生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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11話 後輩と出会い

 

 

 それは、雨が強く降り注ぐ日のことだった。

 

 学校の帰り道、ふと視線を公園の方へと移すと、このような大雨であるにも関わらず傘もささずにブランコを漕いでいる少女がいた。

 

 ザーザーと大きい音を立てて降る雨とは違い、俯き弱々しくブランコを漕いでいる少女。着ている服装から見るに、その子は近くの中学に通っている子だと分かった。

 

 なぜ、こんな大雨の日に中学生がブランコを漕いでいるんだ? 

 

 そんな、当然の疑問が僕の頭を埋め尽くす。見るからに『何かありました感』が凄い少女。きっと雨に当たりたい程の出来事があったのだろう、多分。

 

 けれど、そこら辺の事情は兎も角としてこのままでは風邪を引いてしまう。

 流石に高校生になった大人として、子どもが自分の身体を労ることなく虐めている様を放置するのは忍びなかった。

 

 とりあえず、声を掛けるだけ掛けてみよう。

 

 どんな反応を返されるのかは解らないけど、それだけは最低でもやっておこうと思った。

 

 

「あの、大丈夫ですか? 風邪引いちゃいますよ?」

「…………」

「おーい、聞こえてますか?」

「…………」

「おーい、おーーーい!」

「…………」

「あ、あれ……無視?」

 

 いくら声を掛けても、俯いた状態から一切反応を見せない少女。ブランコを小さく揺らしながら、その視線は下に固定されているようだった。

 

 僕のことなど、眼中にない。声を聞く気もない。纏う雰囲気から、まるで見ようとしていないのがよく伝わってきた。

 

 これは……どうするべきか。こういう反応をされた以上、僕が何を言っても目の前の少女は何も言わないし、視線を上に上げてもくれないだろう。

 

 一声でも反応があれば、少女がどういう選択を選んでも肯定するつもりだったのに。この場に留まろうと何だろうと、受け入れるつもりだったのに。

 

 面倒くさい大人が来たと思われているのだろうか。だから、反応を返すのも嫌ってことかな。

 僕も少し前まで中学生だったからその気持ちはよく解るが、一つも反応がないのは安心できないし、心配になる。なにより、そのあからさまな『お前になど興味はない、疾くいね』という態度に、ほんの少しばかりイラッと来た。僕は大人だから我慢するけどね。 

 

「……あの、せめて何かしらの反応を返してくれませんか? 大人として大雨の中傘も差さずにブランコ漕いでる子どもを放置するのは心が痛むんですよ」

「………」

「ねえってば、聞いてる?」

「………」

「ふ、ふーんまだそういう態度を取るんだ。だったらもう好きにしなさいな。黄昏れるのはキミの勝手だし、止めるつもりはないよ。余計なことして悪かったね」

「………」

「ああ、でも最後にこれだけは言ってくけれどもね」       

「………」

 

 こちらのことを全く見る気がない少女に向けて、最後に僕はどうしても気になり、告げておきたかったことを言う。

 

「キミ、ブランコの乗り方が全然なってないよ。超ヘタクソ」

 

「─────」

 

 その言葉に、少女は初めて視線を上にあげた。目が合い、僕は少なくない動揺を感じる。

 

 ……漸く顔を上げたと思ったら、この子とんでもない美少女だ。

 僕が今まで見てきた子の中でも、間違いなくトップレベルの面貌。可愛らしく、美人にも取れて、更に儚い感覚を味わう子。雨に滴っているせいで、余計に属性が付与されているような気がする。

 

 顔面レベルが高すぎて、ちょっと退きそうになった。こんな経験は生まれて初めてだ。

 

「………子ども?」

「違いますが!?」

 

 その面貌から繰り出された第一声がそれかよ! 大人だっつってんだろ!

 思いのほか予想のつかない言葉で取り乱す僕に対し、少女は言葉を続ける。

 

「そっか、じゃあ教えてあげるね。……大雨の中、ブランコの乗り方がヘタクソだって言ってくる大人なんていないんだよ」

「は、はあ? 大人だってブランコは好きだし、いつでもブランコを上手に乗りたいって思ってますがっ? 皆にも教えてあげたくなるくらいにはねッ」

「……そう。子どもよりも素敵な生き物なんだね……大人っていうのは」

 

 妙に達観した表情で、目を細める少女。氷のような凍てつく雰囲気で、遥か遠くの雨雲を見上げている。

 僕の物言いにもあまり関心を示さないし、なんかずっと暗いなこの子。このような日に一人でブランコ漕いでいる時点でお察しだったけれど、思った以上に闇が深そうだ。

 

 その辺を深掘りする気は全然ないが。まあ、今はそんなことよりも。

 

「キミはまだ真理を解っていないみたいだからね。この僕がブランコの乗り方というもののお手本を見せてあげましょう!」

「?」

 

 雨に濡れるのもお構い無しに傘を畳み、僕は少女の隣にあるブランコへと跨った。

 この子はまだブランコの本当の面白さに気がついていない。だから、ブランコに乗っていても辛気臭い表情になってしまうのだ。 

 

 本来のブランコはもっと凄く素晴らしいもの。僕はそれを少女にこの身をもって教えたかった。

 

「見ててね、これがブランコの楽しみ方だよ!」

 

 ブランコに乗った状態から限界まで後ろに下がり、勢いをつけて土を蹴る。凄い速さの出るブランコを、僕は類稀なるセンスで操ってみせた。

 やはりブランコは良い、とても良い。気持ちの良い風になっていると、心の底から楽しくて笑顔が溢れてくる。今回は雨も加わっているため、新鮮さも一塩だ。

 

「あはは、凄くない!? 僕めっちゃ速いでしょ! 風になってる! これがブランコの乗り方だよ!」

「…………」

 

 満面の笑みで言う僕の顔を、少女は穴が開くほどジッと見つめている。

 ブランコの面白さに気がついてくれたのだろうか。だったら嬉しいのだけど。

 

 少女の反応から見てもそろそろ良いかなと、スピードを緩め僕はカッコよくブランコから飛び降りる……が、雨で足元が滑り泥へと派手に転んでしまった。最後の締めでこのありさまかよダセーなもうッ。

 制服が泥だらけになり、僕は若干泣きそうになった。雨でちょっとは落ちてくれるかな。

 

「大丈夫?」

「え、あ、うん……ヘーキヘーキ問題なし! 寧ろ気持ちいいくらいだよ! それよりもどう? ブランコって楽しそうだなって思いましたか?」

「いや全然」

「ぜ、全然!?」

 

 あれだけガン見してたのに!? やっぱり締めで転んだのがダメだったのかなッ。こんなことなら普通に降りればよかった。

 

 最後の最後にミスを犯し後悔に呑まれていると、少女は此方に近づき何を思ったのかバチャンと僕の隣に倒れ込んだ。え、え!?

 

「ちょ、キミなにやってんの!? だ、大丈夫?」

「……確かに」

「え?」

「……確かに、気持ちいい」

 

 泥に沈んだ少女が泥を手で掬い、雨空を見上げながらそんな事を言う。

 泥で汚れた顔に浮かぶ瞳の色がさっきよりも澄んでいて、『いやそりゃねーだろ』とツッコむことができなかった。

 

 僕が変なことを吹き込んだから真に受けてしまったのか? 僕のせいじゃないよねこれ!?

 

「本当に、悪くないね。……こんなに気分が良いのは生まれて初めてかもしれない」

「んな大袈裟なっ。そ、それに悪くはないかもだけど、あんま率先してやるもんじゃないと思うよ。汚いし」

「……そうだね。けど、今はこれがいいんだ。こうして、泥中に沈んでいたい」

「そ、そう」

 

 変に湿度の高い発言に僕は戸惑ってしまう。気分が良いといいながらも、全く表情は動いてないし。人形かってくらい固まってるよ。何を考えているのか全然読めない。

 

 これまでにいなかったタイプの人間すぎて、何を言うのが正解なのかが僕は解らなくなった。

 

 顔の良い、言動と雰囲気の変な人。それが、この子に抱いた僕の第一印象だった。

 

「なんというか……キミは、変なことをいう顔の良い変な奴、だな。闇のデッキとかに好かれそう」

「……変な奴……闇のデッキ……私が? そっか……そう……ふっ」

「! い、今笑ってくれた?」

「? …………笑ってないよ?」

「……そ」

 

 

 





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