ハリー・ポッターの双子の弟   作:詩月(SHIZUKI)

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30.

 穴から外へ出ると、すっかり日は沈みかけていた。

 薄暗がりの中、遠くに見えるホグワーツ城の姿は圧巻だ。

 その景色を眺め立っているシリウス・ブラックに、ハリーはゆっくりと歩み寄る。そんな兄に、ルークもついていった。

 

「ここからの眺めは素晴らしいな。──また、あの城に戻りたい」

「……すぐ戻れるよ。ペティグリューさえ捕まれば、あなたは自由だ」

 

 ルークの声に、シリウスはこちらを振り返った。

 先ほどまで怒りに燃えていた瞳が、今は穏やかに凪いでいる。憑き物が落ちたようだった。

 

「もしかしたらどこかで聞いているかもしれないが……ハリー、ルーカス、君たちの名前は私がつけたんだ」

 

 この言葉に驚きを示したのはルークだけだった。ハリーは、えぇ知っていますと微笑んでいる。

 

「つまりシリウスは、僕ら兄弟の名付け親ってこと?」

「あぁ、そういうことになる」

「すごい……! ハリー、知ってたなら教えてよ」

「あの状況で言えると思う?」

「あはは、そりゃそうか」

「──君たちは本当に、」

 

 シリウスが何かを懐かしむように柔らかく目を細めた。

 

「ジェームズとリリーに似ている。まるで、二人が話しているみたいだ」

 

 両親に似ている。これはポッター兄弟にとって最高の誉め言葉だ。嬉しそうに顔を見合わせる彼らに、シリウスはふと緊張をごまかすように手を組んだ。

 

「君たちが……おじさんおばさんたちと暮らしていたいというなら無理強いはしない。……だがもしも、新しい家族が欲しいと望んでくれるなら……」

「えっ、」

 

 双子の声が重なった。

 

「あなたと一緒に暮らせるの?」

 

 ダーズリー家を出る。

 それが叶うなら、代わりに何を差し出しても構わない。そう思ってしまうほどに、切実な悲願だった。

 ハリーとルークの思いもよらぬ食いつき方に圧倒されたシリウスが口を開こうとしたその時、あたりにハーマイオニーの悲鳴が響き渡った。

 何事かと振り返った三人は、状況を把握するとともに息を呑んだ。

 

「薬、飲んでなかったんだ──っ」

 

 空にぽっかりと浮かぶ青白い真円。その光によって姿を変えたリーマス・ルーピンが、今にもハーマイオニーとロンに襲い掛からんとしている。

 

「逃げろ!!」

 

 シリウスは鋭く叫び、瞬きするよりも早くその身を大きな黒い犬へと変化させた。そして、狼の姿となったルーピンに襲い掛かる。二人はもつれるように崖下へと落ちていった。

 

「あぁ!」

 

 聞こえてきたロンの悲鳴に今度は何だと目を向け、ハリーたちも同じように叫び声をあげた。

 視線の先でペティグリューの姿がどんどん縮んでいく。あっという間にネズミの姿となった彼は、そのまま闇夜にまぎれてどこかへ消えてしまった。

 

「そんな!」

 

 彼がいなければ、シリウス・ブラックに掛けられた冤罪を払うことができない。だが一匹のネズミをこの暗がりの中見つけ出そうというのはあまりに至難の業だった。

 まさに絶望、立ち尽くすしかない四人の耳に低い唸り声が届く。リーマス・ルーピンが──否、人狼が牙を剥き出してそこに立っていた。

 

「シリウスは……」

 

 ルークの悲痛な問いに答えられるものは誰もいない。

 足の骨折のせいで立ち上がることのできないロンを囲うようにして固まる。恐怖で全身が強張り動けなかった。

 ふと、四人の視界を黒いローブが遮った。──スネイプだ。彼がルークたちを庇うように立っていた。

 しかしスネイプは杖を持っていなかった。先ほどハリーに武装解除の術を掛けられてそのままなのだろう。絶体絶命の状況は変わらない。

 ──その時だった。遠く、森の方から狼の遠吠えが響いた。その声に呼応するかのように人狼は吠え、森に向かって一直線に走り去っていく。

 

 危機を脱し、ルークの頭に浮かんだのはシリウスのことだ。

 ハリーも同じだったのだろう。スネイプの脇を走り去り、先ほど人狼とともにもつれ落ちていったほうへと駆けていく。ルークもその兄の姿を追いかけた。

 背後からスネイプと友人二人の呼ぶ声が聞こえたが構う余裕もない。──まだ、名付け親と話したいことがたくさんあるのだ。

 

 

***

 

 

 崖の下は湖のほとりで、開けた空間になっていた。そこに、シリウスが仰向けになって倒れている。

 兄弟は慌てて彼に駆け寄った。肩を引っかかれたのか出血していたが他に傷はなく、噛まれた様子もない。

 ひとまずほっと息をつき、これからどうしよう──そう顔を上げたルークは、目の前の兄の表情が酷く強ばっていることに気づいた。

 周囲の気温が急激に下がっていることにも。

 

「ディメンター……」

 

 それはさらなる絶望の光景だった。百を優に超えるであろう数のディメンターがこちらに滑るように向かってきている。三人が囲まれてしまうまで、本当にあっという間の出来事だった。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 ハリーが杖を振り上げ、ルークが聞いたこともない呪文を叫んだ。彼の杖先から銀色の光が迸り、ディメンターをわずかに退かせる。しかし、数の暴力の前には圧倒的に無意味だった。

 ルークはなすすべもなくその場に倒れこんだ。全身の血液が凍るような冷気に侵され、身体から力が抜けていく。鉛のように重くなっていく身体と裏腹に、頭はモノを考えられなくなりどんどん軽くなるようだった。

 何もできない、絶望感に溺れていく。──やがて、ルークの意識は闇に飲まれた。

 

 

***

 

 

 目を覚ましたルークが身体を起こすと、真っ先に飛び込んできたのはぽかんと口を開いたロンの間抜けな顔だった。

 

「あー、と……どうしたの?」

「い、いまハリーとハーマイオニーが──そこにいたのに消えちゃった!」

「え、大丈夫?」

 

 ロンの頭が。

 そう、割と失礼なことを考える。ルークはルークで、寝起きで頭がぼーっとしていた。──いったいどうして、僕は医務室なんかにいるんだろう?

 

「…………そうだ、シリウスはどうし──」

 

 ぎぃっと扉の開く音。ハリーとハーマイオニーが酷く息を切らして医務室内に入ってくるところだった。

 

「なんでぇっ?!」

 

 隣のベッドでロンが声をひっくり返す。

 

「ハリー! シリウスは? ディメンターはどうなったの?!」

「落ち着いてルーク。シリウスは逃げ出した。──ペティグリューが捕まらない限り自由にはなれないけど……少なくとも無事だよ」

「どういうこと? 説明してよ!」

 

 混乱しきったロンの様子に、ハリーが笑う。

 

「ハーマイオニー、君が説明してあげて。僕なんだか疲れちゃった」

「私も疲れちゃったわ。ロン、話は明日ね」

「えぇ……」

 

 ぞんざいに扱われ、そりゃないよとロンが肩を落とす。

 

「そうだ、ルーク。シリウスが君の欲しいものを教えてくれってさ。十二年分の誕生日プレゼントを贈りたいんだって」

「えっ!」

「ちなみに僕はもうもらっちゃった」

「──ファイアボルト?」

 

 ハリーがいたずらっぽく笑う。

 呪いは掛けられていなかったけど、ハーマイオニーの予想はどうやら当たっていたらしい。

 

「──シリウスと一緒に暮らせるなら、それ以上のプレゼントはないんだけどなぁ」

 

 ダーズリー家を出る。それはルークにとって実現不可能な希望だった。名付け親という存在によって、それが実現可能な起こりうる未来となったのだ。それがたまらなく嬉しい。

 

「プレゼントなんていらないから、もっとたくさん話がしたいな。父さんや、母さんのこと」

「うん、きっとまたすぐに会えるよ」

 

 ハリーとルークはお互いそっくりなグリーンの目を合わせ、幸せそうに微笑んだ。




✧ ルーカス・ポッター

重度の魔法薬学オタク。
年齢問わず年下扱いされがちな天性の弟キャラ。
すっかり髪が伸びたことでジニーを中心とした様々なグリフィンドール女子生徒に弄られ、割と日によって髪型がコロコロ変わる。髪を伸ばしている理由は単純で、母に似ていることが嬉しいから。
ジニーのことは親友兼姉のようだと思いつつ、実際姉となるかどうかに関しては傍観を決め込んでいる。
大人びているように見える場面も多々あるが、単に『我慢をすること』『自分の感情を抑えること』に慣れすぎているだけ。
ボガートと対峙した場合、おそらく自分(ハリーや友人たち、ドラコに見捨てられ一人になった何も出来ない弱い自分)になる。臆病な彼が真に恐れているものは孤独である。
自覚したドラコへの恋心はとりあえず心の奥底にある箱にしまい直した。ドラコが自分をどう思っているのか、考えを巡らす余裕は無い。


✧ ハリー・ポッター

大事な大事な弟が天敵(ドラコ)と仲良しだなんて、ましてや恋慕を抱いているなんて夢にも思ってない。
チョウ・チャンのことが気になっている。


✧ ロン・ウィーズリー

骨折するし愛するペットは親友の仇だし、結局次の日になるまで何も説明して貰えないしで散々な目に遭った人。
しばらく落ち込んでいたがシリウスにフクロウを貰ったことで少しメンタルも回復した。


✧ ハーマイオニー・グレンジャー

さすがに授業を詰め込みすぎたと反省し、占い学とマグル学をやめた。マグル学をやめると言ったらルークが捨てられそうな子犬そっくりの表情になったので三日悩んだ。


✧ ジニー・ウィーズリー

ルークのことは親友だと思っているが扱いはほとんど弟。
この度知り合ったルーナも合わせて三人で過ごすことがこれから多くなる。
ハリーともだいぶ打ち解けられるようになってきたが扱われ方は完全に妹で悩んでいる。


✧ ルーナ・ラブグッド

薬草学でジニーと知り合い、その流れでルークとも打ち解けた。この三人で過ごすことが増えたため、原作ほど虐めのような扱いは受けていない。


✧ リーマス・ルーピン

ポッター兄弟が想像していたよりもずっと両親(しんゆう)に似ていて驚いた。
この度スネイプのうっかり(・・・・)によりホグワーツを退職することになったが、諸々後悔はしていない。だが薬の飲み忘れには気をつけようと改めて思う羽目にはなった。
まさかルークに自分の正体を気づかれているとは思っていなかったので実はめちゃくちゃ驚いていた。


✧ シリウス・ブラック

ポッター兄弟が想像していたよりも──以下略。
二人の名付け子と共に暮らす夢は先延ばしになったものの、ハリーとハーマイオニーの機転により禁じられた森に生息するヒッポグリフに乗って逃亡に成功した。
このあとロンにはフクロウを、ルークには超高級な魔法薬素材数十種のセットを贈る。


✧ セブルス・スネイプ

まさかハリーに呪文をかけられるとは思っておらず油断していた人。
長期休暇を終えるごとにリリーの面影を濃くしていくルーク、ジェームズの面影を濃くしていくハリーにキリキリと胃を痛めつけられている。


✧ ドラコ・マルフォイ

まさか自分の行動と言葉が一年生の時にルークを救っていたとは微塵も思っていなかった。
しかし今回ドラコもルークに救われたし、そのことをルークは気づいていないのでどっちもどっち。
ルークに対して奇妙な執着、庇護欲のようなものを抱き始めていることにはうっすら気づいているが、それが恋愛に連なるものとはまだ理解していない。
ホグズミードに行った時もルークのことばかり考えていて、無意識のうちにそれなりに値をはるプレゼントを買ってしまっており愕然とした。
シリウス・ブラックとポッター兄弟に関わる話の顛末は事件後ルークに聞いて知った。
いい歳した男(しかも罪人)が変身したネズミを知らずに可愛がっていたロンのことを流石に哀れみ、あろうことかそれを本人にぶつけた(唐突に『お前も可哀想な奴だな』と言った)ために大喧嘩となった。
さすがにドラコが悪い。
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