生意気な後輩を泣かしたい! 作:もっふもっふもふ
「先輩、今度の日曜日私の家に来ませんか?」
「……はあ?」
なんてことない放課後。いつものように憤怒を募らせつつ過ごしていると、唐突にトチ狂ったのか後輩がそんなことを言い出した。
家に来てほしいって……コイツまじで言ってんの?
「何言ってるの、お前……遂に正気を失ったか?」
「大丈夫、安心してください。親なら居ませんよ」
「お前本当に正気!?」
余計にダメじゃん! 何処をどう安心すればいいんだ不安しかないわ! 親の居ない家に男を誘うって、普通あり得ないだろう常識的に考えて!
やっぱりズレてるし、頭が可怪しいよこの子! 駄目だコイツ、色んな種類の人間と関わりすぎてそこら辺がガバガバになっちゃってるんだ。年長者として僕がしっかりしなければッ。
僕は冷静に丁寧に、諭すように後輩へ言葉を紡いだ。
「よく聞いてね三月。自分しか居ない家に、異性を招待するなんてシたら駄目なんだ。大人な知性の持ち主である僕だからまだ大事にならずに済んだものの、他の男だったら取り返しのつかないヒドいことになってたかもしれないんだよ? 特に厄介な輩に絡まれやすそうなお前はね。解ったらちょっとは危機感を持って、考えて発言しなよこの頭ユルユル娘が」
「あはは、意味わかんないんですけど。それに、特大のブーメランが刺さってますよ。ちょっとは自分の普段の行いを鑑みて、考えて発言してくださいよこの頭ユルユル可愛さ全振り
「は、はあ!?」
意趣返しのつもりか、ニッコリと素敵な笑顔を見せる後輩。折角僕が善意で言ってやったのに、なにさその反応。超ムカつくんですけどっ。
「私は、折角の休日を謳歌したいだけです。それって誰だろうと抱く『普通』の感情じゃないんですか?」
「休日を楽しみたいっていうのは解るけどさ……多感なお年頃の異性を家に招く行為が可怪しいっつってんだよ。そ、それとも何? お前は異性を自身の家に上げる行為に慣れているのかっ?」
「そんなワケないじゃないですか少しは常識的に考えてくださいよ」
「お前が言うな!!」
非常識な奴に常識を語られとうないわ! お前が呼んだ波紋で何で僕が侮蔑の視線を向けられなきゃならんのだ。お前のせいじゃんどう考えても!
「先輩は、私が誰に対しても尻尾を振る安い美少女にでも見えるんですか? もし回答が『はい』であるならば、手加減抜きでワカラセますが」
「そ、そんなには言ってないじゃん。只、そう見られても仕方ないって話だろ、異性の僕を家に誘ちゃってるんだものッ」
「……さっきから先輩、私を使って変な妄想ばかりしていませんか? 話が飛躍しすぎです」
「別に飛躍していないし、変な妄想なんてシ、シてねーし!」
「じゃあ、どんなことを考えていたんですか? 私と先輩、家に二人きりの状況……この未来を想像して、先輩は何が発生すると思ったのですか? 『変じゃない』と宣うのであれば、0から10まで懇切丁寧にご教授してくださいよ」
「!?」
「ほら、早く」
「……くっ」
何が起きるって、そんなの……普通に考えて解るだろ言わせんなよ恥ずかしい! いやマジで恥ずかしいから!!
後輩相手にナニを話せってんだ、どんなジャンルの拷問なのさこれ! しかし、変な妄想などしていないと証明するためにも、兎に角僕の思い浮かべた光景をオブラートに包んで話さなくてはならない。け、けどどうやって?
どう説明すればいいのか分からず悶々と悩み、具体的な妄想が脳裏を過って顔を熱くさせる僕をニヤニヤと見つめながら、後輩は頬杖をついた。
「──先輩のエッチ」
「!!?」
心底愉しげに後輩が言う。
コ、コイツ……全部解ってて嵌めやがったなクソ!
そうだった、この娘はこういう性格のひん曲がった奴だったッ。意味も理由も解ってて、それを僕を辱めることに利用したんだ。家に誘われた衝撃が強すぎて、トラップの大きさに気がつかず、冷静な対応が出来ていなかった。反省しなくては。
「エッチな先輩は、初めて行く私の家で、ピンクなことをシたかったんですね。初めからそう言ってくれれば良かったのに。但し抑制が出来なくなるから、あなたが『イヤ』、『許して』と懇願しても、絶対メチャクチャに──」
「ぼ、僕が悪かったから、それ以上からかうのは止めてくれ! 冗談でも恥ずかしくて死にたくなる!!」
「……それは残念」
目を細め、ヘラリと全然残念じゃなさそうな表情で口角を上げる後輩。
やっぱりからかってやがったか。今考えてみると、恐らくは家に来て欲しいというのも、この状況に持ち込むための嘘だったのだとわかる。
僕を貶めるために、そこまでするなんて……その厄介な情熱は一体何処から湧いてくるんだよっ。
「じゃあ、先輩。日曜日は朝8時に校門前に集合でいいですか? 先輩私の家知らないでしょうし、案内してあげます」
「え、それ嘘じゃなかったの!?」
「こんなくだらないウソつくワケないじゃないですか。
本気で誘ってたんだ……。い、いや、とすれば何も問題が解決してないじゃん!
「ああ、もうエッチな妄想の話はいいですよ。受けて立ちたいところですけど、今は話を進めたいので」
「ぐっ……ご、ご両親が居ないっていうのも本当の話?」
「はい、本当です。理由は何か言っていた気がしますし、やっておいてほしいことみたいなものも言われたような、言われてないような……忘れちゃいました♪」
「『忘れちゃいました♪』じゃない! 親の話くらいちゃんと聞いておけよ!!」
大事なところじゃん、なんで聞いてないのさ!
コイツほんとそういう所あるよね。笑顔の裏で他人の話をまるで聞いてないんだよっ。
過去に、学校で三月とその友達が物凄く盛り上がっていることがあって、どんな話をしていたのかを聞いてみたことがあった。しかし、その返答としてコイツは『うーん、私誰と一緒に居ましたっけ?』と笑顔で言ってのけやがったのだ。普通に怖いよ。
基本的に脳死行動が多すぎるんだよねコイツ。興味のないことは、全く記憶しようとしない。他人の顔とかも覚えてないタイプだよ絶対この娘。
なのに、僕とのしょうもないやりとりは全然忘れないから、基準や意味が解らない。
もっと覚えておいた方がいいことが沢山あるだろ世の中。記憶容量を変なことばかりに使ってるんじゃあないよ!
「何処の誰が【人形】に何を話していたのかなんて、どうでもいいじゃないですか。そんなことより今は、日曜日の話をしましょうよ。愉しい一日にしたいんです!」
「だったら同性の友達と遊べよ! お前有り余るほどいるだろ。家に他人を招きたいのなら、そっちの方が健全だし普通じゃん! どうせ僕じゃなくても──」
「私は、先輩がいいんです」
「────は」
「先輩じゃないと、ダメなんです」
真剣な眼差しで、後輩が僕を見つめる。
からかっているだけ……そう切り捨てるべきはずなのに、その表情があまりにも魅惑的すぎて、僕は言葉が詰まった。
完全に毒されてる……それが解っていて尚、顔が紅く染まるのを止められなかった。
此処まで来れば、流石の僕でも気が付く。
どうやら僕は、後輩の『本気』に弱いらしい。普段の解りやすい演技じゃなくて、本気でそう思っているような表情に、僕はどうしても抗えないんだ。
いつもは鬱陶しくて生意気な奴だからこそ、時折見せる真摯さというものが響いてしまう。胸が痛くなって、苦しくなる。
本当に、厄介極まりない感情だ。
「ま、まあお前がそこまで言うのなら? 僕も先輩として行ってやらなくも、ない……けど? し、仕方なくだけどね! ふ、ふふ」
「うわ、カワイイ上にちょっっっっろ」
「お前マジでいい加減にしとけよ??」
前言撤回。
コイツの『本気』は滅茶苦茶腹が立つ。
こうして、憤怒の炎に身を焼きながらも、僕は後輩の家へと行くことが決定したのであった。
後悔が凄いよ……。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
嬉しいが凄いよ……。