Fate/starlight   作:小仏トンネル

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第8話 運命の夜

 

「・・・は?え?なに、何かの撮影?」

 

思わず小声でそう呟いてしまうほどには、あたしが見た光景は非日常的で、常識とはかけ離れたものだった。連続する金属がぶつかり合う轟音と、夜の暗闇を走る無数の火花。その中心にいたのは、おかしな格好をした二人だった

 

一人は夜のように暗い長髪の黒髪に軍人のような制帽を被り、黒い軍服の上にはどこか仄暗さがある赤い外套が揺れている。しかしその中で一際目を惹かれるのは、月明かりに照らされながら黄金の輝きを放つ、外套を留める胸元と制帽の中心にある木瓜紋が刻まれた装飾だ

 

そして手元には漫画やアニメでしか見たことがないような、まるで鏡のように月明かりを反射して光る銀の刃をした日本刀が握られている

 

 

対するもう一人はもはや人間なのかも分からない格好だった。ド派手なピンクの長髪が気にならなくなるほどの異彩を放つのは、同じく頭部から禍々しく歪曲しながら天へと逆立って伸びている紫の2本の角。そして臀部からは、人体ではまずあり得ない先端が二又に別れたトカゲのような黒い尻尾が伸びている

 

しかし肌身は嫉妬してしまうほど磨きのかかった肌色で、服装は傘のようにほぼ垂直に広がるスカートをアクセントに、黒と白が入り混じりながら所々にピンクを拵えたゴスロリ調。しかし両手に構えている、切先が二又に分かれた身の丈ほどもある漆黒の長槍があまりに見た目的に不釣り合いだ。けれどその槍をまるでマイクパフォーマンスの如く振るい、夜空をステージに踊るように舞う姿はまるで…………

 

「・・・アイドル…?」

 

「───ッ!だれっ!?」

 

その姿を見たあたしが思わず呟いた声に叫ぶように反応したのは、その甲高い声で女の子だと分かった人外の様相をした少女だ。相手の軍服の人間の動きも止まり、両者の得物がぶつかり合って奏でられていた金属音も鳴りを密め、パリッと張り詰めた空気が一瞬で辺りを支配する

 

先ほどまでとは打って変わったその静寂さゆえに、あたしはアイドルに見紛う姿をした少女の叫びに、鋭い殺意のようなものが籠っているのを如実に感じ取った

 

「・・・ぇ、あ………ッ!!!」

 

直感、あるいは確信だ。眼前の二人の行動全ては、撮影なんて生半なものではない。正真正銘の殺し合い…命のやり取りだ。そしてその矛先の一端が、自分に向けられている。それを肌で感じ取った瞬間、あたしは一目散に駆け出した

 

もつれるような足取りになって思わず転けそうになるのをすんでの所で耐えて、自ら近づいていった二人に、今度は自ら背を向けて走り出す。自身の身を守ろうと、危険を認知するよりも早く、感覚を代表する本能…この場合は生存本能が、この場所から一刻も早く逃げろと警鐘を鳴らしている

 

「はっ!はっ…はぁっ…はっっ!!」

 

見た目以上に体力勝負のアイドルを志す者として、トレーニングでも自主的にもそれなりにランニングには取り組んできたつもりだ。その経験で積み上げてきた走ることへの意識を総動員して、校門めがけて息を切らしながら懸命に走る、奔る、馳しる、疾るーーー

 

気づけば校門は眼前に迫り、視界の端に駐輪場と自分の自転車を見つけた。ひったくりのような荒い手つきでハンドルを引っ掴み、ストッパーを外して勢い任せに飛び乗って全力の立ち漕ぎでペダルを懸命に回していく

 

(ヤバいヤバいヤバい!幽霊か何か分かんないけど、アレはマジで人間じゃない…!!)

 

闇夜の学校。得体の知れない魑魅魍魎が跋扈するにはこれ以上ない舞台だ。あの二人の姿形は見間違いだったかもしれない。気の迷いだったかもしれない。それでも全身で感じたあの殺気だけは本物だった。だからこうして脳が恐怖を認識する前に体が勝手に動いて、必死に学園から逃げている

 

今はとにかく、この暗闇から出る術が、明かりがある場所、人目がある場所が欲しい。その一心であたしは、全速力で学園前の大橋を市街地方面へと駆け抜けて行く

 

「止まりなさい。騎乗兵(ライダー)の真似事なら、あまりにもお粗末だわ」

 

市街地の明かりが見える下り坂へと差し掛かった刹那のことだ。背後から嘆息を吐くように声がして。ガィンッ!と金属質の炸裂音が耳をつんざいた。ワケも分からぬまま、体が宙に投げ出される

 

ペダルを踏んでいた足は行き場を失くして、知覚が段々とスローになっていくあたしの瞳に映ったのは、後輪を半円状に真っ二つにされた自転車と、地面へ突き立てられた漆黒の槍。そしてあたしを呆れたように見下す視線をした紺碧の瞳だった

 

「・・・え?ぅあっ!?きゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 

自分が宙空へと吹っ飛んでいると気付いた時には、何もかもが手遅れだった。目一杯に悲鳴をあげてロクに受け身も取れないまま、硬いアスファルトの車道に強かに背中を打ちつけた

 

そして吹っ飛ばされた勢いのまま、縦に横にゴロゴロと坂道を転がって制服が土埃に塗れ、全身をくまなく打ちつけた頃に、坂を下り切るまでの自由落下が終わりを告げた

 

「ぃ゛っ…はぎぃ…っつぅ〜…うううううっ!」

 

あまりの激痛に涙を両目に滲ませながら、もうどこが痛いのかも分からない体中をさすった。それでも自分の置かれた状況だけは分かっている。今すぐに逃げないと、傷や怪我どころじゃなくなる

 

懸命に半身を動かして、グッと地面から背中を剥がして起き上がる。脚を曲げて立ち上がろうと全身に力を込める

 

「下手に動かない方が身のためよ。夜目は効く方だけれど、狙いが定め辛くなるわ。むしろ痛くて苦しくなるだけよ。まぁ私は別にそれはそれで楽しむけれど」

 

「ひっ!?」

 

当然の帰結だ。あたしが先発して全速力の自転車で大橋を渡った時には、この『ナニか』は身一つで追いついてきたのだ。坂道を転がり落ちて、痛みに悶絶していたあたしにもう一度追いついて、月明かりをバックにあたしの眼前に立っているのは、分かりきっていたことだ

 

桃色の長髪から紫の角が飛び出ている、最初見た時にはアイドルと見間違えた…しかし今となっては、あたしにとって悪魔と呼ぶには十分な『ナニか』は漆黒の槍の切先を突きつけながら言った

 

「この状況でもサーヴァントを喚ばないんだから間違いないとは思うけど、一応聞くだけ聞いておくわ。あなた参加者じゃないわよね?」

 

「・・・へぁ?さ、さん…か……?」

 

恐怖と痛みで舌と口が上手く動かせない。訳の分からない状況、訳の分からない言葉だらけの悪魔の問いかけらしきものに、あたしはただ聞き慣れた単語に疑問符を付けて返すことしかできなかった

 

その反応を見たピンクの悪魔は、フンッと鼻で息を一つ置いて、身の丈ほどもある槍を無造作に持ち上げた。それが間も無く振り下ろされるのは、考えずとも分かった

 

「まぁそうであろうとなかろうと、見られたからには今後何かで邪魔になるのはこっちにとっては明白なの。ってワケで殺すから、恨むなら無力な自分と…私よりほんのちょっとだけ不細工な無駄に可愛い自分の顔を恨みなさい!」

 

「うっ…!わあああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

槍を握る手に力が込められ、月明かりを引き裂きながら黒い切先が走った。あたしの顔目掛けて、明確な破滅が襲いかかってくる。もう無我夢中だった。意思を持った最後の抵抗なのか、単なる悪足掻きなのかは自分でも分からないまま、あたしはスカートのポケットに手を突っ込んで、スマートフォンを引っ掴んだ。そして接触感知で電源がついたホーム画面をそのままに、悪魔の顔面目掛けて投げつけてやった

 

「ちょっ…!?きぃぃぃっっっ!!」

 

急激な光の明滅に驚いたのか、悪魔の槍があたしに届く寸前で止まった。スマホがゴツンと鈍い音を立てて頭部にぶつかり、目元を抑えながら金切り声を上げて怯んだ。死中に活、なんてカッコつけたモノではないが、それでもこの局面を首の皮一枚で繋げたあたしは、脊髄反射で立ち上がり、残された体力が許す限りの全力で走り始めた

 

「だ、誰か!誰かっ!助けて下さいっ!あたし殺されそうなんですっ!!誰かーーーっ!!」

 

市街地にいるはずの誰かに向かって、今まで出したこともないような絶叫と共に大通りを走り続ける。走ることで体が求める酸素と、叫ぶことで否応にも出ていく息で肺がぶち破れそうだが、もうなり振りかまってなどいられない

 

あの悪魔は撃退出来たわけではない上に、逃げ切ることはまず不可能。唯一警察を呼べるスマホは命の代償に投げつけてしまったため、この原始的な方法で今すぐ誰かに保護してもらう他、今のあたしに命を守る術はない

 

「だっ!誰かっ!誰か助けて!!た、たすけ…」

 

懸命に叫びながら、走りながら、あたしは無意識のうちにアーケード商店街に突っ込んでいた。ここなら何とかなるはず。自分を知ってる誰かが匿ってくれる………思ったそこで、おかしなことに気付いた

 

あまりにも暗すぎる。商店街を照らす街路灯が付いていないだけでなく、夜更けまで営業しているはずの居酒屋やスナックにも灯りが一切付いていない。あるのはただ、シャッター街とアーケードを覆うガラス天井から差し込む月明かりだけだった

 

そもそも、だ。あの悪魔から命からがら逃げ出して、市街地に辿り着いてから叫び、走り続けてきたこれまでの間に、ただの1つでも明かりが、ただの1人でも気配があっただろうか?

 

「な、なんでっ!なんでなんでなんで!?いやっ!やだぁっ!た、助けて…誰でもいいから助けてよぉっ!!」

 

商店街の温かな人達が、あたしの必死の声が聞こえないフリをしているワケではない。本当に誰もいなくなってしまったのだと分かる。ここに来るまでの坂道から市街地の景色を見た時は、確かにまだ明るく輝いていたハズ

 

「お父さぁん!お母さぁん!みんなぁ!!!わあああああぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

しかしそれから何分と経たないない間に、夜は月明かりだけが頼りの常闇となっていた。あたしは水底のような暗い世界で、ただ一人で捥がいているだけの自分に絶望感を覚えて、最後に一目でいいから会いたい父親、母親、妹達…最愛の家族の顔すら脳裏によぎり、涙が瞳から溢れ出した時だった

 

「残念だけど、もう眠る時間よ」

 

「ッ!?ひゃああああああぁぁぁぁぁ!?!?」

 

轟ッ!!と、まるで台風のような暴力的な風圧の塊と轟音は、あまりにも短い宣告の後に突如としてあたしを襲った。またしても追いついてきた悪魔が、横薙ぎにその魔槍を振った余波に、あたしの五体は悲鳴と一緒に軽々と吹っ飛んでいく

 

吹っ飛ばされた勢いをそのままに、あたしの身体は何かの店のシャッターに叩き付けられた。その店のシャッターは老朽化が進んでいたのか、叩きつけられた衝撃で半ば辺りの凹凸の継ぎ目を境にバキッと分断され、支えと行き場を失くした鉄の扉と共にあたしは露出した店内に倒れ込んだ

 

「げほっ、ぉえっ…うぐっ!痛っ…!」

 

「だからさっきも言ったじゃない。下手に動かない方が身のためだって。でもさっきのは驚かされたわ。知ってか知らずか、吸血鬼の弱点である光を投げつけてくるなんて。まぁその可愛い顔が泣き顔でグジュグジュになってるのが見られたし、特別に不問にしてあげるわ」

 

痛みで嗚咽しながら喘ぐあたしを見下ろしながら、悪魔は微笑を口元に浮かべていた。まだ辛うじて動いてくれる上体を起こして店内を見回すと、ついさっき会話までした骨董品屋さんの店内だった。しかしあの優しい初老の店主さんは、姿どころか気配すらもない。そこにあるのはただ、素知らぬ顔であたしを無機質に見ている骨董品の数々だけだった

 

「ちなみに途中で気付いたみたいだけど、私の『子イヌ』が言うには、人祓いって魔術らしいわ。これ結構便利よね。場所を問わずに魔術師とサーヴァントが人目に付かなくなるし、私にとっては煩わしい光も消えるし。もっとも今のあなたにとっては、絶望を煽るだけの陰湿な舞台装置でしょうけどね」

 

相変わらず言語自体は聞いて取れるが、その言葉の中にあたしが意味の分かるものは断片的な物だけだった。ただ分からされたのは、今のあたし…何もできないひ弱な1人の少女、藤田ことねに残されたのは、間も無く殺されるという絶望だけだ

 

理不尽なんて言葉一つで片付けられはしない。あたしがやったことなんて、たまたま立ち寄った夜の学園で、この悪魔と誰かの殺し合いを見ただけだ。それがどうして、あたしを殺してもいい理由になるの。なんて疑問に答えてくれるモノは何もなかった。だからせめて、この風前の灯火になった命を繋げるために、あたしができることは─────

 

 

「ふふっ、ははっ…あはははははっ…」

 

「んも〜ちょっと止めてよ。壊れるには流石に早すぎるわよ。せめて生きたまま腸を引き摺り出してからでないと……」

 

「・・・・・・・か、よ……」

 

「・・・なに?」

 

「そのちょっとチャラけただけの服装は、アイドルの衣装の真似事かって聞いてんだよ…!」

 

振り絞る。残された命全てと、恐怖と絶望に塗り潰されそうになった心を、それでも失いたくない魂で燃やして、体を無理やり起こす。微笑で口許を歪めるゴスロリ調の服を着た悪魔を、光を溜めた瞳で睨みつけながら、逆に嘲るように笑ってまだ動く口と喉を懸命に使ってあたしは言った

 

「えぇ、そうよ。私はお前らみたいな地べたを這いつくばってるブタ共に、歌と踊りでありがたくも夢を見させてやってる私は、正真正銘のアイドルよ。それが何?ちょっと顔が可愛いからって私の美貌に嫉妬でもしてるのかしら?」

 

「ははっ、たまにいるんだよなぁ…カッコだけ真似して、なれるんじゃないか…みたいな軽い思いだけで、なんちゃってな歌と踊りだけでアイドルになろうとする、なったつもりでいる…ハタから見てるとイタいだけのあたしみたいなヤツがさぁ…」

 

「・・・何あなた、面白いわね。自分が置かれてる立場分かってる?この状況で私にケンカ売ってるの?そのおちょぼ口閉じないと、今すぐにでも殺すわよ」

 

「あたしが命乞いでも始めると思った?だとしたらごっめ〜ん⭐︎ぶっちゃけ悪いんだけどぉ〜…足りてないんだよ。努力も、カリスマ性も、可愛さも…何もかも足りてねぇんだよお前。アイドルってのは憧れだけじゃ…ただ可愛いだけじゃなれねぇんだよ。ただ可愛いねってチヤホヤされたいだけなら、お前の言うブタ共集めてお茶会でも開いてろバカ!バーカ!ブゥアアアァァァーーーカ!」

 

「地べた這いつくばって、血の滲むような努力をして、喉潰すまで歌って、足の皮が擦り切れるまで踊って、それでやっと、やっと誰かの心を掴める…この染みったれた世の中に疲れた人の心に!理不尽に負けそうになった人の心に!本当の夢と感動を見せてあげられるアイドルになれんだよ!!」

 

そこまで言ってようやく分かった。あたしはムカついてたんだ、この悪魔に対して。あたしを殺そうとしてきて、みっともなく逃げ回らされて、散々痛ぶってくれたことに対してじゃなく。あたしが恋焦がれたアイドルを気取った格好をしただけの、そんな奴にすら勝てないあたし自身にも、あたしはムカついてたんだ

 

だからあたしは、負けてなんかやらない。この得体の知れない悪魔に、たとえどれだけボッコボコにされたとしても、この心だけは負けない。たとえ最初に志した理由がお金のためだったとしても。咲季や十王会長みたいな、本気でトップアイドルを目指している仲間のためにも、負けたくない。誰かのために頑張れる本当のアイドルになりたいと思った自分に嘘をつきたくないから、この心だけは負けてやらない

 

「・・・よく言ったわ。殺されると分かっていてなお、命乞いをしないだけじゃなく、私とこの槍を前にしてあまつさえ説教垂れてくれるとはね。私が生前に殺した女達と比べても、お前は極めつけのバカよ。光栄に思いなさい。あなたの亡骸は、そのブサイクな面を丁寧に潰した後で血の一滴も残さず使ってあげる!!!」

 

微笑を浮かべていた悪魔の口許が、ようやく少しだけ怒りに歪んだ。そしてもうこれ以上付き合う義理はないと、右手の槍を大きく手元に引き寄せた。そしてあたしを追いかけてきた時よりも明らかに強く、濃くなった殺意をこめて、漆黒の槍を突き出した

 

あぁ、ついに来る。あまりにも唐突な死が。アイドルになりたいだけじゃなくて、まだまだやりたいことをいっぱい残した人生だった。一生オシャレしてたかったし、もっと友達と遊びたかったし、イイ男と結婚だってしたかったし、お金持ちになって家族のみんなと美味しいご飯を食べたかった

 

本当のアイドルになったあたしを、プロデューサーから、ファンのみんなから、友達から、家族から、いっぱい褒めてほしかった。だから結局、死ぬまでこれがあたしだ。この命が消える最期の瞬間まで、あたしは藤田ことねを貫いて生きていたい─────!

 

 

 

 

 

「世界一可愛いアイドル藤田ことねを!ナメんじゃねーーーッッッ!!!」

 

 

 

 

 

刹那。それは本当に、魔法のように現れた──

 

 

 

 

 

「な、何ですって!?」

 

目映い光の中、ソレは突如としてあたしの背後から現れて、瞬き一つの内にあたしの前へ飛び出した。さっきまで燃え上がっていた思考が、途端に冷や水をかけられたように停止する。ギイィィィン!という鉄が弾ける音がして、現れたナニかはあたしを貫こうとしていた魔槍を難なく打ち返し、驚愕の声を上げた悪魔に向かって躊躇なくもう一度踏み込んで今度は自分から切り掛かった

 

「チィッ!この感じ、まさかコイツが未召喚だったセイバー…!?」

 

もう一度鉄が打ち合う火花が散って、不利を悟った悪魔は槍を引き戻して、骨董品屋から飛び出した。あたしを護るように立っているナニかは、並々ならぬ佇まいで悪魔を威嚇しながら、やがて静かに振り返る。凄絶な閃光の中から現れたのは平均的な身長の男性だったが、あたしがへたり込んでいるせいか、それとも彼の纏う覇気がそう思わせるのか、実際の背丈よりも一回り以上大きく見えた

 

「・・・・・え?」

 

あれだけ出ていた声が、今は出なかった。夜の街を吹き荒ぶ風が一陣。彼が持つ純白の羽織は内側が蒼く澄んでいて、蒼の中に描かれた白菊が波を打って風に揺れている。差し込む月灯。反射で手元に鈍色に光る抜き身の刀剣。いくらかの装備が付いた職人が履くような黒い乗馬ズボンは腰に白帯で留められ、鍛え抜かれた筋骨隆々の上半身は、右手首に巻かれた真紅の布と左腕の燃えるような赤の射籠手を除いて、一糸の纏も汚れもない

 

「サーヴァント・セイバー。召喚に応じ参上した」

 

平凡よりは整った日本人顔。しかし紅葉のように綺麗な赤い短髪がそれを忘れさせ、闇の中で光る琥珀色の瞳に見惚れていると、彼はなんの感情もなさそうにあたしを見つめた後、凛とした声で言った───

 

 

 

 

 

 

「───問おう。アンタが(おれ)のマスターか」

 

 

 

 

 

 

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