なんとか間に合った……
夜。シャーレでは2人の人物が話していた。
1人は、スーツを着た大人の男性。椅子に座り、横にいる白髪の幼い少女に話しかけ。
話しかけられている少女は、男性のそばにふよふよと浮いて、じっくり聞き逃さないように集中して聴いていた。
〜〜〜〜〜〜
「〜ということがあってね……」
「へぇ……ミカさんが裏切り者だった、と……」
「うん。でも、私はミカも悪い子じゃないと思ってるよ」
「うーん、わたしにはそういうのはむずかしいです……でも、トリニティでの事件は無事に解決したんですね?」
「うん、そうだよ。補習授業部の子達もしっかり全員試験に合格したし……そうだ。今度、エデン条約が締結されるらしくてね。それまでに諸々の問題を終わらせておかなくちゃ……」
「大変ですね……頑張ってください!」
「うん。頑張るよ」
今日は、トリニティ総合学園の補習授業部と、トリニティの裏切り者騒動を終わらせて久々のシャーレへと戻ってきていた先生が、わたしにお土産にあった出来事のお話を聞かせてくれました。
「うーん……毎回せんせいがおみやげのお話を持ってきてくれるので、そのお返しがしたいんですけど……できることがないですね……」
わたしばっかりがもらっていて、なんだか申し訳なくなるので……わたしはシャーレから出れないので、いつもせんせいに話せる内容はないですし……
わたしが申し訳なくそう言うと、先生はにこっとわたしに笑いかけて、
「そんなのいいよ、ミズキ……私は、ミズキとこうして夜話せるだけでも嬉しいから」
「そ、そうですか……?えへへ……」
先生に褒められると、つい嬉しくなっちゃいます……!
「うん、そうやってにっこり笑ってくれた方が嬉しいな」
「うぇっ!?も、もう!せんせい、からかわないでください!」
「あはは、ごめんごめん」
全くもう、せんせいはすぐそういうこというんですから!恥ずかしいことばっかり!!
「それにしても、今回は長かったですね……」
トリニティに行った最初の頃は、毎日……もしくは2日に1回は先生が帰ってきていましたが、後半はしばらく帰って来られないほど忙しいようでした。
「そうだね、合宿につきっきりだったし……」
……むぅ、先生と1日中一緒なのを1週間も……合宿、ずるいです……
……
…………
………………
「…………それに、ちょっとさみしかったです」
…………あれ、いま私は何と?
「うん?ミズキ、何か言った?」
「い、いえ…………」
先生に聞かれ、慌てて取り繕うわたし。
「そう?ならいいんだけど…………」
……………………さみしい、ですか……
何年も1人でこのビルに居たのに、先生と出会ったらたった1週間も会えないだけでさみしくなるなんて…………
…………どういえばいいんでしょう、この気持ち……先生とずっと一緒にいたい…………
「どうしたの、ミズキ?さっきから暗い顔してるけど」
「い、いえ!?なんでもないです!」
…………一体なんなんでしょう?
「そうだ、ミズキ。エデン条約の調印式、見る?」
「え?で、でも…………わたし、お外には出られませんよ?」
「ふふ、中継もやるらしいんだよね。テレビを用意するから、見てみない?」
「てれび…………テレビですか…………それなら見れますね」
「うん、でしょ?キヴォトスの大きな節目みたいだし、ミズキも見ておいた方がいいと思ったんだ」
エデン条約……ですか……
調印式……ということは、お昼ですね。
…………お昼に起きてることってできるんでしょうか?今まではずっと眠くなったら寝ていたので、考えたこともありませんでした……
……今度試してみます!夜更かし……ならぬ昼更かし!ちょっぴりワクワクします!
「ところで、ミズキ」
「なんでしょう?」
「……ミズキのこと、生徒のみんなに広めていいかな」
「うえっ!?い、いいですけど……どうしてですか……?」
わたしのことを広めても、そんな良いことなんてないと思うんですけど……
「いや……関わる生徒が私も増えてきてね、必然的に話すことも多くなって……」
……え、まだわたしのことバレてなかったんですか?先生なら結構色々な人にわたしのことを話したりしているのかと……むしろ、
「…………今までそんなに意図して隠してたんですか?」
「うん。夜になったらすぐに帰ってもらってたし、夜のプライベートも適当に誤魔化してね」
「何でそんなに…………?」
「…………ミズキが見えないのに興味本位で見にこられても、ミズキは嫌かなって」
「そ、そんなことは…………」
そんなことは…………でも、先生は優しいから、きっとわたしと来てくれた人両方の相手をするんですよね…………
………………それは、なんかやです……
夜は、わたしと先生だけの…………
「まぁ、それならとりあえず……シャーレにはいい子な幽霊がいる、ってみんなに教えるけど、大丈夫?」
「は、はい!だ、大丈夫ですっ!」
思考が先生の声によって引き戻されました。
「よかった。みんなにミズキのことを知ってもらえたら、もしかしたら私以外にもミズキが見える子がいるかもしれないからね」
「……」
「嫌だったらちゃんと言ってね?」
「…………はい」
……先生は、きっと全て自分のためではなくわたしのために言ってるんだと思います。優しいから、わたしのためを思って今の提案をしてくれたんです。
……先生は、みんなの先生ですからね。わたしだけのものではないです。
わたしのわがままで他の生徒さんたちのしたいことを妨げてはいけないし、先生を独り占めするのもいけないことです……
「あ、もうこんな時間だね。そろそろ寝なきゃね……」
「あっ……」
そう先生に言われて時計を見てみれば、もう日付が変わってしまっていました。
「……そうですね、そろそろ寝なくちゃです」
「うん。じゃあ、寝る準備をしてくるよ」
……先生が行ってしまいました。最近の先生は、少なくともわたしの前ではしっかり健康に気を遣っているように見えます。
……話してくれた補習授業部の合宿では、遅くまで生徒たちのことで頑張っていた、って言ってたのに……
……いえ、先生が健康なことはいいことですね。ちゃんとどこかの学校に行った時も、できるだけ身体を休めるようにしているみたいですし……
「ミズキ?準備できたよ?」
「は、はい!今行きますね!」
「どうしたの?悩み事?」
「……いえ、大丈夫です。気にしないでください」
「……ならいいけど、悩みがあるならちゃんと相談してね。ミズキが暗い顔をしていると私も心配だから……」
「……大丈夫です!せんせい、早く寝ましょう!」
「……うん、わかったよ」
そうして寝室にやってきて、いつも通り先生はベットへ。わたしはベッドの横でふよふよと浮いていました。
「じゃあおやすみ、ミズキ。また明日の夜にね」
「はい、先生。おやすみなさい」
電気を消し、眠りに入った先生。静かに寝息が聞こえてきました。
…………わたしは、少しわがままをすることにしました。
もし目が覚めたら先生に嫌われてしまうかも……とも思いましたが、きっとばれないと……
そう信じて、先生の横に寝っ転がりました。先生には触れられませんから、きっとばれません。
ほんの少しでも、先生の近くに……先生と、長く一緒に……
……いつかは、触れられるようになりたいです。
……きっと、この気持ちはそういうことなんでしょう。
「…………先生、好きです」
…………わたしはちょろいのかもしれません。たった数ヶ月足らずで、しかも毎夜にしか会っていない人に恋をする程度には。
でも、先生が好きなのはもうごまかせません。ごまかしたくもありません。
……いつかは、先生もいなくなってしまうかもしれませんけど。
今は、今だけは
わたしの先生です
「……感想と高評価、くれますか?」