Fate/starlight   作:小仏トンネル

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第9話 サーヴァント・セイバー

 

「・・・ます、たー?」

 

めくるめく超展開に理解が追いつかないあたしは、突然目の前に現れた青年が言った事をうわ言のように復唱することしか出来なかった。なおも呆然とするあたしを、鍔も柄もない抜き身の刀剣を右手に持つ青年は、ただひたすらあたしの言葉を待っている

 

数秒経てやっと思考が回復したあたしは、激昂した高揚感で忘れていた全身の激痛で我に返った。彼は今、あたしを散々痛ぶって殺そうとしていた悪魔から、あたしを助けてくれたんだ。そうと分かれば、続く言葉は一息で出てきた

 

「あっ!た、助けてくれてありがとうございました!今あたし、あなたが追い払ってくれたヤツに殺されかけてたんです!お願いします!助けて下さい!!」

 

「・・・なるほどな」

 

必死の表情で訴えたあたしの言葉に対して、彼は眉一つ動かさずに無感動で答えた。右手に持っている鋼の刀剣を肩へと担ぎ直し、今もまだ骨董品店の外からこちらの様子を伺っている悪魔を睥睨する

 

それからもう一度あたしの方へ振り返った時には、真一文字だった口許は端が柔和に解け、厳格な人物に思えた青年の強面は、10代半ばほどの年相応に見える朗らかな表情に変わっていた

 

「応とも。大体の状況は掴めたぜ。むしろ分かりやすいってモンだ。ちょいと端折るが、契約完了ってことで儂ァ構わねぇぜ。その華奢な体で、サーヴァント相手によく持ち堪えたなマスター。治癒なんて芸当が出来るほど器用でなくて面目ねぇが、後は儂に任せてゆっくり休ん」

 

「いつまでその無防備な背中晒したままお喋りしてんのよ!!いい加減に───!」

 

「うるッせェな!!!」

 

ガァンッ!!!一際強い金属音とセイバーの怒号が響いたのは同時だった。悪魔が突き出してきた槍に対して、セイバーが振り向きザマに横薙で刀を振ってコレを弾き返し、彼女の華奢な身体ごと吹き飛ばしたのだ

 

「す、すっご……」

 

巻き起こる突風と揺れる純白の外套。悪魔は彼の一撃にたまらず吹き飛ばされ、商店街に敷かれた石畳を文字通り二転三転とした。あたしがあんなにも恐怖していた悪魔を、軽々とあしらう彼の姿に夢でも見ているかのようにぼうっとして呟くしかなかったあたしに、セイバーはもう一度振り向いて言った

 

「ま、見ての通りだ。後は儂に任せてマスターはゆっくり茶でも飲んでてくんな」

 

「は、はい…でも、それ…刀が……」

 

あたしが震えた声で指差したのは、セイバーが手にしていた抜身の刀剣…が半ばから欠け、消失していたからだ。彼がどれだけ強くても、刀がなければあの長大な槍を持った悪魔には対抗できない。そう思っていたが、彼は静かな一度の舌打ちの後、それを杞憂であるかのように笑った

 

「チッ、打ち損じたか…まぁいい。心配すんなマスター。こいつぁ儂にとって些事だ。また打ち直しゃいい、似たようなのもまだいくらでもある。安心して待っとけ」

 

セイバーは捨て台詞のように言い残しながら、左手に握る羽織を翻して骨董品屋を出ようとした。どこまでも頼りたくなってしまうような、大きな男の背中だ。自ら悪魔の元へと繰り出していく彼の背中に、あたしは精一杯に叫んだ

 

「が、頑張って下さい!セイバーさん!」

 

それ以外に何もない、あってもなくても特に変わらない、頼りないエールだったと思う。けれどその声を掛けられたセイバーは骨董品屋を出掛かっていた歩みを止めて、目を丸くした素っ頓狂な表情で私を見た

 

しばらくして彼はフッと鼻で笑って、しかしそれは人を嘲笑するそれではなくて、まるで彼自身も安堵したような、肩の力を抜いたような笑みだった。そして今度こそ、空になった右手を少しの恥ずかしさを誤魔化すようにヒラヒラと振りながら、セイバーは1人戦地へと赴いた

 

「よぉそこな小娘。見兼ねるにランサーだな。儂のマスターが随分と世話になったようだが、何か礼をしなくちゃあならねぇな。ちょいと聞くが、儂の刀の味はどうだった?気に入ったなら同じのをくれてやろうか?なぁに遠慮すんな、似たようなのはいくらでも出せるんだ儂ぁ」

 

「ぐ、うっ…!子、イヌ…聞こえてる…?」

 

ボロ切れのように吹き飛ばされた体を、呻きながら必死に起こして立ち上がったランサーに、セイバーは涼しげな顔をしながら言った。対するランサーは怒りに満ちた形相で彼を威嚇しながらも、その口は虚空に向けて何かを訴えるように動いていた

 

「アイツ。多分…いや、間違いなくセイバー…だけど、問題はそこじゃないわ。さっきのアイツ、もはや片手で刀を振っただけよ。たったそれだけであの威力…!さっきのアーチャーの剣術も大概だったけれど、このセイバーはほとんど試し斬りくらいの感覚で私をあっさりと…!」

 

『・・・見えてるし、聞こえてる。流石に最優と呼ばれるセイバーってとこか。ランサー、そのセイバー、さっき追っていた目撃者の生徒がマスターの可能性が高いって…』

 

「ええ。だけどそっちを狙えって言ってるなら、悪いけど無理よ。もうさっきのブサイクはセイバーの後ろで、セイバーがガッツリこっちを睨んでる。結果的にコイツをどうにかしない限りは無理よ」

 

『分かってる。だけどそれなら、そのマスターは意図せずセイバーを召喚した可能性が高い。セイバーにしても、まだ契約と魔力の供給が安定していない可能性がある』

 

「つまり、セイバーを倒すには召喚されたての今が何にしろ好機…ってことね」

 

『その通り。いいランサー?聖杯戦争で最優のセイバーを今ここで潰せば、後のアドバンテージにも繋がる。令呪を一画使う。私の魔力も空になるまで持っていい。宝具の開張も、あなたのタイミングで許す。ただし、必ず今ここでセイバーを仕留めて。いい?』

 

「───!急に大盤振る舞いね。いいわ、聖杯戦争アルバムの記念すべきファーストナンバーは、コイツでキメてやるわ!!」

 

セイバーと改めて相対したランサーは、見えない主人との作戦会議を終えると、緊張で追い詰められていた表情から、その衣装に合ったどこか邪悪な笑みで槍を振り回し、その切先をセイバーに向けて構え直した

 

「・・・おう、目付きが変わったな。腹括ったってぇことかい。なら、儂もたっぷりお礼参りといこうか。加減は効かねぇがなぁ!!!」

 

どこから取り出したのか、青年の右手にはまたしても抜身の刀剣が握られていた。鈍く銀色に輝く刃を向けながら、本来なら柄がある部分に左手を添えて中段に構え、セイバーは鬼気迫る顔でランサーに向けて猛る声と共に踏み出した

 

「いいわ!あなたも私の奴隷に、豚にしてあげる!好きなだけ鳴きなさい!これが私の、正真正銘、ノンストップオンステージよ!!」

 

踏み出された最初の一歩はほぼ同時。二人のサーヴァントの間合いは一瞬にして無くなった。敵の懐に入った瞬間、ランサーの刺突と、セイバーの斬撃が交錯する。槍が彼の頬を、刀が彼女の髪を掠めた

 

まるで鍛冶場の錬鉄のように、瞬く間に次々と飛び散る火花。一呼吸の間に五度は閃いたであろう二人の剣戟は、なおも速度を上げて鉄が爆ぜる音が肥大化していく

 

「ぜぇりゃあああぁぁぁっっっ!!!」

 

「チッ!はあああぁぁぁっっっ!!!」

 

十重二重に連なる火花と銀光。絶え間ない豪雨のような剣の舞。舌打ちしながらも、セイバーが打ち出す刀の威力を捌き続けるランサー。一見して互角に思えた攻防はしかし、一度守りに入った少女へ振り下ろされた一撃で一幕を下ろした

 

「ふっ!はっ!せいっ!どおりゃあっ!!」

 

切り伏せるというよりは、むしろ叩き伏せるかのような一撃。セイバーはより深く少女へと踏み込み、抜身の刀剣で渾身の一撃を振り下ろす───!!!

 

「これだから男って!突進するだけじゃ観衆は沸かないのよ!」

 

バガァンッ!地面が爆ぜる。出鱈目な威力の真向斬り。喰らっていれば間違いなく即死。槍で受け止めても間違いなく槍は一刀両断。それをランサーは冷静に後ろに跳んで躱した。後に残ったのは、縦に亀裂が入った敷石と、持ち手も含めて粉々に砕け散った刀剣だけだった

 

「また打ち損じた上に、おまけに仕留め損なったときた。案外粘るな嬢ちゃん。礼の品くらい素直に受け取ってくれっと儂も助かるんだがな」

 

「豚ごときが調子に乗らないでくれる?アンタの刀、宝具なのか何なのか知らないけど、そんなポキポキ折れるだけの棒切れ、頼まれても貰ってなんかやらないわ。どうせゴミになるだけだもの。セイバーの癖に折れる刀とソレを扱いきれない剣術しか持ち合わせていないなんて、可哀想で涙が出ちゃうわ」

 

「こんな鈍らが宝具だぁ?冗談抜かせ、こんなのぁ生前に鍛えた有象無象だ。ただテメェを切るだけでいいなら包丁だって同じように出来らぁ。剣術にしたって儂ぁただの刀鍛冶だ、()()()()()()真似事で適当に振ってるに過ぎねぇよ。まぁ同じように真似事で槍振ってる箱入り娘に、刀なんぞ語っても世話ねぇか」

 

「その真似事で振ってる槍に折られる刀しかないんなら、アンタのそれはもう刀鍛冶じゃなくてガラス細工以下よ!」

 

再びヒールで強く踏み込んで、高々と飛び上がるランサー。スカートを華麗に揺らしながら縦横に回り、その遠心力をありったけ乗せて槍を振り下ろす。対するセイバーは、またしても手振り一つで無から抜身の刀を右手に握り、その刃を立ててランサーが振り下ろす槍の柄を片手で受け止めた

 

激突の余波で白の外套が揺れるも、少女の槍を片手で受け止める余裕を見せたセイバーは、なおも涼しげな表情で刀に力を入れ、槍を押し返そうと、その体を軋ませた時だった

 

「───子イヌ!今よっ!!!」

 

『我が令呪をもって命ずる!ランサー!今宵のステージを!最高のフィナーレで締めくくりなさい!!!』

 

槍を懸命に押し込みながら、ランサーが叫ぶ。刹那、セイバーの耳にも届く機械じみた音声。まるでアンプリファーを通したように夜の街に響き渡る女性の声は、確かな熱量を帯びていた

 

「ぶっ飛ばしていくわよ!!!」

 

そして巻き起こる魔力の渦。目に見えぬ力の奔流は、それでも存在を知覚させるには十分なほどに空気を歪ませていた。莫大な魔力の漂う空気は圧搾されたようにランサーへと集約され、真珠のような水色の瞳が輝きを灯した。耳を焼くような少女の叫び。セイバーの背中にゾワリ、という怖気が走った時には、彼の刀剣は既に力を増したランサーの槍に叩き折られていた

 

「野郎…!マスターの令呪か!謀ったな!!!」

 

「サーヴァント界最大のヒットナンバーを聴かせてあげるわ!私の美声に!みゅうみゅう無様に鳴きなさい!」

 

鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)!!!』

 

『宝具』の開張。その銘に続いてランサーの背に生える、蝙蝠のような皮膜を持つ悪魔の翼。その翼をはためかせて飛び上がった少女は、いっそ天使のように煌びやかにピンクの輝きをばら撒いている

 

飛び上がったランサーに縋りつくように乱立していったのは、中世欧州貴族の巨城と城壁そのものだった。商店街の景観すらも敷き詰められた煉瓦の壁で塗りつぶしていき、空間一帯を支配するように、かつての悪名で知られた鮮血の居城は展開された。そしてその中心で翼と共に揺蕩う少女は、いつの間にやら槍からスタンドマイクに変わった主役の象徴に向けて大きく息を吸い、そして。そして───

 

「ぼえええぇぇぇーーーーーっっっ!!!!!」

 

五月蝿い。喧しい。騒音。爆音。そんな生易しい表現では済まされない。およそ一人の少女の喉笛からなり得るとは思えない壊滅的な音。城壁そのものに反響しているどころか、城壁それ自体が音響兵器になっている

 

まさしく周波数の暴力とも言うべき、超大音響破壊兵器。それこそがこのランサーの宝具だった。おまけにランサー本人の声があまりにも音が外れた、そもそも音程があるのかも定かでない。人間が不快に思う音の極致がそこにあった

 

「☆♪→¥^$/€↑:=♭+%*×〒〆@ーーーッ!?」

 

たまらずセイバーは刀を握るべき両手を両耳に当て、悲鳴にも似た声を上げるが、それすらもねじ伏せるように、簡単に居城の爆音が掻き消す。どれだけ耳を塞いでも防ぐ術がない想像の埒外から来る攻撃に、セイバーの視界は明滅し、全身から汗が止めどなく溢れ、崩れそうになる己の霊基を保つのが精一杯だった

 

()った!私の美声と居城の中でイケることを光栄に思いなさい!セイバー!!!」

 

荒れ狂う音の嵐の中、ランサーは背中に生やした翼を打ち鳴らした。スタンドマイクを漆黒の槍へと戻し、その切先の狙いをセイバーの心臓へと定めて一直線に飛ぶ。まだ続く音の嵐に、セイバーの両手は本能のまま耳にへばりつき、無防備のまま槍の到達を待つしかなかった

 

万事休す。否応にもその思考がセイバーの頭を埋め尽くす。完全なる詰み。敵の槍は間違いなく自分を捉えている。両手を封じられ防ぐ術がない。何か、何かこの状況を打破する手はないかと考える暇すら与えられなかったセイバーの胸を貫いたのは───

 

「頑張って!セイバーさん!!!」

 

諦めかけた、燃え尽きかけた胸の内を、再び熱く燃やす少女の声は、爆音に掻き消されているはずなのに、それでもセイバーの心に確かに届いていた

 

その少女、藤田ことねはセイバーとランサーが対峙している時も、骨董品屋に身を潜めていた。しかし城壁が商店街を埋め尽くさんと乱立していく時、咄嗟の判断で店を飛び出していた。そして響く爆発的な轟音。思わず彼女も耳を塞ぐが、その瞳がセイバーの窮地を捉えた時には、考えるよりも先に体が動いていた。どうしてか疼くように痛む右手を左手で庇いながら、藤田ことねは祈るように、遮る音の壁すらもぶち破るように、必死の願いを叫んだ

 

「そんな奴に負けないで!セイバァァーーッッ!!」

 

こんな応援。意味なんてないって分かっていても、こんな酷い音の中で聞こえるわけないって分かっていても、それでも。あたしだってアイドルになるんだ。こんなうるさいだけの雑音がなんだ。みんなを元気にする、願いを届ける、心を変える、夢を叶えるアイドルに、あたしだって───!

 

「───あぁ、中々の鋼の意志だ。そうだ!儂ぁまだ折れてねぇ!儂の刀は曲がらねぇ!!!」

 

藤田ことねに自覚はなかった。ただ祈りを叫んだ瞬間に、ただの運命の巡り合わせが、三回限りの切符が、その手にあっただけだ。少女の右手を中心に、闇夜と爆音を切り裂いて光る赤の煌めき。溢れ出した彼女の願いは、見えない魔力の壁となってセイバーの体を覆った

 

「な、なんですって!?」

 

薄くも堅い、何人もその体に穢れと侵入を許さない絶対の護り。等しく、武人を想う聖女の祈り。その見えない壁は、ガィンッ!という音を伴いながら、確かに胸を貫くかに見えたランサーの槍を、セイバーの野晒しにされている肌の上で固く受け止めた

 

「全く、贅沢な注文だ───だがたまにはそれも悪くねぇってモンだ!!!」

 

セイバーは両耳を覆っていた手を剥がし、そのまま抜き身の刀を右手に創造しながら漆黒の槍を夜空へと強く弾き飛ばす。そして左手にも抜き身の小太刀を創造し、槍を飛ばされ大きく懐が空いたランサーに前のめりにながら突撃していく

 

「おう小娘!しばらく待たせたな!コイツが礼だ!二天一流!余すことなく貰っときな!!」

 

その二振りは、目で追うにはあまりに迅く。体で受けるにはあまりに鋭く。流星の如く軌跡を描いて交差した銀色の輝きは、今度こそ。少女を脅やかした悪魔を討ち払った

 

「がっ───、はっ───!?」

 

バァンッ!!!炸裂音がして、築き上げられた居城は脆くも儚い幻のように消え始めた。セイバーが放った渾身の一撃にランサーは切り飛ばされ、彼女が叩きつけられたはずの城壁は、商店街のシャッターへと戻っていた

 

「あ゛っ…ぎっ…!?」

 

『・・・ランサー。もういい、もう退いて。今のあなた、その傷で霊基が残ってる方が奇跡だから。走れる程度まで治癒するくらいの魔力なら残ってる。あなたの宝具は嫌でも居場所が割れる。いずれさっきのアーチャー達もここに来る。これ以上私をイラつかせる前に早く霊体化してその場から離脱して』

 

「ダメ、よ…令呪まで使ったのに…このまま、終わるなんて…!」

 

『それは相手も同じ。偶然とはいえ、セイバーとそのマスターの力を見誤った私にも非はある。余計な張り合いをするくらいなら速く離脱して。商店街の外れに迎えの使い魔も放った。ソイツらから血を摂って魔力にしたら後は自力で帰って来て。退き際くらい分かりなさい』

 

「・・・分かった。私、手のかかるサーヴァントだよね。ゴメン、子イヌ…」

 

『・・・別に、そんなんじゃない。ただ、帰って来たら文句と言いたいことくらいはあるから、とっとと帰って来て』

 

マスターの魔力で胸の前で交差した深傷がみるみる内に塞がり、治癒の速度と並行するようにランサーの姿は霊体となって、半壊したシャッターの上から消え去った。彼女の気配とマスターの声の残滓が消えた頃、そこに残されたのはセイバーとことねの二人だけだった

 

「や、やっつけた…って感じ…?」

 

「いや、手応えはあったが完全には倒せてねぇだろうな。退いてはくれたようだが、今はこっちにも追撃する理由がねぇ。いくらマスターが助けてくれたとは言え、アイツの宝具のダメージが微塵も堪えてねぇとは、流石の儂も言えねぇからな」

 

霊体となって霧と消え行くランサーを見たことねが、恐るおそる訊ねると、セイバーは小さくかぶりを振って答えた。それからランサーの槍で突かれた胸を軽く摩り、身体の調子を確かめるように射籠手を付けた左肩を回す彼に、ことねは重ねて頭を下げた

 

「あ、あの!改めて、助けて下さって本当にありがとうございました!セイバーさん!」

 

「よせやい。後はゆっくり休んでろなんて、勇んで出てったはいいものの、最後に助けられたのは儂の方だ。礼を言うぜマスター、いい令呪の切り所だった」

 

「・・・???あの。さっきも言ってましたけど、そのマスターって…ひょっとしてあたしの事呼んでます?てか、令呪ってなんですか?あたしそんなの使った覚えないんですけど…」

 

「あぁん?おいおい、無我夢中で何も覚えちゃいねぇのか?儂を召喚するまではその身一つでサーヴァントと対峙してた、大した肝っ玉の嬢ちゃんだとは思ってたが、嬢ちゃんの方が儂を喚んだんじゃねぇか。右手に刻まれてる令呪が何よりその証拠だろうが」

 

「・・・は?さ、さーばん…?み、右手…ってうわぁ何コレ!?入れ墨!?いつの間にこんなの…てかこんなんバレたら普通に停学っしょ笑えないって!」

 

「・・・あん?」

 

「あ、でもとりあえず救急車と警察に連絡ですよね。あたし達二人とも無傷って訳じゃないですし、あのデッカい槍持った女の正体は分かんないですけど、商店街もこんなめちゃくちゃにしちゃいましたし…」

 

セイバー自身の認識からすれば、何も間違ってはいないハズだと思っていた。しかし右手の令呪を見ても、目の前の少女は慌てふためくばかりだった。何か、何かが自分達の間でズレている。赤髪の青年がそう感じた時、新たな人物が二人の背後から声を掛けてきた

 

「ちょっと、冗談でもやめてよね。って言いたいところだけれど、状況から察するに、多分あなたからしたら冗談でも何でもないのよね。何の運命の悪戯なのか、まさかあなたがセイバーを召喚するとは思わなかったわ、ことね」

 

「・・・敵意はねェようだから捨て置いたが、名乗りもなく絡むとあっちゃあ話が別だ。そこな小娘、まず名乗れ。それ以外なら叩き切る」

 

「ちょちょちょいストップ!ストップですセイバーさん血の気多すぎ!てか咲季!?なんでこんな時間にこんな所いんの!?こ、これは色々違うんだって咲季!この人はあたしのバ先で最近働き始めた外国人のセイバーさんで!日本のお侍さんに色々憧れがあって…その…!」

 

「分かってる。いいのよ、ことね。私もあなたと同類だから。むしろ、あなたが私と同類になったと言う方が正しいのかしら、この場合は」

 

そう言って、本当にただ気軽にクラスメイトに話しかけるような口調で声を掛けたのは、ことねにとって級友の花海咲季だった。しかし彼女を知らずに威圧するセイバーのことを、何かと誤魔化そうと必死になることねに対して、咲季は左手の甲を見せることでその答えとした

 

「・・・は?え?さ、咲季ひょっとしてそれ…入れ墨?え、あたしとなんか…同じ?」

 

「入れ墨じゃないわ。これが令呪よ。これを持つ人間は、聖杯戦争でサーヴァントを使役するマスターってこと。つまり、あなたと私は聖杯戦争の…殺し合いの参加者なのよ」

 

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