…
……
…………
……………………?
ぱちり、とミズキが目を覚ます。
(……ここは?)
あたりは一切の光のない暗闇。
(……くらい……)
前も後ろも上下左右すらもわからないような闇の中に、ミズキは1人浮いていた。
(………どこでしょう、ここ)
どうやら浮遊しているようだ、と感覚で理解したミズキ。
(…………わたしは、先生を守って……その後、力が尽きて……どこかに引っ張られた?……ここが、引っ張られた場所なのでしょうか)
直前の出来事を思い出し、そう推測する。
…………
(…………?)
ふと何かの気配を感じ、そちらの方向へ向く。
(…………どなたかいるのでしょうか?)
ひんやりと冷たく、けれど懐かしい雰囲気。
(………向かってみましょうか)
その謎の気配の感じられる方向に向けて、ミズキはふよふよと進み始めた。
しばらく進み続けると、遠くの方に小さな白い点があるのに気がついた。
…………
(……あそこから、気配が?)
少し速度を上げ近づいていくと、段々とその白い点の正体がはっきりとしてきた。
(これは……とびら?)
そこに存在していたのは、両開きの白い扉。
(……?)
裏を除いても何もない、普通の建物にあるような白い扉だった。
(……でも、この奥から気配はします)
先ほどより濃くなった、冷たい気配。それと同時に、この扉からは
(……つめたい……)
扉に触れた手から伝わってくる、
…………
(…………何があるかはわかりませんけど……でも、呼ばれている気がします……)
少しの間考えた後、その気配の大元を確かめることにして扉に手を添える。
押せば扉は普通に開いていき、気付けばその向こう側にミズキは足を踏み入れていた。
(……ここは、廊下?)
ミズキが立っていたのは、4方全てが白が基本の、病院の廊下のような場所だった。
左右にはいくつもの白いドアと、その側に部屋番号の書かれたプレートの下に何も入っていない表札入れのある壁が奥まで続いていた。
…………
ここに入った瞬間から一際強くなった冷気と気配。入ってきた扉を振り向けば、そこには延々と続く白い廊下が扉の代わりに存在していた。
(……この気配の持ち主に、会えばいいんですね)
そう考え、前に向き直って進んでいくミズキ。
…………
進んでいくと、やがて行き止まりにまで辿り着いた。
『001』と書かれた部屋番号に、『絹守』と書かれた名前の入った表札。
(……わたし?)
扉の取手に触れてみれば、まるで氷にふれたかのような鋭い冷たさが襲ってきた。
…………
(…………この奥に、何が……)
力を込めれば少し扉が動き、簡単に開くことがすぐに感じられた。
(……入れ、ということですね……)
そう考えた瞬間、呼応したようにより一層気配が強まった。
(……いきます!)
取手を持つ手に力を入れて、ミズキは扉を開いた。
中は簡素な病室のようだった。上下左右全てが白い材質で、部屋の奥は一面ガラス張りの窓。天井は高く、部屋自体が広かった。
そして、窓の前には水平になるように一つの真っ白なベッドとサイドテーブルがあり、そこに1人の女性が寝ていた。
(……まるで、シャーレです)
機材やデスク、渡り廊下などを取り払われ、ベッドのみが置かれたシャーレ執務室のようなその空間。
窓の外は猛吹雪の様で、それを女性はただただ眺めていた。
(…………あの人が、私を呼んでいた人)
その女性は、窓の方に顔を向けてベッドに横たわっていた。
髪は純白で、身長は160cmほど。真っ白なスーツのような制服を身につけていた。
サイドテーブルには彼女のものと思われる勲章や紀章が置かれていた。
「あ、あの……」
ミズキが声を上げると、その女性はゆっくりと窓の方向からこちらに振り向いた。
『漸く来て頂けましたね、私』
「……やっぱり」
そこにいたのは、大人の姿のミズキだった。
『待っていました、私』
そう告げてくる大人のミズキ。
「……あなたは、わたし?」
『ええ、私』
ミズキは驚くと同時に、どこか心の中で納得していた。
『其処は話すには遠い。此方に来て頂けますか?』
「……そうですね、わかりました」
素直に従い、歩いてベッド脇に移動した。
『さて、聞きたい事も多いでしょう。時間は有限ですが……出来る限り、答えて差し上げます』
そう言われて、瞬時にいくつもの疑問が頭によぎる……が、冷静になり一つずつしっかりと質問することにした。
「……あなたは、生きていた時のわたしなんですか?」
『ええ』
はっきりと肯定する大人のミズキ。
『数十年前の連邦生徒会長。生来持っていた不治の病に蝕まれ斃れた、記録に存在しない3年間の幻の連邦生徒会長。其が私です』
「記録に……なんでですか……?」
『死と云うのはキヴォトスでは非日常。連邦生徒会の体裁を保つ為、私が存在していなかった事にさせました』
『其が最善。私が其の様に指示したのです』
「そんな……」
言葉を失うミズキ。
『既に終わった事。気にする事は有りません』
そうして一つ目の質問が終わり、場は静かになった。
「…………どうして、わたしがうまれたんですか?」
ポツリと、ミズキが次の質問を投げかけた。
『神秘の暴走。私の神秘は人の身に余る物でした』
溜める事もなくハッキリと答えられる。
『余りにも強大な神秘は持ち主の肉体を蝕み、不治の病を抱えさせる事になりました。肉体と云う器に押し留められ、成長と共に増幅した神秘を不治の病によって消費する事も出来ず、私の身体は遂に壊れました』
『器が壊れた事により神秘は暴走し、意思を無視した超常現象を齎しました。其によって誕生したのが貴女です、幼い私』
「…………」
『魂の器が霊的物質によって構成された、純神秘存在。肉体に根差し、抽象として顕現する神秘であるヘイローとは違い、神秘自体が具体として顕現した、本来あるべき神に近しい姿です』
言葉を紡いだ大人のミズキは、これが全てとばかりに口を閉じた。
「……霊的物質?」
『光を含む凡ゆる物を透過し、空間と時間、そして人の意思にのみ従う物質。其が霊的物質です』
「……」
『霊的物質は神秘によって構成されており、現存物質とは違う法則を持っています。魂単独で存在し、小鳥遊ホシノを依代としていた梔子ユメとは違い、貴女には霊的物質で構成された肉体が有ります』
『霊的物質は、光すらも透過する為に普通の人は見る事ができません。しかし、顕現可能な環境でのみ常人でも見る事が可能になります』
「……だから、調印式の会場でわたしが見えていた人たちがいたんですか?」
少し疑問に思っていたことを確かめるミズキ。
『ええ。彼処は戒律の守護者達の亡霊が顕現していました。彼女達が居た事で逆説的に、死者が顕現する場所として成立していたのです』
「なるほど……」
「……あなたのことと、そしてわたしのことはわかりました」
『もう宜しいのですか?まだ聞きたい事は多く有ると思いますが』
「あなたは時間が有限、っていってました……わたしをここに呼んだ、本題を教えてください」
『……そうですね。また会う機会は有ります。質問は又其の時に』
『では、本題に入りましょう』
『今の状態では、貴女は消えてしまいます』
「……え?」
唐突に告げられた言葉に固まるミズキ。
『元々貴女は神秘の暴走によって私から生まれた存在。記憶も無く生まれた、不安定な存在でした。本来は成立する筈の無い存在が貴女なのです』
『生まれた時から貴女の霊基は歪んでいました。日常生活で其の歪みは少しずつ広がり、先生と会った事でその速度は早く成りました』
「せ、せんせいと会ったから……?」
『先生と会って、貴女は力を以前より多く使う様に成りました。仕事の手伝いや、遊びなどでも。其の結果、溜めた力の大半を使う事も多くなっていた筈です』
「た、たしかに……」
『貴女は、解り易く言うなれば罅の入った脆い杯。何度も水を入れた杯は脆くなり、中身を多く入れ替えれば消耗は疾くなります』
「な、なるほど……」
『其の上、貴女はシャーレからトリニティ自治区に在るエデン条約調印式へと跳びましたね?』
「は、はい……」
『本来、貴女はシャーレの中でのみ存在出来るのです。しかし、シャーレから出て力尽きる程まで活動してしまった。罅の入った杯に急激な負荷を掛ければ砕けるのは自明の理です』
「うぐっ……ご、ごめんなさい」
『いえ、貴女の無茶のお陰で貴女を此処に呼び寄せる事ができました』
『話を続けましょう。私が貴女を此処に呼んだ理由の一つは、貴女の霊基を修復する為ですから』
「修復、ですか……」
『ええ。手を出してください』
ミズキはそう言われてスッと右手を大人のミズキに差し出した。
『では……』
両の手で差し出された右手を包み、集中するかのように目を閉じた大人のミズキ。それと同時に、ミズキは体が芯から温かくなる感覚を受けた。
「これは……」
『器の損傷が激しいので、私の霊基を使い補填しています』
そう事も無げに言う大人のミズキ。
「ええ!?そんなことしたら……」
『ええ、勿論私の存在は薄まります。ですが、今の表側は貴女。私は消え損なっただけですから』
「え、ええ……」
暫くして、大人のミズキが両手でミズキの手を包んだまま目を開けた。
『これで修復は終わりましたが……これは、私からの贈り物です』
そういわれると同時に、頭の中に知識が入ってくる。
「うぇっ!?こ、これ……!?」
『力の使い方と消耗量を纏めた物です。後で確認すると良いでしょう。いつでも思い出せますから』
「は、はい……」
そうして、包んでいた右手を離した大人のミズキ。
『これで今回の目的は終わりです』
「あ、ありがとうございます……」
『いえ……生き長らえた、とは又違いますが……貴女は今を生きているのです。其の生活を、此方が原因で壊したくはなかったですから』
『さて、そろそろ時間でしょうか。霊基を修復したので、貴女はじきに現世に戻るでしょう』
「あ、あの……あなたはいいんですか?ここで1人で……」
『ええ。私は既に生を終えた身。貴女は霊体とはいえ、新たに生まれた身なのです。私は貴女が元気にしていれば、それで嬉しいのです』
「わたし……」
『それに、私は貴女を通して世界を見ています。退屈はしていませんよ』
そう話していると、だんだんと体が薄れていくミズキ。
『それに、私は貴女のことを応援しているのです』
「?」
消える直前、そんなことを言う大人のミズキ。
『先生との恋路、頑張ってくださいね』
「な──!?」
叫び出そうとしたミズキだったが、その前に体が完全に薄れて消えてしまった。
『……ふふっ』
後には、静かな部屋とベッドに横たわった大人のミズキだけが残っていた。
スゥ……と姿を現したミズキ。
「…………」
パチリと目を開けば、そこはいつものシャーレだった。
「ミズキ!」
呼ばれて振り向くと同時に、誰かに
「ふぇっ!?」
「良かった……消えてなくて……」
ミズキを
「せ、先生!?だ、抱きついて!?」
「怖かったからね、ミズキ……私が帰ってから、1週間経っても現れないから、消えちゃったかと思って……」
「え、ええーーーー!?」
今回は情報公開回でした。
たくさんの情報と、大人ミズキの漢字多めな喋り方で文が難しく見える……
ちなみに大人ミズキの服装は連邦生徒会長の制服です。
またいつか情報公開の回は書きますが、読者の皆様がどの様な情報を知りたいのかわからないのでリクエストを取ります。
作者の活動報告にリクエストボックスが設置してあるので、疑問点があれば送って頂けると助かります。回答される日が来るかもしれません。
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みなさまいつもありがとうございます!!これからもよろしくお願いします!
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