ハリー・ポッターの双子の弟   作:詩月(SHIZUKI)

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 第三の課題は夜に行われることとなった。

 月明かりに照らされたクィディッチ競技場には、魔法で作られた巨大な立体迷路が設置されている。薄らとかかる霧に包まれたそれは、なんとも言えぬ不気味さを呈していた。

 同点数を持ち暫定一位であるハリーとセドリックが、バグマン氏の鳴らす笛の合図で最初に迷路へと入っていく。

 グリフィンドールを象徴する紅のラインが入った競技服の背がモヤに消えていくのを、ルークはグッと唇をかみ締めて見送った。

 

(父さん、母さん……ハリーが無事に戻ってきますように)

 

 祈るように手を組み、天で見守ってくれているであろう両親を想う。

 何かあっても、二人が守ってくれますように、と。

 

 

「──ルーク!」

 

 全選手が迷路内に消えてから少し経った頃、背後から彼を呼び止める声があった。甲高い少年の声──デニス・クリービー。ハリーの熱狂的ファンであるコリンの弟だ。

 

「どうしたの?」

「あの、今そこでムーディ先生がルークを呼んで欲しいって行ってきたんです」

「……なんでいま?」

 

 もっともな疑問を呈したのは隣にいたロンだ。

 第三の課題が始まった今、わざわざ呼び出す理由がどこにあるというのだろう。

 

「僕にはわからないです……でも、防衛術の教室に来て欲しいって。その、なるべく急ぎで」

「えぇ……うん、でも呼ばれてるなら行かなきゃ」

「一緒に行くわよ」

 

 そう腰を上げたジニーを、ルークは片手で制した。

 

「大丈夫。ジニーはここで僕の分までハリーを応援してあげて」

「そう……わかったわ」

 

 その時、わぁっと声が上がった。

 思わず振り返ると、迷路上空に赤い花火が上がっている──誰かが脱落したのだ。

 

「……とにかく行ってくるよ」

 

 課題の様子は気になったが、名指しで呼ばれている以上無視する訳にも行くまい。

 

「気をつけてね」

 

 友人たちの言葉に頷き、ルークは足早にその場を離れた。

 

 

***

 

 魔法の迷路が設置されたクィディッチ競技場から防衛術の教室がある塔まで、距離はそれほど離れていない。

 小走りで教室に駆け込んだルークを、いつもと変わらぬ様子のマッド-アイが出迎えた。

 懐から取りだした小瓶の中身を勢いよく煽っている。

 この中身が何であるのか、彼がホグワーツに来てもうすぐ一年──未だ謎は解明されていない。

 

「先生、あの……デニスから僕を呼んでるって聞いて来ました」

「あぁ、全く待ちわびた」

「すみません、急いだんですけど」

「そうではない──いや、いい、ルーカス・ポッター」

「はい……?」

 

 ルークの片手が、自然と腰に差してある杖へと伸びた。

 マッド-アイ──もといアラスター・ムーディは元闇祓いの教師だ。当然、信頼を置いている。しかし同じくらいに、警戒心も抱いていた。

 例のあの人が教師に取り憑きホグワーツ内に侵入していた、その実績があるので。

 

「そこに置いてある懐中時計を取ってくれ」

「はい?」

 

 だからこそ、これには拍子抜けしてしまった。

 本当になんのために呼ばれたのだと眉間に皺が寄る。

 そこに、と示された埃の被る机には、確かに一つ古ぼけた懐中時計が置かれていた。

 

「──あの、先生。この時計壊れてます。針が動いてない」

「いいから」

 

 ムーディは少し苛立ったように語気を荒らげた。

 

「早く、それを寄越せ」

 

 圧を向けられるのは苦手だ。

 びくりと肩を震わせ、ルークは言われた通りに懐中時計を手に取った──瞬間。

 臍を内側から掴まれたような、衝撃。

 ぐるりと視界が反転し、意図に反して両足が地面から離れる。そして、何かに吸い込まれるように、全身が空へと引きずられた。

 

***

 

 どさッという鈍い音と共に、身体が強かに地面へと打ち付けられる。

 衝撃と痛みに呻きながら起き上がったルークは、目の前に広がる光景に愕然と硬直した。

 

 ──墓地だ。

 

 さっきまでホグワーツ城、防衛術の教室に居たはずなのに。

 城の輪郭どころか、それを取り囲む山々すら見えない。

 一体どれだけ距離が離れているのか──どこかも分からない墓地の中に一人立っている。

 月が雲に隠され、暗闇の中に鴉の鳴き声が不気味に響いていた。

(……ポートキー)

 

 夏休み、魔法薬学研究発表会へと向かうために使用した魔法が、あの懐中時計に仕掛けられていたに違いない。

 それを察した瞬間、血の気が引いた。

 

(ゴブレットにハリーの名前を入れたのはムーディ先生だった……? そして今度は僕をここに連れてきた。その狙いは──)

 

 兎にも角にも、この場を一刻も早く離れなければ危険だ。

 咄嗟に杖を取りだした手が震えている。ルーモスを唱え、地面を照らした。

 

「懐中時計……どこ」

 

 辺りに転がっているであろう懐中時計(ポートキー)を探そうとしたその時、背後からどさりと音がしてルークは思わず小さな悲鳴をあげた。

 

「いっ、たた……ここ、は?」

「ハリー? それに、セドリックも!」

「──え、ルーク?!!」

 

 地面に倒れ込んでいたのは先程迷路に見送った、競技服姿の二人だった。

 

「なんで、なんでルークがこんなところに?! いや、そもそもここはどこ?」

 

 すっかり混乱したように声を裏返すハリーの肩を、セドリックが宥めるように叩く。

 

「優勝杯がポートキーになってたんだ。……ルーク、君はどうやってここに?」

「──ムーディ先生に呼ばれて、懐中時計を取ってくれって言われたんだ。従って、気づいたらここにいた」

「懐中時計──もしかしてこれの事か?」

 

 セドリックがふと足元に落ちていた古びた時計を拾い上げる。すると彼の輪郭が歪み、瞬きの間にセドリックは姿を消していた。

 

「もど、った……?」

「僕らも早く帰らないと! ……優勝杯は──」

 

 ポッター兄弟の立つ場所から数メートルほど離れた先に、青く輝く優勝杯が転がっていた。

 駆け寄ろうとしたその瞬間、二人の身体がふわりと宙に浮いて悲鳴が重なる。

 必死で抵抗するも、重力がかからない身ではどうすることも出来なかった。

 そのまま墓地に立つ像に磔の形で拘束され、自由を完全に奪われる。

 

「ルーク、ルーク大丈夫?」

「ハリー」

 

 怯えるルークの視線の先、暗闇の中からぬるりと人影が現れる。

 兄弟に杖を向けたその人物の顔が明らかになると、ハリーは呻き、ルークは喉奥を引き攣らせた。

 

「──ピーター・ぺティグリュー」

 

 両親を裏切り死に追いやった人物。名付け親に罪を擦り付け、十三年間逃げ延びた。去年やっとの思いで捕らえられたのは一瞬だけ、虚しくも逃してしまった彼が、いま目の前に立っている。

 彼の登場は背後にいる存在を容易に気づかせてくれた。

 

 ──今年起きた、一連の事件。

 

 ──やはり全ては、ヴォルデモートの仕業であった。

 

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