生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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1話 生意気な後輩

 

 

 僕の後輩は、僕のことを舐めている。

 

 事あるごとにマウントを取ってきて、僕が悩んでいるのを見ると『こんなこともできないんですかあ?』と、ニヤニヤと意地悪く言ってくるのだ。

 

 確かに僕は要領も良くないし、頭も悪い。運動神経もなければ、コミュニケーション能力も低い。特出する良い点が全くない人間だ。しかし、そんな僕でも今を一生懸命楽しんで生きているワケでして。

 

 結構、今の自分は好きなのだ。ゲームをやって漫画を読んだり、家族のにゃんこを愛でたりと、普通に幸福に暮らしている。

 

 けれど、クソ生意気な後輩が寄ってくるときだけは、めちゃくちゃ幸福度合いが下がっている気がする。

 

 アイツは、完全に僕のことを使い捨て、ストレス発散の玩具くらいにしか思っていない。会うたびに舐め腐った態度で僕を完膚なきまでに叩きのめしてくるのである。

 

 いつか絶対ブッ飛ばしてやろうと最初は思ってはいたものの、何時しか正攻法でコイツを倒すのは無理だと悟った。

 

 何故ならあの後輩は、異常なまでにあらゆるジャンルのステイタスが高すぎるのだ。

 僕が人並み以下というのももちろんあるだろうが、それを含めた上でアイツの能力値の高さは異常だった。

 

 認めたくはないが容姿端麗、文武両道、スクールカースト最上位。いやなんで僕みたいな端役に構ってくるんだコイツ? と疑問に思えるほど住む世界の違う化け物なのだ。

 

 学年が一つ上というアドバンテージもまるで活かせないし、むしろ此方が勉強や身体の動かし方を手解かれるということもかなりの頻度であった。当然、煽られながらだが。

 

 運動も勝てない、勉強も勝てない、しまいにゃ僕の方が絶対に経験がある筈のゲームでもボロクソに勝てない。

 

 何なら僕は勝てるというの? せめて、得意なことでくらいもう少し勝てる可能性を残しておいてほしかったよ。けれどアイツは悔しがる僕を見て、『ふふ、弱いくせに一丁前に悔しがってますね?』と、愉しげに僕の頭を撫でてきやがったのだ。ゆ、赦せねぇ。絶対負かしてやる。

 

 とはいっても、現状は八方塞がりそのものだ。何をやっても勝てる気がしない。

 

 僕という人間は本当にデキが悪くて、そしてそれ以上にあの後輩は、嫉妬すら沸かないほどの才幹の権化なのである。

 

 何か一つのことに今から打ち込んだとしても、僕がアイツを超えることはきっと叶わないだろう。好きかつ一番時間を掛けて遊んできた、最も得意なゲームでぐうの音も出ぬほど負けたのだ。それも、対戦一回目で。

 

 あれは正直泣きそうになった。なんであんなに強いんだ、あんなのチートだよチート。

 

 泣いたら煽られるだろうから我慢したが、僕が長男じゃなかったら耐えられなかったね。そのくらい心にクる経験だった。

 

 しかし、だ。それでも諦めるつもりは微塵もない。だって僕はどんなことでも良い、アイツに勝ってアイツを死ぬほど煽り散らかしたいんだ。今までされた分を遥かに超える煽りを、僕はあのクソガキにやってやりたい。

 いや、しなくちゃいけない。煽って、その後アイツの端正な澄まし顔をぐちゃぐちゃに泣かしてやりたいのだ。

 

 これはもう僕の悲願、義務と言ってもいい。

 

 そのために出来ること。アイツに勝つために必要なこと。そいつを考え、僕は一つずつ確実に強くなってみせる。

 

 そして、最後には必ずあの後輩はブチ泣かす。

 

 

 

 

「はーい、私の勝ち〜♪」

「あ、ありえないっ……こ、この僕がッ」

 

 放課後。いつもの空き部屋に集まった僕と後輩は、早速今日の勝負に興じていた。

 多くを知り、多くを蓄え、意気揚々と挑んだのだが結果は……はい。

 

「な、なんで勝てないの? ババ抜きなんて只の運ゲーじゃん!」

「私、運良いんですよね」

「シンプルな理由っ」

 

 色々と考えて、一番勝つ可能性があるのが知恵も運動神経も必要としない運ゲーだと結論付けた僕は、彼女にババ抜きでの勝負を仕掛けた。

 最初は自信しかなかった。けれど、結果は5回やって全負けである。いつも通りの余裕綽々な顔で、僕より先にアイツはアがり続け、僕の手元には敗北の証であるババが残り続けたのだ。

 なんなん、運まで味方につけているのか、この化け物は。

 

「先輩は、少し勘違いしてますよね」

「え? か、勘違い……?」

「はい。バカでもしない勘違いです。そもそも、ババ抜きは『運ゲー』じゃありませんよ。このゲームの本質は、プレイヤー間に発生する物の駆け引きにあります」

 

 『運も必要ではありますけどね』と、後輩は2枚のカード、Aのカードとババでもあるジョーカーのカードを僕に手渡した。

 え、ババ抜きって運ゲーじゃないの? 運ゲー……だよね?

 

「アホでもわかるように、実践的に教えてあげますね。今、先輩はババとAのカードを持っています。今から私が、先輩が持っている2枚のカードの内、どちらがAのカードなのかを当ててみせましょう」

「い、いや……だからもし当たったとしても、それの確率は50%じゃん。運ゲーじゃないの……?」

「確かに当てる確率は50%です。けれど、それは単純な確率数値上の話であって、このババ抜きでは、確率以上に重視すべき点があります」

「そ、それは……て、なんで顔に触ってくんの?」

「必要なことです。こんなことも解らないんですかー?」

 

 ほんっっとに癇に障りやがるな。いつか泣かしてやりたいっ。

 

「簡潔に述べると、私は先輩の顔に触れている状態であるならば、目を瞑ったとしてもどちらがAのカードかを当てることができます」

「は、はあ!? そんなことできるワケないじゃん! デキたとしてもそれは運ゲーだと──んぷ!?」

「こんな距離で大きな声を出さないでください。喰いますよ?」

 

 口を押さえつけられ、僕は冷や汗をかきながら押し黙った。

 コ、コイツ……こういうところマジで強引なんだよな。背も僕より高いし、組み伏せられたら本気で抵抗できない。その色白の細い腕の、どこからそんなドでかいパワーが生まれているんだ。摩訶不思議すぎるだろ。

 

「目を瞑りました。ではどちらがAなのかを当ててみせますね。……何度でも」

「ッ! ふ、ふん……いいさ。やれるものならやってみなよ。ちょっと運が良いからって調子に乗っちゃってさッ。お前にそんな芸当できるワケ──」

「ふふ、口は軽い割に顔が固くなってますね。ビビってるんですかぁ?」

「コ、コイツっ!」

 

 一々煽らないと気がすまないのかこのクソガキはっ。一言で最高火力ばっかり出してんじゃないよ。

 僕はコイツにだけは絶対に当てさせないよう、手元にあるカードを怨念を込めながら高速でシャッフルした。

 ──しかし。

 

「右ですね」

「!!」

 

「次は左」

「!?」

 

「左」

「!!?」

 

「左」 

「!!!?」

 

「左……先輩、左ばっかりですね。やる気あるんですか?」 

「…………」

 

 僕の怨念の籠もった渾身。その悉くを、あっという間に当てられた。何回やっても、どれだけ練っても当てられる。

 いくらなんでも、これはありえないっ。運が良いなんて生温い表現じゃ、足りなさすぎる。後輩はエスパーかなにかなのかな……?

 

「エスパーなワケないじゃないですか。バカなんですか。バカでしたね」

「し、思考を読むな!」

 

 コイツ、マジでエスパーじゃないのか?

 

「だから違いますって。私がやったことは極めてシンプル。先輩の表情の細かな変化、動揺を触感で読み取っただけです」

「? 触感で……読み取る?」

「はい。先輩の肌から伝わる緊張を逃さず指先で捉えたんです。あとはそうですね、呼吸音や体温、発汗具合等も確認しましたかね。先輩は大体感じが顔に表れますから、目で見ずとも触れるだけでとても解りやすかったです」 

「………」

「ババ抜きにおいて重要なのは、このような読み合い、そして洞察力です。相手の晒す情報から如何に真実か否かを判別し、正しい道へと繋がった進路をパズルを埋め合わせるかのように、紐解けるかどうかが鍵になるんです」

 

 不味い。後輩がなにを言っているのか解らない。これは、僕がバカだからなだけではないだろう。

 なにちょっと異次元チックなことを宣っているんだ。ババ抜きって、そんな高次元で行う争いみたいなモノじゃないよね? 直感で『どーっちだ?』って、和気藹々と楽しんでやるんじゃないの? 少なくとも、僕が見た周囲ではこんなガチ勢はいなかった。なに呼吸音や体温の確認って。読み合いとはなんぞ。デスゲーム感覚でやってんのかコイツは。

 

「あんまり理解できていないようですね。まあ、ババ抜きの本質は心理戦にあるというところだけ押さえてくれればいいです。運ゲーだと割り切って思考放棄しているようなバカに、私が負けるワケないじゃ無いですか。あと、私は別にババ抜きのガチ勢でもなんでもない素人ですからね。今回は、少し興が乗ったから説明してあげただけです。ふふ、これより先は自分の足りない頭で考えてくださいね? 一生解らないでしょうけど。せーんぱい♪」

「……クソガキめ」

「あはは! 先輩ほどじゃありませんよ」

 

 なぜ故このガキはこう……神経を逆撫でするようなことばかりをスラスラと言えるんだ。そっち方面でも才能の塊か? っ、頭撫でんな!

 

 しかし、どんな言葉をぶつけられようとも、僕にそれを否定する権利はない。僕がバカなのは間違ってないし、何より敗者が勝者に反論する権利など、この戦いにおいては全くのゼロなのだ。

 

 否定するのなら、飽くまでも勝負で。言葉ではなく行動、勝つことで。それが、僕の定めたルールなのである。

 

 もちろん、僕が勝ったあとは、ボロクソのボロ雑巾みたいに後輩を罵ってやるつもりではあるが。

 

「じゃあ、今回も私が勝ったことですし、早速罰ゲームをしましょうか」

「な!? ば、罰ゲーム!? そ、そんなの聞いてない!」

「今言いましたからね。いつも私は先輩の勝負に付き合ってあげているんです。こういった条件付けをするくらいの権利があってもいいじゃないですか」

「そ、そうだとしても! そういうのは勝負をする前に言うものでしょ! 終わった後に言うなんて卑怯だぞ!」

「ふふ、先に言っていても先輩はどうせ負けてたじゃないですか。あ、もしかして罰ゲームの有り無しだとやる気が変わっていたりするんですか? さっきのは本気ではなかったと。軽い気持ちでやっていた、と」

「い、いや……僕はいつでも手を抜いたりしない」

「そうですよね。どんな勝負事だろうと、先輩は何時だって一生懸命です。一生懸命に頑張って、その上で私に手も足も出ずに負けてるんです。だったら、一体何に問題があるというんですか?」

 

 後輩の言う通り、僕はどっちみち勝負には負けていただろう。それだけは、バカな僕でも理解できる。けれど、そういうことじゃなくて。なんか……あれだ、震えてしまうのだ。湧き上がるこの感情に名前を付けるとするならば。

 

「ぼ、僕は──」

「ああ、成る程、わかりました。──罰ゲームがあったら、先輩は私との勝負から怖がって逃げてたってことですね」

 

 ……は?

 

「そんな顔をさせるつもりはなかったんです。……怖がらせてごめんなさい、先輩。そうですよね、怖いですよね。私の配慮がまるで足りていませんでした。やっぱり、罰ゲームはなしにして──」

「上ッッッ等だ。どんな罰だろうと持って来い!!」  

 

 心の底から申し訳なさそうに告げられ、僕の中のナニかがプツンと切れた。

 ここまでコケにし腐られて逃げられるほど、僕は落ちていない。コイツに憐憫の情を抱かれるほど、僕は情けなくなったつもりはないのだッ。絶対、後悔させてやるっ。

 

「へー。怖いなら怖いって言ってもいいんですよ? 小動物みたいに震えながら逃げようとする可愛い先輩も、私は大好物ですから」

「ほざけ。僕は逃げも震えもしない。お前がどんだけ高い場所にいようとも、僕が必ず汚泥の溜まった底辺まで引き摺り下ろしてやる。お前こそ、震えて逃げ惑う準備をしておくんだな」  

「……ふーん」

 

 そうだ、心で負けるなど論外なのだ。僕はコイツを打ち負かし、ぐちゃぐちゃに泣かす。だから、こんな罰ごときで身を引くなどあってはならないことだ。

 

 いつか、目の前のコイツに勝つ。掲げた悲願を前に、一欠片の後退も許されないのである。

 

「では、早速罰ゲームを開始しましょうか♪」

「ッ! 僕は絶対に屈しないッ!」

 

 心に固く誓ったこの数分後、僕は後輩を膝枕することになったのであった。

 

 

 ……ん? んん!?

 

 

 

 

 




 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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