「スネイプ先生!」
「──ルーカス・ポッター、廊下を大声を出しながら走るというのはあまりにも品性に欠ける行動とは思わんかね」
「すみません。でもそんなことより先生、一昨日の試験の採点、僕の分はしましたか? どうだったでしょうか」
長かった試験期間がようやく終わり全生徒が解放感に包まれている中、ルークはようやく見つけたスネイプに期待と興奮の眼差しで詰め寄った。
魔法薬学の試験は実技と筆記で行われる。実技は忘れ薬の調薬で、正直こちらの方は完璧にできたと自画自賛していた。問題は筆記の方だった。
初日の授業で「知識は正しく身につけろ」と注意されたのを反省して暗記で何とかなる範囲はどの科目も必死でやったのだが、いかんせん自分の記憶力はハーマイオニーほど超人じみていないので自信はあまりない。
おまけに筆記試験の最後には解く解かないの選択が自由なオプション問題が付け加えられていて、その内容は明らかに特別授業を受けているルークとマルフォイに対する問だった。
何とか頭をひねって解ききったが、これで点が低かったら今後スネイプに合わせる顔がない。
「採点は終わっている……が、結果発表は全科目同時に行われるというのが決まりだ。そう説明は既になされているはずだが」
「うぅ……他の科目の点数は正直見なくても……その、何となく想像がつきます」
筆記試験がメインの科目ならまだ見られる点数だろうが、実技がメインの科目は正直目も当てられない。妖精学の試験ではパイナップルをタップダンスさせるどころかただゴロゴロと転がしただけだったし、挙句の果てに机から落っこちていった。
変身術のねずみを嗅ぎたばこ入れに変える試験では、ひげどころか尻尾も耳も毛も生えた世にも気持ち悪い嗅ぎたばこ入れを作り出してしまい羞恥心で死にそうだった。
散々だった試験のあれこれを思い出して肩を落としたルークの姿にスネイプは大きくため息を吐く。
「──実技、筆記ともに学年で一番の成績だった」
その言葉の意味を頭で解するのに、数秒がかかってしまった。ハッとして顔を上げると、スネイプはすでにローブを翻して立ち去ろうとしている。
ルークは喜びと興奮で頬を真っ赤にし、その背中に向かって慌てて「ありがとうございます!」と投げかけた。
自分が最も好きで得意で、勉強にも時間をかけた科目で期待通りの成績を叩き出せたことに心底満足したルークは、その日も満ち足りた気分でベッドに入りすぐに夢の世界に旅立った。
──だからその夜、双子の兄と友人たちがとんでもなく危険な冒険に出かけたことを、ルークは翌朝知ることになる。
***
「ハリー!!!」
ダンブルドアが出ていくのとほとんど入れ違うように医務室に飛び込んできたのは、目を真っ赤に腫れ上がらせた双子の弟だった。
「ルーク」
声を掛けると、ハリーのベッドにバタバタと駆け寄ってくる。同年代の中では小柄なハリーよりもさらに少し小さいルークは、ぼろぼろと涙をこぼしながらしゃくりあげていると同い年とは思えないくらい幼さが際立った。
「なんで、なんで何も言ってくれなかったの? こんな危ないことに首突っ込む前に、僕にも何か教えてよ。試験が終わった次の日の朝、君が『例のあの人』とやり合ったって知って、僕がどんなに心配したか……。君は、全然目を覚まさないし──っ」
息を詰まらせながら、それこそ本当に幼子のように泣くルークの姿にハリーはさすがに胸が痛くなった。
今回のこと──ニコラス・フラメル探しのころから、ルークには何も関わらせないようにしようと決めたのはハリーだ。
「ルークにも手伝ってもらおう」と提案するロンとハーマイオニーに「彼には何も言わないで」と頼み込んだのも。
決してルークを仲間外れにしようとか、そんな意地悪な気持ちがあったわけじゃない。単純に、ハリーはルークを少しでも危ない目に遭わせたくなかったのだ。
ハリー・ポッターとルーカス・ポッターは双子である。両親もいなかった彼らにとって、どちらが兄でどちらが弟かなどというのは実際のところ分からない。それでも二人の中では物心ついた時からハリーが兄で、ルークが弟だった。ルークは昔から泣き虫で臆病で、そんな彼を守るのがハリーの自然な役目だったからだ。
ハリーにとってルークはいつまでも頼りない、可愛い、守るべき弟だった。だから今回も何も心配かけたくなくて、怖い思いをさせたくなくて全ての危なそうなことは黙っていたのだ。
「ごめん、ルーク。そんな……泣かせちゃうほど心配かけるつもりはなかったんだ。ごめん」
「今度から……ちゃんと僕にも言ってよ。僕は情けないし弱いし魔法も下手糞で頼りないかもしれないけど、ハリーがどんどん僕から離れて知らないところに行っちゃうのは寂しいんだ」
止まらないしゃっくりで途切れ途切れになりながら必死で言葉を紡ぐ弟に堪らなくなって、ハリーはルークの頭を撫でる。
いくら泣き虫だったとはいえこんなふうに盛大に泣く弟を見るのは久しぶりで、それだけ今回のことがどれだけ心配かけたかがわかって罪悪感が胸を満たす。
「約束する。次からはルークに大事なことを隠したりしないよ。心配かけて本当にごめん。でも忘れないで、僕がルークを置いてどっかに言っちゃうなんてありえないよ。だって僕たち双子だろ。置いていったりしないから、そこは安心してよ」
ハリーの言葉に、ルークはまた泣きそうなくしゃくしゃの顔をして何度もうなずいた。
「僕も、ハリーをあんまり待たせちゃわないように頑張るから。もっと、魔法も上手くなるように、もっともっと頑張るから……っ」
「うん、応援してる。でも無理はしないでよ。ルークは真面目だから、あんまり自分を追い込んじゃだめだ」
「そうだね……うん、気を付ける」
ようやく、ルークが微笑みハリーも安堵したように微笑みを返す。
その時、医務室にまたしても来訪者があった。ハグリッドだ。
「ハリー!!」
と、ルークと同じように入口で叫んだ彼は、ドスドスと大股で勢いよくハリーの元に駆け寄った。
「無事で良かった、本当に。俺が余計なことあれこれ口滑らしたせいで本当にすまねぇ」
ボロボロと涙を零して謝る彼に、ハリーは思わず破顔する。
「いいよハグリッド。僕は無事だし、お見舞いに来てくれてありがとう」
「そんな……いいんだ、そんなことは。──あぁそうだ、ルークもいるならちょうどいい。二人にこれを渡したいと思って作ったんだ」
そう言ってハグリッドはコートのポケットから二冊の本を取りだした。よく見るとその二冊は同じもので、ひとつずつルークとハリーに手渡す。
キラキラと輝く瞳で開いてみろと促され、二人はその表紙をめくった。
現れたのは、一枚の写真だった。若い男女が一組、幸せそうな笑顔を浮かべながら手と手を取り合って踊っている。その二人には見覚えがあった。
「パパとママだ……」
双子の声が重なった。予想もしていなかったプレゼントに、思わず胸が熱くなる。
「まさかこれ、一冊まるまるパパとママの写真?」
「あぁ、そうだ。二人は一枚も持ってねぇって聞いてな。──気に入ったか?」
そんなの、決まってる。
ルークとハリーは一瞬顔を見合せ、そして満面の笑みをハグリッドに向けた。
「今までで一番のプレゼントだ!!」
Character
✧ ルーカス・ポッター
普段はルークと呼ばれる、ハリーの双子の弟。
サラサラの赤褐色の髪に、明るいグリーンの瞳を持つ。母であるリリーに生き写しというレベルでそっくり。男女の違いはあるが小柄で細身なのでパッと見は髪の短い女の子にも見える。
性格は臆病かつ慎重だが心優しく、意外と強かな面もある。育った環境もあって自己肯定感がとてつもなく低い。自覚のないブラコン。
杖を使った魔法の才能は限りなく低いが、魔法薬学に関しては類稀なる才能の片鱗を見せる。スネイプを慕っており、マルフォイとも仲良くなりたいと思っている。
ハグリッドから誕生日に買ってもらった愛鳥のグレアを溺愛している。
✧ ハリー・ポッター
ルークの双子の兄。
うっすらと自覚のあるブラコン。
ルークのことはだいたい理解できるが、スネイプを慕っていることだけは理解できないと思っている。
ルークと比べて成績がいいように思われているが、全体的に見るとそんなにいい訳でもない。
✧ ロン・ウィーズリー
ポッター兄弟がお互いにブラコンであることを気づいている。
ほわほわしているルークに何かと兄ぶって世話を焼きがちだし、なんだかんだでルークには頼られていたりする。
でも魔法薬学に対する熱意だけは理解も共感もできない。
✧ ハーマイオニー・グレンジャー
友達ができるきっかけをくれたルークにめちゃくちゃ感謝している。
でも彼女がいなければルークの期末試験の成績はもっと酷かっただろうから、ルークもハーマイオニーに特別感謝している。
魔法薬学が面白いのは理解できるが、あそこまでの熱意は持てないと思っている。
✧ ドラコ・マルフォイ
あまり表に出ていないだけでルークに振り回されてる人1。
ちょっとからかってやろうくらいのつもりで投げた嫌味が思いのほかクリティカルヒットしてしまい過去一動揺した男。ゴメンという言葉が喉元まででかかったがプライドが邪魔して言えなかった。
しかもその後「友達になろう」というルークの申し出を手酷く振ってしまったことを実は結構しつこく気にしている。なまじルークの見た目が女の子っぽくも見えるので、毎度自分の冷たい態度にしょんもりしてる姿にその都度罪悪感を刺激されている。でも素直になれない面倒な男。
✧ セブルス・スネイプ
あまり表に出ていないだけでルークに振り回されてる人2。
男なのに!! リリーに!!! 似すぎだろう!!!!