「ことね。あなたには次の夜までに、正真正銘の魔術師になってもらうわ」

 

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