ハリー・ポッターの双子の弟   作:詩月(SHIZUKI)

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 ルークとマルフォイ、二人が再び顔を合わせることとなったのは、クリスマス休暇が終わって二か月近く経ったころだった。

 

「──こんなところで何をしてるんだ」

 

 背後から投げかけられた声に、ルークはゆったりと振り返る。

 

「君こそ……一人で寮の外へ出ることは禁止されているはずだ」

 

 睨むような視線をぶつけてくるルークの様子に、マルフォイは眉をひそめた。

 

「そっくりそのまま言葉を返させてもらう。──何を持ってる?」

 

 マルフォイの言葉にルークは過剰に反応し、脇に抱えていた黒い本を大事に抱え込みなおした。

 

「寮に帰りなよ。『秘密の部屋』の怪物が、君は怖くないの?」

「あいにく僕は純血でね。スリザリンの継承者が誰であれ、僕を襲う理由はないよ」

 

 

 クリスマス休暇が終わってからの二か月、事態は悪化の一途をたどっていた。

 コリン、ジャスティンに加えて二人のマグル生まれの生徒──ペネロピー・クリアウォーターとハーマイオニー・グレンジャーが襲われたのだ。

 これにより、クィディッチを含むすべての授業外活動などが禁止されてしまった。

 さらに校長であるダンブルドアは理事会からの糾弾を受け、学校を去ることを余儀なくされた。今ではホグワーツ閉鎖の話が現実味を帯びてきている。

 

「こんな状況に一人で廊下を歩いている不審人物を見かけたら、追いかけても来るさ」

「君はそんなに勇敢だったか?」

 

 唇の端を吊り上げて嫌みを飛ばしてくるルークの姿に、マルフォイはいよいよ表情を強ばらせた。

 ──実をいうと、恐怖で体が震えていた。この場から逃げ出したくてたまらない。しかし足がすくんで、それも叶いそうになかった。恐怖心を紛らわすように、ぎゅっと手に力を入れて握りこむ。

 

「一緒にいた友人たちに、スネイプ先生を呼んでくるよう伝えた」

 

 ピクリ、とルークの眉が動いた。

 

「君は……いや、お前は誰だ? ルーカス・ポッターじゃない……」

「ははっ、僕は正真正銘ルークだよ。マルフォイ、君は何か勘違いをしてるんじゃないかな」

「言い方を変えるか? ルークの体を好き勝手操っている、お前は誰だと聞いているんだ。その本──いや、日記帳だろう?」

 

 マルフォイのその言葉にルークは俯き、ふ、っと細く息を吐きだした。そして顔を上げる。彼の顔を見たマルフォイは、思わず短い悲鳴を上げた。

 明るいグリーンの瞳が、まるで血のような赤色に染まっている。能面のような表情で、口元だけがおぞましく歪んだ笑みを刻んでいた。

 

「純血の身ならば、おとなしく静観していればよかったものを」

 

 ルークの声にもう一つ、低い男の声が重なっている。不気味なノイズのようなその声に、マルフォイはとうとう腰を抜かした。

 なけなしの防衛反応か、杖を構えてルークの方へと向ける。しかし手が震え、視界も恐怖で白く明滅し、唇は震えて上手く呪文を紡ぎだせない。

 そんなマルフォイの様子を鼻で笑い、ルーク──否、男も懐から杖を取りだした。いつもの自信なさげな構えとはまるで違う。迷いなく、マルフォイに狙いを定めていた。

 彼の口が、呪文を唱えようと動く。何の呪文か、マルフォイは本能で察してしまった。

 ──殺される。生まれて初めて間近に感じる死の気配は、魂が抜け出てしまいそうな恐怖をもたらした。

 しかし、男が死の呪文を口に出すことはなかった。不愉快そうに眉根を寄せ、舌打ちをする。

 

「その魂をほとんど明け渡しておきながら、まだ抵抗ができるのか。──まぁいい」

 

 男が無言で杖を振る。杖から迸った赤い閃光に、マルフォイは意識を暗闇へと落とした。

 

 

***

 

 箒に乗って真っ直ぐ急上昇したときのような感覚だった。

 はっと目を覚ますと、視界には白い天井が映る。続いて、つんと薬品の匂いが鼻についた。魔法薬学の地下牢教室とはまた違う、医務室独特の薬の匂いだ。

 

「目が覚めましたか」

 

 突如、シャっとカーテンが引かれてマダム・ポンフリーが顔を見せた。

 

「まったく、何のために単独行動が禁止されているのかわかっているのですか? 一歩間違えれば、あなたが──」

 

 眉を吊り上げていたマダム・ポンフリーが、そこでふと言葉を濁した。痛ましげに顔をしかめ、唇を震わせている。

 

「何か、あったんですか?」

 

 ドラコ・マルフォイは身を起こし、わけもわからずに戸惑った声を上げる。

 頭に靄がかかったみたいで、記憶が朧気だ。──僕は一体、どうして医務室なんかにいるんだ?

 

「まぁ、よかった。目を覚ましたのですね」

 

 そう言って現れたのは、マクゴナガルだ。後ろにはスネイプ、フリットウィック、スプラウト──教師たちが慌てたような表情で集まってきていた。

 さすがにおかしな状況に、ドラコは混乱した頭で何とか記憶を引っ張り出そうと首をひねった。

 

「あなたは三階の廊下に倒れていたのです」

 

 その言葉を引き金に、ドラコは自分の身に起きたことのすべてを思い出した。

 サっと顔を青ざめさせ、声を震わせる。

 

「ルーカス・ポッターが、呪いの品に操られているんです! 彼が持ってる日記帳に! 早く取り上げないと、彼が危ない!」

「落ち着いて聞き給え、ミスター・マルフォイ」

 

 そう諫めるスネイプの低い声は掠れていて、彼も内心が凪いではいないことを表していた。

 

「ルーカス・ポッターは『秘密の部屋』に連れ去られた」

 

 あぁ──と、力ない声がドラコの口から漏れた。

 

「書置きが残されていたのです。──彼の白骨は永遠に『秘密の部屋』に横たわるであろう──と」

 

 洟をすすりながらそう言ったフリットウィックを、マクゴナガルがそっと窘める。

 

「生徒たちは全員、明日の汽車で帰還させられる予定です。マルフォイ、動けるようでしたら、セブルスと一緒にスリザリン寮へ戻っていなさい」

「待ってください!」

 

 ドラコは叫んだ。

 

「彼は、ルークはどうなるんです?!」

「……生徒たちを帰らせた後、捜索に当たります」

 

 そんなの、間に合うわけがない──ドラコは苦しげに喘ぐ。後悔と罪悪感で、全身が押しつぶされるような息苦しさだった。

 

「『秘密の部屋』を開けたのは、ルーカス・ポッターです」

 

 ぽつりとつぶやかれたドラコの言葉に、教師たちはいっせいに顔を上げた。

 

「なんですって?」

「彼は連れ去られたんじゃなくて、きっと、自分の足で歩いて『秘密の部屋』に行ったはずだ。──でも、それはルークの意思じゃない。ルークの体を操っている奴がいる」

「呪いの品……日記帳に操られていると、先程の言葉かね」

 

 スネイプの言葉に、ドラコは浅く頷いた。

 

「マルフォイ、あなたは何を知っているのです?」

「何も」

 

 首を振る。そう、自分は何も知らないのだ。すべてが推測──恐ろしい推測でしかなかった。

 

「とにかく……あなたは寮に戻りなさい」

 

 戸惑ったような、それでいて疲れきったようなマクゴナガルの声に、ドラコもゆっくりと頷く。全部、ただの悪い夢であればいいのに──今日ほどそう願ったことはないだろう。

 

 

***

 

 

 最悪、そんな言葉ではとても言い表せないほど落ち込んだ気分が吹き飛ばされたのは、なんとその日の夜更けであった。

 耳を疑うようなニュースが、いつにもまして鬱々としたスリザリン寮にもたらされた。──ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリーの二人が『秘密の部屋』からルーカス・ポッターを助け出して生還したというものだ。『秘密の部屋』の怪物も、倒されたという。

 あまりの衝撃に唖然としている間にパジャマ姿で大広間に集められ、わけもわからないまま宴会が始まった。周りの生徒たちもみなドラコと同じようなものだったが、グリフィンドール生の輪の中で頬を紅潮させてはしゃいでいるポッターやウィーズリーの姿がすべてを示している。

 マンドレイクの回復薬が無事に効き目を表したのか、石になっていたハーマイオニー・グレンジャーなどの面々も姿を見せ、さらに学校を追い出されていたはずのダンブルドアや森番のハグリッドまでいる。

 今までにないお祭り騒ぎの中、ドラコにとっていったいどこからどこまでが夢なのかまるで見当もつかなかった。──それもそのはず、この怒涛の出来事はすべて現実なのだから。

 

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