生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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2話 後輩と膝枕

 

 何が来ても、受け止め乗り越える覚悟が僕にはあった。後輩に勝つために、全てを耐え抜く強固な意志が、僕には確かにあったんだ。何がきたって、怖くない。本気でそう思っていたんだ──けれど。

 

「どうしたんですか先輩。さっさと座ってください」

「い、いや……でも」

「なにを今更戸惑っているんですか? さっきまでの威勢は一体どこに行ってしまったんでしょう。達者なのは口だけだなんて、恥ずかしくはないんですか?」

「……ぐっ」

 

 盛大に、容赦なく煽られる。しかし、反論する弁が上手く思い浮かばない。それ程までに大きく尊大な口を、さっき僕は叩いてしまっているのだから。

 しかし、そいつを噛み締めても余りある動揺と困惑が、今の僕には渦巻いていた。

 

「だ、だって……罰ゲームの内容が、僕がお前のことを『膝枕』することだなんて……意味、わかんないじゃんかっ」

「今は解る必要なんてないんですよ。そもそも、何であろうと先輩の頭で今すぐ理解できるワケないじゃないですか、舐めてるんですか」

「んっ……くぅ」

「つまらないことで頭を悩ます暇があるのならば、さっさとその膝を私に献上してください。どんな罰でも受け入れるんでしょう?」

「うっ……わ、わかった」

 

 一度は受けて立ったことを、勝者の言葉を、敗者が否定することなどできない。ほらほらと急かされ、困惑に呑まれながらも僕は後輩をおとなしく膝枕した。

 そのとき甘く、いい匂いが鼻腔を擽り、謎の敗北感が僕を襲う。

 

「ふふ、中々いい寝心地ですね、先輩は」

「そ、それは……褒めてるの?」

「はい。これ以上にない賛美の言葉です。先輩はダメダメなポイントが限界値を突破してはいますが、この柔らかさと可愛らしさだけは認めざるを得ませんね」 

「可愛くねーし、柔らかくもないってばッ。お前、いつか絶対解らせてやるからなっ」

「もう、負け犬よろしくワンワンと吠えるのは、枕としてちょっとポイント低いですよ? 先輩は黙って膝枕をしつつ私の頭を撫でてくれればいいんです」

「あ、頭を撫でるのは含まれてないよね!? なにそれとなく追加してんのさ!?」

 

 今の状況でもかなり神経を擦り減らしているというのに、まだ心労を増やすつもりか。足元を見るどころか、両足を掻っ攫う勢いだ。遠慮ってモノが微塵もない。コイツに遠慮なんかされたら、それはそれで腹が立つんだけどさ。

 

「まあまあ、先輩。そこまで難しいことじゃないんですから……あ! 先輩からすれば、これも耐え抜くことのできないレベルだったんですね。謝罪しますごめんなさい私が先輩の軟弱さを見誤っていました」

「は、はあ!? あ、頭を撫でるくらいできるに決まってんじゃん!!」

「では、お願いしますね。……なにを固まっているんですか。さっさとしてください、出来るんでしょう?」

「ぅ……や、やってやるともさ」

 

 後輩の煌めやかに眩しい明るめの茶髪を、震える手でゆっくりと撫でる。自分でも拙く、ぎこちないのがよくわかった。

 人の頭を撫でるなんて、あんましやったことないし、仕方ないじゃんっ。ましてや、歳の近い女子の頭を撫でた経験など皆無なんだからっ。

 

「あはは、へたっぴですねぇ先輩の秘技は」

「秘技じゃねーしっ。人の頭を撫でたことも、膝枕をしたことも今までなかったんだから、しょうがないだろッ」

「ふーん……まあ知ってましたけど。先輩の二つの初めてを私が奪っちゃったってことですね♪ 良かったじゃないですか、初めてが私のような超絶美少女で」

「初めていうな、自分で美少女いうな、僕を見てニヤニヤすんな!」

 

 馬鹿にしやがって。自分の顔の良さを解っている分、余計に煽られている感じがしてイラッとする。モブイジりがそんなに愉しいのか、この腹黒は。

 

「お前みたいに、熟れてないんだよ僕は!」

「それって、いつもシている私の撫で撫でが気持ち良かったって解釈でいいですか?」 

「どうすればそんな解釈になるの!? お前みたいに、誰これ構わず頭を撫でているような、ヤベー奴じゃないってことを言いたいんだよ! カースト最上位スキンシップお化け様!!」

「? 私、別にスキンシップは控えめですし、先輩以外の頭を撫でたこともないんですけど。どこ情報ですか、それ」

 

 あっけらかんと告げられ、僕は硬直した。

 

「い、いやだって……陽キャなんて、大体スキンシップ激しいじゃん」

「偏見ですね。少なくとも私は、そこまで緩い女になったつもりはありません」

「ふ、ふん……僕に、男に膝枕、頭を撫でさせることまでやらせておいて、説得力ないんだよ」

「『男』? 一体どこに男がいるんですか?」

「ここだよ!!」

 

 なんでこんなにコイツは煽り性能が高いんだ? 煽りに命でも賭けてるの? 誰かを殺傷するつもりなの? 僕にとっては一騎当千レベルの煽りだぞ今のは。

 

「勘違いしないでください。私は煽りに命を賭けてはいませんし、私が喜んで煽りにいくのは、天上天下で先輩唯一人です」

「だから心を読むなと──って、そんな唯一これっぽっちも嬉しくないよッ!!」

 

 一体誰が欲しがるんだよ、そんなストレスしかない唯一ッ。キャットタワー無料プレゼントみたいな特典付けなきゃ割に合わないぞ。

 

「はー……先輩は贅沢で我儘ですねぇ」 

「僕のどこに贅沢で我儘な要素があったのかな!? 僕はいたって普通の意見しか言ってないよね!? なんにも間違ってないだろうが!!」

「でしたら、先輩は一体私にどうしてほしいんですか? 寝心地が良くて気分もいいですし、可能な限り聞いてあげます」

「喋る度に煽るのをやめろ!!」

「却下」

「即答!?」

 

 今の返事の間、0.5秒切ってたぞっ。せめて、ちょっとは悩む素振りを見せるくらいの努力はしてほしいかな……。

 

「先輩を煽りバカにするのは、私にとって日常の中にある癒しの一時のようなモノなんです。先輩は、私の何気ない幸福な日常を崩壊させるおつもりなんですか、何様のつもりですか? 先輩のくせに」

「なーんで僕がキレられてるのかなぁ!? 悪いのお前じゃん!!」

「いいえ、悪いのは勝負を仕掛けた挙句に無様を晒し負ける弱々な先輩です。そこは譲りません。先輩もそうでしょう?」

「ぅ……ぐっ」

 

 いつもいつも、痛いところを的確に突きやがってッ。やっぱりこいつエスパーだろ。僕の中のルールを完全に押さえられているから、反論する気力が一気に削がれちゃうじゃん。……くそ、悔しいッ。

 

「お、お前……もし僕が勝つようなことがあったら、マジでコテンパンに泣かすからなッッ」

「はいはーい、愉しみにしていますね。ほらほら、吠えるだけじゃなく手も動かしてくださいよ。負け犬のせーんぱい♪」

「ッッ! やっってやるよクソガキ後輩!! 絶対勝って泣かすかんな! ほんと覚えてろよ!」

「ぷ、あはは! 典型的な三下台詞はズルいですって! 吹いちゃったじゃないですか!! 本気で喰いますよ!?」

「だからなんで僕がキレられるんだよ!」 

 

 笑いのツボも何もかもワケわっかんない奴だなテメーは。しかし次に勝つのは、他でもないこの僕だ。今のうちに、精々短くも儚い束の間の勝利の余韻を味わっておくことだね後輩ッ。

 

 その後も耐えきれずにヒーヒーと笑う後輩に理不尽にキレられながらも、僕は懇切丁寧に罰ゲームである頭なでなでを続けるのだった。

 

 こ、このガキ……次は100%泣かしてやる。

 

 

 




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