学校中から白い目を向けられて針のむしろに立たされる生活は中々にキツいものだったが、ハリーの心配に反してルークは強かにいつも通りの様子だった。──もっとも、彼に何か言おうものならジニーやロン、ハーマイオニーがすっ飛んできて噛み付くものだから、誰もルークに直接悪態を吐いたりできないのだ。
対抗試合の課題対策でルークに付きっきりになれないハリーにとってはありがたいことだった。
炎のゴブレットにハリーの名前を入れた人物が誰か、未だ判明していない。ハリーに対する悪意か、あるいはポッター兄弟に対する悪意か分からない以上、警戒はすべきだ。
今年のトーナメント第一課題は『ドラゴンを相手に戦う』──ドラゴン学者の仕事をしているチャーリー・ウィーズリーからロンを通してそれを知った時ハリーは真っ先に、課題当日までルークに課題の内容を知られないようにしなければと悟った。
ハリーも、弟の夢の中で毎夜ドラゴンに殺される羽目になるのは勘弁願いたかった。
しかしついにやってきた第一課題当日。朝食の席でとうとう発表された課題の内容に、ルークはこの世の終わりのような声をあげて崩れ落ちた。
「……ドラゴン──ドラゴン?! 対抗試合の企画を行ってる人は頭がイカれてる! ドラゴンなんて大人でも一体一で闘える生き物じゃないのに!!」
「ルーク、ルーク落ち着いて」
「これが落ち着いていられる? ハリー! 君こそもっと焦るべきだよ!」
「僕は、その──知ってたし」
一応まわりの耳を気にして、ハリーはそっと声をひそめた。
「何もドラゴンを倒す必要があるわけじゃない。卵を奪えばいいだけだ」
「卵を守るドラゴンの凶暴性をまさか知らないわけじゃないよね?」
「それは……うん」
「なんでそんな平然としてるの……」
実際、ハリーは自分でも驚くほど落ち着いていた。
例年のクィディッチ試合前の方が緊張しているのではと思うほどに。
今回の課題、対策として考えた戦略は至ってシンプル。
作戦の肝となるアクシオに関しては、ハーマイオニーの徹底的な扱きとロンの手助けにより、ほとんど完璧に扱えるようになったと言っていい。
課題の会場から箒置き場まではかなり距離があることに不安は残るが、おそらく大丈夫だろう。
「ルーク、落ち着けって。ハリーは一年生の段階で『例のあの人』から賢者の石を守ってるんだぞ。アイツに比べたらドラゴンが何だ」
「それに、去年は守護霊の呪文でディメンターの群れを追い払ってるわ」
「二年生の時はバジリスクとも戦って勝ってる」
ロン、ハーマイオニー、そしてジニーからのフォローの言葉にハリーはどこか気恥ずかし気に肩をすくめる。しかしこうして己の学校生活を振り返ると、平穏だった年が無いことに若干落ち込みもするが。
ルークはというと、当然そんなフォローで納得できるはずもなくブツブツと対抗試合運営委員会への不満をこぼしている。
実際ハリーも課題の内容がドラゴンだと知った時、大人たちは正気かと目を剥いたものだから弟の不満や不安は嫌というほどに理解できた──それでも、何とかなるだろうという確かな自信が、今のハリーにはあった。
「大丈夫だよ、ルーク」
それはこれまでの
「ハーマイオニーが呼び寄せ呪文を教えてくれて、ロンが練習を手伝ってくれた。箒の才能は──父さんから譲り受けたものだ。それに、僕には母さんの『護り』もある。
そうして始まった第一の課題──ルークはウィーズリー兄妹とハーマイオニー、レイブンクローから応援に来てくれたルーナの四人に支えられながら兄の闘いを見守った。
ハリーが見惚れるような飛行でドラゴンを翻弄する間に四回ほどルークの意識はどこか遠くへ飛んで行ったが、兄は見事に金の卵を奪い課題を突破した。
──何とか無事に第一の課題を終えた安堵で、ハリーは今更ながらに自分の体が震えるのを感じていた。
がくがくと力が抜けそうな膝を叱咤し救護用のテント内に滑り込んだハリーを、顔面蒼白で自分よりも具合の悪そうな弟が出迎える。
ルークはマダム・ポンフリーを押しのける勢いでハリーに駆け寄り、ローブの内側から小瓶を取り出してその中身を腕の傷口に容赦なくぶっかけた。紫色の液体がシュワシュワと弾けるような音を立てて煙を出している。すかさずマダム・ポンフリーが杖でハリーの腕を叩いた。たちまちに傷が癒えて痛みが引いていく。
「ありがとう」
ハリーの言葉に、ルークは静かに唇を震わせた。
幼い時みたく泣きじゃくるようなことはないものの、そんな弟の姿は兄の罪悪感を十分すぎるほどに刺激する。
「……第二の課題はもうちょっと穏やかだといいな」
「うん──本ッ当にそうであってほしい」
兄弟の、心からの言葉であった。