Fate/starlight   作:小仏トンネル

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第46話 インターバル

 

「ことね、佑芽、退がってなさい。ここから先、篠澤広も私も加減をするつもりはないわ。巻き添えを喰らうことになるわよ」

 

「・・・分かった。佑芽、こっち」

 

「お、お姉ちゃん!あんまり広ちゃんの体に傷つけないでね!」

 

「・・・無茶言わないでよ、まったく」

 

アサシン陣営とアヴェンジャー陣営を、フォーリナーとキャスターの宝具により分断させる事に成功した、広を前にした咲季は緩く拳を握ってボクサーのように構えた。そしてことねと佑芽に背を向けたまま言うと、二人は学園の前に広がる道路の脇で生い茂る街路樹の中へと身を隠した

 

『・・・アサシン。昨日に続いて三対一だけど、大丈夫?佑芽のフォーリナーってサーヴァント、真名は葛飾北斎だと思うけど、聞いた事もないクラス名で正確な実力は測れない』

 

『案ずるな、契約者よ。我が歩みに、終わりは無い。汝の治療も滞りない。昨晩とは違い、今宵は我が両腕も揃っている。敵が何人であろうと、遅れを取る理由はない』

 

『ふふっ、相変わらず頼もしい、ね。令呪は全部で残り五画。必要になったら念話で伝えて。私も咲季を倒したら、そっちに加勢する』

 

『請け負った。だが油断はするな。背中を押せ』

 

『うん、分かってる。頑張って、ね』

 

広は完全に戦闘体勢に入った咲季と向き合いながら、魔力のパスが繋がっているアサシンとの念話に集中させた。昨晩と同じく、背中合わせで分かたれた広とアサシンは、無機質で最低限の言葉しか伝えなかったが、互いの実力が分かりきっている両者にとってはそれこそが信頼の証であり、余計な言葉は不要だった

 

『してマスターよ、今宵のわしは如何に立ち回ればよい?昨夜と同じくアサシンを抑えつつ、然るべき時にそちのマスターを牽制するか?』

 

広とアサシンが念話に集中している時を同じくして、アーチャーと咲季も念話で通じていた。サーヴァント達は咲季から見て広よりも更に奥で、互いの出方を窺いながら睨み合っていた

 

『いいえアーチャー、牽制の必要はないわ。あなたの戦法の長所を潰してしまう事になるけれど、昨夜は私達のカバーの為に注意を欠いて、アサシンに不覚を取ったのは事実よ。篠澤広は私一人で何とかするから、あなたは目の前の敵を屠ることだけに専念して』

 

『わしはそれで文句ないが、おぬしは平気なのか?昨夜使った、こゆー……なんとかなる魔術は、使えば反動で動けなくなるのであろう?』

 

『心配無用よ。今回の戦いでは、どう転んでもアレは使わないから。キャスターの固有結界で丸一日寝てた貴方には知る由もないけれど、代わりの切り札も用意してあるわ』

 

『・・・佳かろう。武運を祈っておる』

 

『ありがとう。天下の大将軍から武運を祈ってもらえるだなんて、身に余る光栄だわ』

 

『かかっ、ぬかしよる。おぬしらの学舎が焼け野原になるやもしれぬが、文句は言わさんぞ』

 

咲季とアーチャーは、互いの顔が正確には見えない距離でそれぞれの敵と相対している。しかし、それでも念話を交わす相棒が口許に笑みを浮かべているのを確信して、二人は深く息を吸って敵を睨む眼光を尖らせた

 

「・・・戦う前に、最後に一つだけ言っておくわ、篠澤広。さっき電話口で、あなたのことを人造生命体として、人間より下に見たような発言をしたけれど、全部撤回するわ」

 

「・・・別に、気にしてない、よ」

 

「あなたはそれで良くても、私が気にするのよ。千奈にも言われた事だしね。これでもう、私が思い残したことはないわ。人間になりたい願い、アイドルへの憧れ、全てを込めて全力で掛かって来なさい」

 

「・・・分かった」

 

広のあまりに短い返事の直後、パアンッ!!!と、空気が鋭く弾ける音がした。広との間合いにあった大気全てに圧されたような感覚がして、咲季は思わず目を丸くした。咲季がその瞳で見たのは、本来は目に見えないハズの魔力が広を取り巻く空間を歪ませ、彼女の橙色の瞳が爛々と輝く異様な光景だった

 

「・・・まさかとは思うけど、昨日は手を抜いてた…なんて言わないわよね?」

 

「分からない。今までコレが私の全力だと思って戦ったこと、ないから」

 

「相変わらずムカつくくらいの余裕こいてくれるわね。だけどそれはそれで、丁度良い機会だわ。そんな屁理屈が出る余裕もないくらい、私が全力にさせてみせるっ!!」

 

咲季の全身に身体強化魔術が発現し、着用しているジャージの上からでも分かるほど、眩い光を放つ青白い魔術回路が迸った。そのまま咲季はアスファルトを抉り取るほどの勢いで地面を蹴り飛ばし、広との間合いを詰めるべく肉薄していく

 

B(ベオーク)

 

しかし、即座に広の指先が橙色の光を帯びて宙空を踊る。刻まれた豊穣を意味するルーン文字はやがて空気と溶け合うようにして消え、瞬時に広の眼前でアスファルトを突き破り、眠っていた大木が生い茂り、複雑に絡み合って強固な樹皮の壁を形成した

 

「うらああああああああああっっっ!!!」

 

しかし、咲季は弾丸じみた速さで打ち出した身体に待ったを掛けることなく、雄叫びをあげながら左拳を大木の壁に向かってぶち当てた。複雑に何重にも絡み合った樹木の壁は、ビシッ!と樹皮に細かい亀裂が走りながらも、彼女の拳をドッシリと受け止め、その勢いを完全に殺しきった。かに思えた瞬間の事だ

 

「────────ハッ!!!」

 

樹木の壁に阻まれた拳を、咲季は押し当てたままありったけの魔力を叩き込んだ。身体強化、なんて体系に落とし込まれた綺麗な魔術でも、武術における発勁の応用でもない。咲季はただ純粋な魔力の塊を、接触した拳を起点にして爆発させたのだ

 

「─────ッ!?」

 

グシャッ!ベキィッ!!と、粉々になるまで砕かれた樹木の悲鳴が連続する。昨夜の咲季からは予想もできない、あまりに粗雑なバーサーカーじみた戦い方に、広は思わず呆気に取られた

 

「歯ァ食い縛りなさいっ!!」

 

T(トゥール)

 

粉々に砕け切って散乱する樹木片をそのままに、打ち出しきった左拳を思いっきり引きながら、今度は右拳を広に向かって振り抜いていく。その拳が顔面に到達する寸前で、広のルーン魔術が起動する。水底の波紋のように揺れる半透明の壁が彼女と薄皮一枚あるかという寸前で展開され、咲季の拳を受け止める

 

「歯を食い縛れって…言ったでしょっ!!」

 

「─────────ッ!?!?!?!?」

 

しかし、しかし。咲季は広の鉄壁の防御魔術を前に受け止められた右拳に、またしても芸も術もへったくれもない、ありったけの魔力をぶち込んだ。瞬間、ビキッ!!と硝子が割れるような音がして、その奥に佇んでいた広の頬に衝撃を伝える波が打ち、ドバァンッ!!という凄絶な音を伴いながら彼女の顔面が殴り飛ばされ、あまりにか細い全身が宙を泳いだ

 

「がふっ!?げほっ、げほっ!!」

 

冷静に状況を判断する間もなく、広は大して受け身も取れずに尻餅をつかされた。昨夜ぶりに顔面から感じる鈍い痛み、そして鼻血を噴き出しながら口の内側が切れ、己の血で溺れそうになりながら咳き込んだ

 

「・・・あんまり人の顔ばかり殴るの、良くないと思う、よ」

 

「ご生憎だけど、私の忠告を無視したのはソッチの方よ。それに豊穣のルーンを一度破られたにも関わらず、似たような方法で防御しようとしたあなたのミスでもあるわ、篠澤広」

 

痛々しく咳き込んだ広だったが、自分が殺し合いの渦中にある事を忘れてはいない。細い足腰に力を入れて踏ん張り、顔に付着した血をコートの袖で拭いながら、即座に立ち上がる。しかし咲季にはこの場で追い討ちを掛けるつもりはないようで、あくまで冷静に拳の構えと姿勢は崩さずに、トーン、トッ、トーン、トッ、と一定のリズムで軽いフットワークを刻んでいた

 

「どうしてフォーリナーの宝具すら凌ぎ切った自分の防御が、たかが魔力の塊をぶつけられただけで……って、不思議に思ってるだろうから、教えてあげるわ。私、魔力の出力量に関しては少しだけ自信があるのよ。その私の最大出力の魔力を、遠距離かつ面で襲い掛かるフォーリナーの宝具とは違って、ゼロ距離かつ一点集中でぶっ放した。それだけの事よ」

 

「じゃあなんで昨晩の戦いでソレをやらなかったかって言うと、そんな毎回全力でバカスカ打つ必要がないし、そもそも出来ないのよ。理由は単純に、相手を倒すだけなら用意する魔力はそこまで必要じゃないし、そもそも私の魔力量でサーヴァントを運用しながらこんな無駄打ちしてたら、あっという間に素寒貧よ」

 

「だけど今の私には、佑芽がいる。少し妹の自慢話になるけれど、佑芽は魔術こそ扱えない代わりに、その魔力量は桁違いの一言よ。私の魔力量は例えるなら、まぁそこそこの一軒家の風呂桶くらいはあるかしら。それに対して佑芽の魔力量は、50×25メートルの競技用プールを優に超えるわ」

 

「─────!!!」

 

妹の自慢話を、まるで自分の事であるかのように誇らしげに、咲季は口許をにやりと緩ませて笑った。そして広は彼女が告げた衝撃の事実を前に、思わず耳を疑ったかのように目を瞬かせた

 

「ここまで言えば、私が言わんとしてることの意味、分かるわよね?そう、昨晩の敗戦を機に同盟を組んだ今の佑芽には、私の魔術刻印を移植してある。これで私と佑芽の魔力量は互いに共有されるようになった。まぁ、こんな偉そうに共有関係にある……なんて言ってるけれど、恩恵を受けてるのはほぼ私だけよ」

 

「家督を受け継いだ魔術師として、こんなのは下策中の下策だなんて事は百も承知。自分よりも遥かに優れた才能を持っていたハズの妹を押し退けて当主に選ばれたのに、一子相伝で脈々と受け継いできた魔術刻印を、あろうことかその妹に移植して魔力を間借りするなんて、他の魔術家系が聞いたら笑い転げるでしょうね」

 

「それでも私は、あなたに勝つ事を選んだ。さぁ超えてみせなさい、稀代の天才魔術師、篠澤広。花海家六代目当主!花海咲季と花海佑芽が!相手になってあげるわっ!!」

 

「ッ!?R(ラドスル)!!」

 

ドウッ!!と鈍く空気を裂く音がして、花海咲季は全速の一歩を踏み出した。今の咲季に接近されるのは不味い。無意識に焦りの表情を浮かべながら判断した広は、刹那の速さで宙空にルーン文字を刻んだ。途端に吹き荒れる万物を切り裂く暴風

 

「ッ!?ぶなっ…!?」

 

I(インルス)

 

暴れ回る不可視の風の刃を前にして、咲季は本能的に回避行動を選択した。全身を軋ませながら身体を捻り、真横に飛ぶ。その着地点に合わせて、広が新たなルーン魔術を唱えた。橙色の光を灯した指先から冷気が迸り、回避の後に着地した咲季の左脚を凍りつかせた

 

「チッ!こんのっ……!」

 

「ガンド」

 

咲季は短い舌打ち混じりに、氷で固められた左脚を身体強化で増強させた筋力で勢いよく振り上げ、半ば強引に脱出した。しかし、ただ動きを一瞬止めるだけでも命取り。広がその一瞬を見逃すハズもなく、一般の魔術師とは殺傷力が段違いのガンドを細い指先から放った

 

「くうっ!?」

 

(〜〜〜ッ!!どれだけ一発の威力を底上げしても、遠距離攻撃の引き出しは圧倒的に篠澤広の方が上!そもそもコイツが私の接近戦に付き合うワケがない!だったら……!)

 

真正面から心臓を穿とうとしてきた漆黒の弾丸に対し、ジャージの脇を掠めながらも、咲季はギリギリの所で真横に飛んで回避した。その隙にまた、広が次のルーンを刻み始めているのは考えるまでもない。あと一歩の所で距離を詰め切れず、苦い顔で歯噛みしていた咲季は広に向かって一歩を踏み出すことなく、ただ次の攻撃を待った

 

H(ハガラズ)

 

「うおおおおおりゃあああああっっっ!!!」

 

バリバリバリバヂィッ!!と、ルーン文字を刻んだ広の指先から紫電が迸り、正しく稲妻のごとき速さで咲季に襲い掛かった。しかし咲季は、強化した左拳を自らの足場目掛けて全開の魔力を込めて叩きつけ、道路のアスファルトを叩き割り、強烈な地割れを引き起こした

 

ボゴウッ!!ゴゴゴゴゴッッ!!!と咲季が拳を叩きつけた地面を始めとして、次々にアスファルトの下の土壌から岩盤までが隆起し、天然のアース線となって広の放った雷撃を無力化した。それどころか、地割れは広の足下にまで届き、彼女は突如として発生した段差に足を取られ、大きく姿勢を崩した

 

「う、わっ……!?」

 

(今っ────!!)

 

地割れにより足場が脆くなったのは咲季も同じ事だったが、それは広よりも強靭な足腰を持つ上に、アスファルトすら抉り取る一歩を踏み出せる彼女にとってすれば些細な問題だった。次こそは、と言わんばかりに咲季は全速の一歩を踏み出していく

 

「もらったわ!!!」

 

N(ニイド)

 

一瞬の内に咲季は広との間合いを詰め切り、咲季は身に余る魔力を込めて強化した左拳を、広の顔目掛けて振り抜いていく。しかしまたしても、その拳が広に届く寸前で広のルーン魔術が唱えられた。同時に広の頬の皮膚そのものが無敵の如く硬化し、咲季の拳をそのまま受け止め切った

 

「〜〜〜ッ!押し切れっ─────!!」

 

拳から伝わる鈍い衝撃に、咲季は思わず拳を引きそうになった。しかし、歯を食い縛って拳が跳ね返りそうになるのを気合いで押し込み、広の頬から拳を剥がす事なく、莫大な魔力の塊をぶち込もうとした瞬間、頬に拳が当たってなお無感動だった広の口が、不意に言葉を発した

 

「この硬化のルーンは、こういう使い方も、出来る」

 

「なんっ……!?」

 

シュパッ!と何かを小気味良く切り裂いた軽い音がした。その音の先では、広のルーンを刻み続けた指が、真一文字に振り切られていた。しかし、咲季にはその光景は見えていなかった。何故なら、その時には既に咲季の視界は真っ黒に塗り潰されていたからだ

 

(目潰しっ…!?不味っ、コレ────!?)

 

広の硬化した指先が、自分の目元を通過したのだと判断した時、咲季は既に痛々しい表情で深く瞼を閉じていた。咲季もまた身体強化により、身体が硬化しているのには変わりないが、それでも眼球を直接触られた異物感に、反射的に目を閉じてしまった。そして広に到達していた左拳を剥がして目元を庇った瞬間、咲季が最も恐れていたルーン魔術を、広が口にした

 

L(ラングズ)

 

「う、ぐ─────っ!?」

 

拘束の意味を持つルーン魔術。昨晩の戦いでこの魔術を受けた清夏が、空中に磔にされていたのを、共闘していた咲季は当然に把握していた。昨晩とは違う一対一の戦いでは、この魔術を食らったらまず負けると分かっていた。だから咲季はこのルーン魔術を最も警戒していたのだが、広もそれを全て分かった上で、必ず当てられる絶好のタイミングで的中させた

 

「・・・何となく、分かってた。咲季がこの魔術を何よりも警戒してたこと。常に私の指先を見て、私が次に刻むルーンが何かを、瞬時に判断してた。このL(ラングズ)の有効範囲だけは、絶対に避ける為に」

 

「〜〜〜ッ!!ええ、そうよ。悔しいけれど、全てその通りよ篠澤広。昨夜の戦いで、あなたのルーンは一度使うと、再使用までにインターバルがある事は分かり切っていた。だからこの魔術を使わせて、避けた所で一気に勝負を決めるつもりだったのに……!!」

 

「今の咲季の魔力量と出力で防御を押し切られた時、私も勝つならコレしかないと思ってた。だから、もう絶対に逃してあげない」

 

目元を引っ掻かれ、瞼を閉じたまま歪な大の字で身体を空中に拘束された咲季は、広がわざと動かせるようにしたのか、辛うじて動かせる口と喉に、込められるだけの悔しさを込めて言った。そして咲季の言葉を聞き終えた広は、完全に身動きが取れなくなった彼女の腹部に直接指を添えて、無慈悲にルーン文字を刻んだ

 

「───ッ!?ま、待って!やめ……!!」

 

「──────F(アンサズ)

 

 

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