ビーデルがクリリンの弟子になった話   作:ゴクウ・

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第4話

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 息を切らしながら少女は歩く。身の丈ほどの木の枝を杖代わりにして身体を引きずるように前を進んでいる。周りからは不審者を見るような目で見られる事も多いが、不思議な事に多くの人からは慣れ親しんだように扱われている。

 

「あ、ビーデル!おはよう、今日は早いね。」

 

 そんな少女、ビーデルに1人の金髪の少女が話しかけた。その声にビーデルは立ち止まり、ゆっくりと頭だけ振り返った。

 

「イレーザ……おはよう。」

 

 そう短く言うとビーデルはまた、トボトボと歩き出した。彼女は既に数時間歩きっぱなしである。しかも、恐竜が闊歩する荒野を駆け抜けているのだ。身体も心もボロボロである。

 

「……ビーデル、それ修行になってる? 適当なこと言われてるだけじゃない? 友だちとして騙されてないか心配だよ。」

 

 イレーザの言葉にビーデルはため息をついた。彼女の言葉は理解できる。この修行を続けてなんの意味があるのかは分からない。しかし、それでも分かってる事はある。

 

「……けど、師匠の強さは本物だから……。」

 

 その事実だけは覆らない。だから、しばらく我慢してみようと思っていた。仮にこれで何も変わらなければ、ただじゃおかない、と、心に決めて歩みを進めた。

 その様子にイレーザは小さくため息を着いた後、ゆっくり歩くビーデルに並走して一方的に話し始めた。

 

「で、最近、新しいコスメ買ったんだけど、パパから中学生には早いって怒られちゃって……」

 

「知ってた?隣のクラスのシャプナー、告白して振られたんだって」

 

 何が楽しいのか返事をする余裕のないビーデルに一方的に話しかけるイレーザはふと答えた。

 

「ビーデル、そういえばそんなリストバンドしてたっけ?」

 

 その目線の先にはビーデルが両腕にはめている水色のリストバンドである。デザイン性は全くないそれは運動をする時ならサマになるだろうが私服には全くマッチしない、平たく言えばダサいのである。

 そんなイレーザの問いにビーデルは答えた。

 

「……師匠から貰ったんだ。…………これ、1つで5キロあって、両手両足に合計20キロ。」

 

「うげぇ。どうりで、最近は少しずつマシになってきたのに、突然ボロボロになったわけだ……。けど、そんなのどこで売ってるの?」

 

「………分かんない。けど、………やっぱ、すごい重い」

 

 このリストバンドはクリリンがピッコロに頼んで作ってもらったものである。ピッコロは元は神ではあり、今ではZ戦士の中でも屈指の人格者ではあるが、かつてクリリンはそんなピッコロとある意味で同一とも言える存在に殺されたこともある。なのにフランクに弟子の為に重たい服を作って欲しいとお願いしてきたのである。

 このある意味誰とでもフランクに接する精神性は凄いと言えば良いのか、ズレているのか………。流石はあの孫悟空の親友と言えるだろう。

 

「到着っと!」

 

 教室に辿り着いて自分の席に座った。学校が始まる前から既に満身創痍な彼女だが、ここ数週間で皆慣れてしまい、無反応である。

 そして、始まるのは地獄の授業である。早朝から始まった登校という名の修行で既にへとへとだ。そんな状態では座ってるだけで眠くなってしまう。しかし、それに必死に耐えてビーデルは授業を聞いた。

 

『いいかビーデル。学校にはちゃんと通って真面目に授業を受けること。赤点を取ったら修行は中止だ。それに俺も勉強してたから武道会に勝てたこともある。』

 

 とは師匠の言葉だ。しかし、ビーデルの性格から、そんな事を言われなくても真面目に勉強はしていただろう。

 そして、昼休み。家のコックが用意したお弁当を平らげ、そのまま机に伏せて眠ってしまった。その様子にイレーザは心配そうに見ていた。

 

「……大丈夫なの?」

 

 イレーザとビーデルは友人である。お互いに趣味も嗜好も全く合わないが、しかし、不思議と気が合いいつの間にか仲良くなっていた、1番仲のいい友達である。

 しかし、そんな友人が突然、見ず知らずのおじさんの元に通いだし、そして弟子になったのである。心配で仕方が無かった。最近では毎朝こんなボロボロになっている。

 無論、ビーデルが武術をやっているのはイレーザも知っている。あのミスターサタンの娘で、彼の道場で幼い頃から鍛えられ、そして、最近ではそのトレーニングすら物足りなくなっていたのも知っている。

 

(けど、やりすぎよ……。)

 

 前々から止めたかった。それは正確ではない、正しくは今すぐにでも止めたい。しかし、それと同じくらいに止めたくないのである。

 理由は単純でビーデルが楽しそうだからだ。

 ビーデルは武術が好きで、毎日トレーニングを欠かさなかった。その努力は実り、腕前はどんどんと上がり、サタンの弟子たちをも超えていった。そして、最近では素人のイレーザから見ても凄腕の実力者となっていた。

 しかし、それと同時に少しつまらなそうにしていたのだ。張り合いがなさそうと言っても良い。越えるべき壁である父にはやる気は感じられなくなり、競い合うライバルもいない。そんなビーデルは張り合いを無くしてしまったのだ。それでも彼女は直向きに武道に向き合い、ようやく張り合いのある日常を手に入れたのだ。

 そんなビーデルを真横で見ていたからこそイレーザはボロボロになってまで修行する彼女を止めることが出来なかった。

 

 

 休日、朝、いつもの荒野に来ていた。修行は始まってないがすでにビーデルは肩で息をしており疲れ切っている。

 

「おはようございます。師匠」

 

 その様子にクリリンはゴム紐をビーデルに渡した。

 

「おう! じゃあ、早速始めるぞ。これを腰につけてくれ」

 

 ビーデルはそれを受け取ると不思議に思いながら腰につける。クリリンも反対側を大岩に結びつけている。そして、つけ終わると一言。

 

「………頑張れ!」

 

 クリリンはそう言い残すと、近くを歩いている恐竜に向けて軽めの気弾を放った。恐竜はその衝撃で足を止めて振り返った。

 しかし、その場には既にクリリンはいない。代わりにいるのはビーデルだけだ。

 

「………え、ぇえ!!」

 

 ビーデルは慌ててゴム紐を解こうとするが遅い。完全に頭に血が登った恐竜は一直線にビーデルに襲いかかった。それを寸前のところで回避するが、ゴム紐が邪魔で逃げられない。

 

「っ逃げるだけなら簡単なのに……」

 

 ビーデルはこの修行場に来るたび、高確率で恐竜に襲われている。はじめはクリリンに助けられていたが、最近では逃げることは出来るようになっていた。

 しかし、逃げるのと攻撃をかわすのとでは大きく違う。限られた範囲で攻撃をかわし続けるのは至難の業だ。上空で器用に弁当を食べているクリリンが視界に入る。

 

(………ッ、なんか腹立つぅう………!)

 

「……っ!」

 

 その時、恐竜の尻尾が襲いかかってきた。気がつくのが遅く喰らってしまう。かろうじてカードは出来たが地面に叩きつけられる。

 全身に走る激痛。しかし、骨は折れていない。まだ動ける。

 

(………どうする?)

 

 迫り来る大きな口、それをギリギリで回避する。

 回避できた喜びと、また襲いかかってくる攻撃への恐怖。

 

(集中しないと、集中………。)

 

 恐竜の動きを見る。見ただけで身体が勝手に反応する、なんてふざけた芸当は当然できない。わずかな動きでも見逃さず、攻撃を予想しようと必死に思考を回し、全神経を集中させ回避に専念する。それでようやくなんとかかわせるようになった。

 

(けど、このままじゃ……)

 

 かわし続けてもジリ貧だ。恐竜が辞めるまでかわし続ければ良いのだが、いつ終わるか分からないというのは精神をすり減らせる。

 

「っあ!もう!」

 

 集中力、体力の限界が迫るなか、ビーデルは賭けにでた。恐竜の攻撃をギリギリでかわし、一気に接近する。そして、恐竜の顎を蹴り上げた。

 

「ーーーーーー!」

 

 恐竜は叫び声を上げながらのけぞった。その様子にビーデルは目を丸くした。恐竜なんて巨大な生き物にダメージなんて入るとは思っていなかった。少し驚いて逃げてくれれば、程度の感覚だったのだ。

 しかし、ビーデルの蹴りは確実に小さく無いダメージが入ったのだ。

 

「これなら……」

 

 ビーデルは地面を蹴り加速する。そして、恐竜の右足に蹴りを入れる。その反動で恐竜はバランスを崩してしまう。その隙にさらに追撃として腹にパンチを放った。 

 うめき声を上げた恐竜は涙目となり、その場から逃げ出してしまった。

 

「すごい……。こんなに強く……」

 

 ビーデルは息を整えながつぶやいた。

 すでに彼女は常識外の強さを手に入れつつあった。もとより武道家として鍛えていた彼女はクリリンの修行により、その才能を開花させつつあった。

 

「はは、やったなビーデル。まさか追い返せるとは思わなかったよ」

 

 クリリンがそういうとビーデルは首を横に振った。

 

「いえ、ありがとうございます。」

 

「じゃあ、早朝の授業は終わりで、休憩したら午前の修行だ。」

 

 こうしてビーデルの修行は続いて行った。

 そして、その日の修行の終わり家に着くと携帯端末に一件のメッセージが来た。それを読んでビーデルは顔を強張せた。

 

(パパが帰ってくる。師匠のことどう伝えよう)

 

 絶対反対するだろうとため息を吐いた。

 

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