生意気な後輩を泣かしたい! 作:もっふもっふもふ
放課後。
状況が面倒臭すぎて僕はめちゃくちゃ帰りたくなっていた。
「それでなぁ、昔のコイツは『せーくん、せーくん』つって俺の横を必ず陣取って来てな。俺がちょっと姿を見せないだけで直ぐに探し回ってくれる程度には俺のことが大好きなんだぜ。全く、困ったもんだよ」
「……あはは、そうですか」
「そうなんだよ。世界で一番日和のことに詳しいのは間違いなくこの俺だろうな。キミも日和の魅力に気が付いた一人なんだろう? だったら遠慮することなく聞いてくれ。日和の唯一無二の理解者である俺──
「………」
得意気に踏ん反り返るウザウザ幼馴染と、そのウザさにピクピクと唇の端が引きつっている後輩。
基本的に仮面被りが上手い三月があそこまであからさまな感情を出すなんて余っ程だぞ。なんかバックに殺意的なオーラが出ているのが視えるし。
けれど、瀬下の阿呆は『僕自慢』するのに忙しいのか、てんで気がつく気配がない。
やれ『俺と日和は無二の関係』、『一生を掛けて進化し続ける仲』だの無茶苦茶なことを言っている。
本当に気持ち悪いよ……。
三月もそう思ったのだろう、瀬下が僕のことを語るにつれ殺意が凄まじいほど膨れ上がっている。目が全然笑ってない、人殺しの目をしているよあの子ッ。
……少なからずこういった厄介な結末になると思ったから、コイツらを引き合わせなくなかったんだよっ。胃に穴が空いちゃうよこの雰囲気。
あのとき下した決断は、やはり間違っていた。
能天気に僕との思い出を語る阿呆と、それを殺意の籠もった絶対零度の目付きで睨みつけている後輩。
二人を見守りつつ、僕は数時間前の決断を後悔した。
◆◆◆
「あ、今日予定あるから放課後の勝負はナシね」
昼休み。読書を妨害してくる鬱陶しい後輩を手で払い除けながら、僕は淡々と告げた。
顔を押されていた後輩は、その発言に僕へと向かってくるのを止め、ピタリと静止する。
「何か予定でもあるんですか?」
「あー……うん、予定と言えば予定だね」
「どんな?」
かなり食い気味に問いかけられる。そんな気になる内容か? 別に隠すような内容じゃないから言うけどさ。
「幼馴染と遊ぶんだよ」
「幼馴染? ……ああ、あの灰色の髪の人ですか」
「あれ、知っているの? 二人面識あったりしたっけ?」
「いいえ、ありませんよ。少しばかりオイタがすぎる人だとは思いますが」
「……どういうことなの」
面識ないのにオイタがすぎるってなに? そもそもオイタがすぎるって……アイツ、三月の癪にさわることをやったのか? やってそうだな。
「しかし、釘を刺すにはいい機会かもしれませんね。先輩とその幼馴染さんの邂逅。私も同行して構いませんか」
「え!? そ、それはちょっと」
「挨拶をしたいだけです私は。普段先輩がお世話になっていますから」
なにお前僕の保護者か何かか? しかし挨拶云々以前に、三月と瀬下って相性がヤバそうなので会わせたくない。どっちも空気読まないし、何より三月のどこにあるのか解らない地雷をあの阿呆は簡単に踏み抜きそうで怖いんだよ。
何故か既に好感度低いし。一々面倒な目に遭うのはゴメンだ。
「心配しなくとも『優等生の仮面』は外しませんよ。初対面なので、飽く迄も学校の後輩として接します」
「……それならセーフかも」
「向こうが敵対行為をしてくるのであれば、その限りではありませんが」
「超不安なんですけど」
お前への敵対行為が何かは知らないが、多分キレるよお前は。瀬下の気持ち悪さは底なしだし、誰でも辟易することを平気でヤラカシてくる化け物なんだよ野郎は(コスプレの布教活動)。
「うん、ダメだね。『優等生の仮面』を外すのなら、お前と瀬下は会わせない。厄介事はイヤだもの」
「えー……んー……仕方ないですね。放課後の先輩を寝取られた時点で私、結構キレてるのですが……断腸の思いで水に流しましょう」
「いかがわしい言い方しないでくれる? 僕のほうがキレそうになるからッ」
誰が寝取られたってッ? 僕は僕のものだよ勝手に変な属性付与するなボケが。
だが『優等生の仮面』を外さないのなら……まあ会わせても問題ないか。コイツは日常生活においては我慢強いところがあるし、アイツの気持ち悪い行動もきっちり受け流してくれるだろう。
……受け流してくれるよね?
不安になりつつも、僕は後輩の同行を了承した。
◆◆◆
意外なことに後輩と幼馴染の邂逅はかなりスムーズに進んだ。
最初は学校一の美少女が急に現れたことに度肝を抜かれていた様子の瀬下だったが、そこは流石というべきか。説明する前に一人で勝手に納得していた。
何を納得したのかは知らないが、説明の手間が省けるのは非常に有り難い。僕と後輩の関係なんて、言うのが情けないものであるワケだし、このまま自己完結しておいてほしい。けどこっちをニマニマしながら見るのは気持ち悪いので、5回くらい死んでくれ。
三月も三月で、僕と接するときとは大違いの丁寧で清楚な感じの対応をしてくれているため、話がややこしくならずに済んでいる。
煽りがないだけで、こんなにもスムーズに話が進むのか……すっっっごい助かるよ。普段もその部分だけは持っていてくれ。
内心はどうか知らないが、外面上は思いの外悪くない二人の邂逅に、僕は安堵した。
──しかし、話題が僕のことになったとき、事態は急変する。
瀬下の奴が、発作とも言える僕との思い出語りをやり始めてしまったのだ。ペラペラクチャクチャと……お前、マジでその絶望的キモキャラなんとかしろよ。『三月さんはなんにも知らないだろうけどぉw』みたいな煽り口調なのが更にムカつく。なんでコイツは僕の話になると、誰これ構わずマウントを取ろうとするの? お前は僕の幼馴染ポジにどれだけ価値があると勘違いしてるんだよ。ねーよそんなもんはよぉ!
そのウザすぎる語りに、明らかに後輩は殺意を漲らせ始めていた。僕との約束があるので耐えてはいるが、僕がゴーサインを出したら、間違いなく目の前の踏ん反り返り野郎を血祭りに上げているだろう。
今のところ、10:0の割合で瀬下のバカが悪い。しかし、いくらなんでも三月の方は
もう少し受け流せよ……お前他人の話聞き流すの得意じゃん。いつも話聞かないし覚えてないじゃん。なんで瀬下の話はそんな親の仇を見る目で聞いているの?
二人を放置して退散したいところだけど、その場合明日の学校で瀬下の行方不明報告とかが上がりかねない。
め、面倒くせぇし、お腹が痛い……ストレスマッハで僕の身体は悲鳴をあげていた。
「小学生の頃、日和はニンジンが苦手でよく俺の方に移してたんだよ。『せーくん、お願いッ』って瞳を潤わせながらね。いやぁ、あれは幼馴染の特権っていうかぁ、俺だけの役割ってやつ? 控え目にいって最高でしたねはい」
「………」
「一緒にお化け屋敷に行ったときなんかは、怖がりな日和はずっと俺の腕に抱き着いてさ。『お、お前がビビっているだろうから』つってめちゃくちゃギュッと抱き着いてきたわけよ。……あの感触、忘れられないね」
「………」
「キミは、何か日和との思い出はあるかい? 大丈夫だ、期間は浅かろうが決してキミを下に見ることはない。そんな領域の話じゃないことは既に理解できているだろうしな」
何時まで経っても終わらないマシンガントーク。鬱陶しすぎる……つーかよくそこまで覚えているな。鮮明に記憶しすぎだろ。僕の方が覚えていないことが多いよ。
三月に限らず僕の方もそろそろキツイし、強引にでもコイツの口を塞ぐか……取り敢えずウザいしキモいしぶっ殺そう。僕は瀬下を止めるため、重い腰を上げようとした──その瞬間。
「─────ふっ」
一つの笑い声が響いた。
馬鹿にするような、嘲るような。他人を蔑む負の声が。
声のした方を見てみると三月が口元を歪め、相手を下に見る目で瀬下のことを見つめていた。……おい仮面は?
「な、なにが可笑しいんだ?」
唐突な雰囲気の変化に漸く気が付いたのか、瀬下が困惑気味にクスクスと笑う三月に言う。
そんな瀬下に、三月は心の底から愉しそうに告げた。
「日和先輩って──うなじが弱いんですよ」
「!!? ……なん……だと!?」
「ちょっ、お前何をいい出しているの!?」
おい待て、ほんと、な……何を言い出しているだコイツ!?
いきなりトチ狂い始めた後輩に、僕と瀬下は戸惑いの色を隠せなかった。
後輩の反撃が──始まった。
いや始めんな!!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!