生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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27話 後輩と星の人②

 

 

 場所は変わってとあるお洒落なカフェ。周囲の人達の視線を浴びながら、僕達三人は席に着いていた。

 ヒソヒソと囁かれる声。テーブルの下で僕は汗ばんだ手を強く握る。

 心拍数はヤバいし、周囲のいたるところから此方を見つめる視線が痛い。痛くて辛くて帰りたかった。

 

 なぜ、僕はこんな目に遭っているのでしょうか。

 

「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」

「アイスコーヒーをいただけるかしら。三月も同じもので構わない?」

「私は追加でチーズケーキも欲しいな。奢りなんでしょ?」

「ええ、もちろん。無理矢理引き留めて連れ込んだんだもの、ここは私が持つわ。……ふふ、貴方も俯いてないで早く注文したらどう? 店員さんが困っているわ」

 

 微笑みと一緒に、優しく声を掛けてくれる星の人。神々しく輝く、夜の星々みたいだ。さっきまでの僕なら、その感想しか出なかっただろう。

 けれど、今の僕には解る。あの青の瞳の奥から視える感情……真っ黒だ。完全に僕のことを害虫認定している。なんでだよっ。

 

「せんぱー……んん、この子には、オレンジジュースをお願いします」

「え」

「か、かしこまりました。ご注文を繰り返します、アイスコーヒーが──」

 

 み、三月の奴……勝手に僕の注文決めやがった。や、別に全然良いんだけどもさ……年下2人がアイスコーヒーを飲んでるのに、年長者の僕がオレンジジュースって、なんかダサいな。

 

「先輩、私の膝の上に乗りますか? テーブル届かないでしょう?」

「お前、死にたいのか……?」

「あはは、場を和ませる小粋なジョークじゃないですかぁ。そんなにガチにならないでくださいよ♪」

 

 何処らへんが和んだんだ? 人一人の殺意が高まっただけだぞ。自然に頭を撫でてきてんじゃねーよッ。やっぱり対面に座った方がよかったかな……星の人が怖いから無理だな。

 

「ふ……ふふ……ふふふっ」

「ひっ……」

 

 笑みが深まり明らかに様子の可怪しい星の人に、小さく声が出てしまう。僕と後輩が絡む度に視線が怖気を増していくぞ……良くない傾向すぎないかこれ。

 というか、後輩も態々星の人を刺激するようなことを選んでやっている感がある。

 なんなのこの人達……頼むから僕を巻き込まないでくださいよっ。家に、家に帰りたすぎる。

 

 抗議の意味を込めて隣に座る後輩の袖を、僕は引っ張った。

 

「あんまし刺激すんなよっ。怖いしやる意味ないでしょッ」

「意味ならありますよ。先輩は、『幸福』の定義を他人に押し付けて悦に浸る愚か者を下すには、どうすれば良いと思いますか?」

「え……わかんない」

「覚えておいてください。自分の知らない、認めない『幸福』で圧殺すればいいんです」

「なにその物騒なバトル思考」

 

 圧殺て……コイツらの関係性ホントになんだよ。深掘りするつもりはないけれど、怖いよ一々発言が。仲良いの、悪いの、どっち?

 

「兎に角、下らない闘争に僕を巻き込まないでよ……天才同士の争いなんて見ててもワケわかんないし、面倒くさい。帰ってゲームやりたいんだが」

「それは無理ですね。接して解る通り、目の前の奴はしつこさが売りの厄介な獣なんです。中途半端に能力に恵まれた分、思い上がりや選民思想が思考の奥深くに根付いている」

「ヤベー人じゃんっ。だ、だったら尚の事帰りたいんだけど」

「解りませんか? 私が挑発をし、彼女の一瞥を受けた時点で先輩はターゲットにされています。此処より私と先輩は、結末を共にする運命共同体になったんです」

「お前ふざけんなよ!?」

 

 お、おま、お前、大体お前のせいじゃんか。お得なポイントが一つも見当たらないし、僕完全に巻き込まれ損じゃね? なんでコイツに関わるとこんな厄介なことばっかりになんだよ。

 僕の愛する平穏や静寂は、一体何処の世界に行ってしまったんだ……。

 

「なんてことしてくれてるの……責任取らないと許さないからなッ」

「うわ、あざとッ……先輩は学習能力を少しは備えておきましょうよ……逆に責任取らせますよ」

「どういう意味だ貴様! 状況を考えて物言えよ! 大体お前はいつもいつも───」

 

「──ねえ貴方、私の隣に座ってくれる?」

   

 僕と後輩のやりとりを見守っていた星の人が、冷ややかな黒い視線で僕のことを見つめつつ、言う。浮かべる笑みが穏やかなのが、非常に恐ろしい。

 い、今『隣に座れ』と言ったのか? あの敵意全開オーラを出している横の席に僕が? 間接的な殺害予告ですかねっ。

 

「え、えっと……気分が優れないから……遠慮したいかなぁ。迷惑掛けちゃうし。あはは」

「あら、それは大変ね。では早急に私が手を尽くして看病しましょうか。そうすれば貴方の体調も回復するはずよ」

「治ったからやっぱり平気っす」

「そう、良かったわ。これで私の隣に座ることが出来るわね。さっさとしてくれる?」

「………」

 

 隣の席をポンポンと叩き、途轍もない眼力で星の人は催促する。

 

 遠回しに断る必殺技が……歯向かう手段が秒で潰された……なんでこの人も押しが強いんだ。解るだろ、あの煮え切らない感じで僕の意思くらい解んだろ、なんで一切折れてくれないの。メンタル黄金か? 天才は空気の察せない化け物ばかりなんですか??

 

「貴方達二人を隣同士に置いていたら話が進まないわ。もっと堅実で実のある話を私は行いたいの。理解力の乏しい愚民といえども、その程度は理解できるわよね?」

「ぐ、愚民……?」 

「今この瞬間にどうこうシようというつもりはないわ。罰は然るべき場所で、公正に行わないといけないもの。親友の『幸福』を奪おうとする間者は、摘み取るときも正しく凄惨じゃないと」

「え、えー……」

 

 バリバリの悪態じゃん。なんで僕、初対面の美少女にこれ程嫌われているのだろう。今日の僕酷い目に遭いすぎだよね……一体前世でどれだけ悪行を積んだんだ。大体三月のせいっぽいけど。

 

「ほらほら、早く此方に来なさいな。文句などないでしょう?」

「あの会話でなぜ文句がないと思ったの?」

「そうですよ、先輩は私の隣が良いと泣いていますよ」

「言ってないし泣いてない!!」

 

 変なタイミングで余計なことを言わないで! 星の人の精神に悪影響を及ぼしちゃうだろうが!

 

「ふふ……本当に仲が良いのね貴方たち。貴女がそれ程までに笑っているところをみたのはこれが初めてよ」

「人生で一番『幸福』だからね、笑顔にも──」

「それはまやかしの『幸福』よ」

 

 ピシリッと、空気に罅が入る。敵意と正義心を携えて、星の人は三月の幸福の言葉を遮った。

 あの目、あの雰囲気。異常なくらい『幸福』に拘るな……そんな固執して得られるものでもないんじゃないかな幸福って。知らんけど。

 

「そこの彼に貴女は幻影を見せられているのよ、素直で純真な貴女だもの。騙されては傷付くのが関の山よ」

「………」

「星王学院でなら、貴女は正しい人生、正しい夢、正しい『幸福』を抱擁することができる。まやかしじゃない、本当の幸せを得ることができるわ」

「………」

「安心して、私は貴女を裏切らない。私が貴女を導くわ。偽りのなき本当の世界で……共に歩みましょう? 三月」

 

 慈愛の籠もった瞳で、三月に手を差し伸べる星の人。

 怪しい宗教の勧誘かってくらい甘い言葉と表情だ。並大抵の凡人なら二つ返事でその手を取ったことだろう。

 しかし、相手が悪い。言っていることが全部当てはまってないし……どうにも三月へのイメージで勘違いが先行しているみたいだった。仮面被って内面を隠す三月サイドにも問題はあるけど、星の人も星の人で他人の話を聞かない厄介気質だし、両方面倒だ。勝手に争って相打ちで共倒れしろ。

 

 あと何気に僕を諸悪の根源扱いしてくるの止めてくれないかな。僕なんにも後輩の未来を誘導したりしてないからな。

 

 僕は何も悪くないからな!!

 

「元々、星王学院から推薦を受けるほどの異彩を放つ才能を有する貴女よ。住む世界が違うことくらい、本当は解っているでしょう」

「………」

「『幸福』を掴み、受け入れるために最善の手段を用いるのは、才覚のある者の責務のようなものよ。今の貴女は、その最低限の責務すら放棄している状態。……そして、責任を放り投げてまであんな底辺高校に拘っている理由がソレなのだとしたら……貴女は幸福を、人生を無駄に浪費している」

 

 星の人は、静かに冷徹に断言する。

 よ、よりにもよって底辺高校の『ソレ』扱い。なんだ、この女を口説くための当て馬かつコケおろしの道具にされてる感覚。

 恐怖を通り越して、段々腹立ってきたぞ。初対面といえども、そろそろ僕もキレていいか……? 僕の通う白花高校まで馬鹿にしやがって。あそこは別に底辺高校じゃねーよボケがッ。

 

 散々働いてくれた無礼を返すべく、星の人に怒りをぶちまけてやろうと身を乗り出した直後。隣の席より、愉しそうな声が届いた。

 

「───あはっ」

 

 その声は、可笑しくて堪らないという具合に、清々しいほどの愉快が灯った声だった。

 

「ふ、くく……あははッ……はは」

「……どうしたのかしら三月。漸く悪夢から覚めてくれたの?」

「ううん、違うよ……ここまで来たら、一種の才能だなと思ってね」

 

 『そこだけは嗤ってあげるよ』と、後輩は愉しげな笑みを見せた。

 邪悪な笑みだぜ……これが素直で純真とか冗談だろう? 見る目がないなんてレベルじゃないでしょ。

 

「色々とズレた発言はあったけれども……まずは一つ。訂正をいれるね」

「訂正?」

 

 困惑する星の人を睥睨し、三月は僕の肩を抱き寄せた。え、な、何急にっ。

 

 唐突な行為に心臓が跳ね、僕は顔を赤くする。なぜいきなり此方に矛先が向くんだ。コ、コイツ一体どういうつもりだ?

 

 後輩の真意を測りかね、下から睨見つける程度のことしか、僕は出来ない。コイツの考えや意味が、僕には微塵も解らなかった。

 

 そして、その顔に愉悦を滲ませた後輩は、ソッと僕の顔に唇を寄せて──頬に優しく触れるようなキスを落とした。

 

 キスを、落とした。

 

 

『───!!!??』

 

「星色さんは兎も角、先輩は今更頬にキス程度で取り乱さないでくださいよ。今まで、もっと凄いことをしてきたんだから」

 

「───なっ」

 

 唖然とする星の人。声が出ずに僕は口をパクパクさせる。

 

 コ、コイツ……コイツほんとコイツなにホント……ホントに!!

 

「さて……星色さん。愚かな貴方でも解ったでしょう? 私にとって、日和先輩は無駄や『ソレ』ではないよ。彼こそが……私の『幸福』そのものなんだ♪」

 

 幸福を象徴する満面の笑みと一緒に……三月は強くはっきりと言い切った。

 

 絶対星の人より僕のほうがダメージ大きいよこれッッ。

 

 そういうとこだぞ……そういうとこだぞバーカ!!

 

 





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