ビーデルがクリリンの弟子になった話 作:ゴクウ・
街の交番でクリリンは書類仕事をしていた。交番の外は平和な街並みで楽しそうに子どもたちも道を歩いている。そんなおり、1人の少女が目に入った。
「げっ!」
気がついた時には遅い、少女は交番に入りクリリンに頭を下げた。
「師匠!弟子にしてください!!」
その声に交番にいた同僚たちも呆れたように笑っている。その様子にクリリンは深いため息を吐いた後に真剣に答える。
「前にも言ったが、オレは師匠になれる器じゃないし、弟子を取るつもりもない。」
思い起こすのは武天老師の姿だ。少し抜けているし、スケベな所さえ目を瞑れば偉大な師匠だ。そんな人を差し置いて自分なんかが師匠になれるわけがない。それに、今は亡き親友を思い出す。彼の背中に届かず、武道を辞めた自分が今更師匠になれる資格なんてない。
「言っちゃ悪いが、君、ミスター・サタンの娘さんなんだろ?お父さんから教わるのはダメなのか?」
ミスター・サタンは世界チャンピオンだ。確かにクリリン達、Z戦士達に比べれば劣るが、それでも一般の社会ならば十分に最強だ。彼も銃で武装した人をたった1人で制圧できる程度には強いのだから、十分だろう。
「いいえ、あの動き、あの闘い。わたしは、あなたに教わりたいんです!!」
頭を下げたままのビーデルは動かない。その様子にクリリンはどうしたものかと頭を掻いた。ここ数日見慣れた光景で、同僚たちは苦笑いを浮かべるばかりで何も対応しなくなっている。その様子にクリリンは「薄情だぁ」と呟いた。
3時間くらいすると、ビーデルは「また来ます」と言って帰宅した。
(あの子、強引すぎないか?)
不思議とブルマやチチを思い出して、悪感情は抱かなかった。
◆
翌日、クリリンは18号と共にスーパーに買い物に来ていた。消耗品や食品を買い物カゴに入れていく、ありふれた光景だ。そんな2人を少し離れたところでビーデルが見つけた。
本日、ビーデルはこのスーパーにはたまたま訪れていただけだ。日用品の買い物は基本的に家政婦さんに任せてしまっているが、それでも、突発的に必要となったものや、頼み難いものは存在している。そのため、友人と遊びに出かけた帰りにたまたま寄ったところクリリン達を見つけたのである。
(あれは師匠……と、奥さんかな?凄い美人……。さすが師匠。)
ビーデルの中でクリリンの評価はかなり高くなっている。彼女も強引な性格であることは自覚しており、毎日頼み込みに行くのは非常識であることも分かっていた。その上で、怒られる覚悟で頼みに行ったのだが、クリリンは
さらに、クリリンの上司(通う間に仲良くなった)から聞いた話によるとかなりの愛妻家らしく、父が女遊びが激しいビーデルにとってかなりかっこよく感じてしまった。
だからこそ、最近トレーニングをサボりがちな父よりもクリリンの弟子になりたい。という思いが強くなった。というよりも思春期の少女からしたら、母が居なくとも女遊びが激しい父なんて普通に嫌だ。
(けど、これ以上は迷惑をかけられない。)
そう思い、今回、奥さんの前でお願いして断られたら諦めよう。そう自分に言い聞かせてクリリンへと駆け寄った。
◆
「師匠!!」
「げっ、ビーデル」
「師匠?」
生鮮食品売り場の前で、三者三様の反応をした。18号は一瞬浮気を疑ってしまったが、「師匠」と言う言葉が引っかかった。そして、すぐにクリリンが少女に武道を教えているのでは?という結論に辿り着いた。
そして、その様子を想像し、自分は武道に打ち込んでいる彼が好きなのだと改めて実感してしまった。
「……どう言う事だいクリリン? いつの間にか弟子をとってたんだい?」
18号の言葉にクリリンの代わりにビーデルが答えた。
「いえ、まだ正式な弟子になっていません。しかし、クリリンさんから武道を教わりたいのです。強くなりたいんです。どうか、わたしを弟子にしてください!」
頭を下げて言うビーデルにクリリンは困ったように笑った。
「てな感じでここ最近、ずっと付き纏われてるんだ……。」
その様子に18号は小さいため息をついた。
断るのならもっとハッキリと言っているはずだ。なのに、拒絶できないのは、きっと………。
(未練がありすぎじゃないか。クリリン。やっぱりお前は武道家だよ。)
「……しょうがないね。」
小さく呟いた18号は少し口角を上げた。
「良いだろう。………ビーデルだったか?」
「はい」
「これから少し付き合ってもらうよ。私から見て見込みがあるなら、クリリンへの弟子入りを許可しよう。もしダメならそこで諦めてもらう。いいね?」
ビーデルは今回ダメなら諦めようと考えていた。そこで舞い込んできたチャンスだ乗らないわけがない、「はい!」と、大きく返事をした。 対してクリリンはいきなりなことに驚き反応できなかった。18号はそんなクリリンを無視してどんどん話を進めて行った。
◆
そして、広めの公園に3人は移動していた。ビーデルと18号は動きやすい服に着替えており、少し距離を置きストレッチをしていた。18号は準備運動なんてする必要は無いが、ビーデルが気を使わない為に敢えて行っている。
「なぁ、18号さん。なに考えてるんだよ?まさか、コテンパンにして諦めさせるつもりか?さすがにそりゃ……。」
「何を言ってるのさ、クリリン。私はちゃんと見極めるつもりだよ。私の見立てだと、あの
「え、ぇえええ!ちょ、18号さん?!」
クリリンの叫びを無視して、18号はビーデルに合図を送った。叫んでいるクリリンをビーデルは心配そうに見ているが18号は「気にするな!今は試験に集中しろ」と、喝を入れた。
「じゃあ、いつでも好きにかかってきな。」
その言葉にビーデルは頷き、まず手始めに18号の腹に目掛けてパンチを放った。しかし、18号はひらりと身をかわす。その動きには無駄はなく、そして、余裕に溢れていた。
そこからさらにビーデルは連続でパンチを放つがその全てをかわしていく。
(この人、強い!)
ビーデルは驚いた。自分の猛攻を余裕でかわしている事に、そして、息一つ乱れていないこともだ。たとえ、父でさえ自分のパンチを連続でかわせば多少の息は乱れるのだ。
「このっ!」
顔に向かって蹴りを放つ。18号はそれを左手で受け止めて、そして、そのまま掴んで放り投げた。空中で弧を描き数メートル離れた場所に着地した。その時点で彼女は実力の差を理解した。
今の相手はきっと父の道場の誰よりも強い。自分を容易くこんなに投げ飛ばせる人なんて見たことがないし、普通じゃない。
(……けど、それでも)
彼女の目は死んでいなかった。
「はぁああ!」
18号の顔に向けて拳を構える。しかし、寸前で体勢を変えて足払いを放つ。フェイントだ。しかし、18号には効果はない。明らかに見てから対応しており、そもそも予測する必要もない。
だが、それでも負けじとビーデルは攻撃を放つ。
その様子にクリリンは釘付けとなっていた。
(……惜しい、今のフェイント、同い年のオレなら引っかかってた)
かつての自分を観ているようだった。
諦めずに努力をした。
親友と並びたいと、負けたくないと走り続けた。
決して勝てない差があっても楽しくて、輝かしかった。
そんな日々と彼女は重なって見えた。
(きっと、彼女には才能がある。)
気がつけばクリリンは拳を握りしめていた。勝てない相手に挑み続ける彼女に、見入っていた。久方ぶりに胸が熱くなっていたが、クリリンはそんな自分には気が付かなかった。
しかし、そんな様子のクリリンを18号はビーデルの相手をしながら見ていた。
(やっぱり……)
18号は楽しげに笑いながら言った。
「合格だ。」
「え?」
突然言われた言葉にビーデルは動きを止めた。まるで歯が立たなかったのに、手も足も出なかったのに言われた言葉に驚きを隠せなかった。
「なに驚いてんのさ。まさか勝つことが条件なわけ無いだろ?」
18号はそう言うと、クリリンの方を見た。
「と言うわけだからクリリン、しっかりとこの娘の面倒見るんだよ?」
こうしてビーデルはクリリンの弟子となったのだ。