生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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19話 後輩とお仕置き

 

 

 

 

 むかしむかし──

 

 ある町に、人々が思わず見惚れてしまうほど美しく、高いビルがございました。

 そのビルは【まほろばの大廈(たいか)】と呼ばれ、住めば幸せになれるという噂から、たくさんの人々がそこに引っ越してまいりました。

 

 けれど、しばらくすると町では、こんな声がささやかれるようになりました。

 

「あのビルの住人、最近見かけないわね……」

「あの人も、この人も、ビルに入ってから音沙汰がないんだ」

「一体中で何が起こっているのだろうか」

 

 段々と、【まほろばの大廈】を不穏視する声が広がり始めたのです。あの大廈で、想像もつかない不気味な何かが発生しているのだと。

 そして、またある者が言いました。

 

「ビルの最上階には、見てはいけない部屋があるのだ」

 

 生気のない青白い顔で、呟いたのです。

 

 

 

 

 

 

 ある晩、好奇心旺盛な若者が、一冊の古い本を手に入れました。

 それは、【まほろばの大廈】にまつわる古文書で、こう書かれておりました。

 

 ──その大廈は、空にではなく、別の世界に向かって伸びている。

 最上階の扉は、“この世”と“あの世”の境を開く鍵。

 

 決して、決して覗いてはならぬ。

 

 不安を煽るほど、強く、大きくそう書かれていたのです。

 

 しかし若者は、なにも気にすることなく笑いました。

 

「たかが作り話だろう? 本当かどうか、確かめてやるさ」

 

 

 

 

 そして、夜の零時。

 

 若者はビルに忍び込み、エレベーターで最上階の54階へと向かいました。扉が開くと、そこにはただひとつの部屋、5401号室があるだけでした。

 

 ──なんだ、何の変哲もない場所じゃないか。

 

 廊下も、風景も。何の異常もない只の空間。何一つ恐れることがない。

 若者はそう思い、部屋のドアノブに手をかけた──その瞬間。

 

 どこからともなく声がしました。

 

「その部屋の中を見たものは、世界を一つ忘れる」

「生きていた場所、叶えたかった望み、名も、記憶も……何もかも」

「二度と戻ってこれない永夜で、貴方は永遠に一つとなるでしょう」

「一つになって、貴方は壊れてしまうのだ」

「可笑しくて、可笑しくて、愉しくて堪らないね」

 

  

 背筋が凍りつくほど、冷たく透き通る声。それが、若者の鼓膜を震わせたのです。

 

 今までにない悍ましい感覚。悪寒に怯え、流石に不味いと感じた若者は引き返そうとして、し、しシテ───ドアを開けたのでした。

 

 

 

 

 

 開けて、開けて、開けて。

 

 開けて。

 

「開けて」

 

 

 

 ──そして、今もその部屋に若者はいるのだそうです。

 自分が誰だったのかも思い出せぬまま、無数の目に見つめられながら。  

 

 延々と、只管に。

 

 嗤っているのだそうです。

 

 

 さて、あなたはもうお気づきでしょう。

 

 このお話は、大廈の呪いを封じるために語り継がれている、話してはいけない、きいてはいけないもの。

 

 最後まで聞いてしまった人は──

 

  

    

 

 

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぎゃあああぁあぁぁああああ!!!?」

 

 テーブルから身を乗り出し、最後まで話そうとする三月の口を無我夢中で押さえつけて僕は大声を出した。

 

 お、お前、お前お前ほんとにお前!!

 

「なんで話をオチまで言おうとしてんの言っちゃダメなパターンでしょう!? ちょっとは躊躇してよッ!!」

「んむっ……オチなしの怪談とか意味ないじゃないですか。しっかり呪われ───」

「だから話すなって!!」

 

 『呪われ』まで言ったな『呪われ』まで! やっぱり聞いたらダメなパターンじゃん! 僕はそういうの精神的に効いちゃうタイプなんだよもうッ、いい加減にしろ。  

 

「しょうがないなぁ、わかりましたよ。……しかし、あんなにも典型的かつ王道な話でああも怖がってくれるだなんて……本当に、可愛らしい、人……ぷっ、ククッ」

「おい嘲笑が滲み出てんぞ腹黒。堰き止めろやッ」 

「あはははは!!」 

「なんで逆のことをするの!?」

 

 腹を抱えて笑い出す後輩の肩を掴み、僕は勢いよく揺さぶった。ダメだ、全く収まる気配がしねぇ、は、腹立つわこの娘マジでッ。

 

 つーかそんなに面白くねーだろ僕が怖がっているところなんてさ。惨めで無様でダサいだけじゃん。……あ、それコイツの大好物だったわ、馬鹿にしやがってッ。

 

 そもそもっ。

 

「どうしてお前の部屋で態々怪談話を聞かなくちゃいけないの!? 意味わかんないし、絶対可怪しいじゃん!」

「ふふっ……世界など可怪しくないことの方が少ないでしょう。そうした不可解に流れる渦の中で藻掻き苦しむのが、人間という種の──」

「スケールを大きくしないでくれる!? それほど大それた話じゃないんだから! もっと小さく簡潔に理由を話して!」

「私の部屋でビビり散らかす先輩のカワイイ反応が見たかったから」

「よく出来ましたクソガキが!」

 

 解りやすいかつテメーの性格がよく表れている説明で大変満足ですよ畜生が! 

 自室でも態々僕の醜態を見ようとするところが最高にお前らしいねッ。パッと見よく整理整頓された何ら欠点らしい欠点のない広くて綺麗な部屋なだけに、案内してくれたときはこんな舐めたことをやり出すなんて思いもしなかった。

 そのくらい、美しくて優等生っぽい真面目な感じの部屋なのだけど……持ち主のやってることが完全にクソガキのソレなんだよッ。

 

「僕の怖がっている姿とか、此処で態々見るものでもないでしょうが。合ってないんだよ、この部屋と僕の醜態は。お前の優等生イメージが損なわれちゃうだろアホ」

「へぇ~……それって私のことを心配してくれてるってことですか?」

「なっ、は、はあ!? だ、だれがお前の心配なんかするか! ただ僕は、お、お前が今まで頑張って積み重ねてきたものが僕のせいで崩れちゃうのがイヤなだけだし! だって僕の気分が悪いじゃん!? だ、断じてお前のことを想っての行動なんかじゃないんだからな! 勘違いするなよバーカ!」

「成る程……確かに王道は良い文化ですねっ」

 

 口元を押さえ、何故か後輩がプルプルと震え始める。

 何が王道は良い文化だ……否定はしないけど、僕とのやりとりを王道みたいに扱ってるんじゃねーよ、王道に謝れ王道に。

 何処にも王道要素無いだろうが、意味わかんないことばっかり言いやがってッ。

 

「はぁ~、ほんっっと楽しいなぁ♪」

 

 グッと身体を伸ばした後、倒れ込むように後輩は寝転がった。隣に座る僕の膝に。僕の、膝に。

 

 なっ、え、ちょッッ。

 

「お、お前なにやってッ!」

「なにって……私の自室で私がなにをしようとよくないですか?」

「良くないに決まってるじゃん! 年頃の男女がそ、そんなっ」

「今更なに言ってるんですか2回目でしょう。まあ、私としては先輩の照れてるカワイイ姿が真下から見られるんで、『ごちそうさまです』状態なんですけど」

「い、1回やったら2回目もやるとはならなくないかな!? そ、それにあのときは罰ゲームで仕方なくやっただけだし、今回とは場所も含めて状況が違いすぎるじゃんっ」

 

「──じゃあ、嫌なんですか?」

 

 ソッと手を伸ばし、紅くなった僕の頬へ後輩が手を当ててくる。下から見える後輩の顔は物凄く愉しげで、僕のことをまるで慈しむようだった。

 

 嫌ですかって……そんな質問、答えづらいだろ。というか答えたくないよ、恥ずかしいからッ。絶対からかわれるっ。

 しかし、ここでキチンと答えなければ変な誤解をさせるかもしれないし、僕自身釈然としない。かといって真面目に本音を話すのも恥ずかしすぎるワケで……一体どうすればっ。

 

「──あ、やっぱ答えなくていいです。解りきっている答えとはいえ、この場所、その表情でもしそれを言われたら、本気でタガが外れちゃいます」

「おまっ……ふぅッ……はん、勝手に自分の都合の良いように想像しとけってんだ小娘」

「……先輩、相変わらず撫でるの下手っぴですね。ほんと、堪らない」 

「!?」

 

 し、しまったぁ! なんで僕コイツのことをなんの違和感もなく撫でてたんだ!? この前の膝枕時に三月の気の済むまで頭を撫でてたから、その影響で動作が染み付いてしまったとでもいうのか!? なにそれどこの忠犬だ僕は!

 

「〜〜〜〜〜ッッッ」

「だから……弁えろと……堪らないって言ってるでしょうその反応……何度言っても解らないバカな人ですね。物事には限度というものがあります……はあ」

「な、なんだとっ、元はと言えばお前──」

「ずっと我慢してきました。けど口で言っても解らないのなら───少しだけ身体に教え込む必要があるよね??」

「が──ひゃあ!!?」

 

 後輩が急に身体を起こし、僕へ陽だまりのような温かい笑みを見せてきたと思ったのも束の間。

 

 距離感を潰すように、三月は僕のことをギュッと抱き締めた。

 抱き締めるだけなら……まだ、耐えることもギリギリ出来たのだけどッ。

 

 コ、コイツ、僕の首元に思いっきり顔を埋めてやがる。なんて格好、絶対ダメなヤツだこれ! クソ、は、外せないッ!

 

「あ、ぐっ、お、お前、なにしてッ!!」

「お仕置き」

「お仕置きぃ!?」

 

 何に対してだ!? こんなことされるほどヤバい罪を犯した覚えはないぞ僕は! 取り敢えず離れよっかこの体制はヤバいホントにヤバい!!

 

「理解する必要はありませんよ。先輩の弱々な頭脳じゃ難しいですから。しかし、お仕置きは受けてもらいます。今日一日──ずっと先輩を抱き締めた状態で過ごしますから」

 

「!!?」

 

 い、一日中!? い、いくらなんでも冗談だよねそうだよね!?

 

 後輩を剥がそうにも僕の力じゃ圧倒的に不足だし、何より柔らかくていい匂いに僕の身体が動くことを拒否している。そもそも動いたら100%身体が反応するッ。

 こ、これは不味すぎるぞ……絶体絶命のピンチすぎる。こうなってしまっては、後輩の言葉が冗談であったことに希望を賭けるしかない。

 

 大丈夫、いくらコイツがヤバくても……きっとからかい半分のタチの悪いジョークの筈だ。だってこの体制、娘っ子にとっても辛いはずだし、一つたりともメリットがないんだものっ。

 

 だから冗談だ、そうに決まっているッ。そうであってくださいお願いしますッッ。

 

 あ、ん、コ、コイツ僕の首元で深呼吸を!! ヤ、ヤメ──

 

 

 

 

 

 

 その後、僕は本当に一日中抱きしめられ続けるのであった。

 

 

 シテ……コロシテ……。

 





ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


・先輩
自分を闇属性だと思っている生粋の光属性。それはそれとして闇にビビりまくったりはする。闇の浅すぎる子。

・後輩 
取り繕った外面は理想の光属性。本性は圧倒的闇属性。
光と闇が両方そなわり最強に見える。

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