【ドローレス・アンブリッジ ホグワーツ初代高等尋問官に任命】
記事ではもっともらしく『教育改革』などと謳っているが、実情は行き過ぎた干渉──言ってみれば監視強化だ。文中に差し込まれた父の肯定的なインタビューは、何も知らなければ誇らしく思えたのだろうか。そんなことを考えてしまい、ドラコの眉間に無意識のまま皺が寄る。
実際のところ、魔法省は
「ドラコ?」
突如鼓膜を通して脳内に割り込んできたパンジー・パーキンソンの甲高い声が、ドラコの意識を強制的に引っ張り上げた。
「怖い顔しちゃって、どうしたの」
「あぁ、その、昨日夜更かししたせいで目が霞んでしまって。……けどもう大丈夫だ」
「そう? 無理をしてはダメよ」
パンジーの猫撫で声に、ドラコは愛想笑いで返した。
「その記事、魔法省は随分
ドラコの手元をひょいと覗き込んでそう言ったのは、ブレーズ・ザビニだ。へらへらと気取ったように笑う彼は、朝から随分と機嫌が良さそうに見える。理由は聞かないに越したことがない。
「あのピンク女の言うことさえ聞いてれば、O.W.L試験もラクに通れるってことだ」
「あら、そんなに都合の良い話ではありませんよ」
ツンと澄ました声でザビニの楽観的な発言を切ったのはダフネ・グリーングラスである。彼女はザビニの方へ目もくれず、嘲笑うように鼻を鳴らした。
「魔法省にそこまでの
ダフネは顔を上げ、同意を求めるようにドラコを見た。
「あぁ」
ドラコはさも当然という表情を作って浅く頷く。
「少なくとも僕は、アンブリッジ先生の手助けとなるよう動くつもりだ」
その声の白々しさと言ったら、思わず自分で自分を嘲笑ってしまいそうになる。しかし当然そんな失態は犯すはずもなく、ドラコはこれ以上の雑談を拒むように新聞を畳んだ。
貴族たるもの。
他人の目に映る己の姿を常に意識するように、と幼少期から幾度も言い聞かせられていたが、ここ一年ほどで急激に上達したように思う。内心を気取られぬように、本心を見透かされぬように、視線から指先の動かし方まで完璧にコントロールして【ドラコ・マルフォイ】を取り繕うことは、もうすっかり癖づいてしまった。
弱冠十五にして、一端の貴族らしく大いなる秘密を抱えてしまったドラコにとっては、もはや家さえ安息の地とは言えない。学校では猶のこと注意深く息を詰めねばならなかった。誰か一人でもドラコ・マルフォイとルーカス・ポッターの関係に気付いてしまえば、どんな恐ろしい破滅が待っているかなんて想像したくもない。
だからドラコは、衆目のある中ではなるべくルークに意識を向けないようにしていた。英雄の片割れ。敵対している男の弟。出来損ないの方のポッター。──【ドラコ・マルフォイ】であれば歯牙にもかけないだろう存在だ。
深みのある赤色が視界の端で揺れる度、耳心地の良いアルトボイスが鼓膜を震わす度、心臓を掻き毟りたくなるような渇望に
完璧に象られた己の仮面の下で、ドラコはひっそりと息をしていた。
毒を嚥下するように、
必要の部屋に行きたい。二人だけの秘密の部屋に籠っていたい。そんな欲望を肋骨の下に押しとどめながら、ドラコは朝食の席を立った。