生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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17話 後輩と弁えろ

 

 

 後輩に案内されること暫く。

 

 僕の目の前には、とんでもなく高く、そして大きく聳え立つ超高層マンションがあった。ガラスと金属の併用による近未来的デザインが施された、まるで『選ばれし者しか入ることの出来ない場所』感のある、めっちゃカッコいい見た目のタワマンさんが。

 

「お、お前此処に住んでるの?」

「はい」

「そ、そっかぁ……」

 

 口が引き攣る感覚がある。

 こ、後輩って、こんな夜になったら映えそうなサイバー的見た目の所に住んでたんだ。豪勢で華やかな金持ち連中が集ってそうな場所じゃん。イメージ通りと言われればそうかもしれないが、やっぱり何から何まで住む世界が違うというかなんというか……改めて考えてみると、スケールの大きさにちょっと萎縮しちゃいそうになる。

 

 ぼ、僕の見た目、変じゃないかな? 動きやすいラフな格好にナップサック背負っちゃってるんだけど……場違い感凄くない? 

 

「さ、中に入りましょうか」

「え、ぼ、僕も入るのか? 入った瞬間警察呼ばれたりしないかな……」

「何を言っているんですか? ほんとに、何を言っているんですか??」

 

 理解不能の珍獣を見る目で僕を見据えてくる後輩。確かに頓珍漢なことを言った自覚はあるけれど、そのくらい僕とこのタワマンの合ってなさが酷いんだよっ。

 入るの大分勇気いるぞこれ、覚悟を決めるのに3ヶ月は欲しいよッ。後輩のからかいに動じない不動の覚悟は身に付けたが、高級マンションに入る覚悟は出来てないって。

 

「バカらしくバカなことを言ってないで、さっさと行きますよ。外は暑いですし、中で涼しみましょう」

「ま、まって、まだ心の準備がッ」

「心の準備なら私の部屋でしてください。待つつもりはありませんけど」

「ちょっお前、手! 待っ──」

「待ちません」

 

 後輩に手を握られ、僕はズルズルと引き摺られていく。

 三月は三月でいつも通りの強引さだけど、今メソメソするのも……カッコ悪いし違う、よね。後輩を倒すつもりで来たのに、それ以前でビビっていたら話にならないし。 

 寧ろ、この程度の場所全然慣れていますが? くらいの態度で臨む方が余っ程スマートでカッコいい。

 それこそが余裕のある経験豊富な大人だ。僕みたいな大人には、その在り方こそが相応しい。

 

 ……よ、よし、そうと決まれば高級なタワマン如きに臆している場合じゃないな。後輩に思い切り見せつけてやるッ。

 

 僕のカッコよくて紳士的な、エレガントな振る舞いってやつを!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わァ……あ……」

 

 タワマンの中に入った僕は、そのあまりにも外の喧騒とは違う別世界とも言えるような光景に、エレガントさを忘却し変な声を漏らしていた。

 なんかもう……全部が凄い。床も天井も置物ですらも。人が住む場所なのか怪しいくらい厳選と洗練が成されていて、視界が「美しい」に溢れ返っている。これが、近未来系高級マンションの性能ってやつなんですかッ。

 

「ね、ねぇ三月。上のあれってシャンデリア?」

「はい、Chandelierです」

「じ、じゃあ、ロビーの中央にあるのは? 噴水だよねあれ」

「はい、fountainです」

「あ、あそこにある植物は──」

「はい、monsteraです」

「……なんで英語なのさ」

 

 無駄にネイティブだから、ちょっと腹立つんだよっ。……あ、それとも、そういうのが此処での普通だったりするのだろうか。や、やべぇ、こういった場所に来たことないから勝手が一つも解らないのだけどっ。僕、英語苦手なんだがどうしようッ。

 

「先輩、周囲を気にし過ぎです。不安になっている顔もカワイイので放置しますが、弁えて行動する方が身のためかと」

「ふ、不安になんてなってない! エレガントで大人な僕が、ほんの少ーし豪華で見栄えの良い所に来た程度で臆すると思ってんのか!」

「臆しまくってるから言ってるんじゃないですか。先輩は妄想が激しく、突拍子のない行動を起こしがちなので強くは言いません。そこが先輩の子どもらしい良い所でもありますから。しかし、今の先輩には私がついています。これは貴方にとって、大層な安心要素と成り得るのではないですか?」

「なっ……ふ、ふん! なるわけないだろ調子に乗るなよバーカ!」

「……と言いながら、私の手を握る力が強くなりましたね、あざとすぎませんか。弁えて行動する方が身のためだと言ってるじゃないですかどうなっても知りませんよ」

 

 後輩が、呆れ返ったような凍てつく視線を僕に送ってくる。

 い、今のは完全無意識なんだからしょうがないだろ! 言われるまで気が付かなかったよコン畜生が!

 

 後輩の手を無理矢理振り解き、僕は失態を誤魔化すみたいにズンズンと後輩の前を進む。失態失敗ダサすぎ行動、さっきからエレガントとはほど遠いミスばっかりだ。動揺しすぎだ僕の阿呆が。このままダメな奴扱いされたままじゃ終われない、己のミスは必ず取り返す!

 

「ほ、ほら早く行くよ! 僕が先陣切って歩いてあげる感謝しろよな! 遅れるなんて許さないんだから!」

「……先輩」

「なにさっ」

「私の部屋番号を知らないのに、何処に先陣切って歩くんですか?」

「…………」

 

 僕は無言で歩く速度を緩め、後輩の隣に並んだ。

 

「……案内して」

「………」

「頭撫でんなっ」

 

 みっともなさに顔が紅くなり、僕は暫く前を向けなかった。

 コイツの部屋に着いてから……纏めてミスを返済しよう。うん、そうしよう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 その後、三方及び足元ですら殆ど透明色のエレベーターで、僕の方から三月の手を握ってしまうというとんでもないヤラかしは犯してしまったものの。

 なんとか三月の住む部屋にまで僕は辿り着いていた。

 

 いやぁ、まさか50階以上に住んでるとは思わなかったよ。おかげさまで、エレベーターの上昇する高さにちょっぴりだけビビって三月に無様を晒しちまったぜ、ハッハッハ。……絶許にもほどがある。

 

 高さにビビる僕の姿がダサすぎたのだろう、僕の方から手を握ってしまったとき、後輩も『筆舌に尽くしがたい』感のある表情をしていた。あれ、絶対キレてたよ。すごい僕の方睨みつけながら「だから、弁えろとッッ」って言ってたし。ごめんてッ。

 

 僕だって僕が許せないんだ。カッコいい大人な振る舞いをすると宣っておきながら、結局何一つ成せていない。今日の僕、控えめに言ってカッコ悪すぎる。

 

 ……けれど、それもさっきまでの話だ。

 

 今はもう、部屋の目の前。ここからが僕の本番、叛逆の狼煙を上げる場所なんだ。

 

 今までの記憶を消去してしまうくらい、圧倒的な実力で後輩を黙らせてやるッ。

 

 つーか忘れろお願いだから!

 

「……部屋に着く前から、これ程までに耐久を強いられるとは思っていませんでした。今日も今日とて先輩が健やかかつ健在で、私はとっても嬉しいです」

「僕にも解るよ、お前煽ってんだろッ」

「あはは、やだなぁそんなワケないじゃないですか♪ 只、一生私の側で無様でカワイく居てほしいってだけです!」

「それが煽ってるつってんだが!?」

 

 僕は可愛くないし、一生無様とか死んでも嫌なんだが!? 

 こういう舐め腐った認識を全身全霊で変えていかないとだよね何としてもっ。

 

「……今回は大人しくしておく予定だったのになあ……先輩が悪いんですよ」

「? なんか言ったか」

「いいえ。……先輩、今日は愉しみましょうね!」

 

 綺麗な笑みで、後輩が言う。

 

 ……非常に純粋な笑顔だ。恐らく、本当にこの休日を愉しみたいのだろう。それがよく伝わってくる、物凄くあどけない笑みだ。

 

 しかし、だからこそ僕の返す返答は決まっている。

 

「お前の思い通りになんか絶対させない。悪いけど誘いに乗ってやったのはお前を愉しませるためじゃなくて、完膚なきまでに叩き泣かすためだから!」

 

「────ぷ、あははっ!」

 

 僕の渾身の宣言に、クスクスと嗤い始める後輩。

 

 ……良かったな、僕が心眼に目覚めていたら、『何が可笑しい!!』と大声で叫んでいたところだぞおい。

 

 だが笑っていられるのも今のうちだ。数時間後、その愉しげな笑い声を悔しさと恐怖に包まれた絶望の泣き声に変えてやるッ。

 

「行きましょうか。私、先輩と二人だけの世界でやりたいことが沢山あるんです。あ、眠くなったら言ってくださいね? 添い寝してあげます♪」

「!? だ、だから洒落にならないのは止めろ!」

 

 信者に聞かれたら、僕が只じゃ済まされないだろうが!

 

 後輩の質の悪い冗談に心臓が跳ねながらも、僕は決戦の地へ足を踏み入れた。

 

 





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