ハリー・ポッターの双子の弟   作:詩月(SHIZUKI)

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「……ルーク、いまの聞こえた?」

「……うん」

 真夜中。ハリーの囁くような声に、ルークは暗闇の中で目を開けた。──ガラスが割れるような音が、階下から微かに響いたのだ。

 ダーズリー一家の帰宅ではない。寝てる兄弟に気を使って静かに帰ってくるなんてありえないし、何より車のエンジン音がしなかった。

 

「泥棒か何か?」

「降りてみる。ルークはここにいて」

「ハリー、僕も──」

 

 一緒に、と言いかけたルークを、ハリーは視線で黙らせた。首を振り、もう一度強くここにいるようにと言い聞かせる。不満げに──それでも、頷くことしかできない。

 

 ハリーが部屋を出て行き、ルークは息を潜めたまま扉に耳を押し当てる。階下から、取っ組み合うような物音は聞こえない。──だが、ぼそぼそとした男の声が聞こえてくる。

 ……まさか、まさか『例のあの人』ではないか。

 ルークは心臓が今にも口から飛び出しそうな心地で、ぎゅっと目を閉じる。

 

「ルーク!」

 

 だから、自分の名を呼ぶ声が聞こえた瞬間、彼は文字通り飛び上がった。──この声は、

 

「──……ッ! ルーピン先生!」

 どたばたと荒々しく音を立てながら階段を駆け下りたルークは、目前に現れた存在に歓声を上げた。

 

「やぁ、ルーク、久しぶり。──なんだかますますリリーに似てきたなぁ。元気そうでよかったよ」

「先生も……」

 

 お元気そうで、と言える風貌ではなかったので言葉に詰まってしまったが、ルーピンは気にする素振りもなくルークの肩を優しく叩いた。

 最後に会った時の姿より、さらに窶れて白髪が増している。ローブはますます継ぎ接ぎが増えていたが、穏やかな光を湛えた瞳と柔らかな笑顔は何も変わっていなかった。

 

「え、っと……どういう状況?」

「お前さんたちを迎えに来たんだ。」

 

 杖先に灯る小さな魔法の明かりに照らされて、一人の男が廊下の奥から現れた。その姿を捉え、ひゅっとルークの喉が鳴る。

 低く唸るような嗄れ声には聞き覚えがあった。こつんこつんと杖が床を叩く音、ぐるぐるよく動く青い義眼──マッドアイ、否、アラスター・ムーディだ。

 ()の策略によって墓地に飛ばされ、闇の帝王の復活を目の当たりにし、さらにこの世の痛苦を一瞬に凝縮した拷問にかけられた──その忌まわしい一連の記憶が瞬間的に脳裏によみがえり、ルークの頬は引き攣った。

 もちろん、あれは本物のムーディではなくバーティ・クラウチJr.という名の死喰い人(デス・イーター)が成りすましていたことは知っている。それでも、恐怖というのは理性に反して身体を支配するものだ。

 弟が身を強張らせたことに兄が気づかないはずもなく、さりげない仕草でルークとムーディの間に割り入った。誰も何も言わないのは双方への配慮である。

 

「迎えにってのはどういうことですか?」

「その前に──ルーピン、こいつらは確かにポッター兄弟か?」

 

 油断大敵! ムーディ()()が頻繁に口にしていたその言葉を思い出す。……アレは『本物』の口癖だったのか──と改めて、一年間もの間ホグワーツの人々を欺き続けたクラウチジュニアに今更ながら感心を覚えてしまった。もっとも、彼は今アズカバンに収容されているが。

 

「そうだね。では本人たちしか知らないことを質問しようか。──ハリー、君の守護霊は何だい?」

「牡鹿です」

 

 ハリーはケロリと答えた。自分が本物のハリー・ポッターであることは間違いないのだから、堂々とするのも当然である。

 

「ではルーク、君はどうして私の正体に気づいた?」

「ジニーたちが話してた……先生が、青い煙の立つ魔法薬を飲んでたって。……その特徴からです」

 

 うん、とルーピンは満足気に頷いた。

 

「間違いなくハリーとルークだ」

 

 その言葉に被せるように、「うそぉ!」という女性の声が響いた。

 パッと兄弟の首が声の発信源に向く。

 

「魔法薬のそれだけで気づけるもの?」

 

 紫色のショートヘアが夜闇に映える魔女だった。きらきらとした瞳が、彼女の溌溂とした性格を表している。

 

「あー、えっと、正しく言ったらもうちょっと──苦味とか、色とか、飲み方とか……」

「だらだら話してる時間はないぞ」

 

 ぴしゃりと窘めるムーディの声に、ルークは反射的にすみませんと謝った。紫の魔女は軽く肩をすくめるだけで、ルークににっこりと無邪気な笑顔を向けてくる。

 

「私のことはトンクスって呼んで」

「ルークです。……その、どうぞよろしく」

 

 暗い周囲をよくよく見まわすと、実に八人もの魔法使いがいた。

 毛嫌いしている連中が知らぬ間にずかずか家に上がり込んでいるなんて、夫妻が知ったら怒り狂うこと間違いなしだ。

 

「……それで、僕たちを迎えに来たっていうのは?」

 

 ハリーが先ほどと同じ質問を重ねた。ムーディはハッと鼻を鳴らす。

 

「言葉通りの意味だ。わしらはお前たちの護衛。目的地には箒で向かう」

「えっ!」

 

 無意識にこぼれ出た叫びだった。ルークは慌てて自分の口を手で覆う。

 

「僕の後ろに乗せてあげるから」

「えっ、あ、うーん……ありがとう……」

 

 断れる状況ではないため、がっくりと肩を落とすことしかできなかった。ハリーの飛行は少々荒いので、あまり積極的に乗りたくはないのである。

 

「すまないね」

 

 ルークの箒嫌いを知っているルーピンが眉を下げた。

 

「煙突飛行ネットワークは見張られているし、君たちは『姿現し』するのに若すぎる」

 

 申し訳なさそうにするルーピンだが、当然ながら彼は何も悪くないため乾いた笑いで返す他ない。

 

「ともかく、さっさと荷物をまとめることだ」

 

 ゴツン、とムーディーが杖で床を叩き鳴らす。それを合図にするかのように、ポッター兄弟は慌てて階段を駆け上がった。

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