転生したらホムンクルスだった件 作:見て見て、アッハが笑ってるよ!可愛いね
深い森の中を、脇目も振らず一目散に駆け抜ける。枝や石を踏み付ける裸足が一歩一歩地面を踏みしめる度に痛みを訴えかけてくる。
生前と比べて遥かに優れた肉体を持っているのか、速力も持久力も自らの考えうるそれを明らかに超えている……が、しかし。背後から追いかけて来るソレは少しも振り切る事が出来ない事から、同程度の速度を出せるのか、はたまたただ遊んでいるだけなのだと推測出来る。
「随分と舐めてくれるね……!」
本当は距離を離してから使いたかったが仕方ない。自らの勢いを殺さずに身体ごと後ろへと振り返り、迫り来る大蜘蛛の姿を視界に捉える。
慣性が働いているだけのボクと速度を落とさない大蜘蛛との彼我の距離は、見る間もなく詰められていくが、腹を括るしかない。手の平を大蜘蛛へと向けて魔力を操る。
「『冷却』」
トリガーとなる言葉を出せば、それが魔法の発動の合図となり、ボク自身のINTの高さから来る高威力の冷気が大蜘蛛を覆い、次の瞬間には巨大な氷像が出来上がる。
出来るだけ距離を離したかった理由は至極単純で、その影響を自分自身も受けるからだ。つまり、クッソ寒い。
魔法のスキルを解放するに当たって一番最初に取れる、つまりは一番最弱の魔法ではあるが、威力を参照するボクのINTはかなり高い。どうやらこの大蜘蛛も―――まだ出会った魔物の総数自体が少ないので、あくまでも相対的な評価ではあるが―――相当に強い部類には入るらしい。氷漬けにされてはいるものの、まだ死んではいなかった。
「さて、これでボクを認めてくれるかな? 『使役』」
抵抗されずに使役は受け入れられた。これでこの大蜘蛛はボクの眷属という事になった。果たして何処まであの作品と同じかは分からないが、基本的に裏切らない配下となる訳だ。
どうやら格上と認定されていたらしく、大量の経験値が舞い込んでくる。
「さて、このままでは折角配下にしたのに死んでしまうね」
冷却による氷像は自らで解除する事は出来ず、炎属性の魔法を浴びせたところで死ぬ前に溶かせるかは分からない。だから、配下に使える別の手を利用する。
「『召喚』」
名前は付けてないけれど、対象を正しく認識してさえいれば発動は出来るらしい。
ボクの真横に魔法陣が現れ、そこに冷凍一歩手前状態の大蜘蛛が現れる。先程までの氷像は中身が空洞となっていた。
「上手い事利用すれば、敵の攻撃とかを回避させられたりもしそうだね……」
『治療』を発動し大蜘蛛を癒しつつ、空を見上げる。
「うーん、ここ何処なんだろ……」
覚えている事は、自分が死んだという事だ。
まぁ、特に誰かに対して話す事があるような人生では無かったし、まぁ普通でそれなりだったとは思う。強いて言うなら早死が過ぎたくらいか。
どうやら死んで、自分の意識を持ったまま別の世界に来てしまったらしい。転生と言うには何か母体から産まれた訳でも無く、転移と言うには自分が死ぬ感覚をハッキリと覚えている。この場合は何と言うべきなのだろうかと少しの間頭を悩ませたが、よくよく考えればそんな事どうでも良かった。
ただ、どうやら親切な転生ではあったようで、生前の死ぬ寸前に良く分からない声を聞いた。
内容はホムンクルスとして肉体を得る事、そしてユニークスキルとやらで「継承者」を得る事。
どうやら死ぬ間際の思考を勝手に読み取ってご要望に応えてくれたらしい。親切過ぎて涙が出てくる。
ただどうせならそのまま死ぬ時の要望を受け取って欲しかったが、まぁそれは無理だったのだろう。ちなみに死ぬ寸前の思考とか死んだ状況とかは思い返すのは恥ずかしいので記憶の底に沈めます。
ともあれ重要なのは、ボクがホムンクルスとして生まれ変わり、そしてユニークスキルとやらを得た事。良く分からないスキルとやらだったが、何やらゲーム的なステータス画面を見れるようで、それらを確認していく内にそれが「黄金の経験値」と言う作品に出てくる物と酷似している事が分かった。
かけがえの無い経験値を得て、それを利用して自らを強化する。ゲーム的と言えばそれまでだが、まぁその元となったのはゲームのお話なのだから良いだろう。
重要なのは、その能力で自らを好きに育てられるという事だ。
例えるならば、素早さと攻撃力のみに振った紙耐久高機動高火力とかを実現出来るのだ。ロマン溢れるよね。勿論ステータスを高めるだけではなく、経験値を消費する事によって用意されてきるスキルを解放する事が出来る。一つのスキルで無限(に見えるけど有限)にスキルを得られるなんてすっごいお得(値段は見て見ぬふり)
ともあれ、そんな能力を得てボクが覚醒したのは良く分からない森の中だった。
そして自分の能力や置かれた状況などの理解を進めていく内に、ホムンクルスという種族についても多少は理解した。
この世界においてのホムンクルスがどう言った物かは分からないが、少なくとも賢者の石などで無限の命を持っている訳でも無ければ、つぎ込んだ経験値によって成長する訳でも無い。
最初から少女程度の身体を有しており、おまけに擬態能力を持っている。
擬態条件に関しては今でこそ分かっているが、最初の頃は何にも擬態出来ない謎仕様だった。
とまぁ、親切な何かに与えられたモノについてはそんな所なのだが、一つだけ言わせてもらいたい。
少なくとも男の精神であるボクを少女にしてしかも裸で森の中に放置するな! 情報が錯綜し過ぎて現状把握に混乱が生じ過ぎたぞ!
まぁ、どうやら性別はいじれるらしいので必要に応じて男に戻る事にするが。
ただ問題となるのが、一糸まとわぬ姿であった事だ。これは肉体が女性であろうが男性であろうが大問題であり、一刻も早く対処しなければならない事態だった。
更に、先天的な特性としてアルビニズムも持っているらしい。自分の白い肌は日差しに晒されるだけでチリチリと痛む。
そんな問題に、ボクの灰色の脳細胞は刹那的に極めてテクニカルな解決策を提示した。
せや、蜘蛛使役して糸で服作らせようぜ!
なんか幸い森の中に居る蜘蛛は人間と同程度に大きいので、気持ち悪いしとても鳥肌が立ったが全力で蹴っ飛ばして屈服させ、ボクの知るモノと比べてかなり緩い条件で解放出来た『使役』を使い、INTを上げて布切れを作らせることに成功した。成功はしたが、糸を大量に吐き出し布まで作り上げた蜘蛛くんは過労か何かで絶命した。
一連の流れで大きな学びを得たボクは、それから経験値を稼いでは自らを強化するを繰り返し今へと戻る。
「……取り敢えず、集めなければならないのは経験値だね」
世界は弱肉強食だ。ただ生きると言う行動をするのにも強さは必要となる。
きゅうと可愛らしく鳴く腹が、自分の空腹を告げた。そう言えば、この世界に来て三日程何も食べてはいない。幸い水は魔法で出して飲めたが、魔物を食べる気にはなれなくて食事は怠っていた。
もしかしたらある程度は食事をしなくても済むような、燃費の良い種族なのかもしれない。
木の実か、野生動物か。とにかく人間だった頃の感性でも食べられる何かを探す必要がある。
「……なら、配下も効率良く使わないとね」
経験値の余裕はかなり少ない。けれど、配下とした者が何を出来るかくらいは把握しておくべきだろう。
先程仲間にした大蜘蛛のスキルを閲覧する。能力値などは自由に上げられるようだが、持っているスキルなどはボクとは系統の違うものだった。
「魔力感知に痛覚無効か……経験値で解放出来るようなスキルは無い辺り、イレギュラーなのはボクであって、ボクの能力は配下には適応されないのか」
布を作って絶命した蜘蛛の時には、一先ずINTだけ上げとけと確認していなかった。なるほど経験値を自分に多く使えるが自由度は格段に下がるな。
配下にも使役などを持たせられれば、ねずみ算式に配下を増やして影響力と経験値の回収能力が高まるのだが、出来ないのであれば仕方ない。
「取り敢えず、君の配下や子供がいたのなら君が扱ってくれ。幸いボクの持ってるスキルに思念伝達というのがあるから、相手がボクであれば双方向に通信が出来る……木の実か野生動物、それらを探してくれないか?」
まだ弱ってはいる大蜘蛛だが、器用にも首肯して離れていった。八つの足を動かして移動するその速度は追いかけっこをしていた時のそれと変わらず、あの時の自分は遊ばれていたのだと理解する。
とは言えだ。弱肉強食の生存競争において、強者側が雑魚を甚振り遊ぶのは慢心である。だからこそ、弱者側であったボクにあの蜘蛛はやられたのだ。
「……大丈夫、最後に勝てば問題ない」
名前:―――
種族:ホムンクルス(特異個体)
ユニークスキル:継承者
外見は12歳程度のアルビノ少女。胸は薄い。システムが違う世界に別の法則を『継承』した存在。世界のバグ。
作品「黄金の経験値」と同じくステータスやスキルの解放を得た経験値によって行えるユニークスキルを持つが、このユニークスキル自体が異常なモノである為に別世界を知る存在にしか干渉が不可能となる。
ちなみにビルドは遠距離魔法型であり、初期ブランに使役を持たせたような状態。