「だめぇぇぇぇぇええええ!!!!」
ズダダダン!!
サオリの持つ銃の銃口が光った瞬間、叫びながら私とサオリの間の空間にとびこんでくる白い影。
それと同時に、銃弾は捻じ曲がるような軌跡で私と目の前の白い影を避けていった。
「はぁ……はぁ……」
「間に合いましたね?」
聞き覚えのある声と共に、振り返る白い人影。
そこにいたのは、シャーレにいるはずのミズキ。いつもの白い肌は薄く紅潮し、白く美しい長い髪を乱していた。
それはまるで、西洋の絵画のような美しさを持っていて、私の目に焼きついた。
「っ!誰だ貴様は!!」
なぜか普段は見えないミズキが、サオリにも見えているらしく、誰何した。
「セナッ!!こっち!!!!」
しかし、それにミズキが答える前に倒れていたヒナが、死力を尽くしたのか声を上げた。
ギャギャギャギャッ!!キキーッッ!!
「救急車……!?」
アリウススクワッドの水色の髪の少女──ヒヨリが声を上げる。
道の向こうからやってきたのは、1台の救急車。
それがアリウススクワッドとミズキを私から遮るように止まり、ドアが開いた。
「先生!手を!」
出てきたのはゲヘナの救急医学部のセナ。
私は咄嗟にセナの手を掴み、救急車へと乗った。
「ヒナは!?」
「彼女なら問題ありません!!」
「でもっ!!」
「急いでっ!!」
「っ!」
「逃すかっ!!」
ダンダンダンダン!!!!
「させませんっ!」
サオリやユスティナ聖徒会が救急車へと銃口を向け弾丸を撃ち込むが、ミズキが救急車の前に立ち塞がり、弾を捻じ曲げ、押し留める。
「ぐっ……!?救急車に弾丸が届いていない……!?いや、曲がっているのか!?」
「こ、この子の力ですか……!?」
「厄介……!」
「……」
「ミズキ!ヒナを回収できる!?」
「ごめんなさい、手一杯で無理です!それに、わたしは人には干渉できませんっ!」
「くっ……!」
「発進します!掴まっていてください!!」
そのセナの言葉と共に救急車は猛スピードで走り出し、ヒナを置いて私たちは撤退したのだった。
私は、救急車の中で揺られていた。
「よく聞いてください先生。今、敵は先生の命を狙っている状態です」
運転しているセナの声が救急車の中に響く。
「ミズキさんが奇跡的に間に合ったので傷こそありませんが、間に合わなければ死んでいた可能性が高いです」
「うん、そうだね」
「ヒナさんはキヴォトスでも上位の実力を持った方。防御力も折り紙付きです。例え彼女たちがヒナさんに暴行を加えようとも、ヒナさんが命の危機に陥ることはないでしょう」
銃撃を警戒して車の外を飛んでいたミズキが救急車の壁をすり抜けて車内に入り、私に寄り添った。
「せんせい、ひどく疲れている顔をしてます……少し、休みましょう?」
「……うん、そうだね」
先程は実感できなかった死への恐怖が、ふつふつと湧いて出ていた。もし、ミズキが間に合わなければ、本当に危うかったのだと理解が追いついてきた。
けれど、同時にあの時のミズキの美しさが目に焼きついて離れない。
今も、ミズキの顔を見るとドキリとしてしまう。
「先生?」
「あ、ああ……大丈夫。なんでもないよ」
「先生」
セナが運転席から声をかけてくる。
「車載用ストレッチャーがあるはずです。それで寝てもらっても構いません」
「でも……」
「到着したら起こします。先生は、今はしっかり疲れを取ることを優先してください」
「う、うん……」
私があまり乗り気でなく返事をすると、セナは見透かしたようにため息をついた。
「はぁ……ミズキさん、お願いします」
「はい、わかりました!さぁせんせい、寝ましょう!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!?」
目の前でばっばっと寝るように促すミズキ。
「ほら、いつもと同じです!早く寝ちゃってください!」
「う、うん……」
仕方なくストレッチャーに寝っ転がる。
するとすぐに眠気がやってきて、思考に靄がかかり始めた。
「さぁ、おやすみなさい、せんせい。またあとで」
優しく語りかけてくれるミズキの声が心地いい。
私の意識は、ものの数秒で闇に落ちていったのだった。
「せんせい、眠りました」
「ありがとうございます、ミズキさん」
車内で2人で話す、セナとミズキ。
「それにしても、驚きました。シャーレには幽霊がいると聞きましたが、シャーレの外に出てこれるとは」
「あ、あはは……今回は特別だと思います。いつもなら皆さん私のことが見えないのに、さっきのせんせいを撃とうとした人もヒナさんも、私のことが見えていたようですし」
「……あの妙な、先生がユスティナ聖徒会と呼んでいた存在たちが関係があるのでしょうか」
「ううん……わかりません……」
セナ、ミズキ、先生の3人の乗った救急車は、安全な場所を目指して走っていくのだった。
ミズキは、先程の出来事で溜めていた力の大半を使った感覚があった。
(……おそらく、どうやってかは分かりませんがシャーレからこちらにきた時に、今日のために余剰に溜めていた力を全てを持っていかれました)
朝はあれだけ満ち足りていた力が、今はほんの少しも感じられない。
(先生を探すのと、その後の先生を守るので残っていた力も使ってしまいました……たったあれだけの、短い時間しか力を使っていないのにこれだけ力を持っていかれるなんて……)
シャーレでポルターガイストを発生させるのの数十倍にもなる量の力を一度で消費させられ、疲労困憊のミズキ。
(これは、どこかで力を溜めないと……っ!?)
そう考えた瞬間、唐突な脱力感がミズキを襲った。
「こ、れは……!?」
思わず声を溢してしまったミズキ。
「どうしましたか?」
セナがミズキのこぼした声に反応するが、ミズキは荒い息をしているだけで返事すらもできなかった。
「はあっ……はぁっ……はあっ……」
まるで呼吸ができていないような息苦しさもやってきて、溺れるような感覚を味わうミズキ。
(なる、ほどっ……!力を、使い果たしましたか……!)
感じられていた力すらももはやなくなり、身体を維持する力が無くなっていくのを本能で理解したミズキ。
(消えっ……いえ、これは……!)
身体がどこかに引っ張られる感覚。それを体感したミズキは、最後の力を振り絞って声を上げた。
「せ、なさん……!」
その声に、ようやく安全な場所まで救急車を走らせたセナが車を止めて振り返る。
「どうしましたか、ミズキさん」
慌てて駆け寄ったセナがミズキの容体を確認しようとしたが、手がすり抜けてしまった。
「くっ……」
「せんせ、に……つたえっ……さい……」
「……!」
「しんぱい、しないでっ……!しごと……がん……っ!」
すでにミズキの身体は光の粒子となってほつれ、身体の各所が薄れていた。
「体が消えて……?」
こくりと頷いたミズキ。
「わたっ……シャー……もど……」
「……分かりました。伝えます」
ミズキの意思を正しく理解したセナは、しっかりとミズキを見つめ直した。
にこりと笑ったミズキ。それを最後に、身体は完全に光の粒子となって霧散していった。
「……」
後には、ストレッチャーの上で眠った先生と、セナだけが残された。
「…………?」
先生が目を開けると、そこはどこかのテラスのようだった。
「ここは……ティーパーティーの?」
よく見れば、ティーパーティーのナギサがよくいるトリニティのテラス。外は夜のようだ。
「そうさ、先生」
「!」
声のした方向に振り向く先生。振り向いて確認した視線の先には、1人の少女がいた。
「……初めましてかな、先生」
金の髪に狐の耳。白い制服に身を包んだ、小柄な少女。
「私の名前は百合園セイア。そして、ここは君の夢の中だ……或いは、私の夢の中かもしれないがね」
「セイア……」
先生は、初めて会うはずのその少女に見覚えがあった。
「おっと、もしかして『初めまして』ではないのかな?」
特段驚きもせず、そう聞くセイア。
「これは失敬。今の私にとって、時間の流れは少しばかり捻れていてね。しかし先生、大事なのはそこではなく、君と私がこうして会えているということだ」
「……そうだね」
「……さぁ……では、お話を紐解いていくことにしよう」
幽霊ちゃんのエデン3章介入はこれで終わりなのでここからはまた全て原作通りです。私は幽霊ちゃんが書きたいのでエデン3章の続きは書かないつもりです。
先生はこんなにチョロくない!という人もいると思います。
確かに原作先生はそうでしょう。
ですが────────この先生は、原作先生ではないので。
感想と高評価、よろしくお願いします