生意気な後輩を泣かしたい! 作:もっふもっふもふ
「後輩、今日の勝負を始めるぞ」
「はい、先輩。今日はどんな遊びで無様を晒してくれるんでしょうか?」
「晒さねーよッ」
今日も今日とて、勝負日和。目の前の後輩は、あいも変わらずクソガキで、僕のことを舐め腐っている。
しかし、だからこそブッ潰し甲斐があるというもの。勝負に勝ち、後輩をブチ泣かしたときの喜びと興奮が高まるというものだ。考えただけで、やる気が満ち溢れてくるね。
「ふん。昨日までの僕と同じと思ったら、痛い目にあって泣くことになるぞ後輩」
「ふふ、先輩みたいにですか?」
「僕は泣いてないだろ!! 記憶ねつ造すんな!」
いつ泣いたんだよ僕がいつ。いい加減に……駄目だ、コイツの煽りに一々耳を傾けていたら、ドツボに嵌ってしまいそうだ。
飽くまで冷静にいこう。今日の僕は、勝てる奴なんだから。
「あの、先輩。一人無駄に燥いでないで、早く何で勝負するか説明してもらっていいですか? 見ていて滑稽ですし」
「おまっ……ふー……よし。今日の勝負は、『だるまさんがころんだ』だ!」
「『だるまさんがころんだ』、ですか。また随分と懐かしい遊びをもってきましたね」
「ふふん、僕が昔よく遊んでいた遊びの一つだよ。これなら、お前を徹底的にボコせると踏んだ」
『だるまさんがころんだ』は、バランス能力こそ多少は必要あれど、別段運動神経の差がそこまで大きく影響する遊びではない。ババ抜きのような心理戦? でもない。必要なのは、慎重さと大胆さだ。
そして、僕はこの両方を高水準で兼ね備えた存在。それすなわち、僕が勝利するのは必定というワケである。完璧すぎるチョイスだ、これで勝てる。
「鬼は先輩ですか?」
「ん、『だるまさんがころんだ』は、鬼の方がタイミングをイジれる分有利傾向にあるからな。一対一なら尚更変わってくるし。まあ、ここは先輩としてお前に譲ってやっても──」
「じゃあ、鬼は先輩に譲ってあげます。だから、精々抗って愉しませてくださいね?」
『無駄な足掻きと囀りは見聞きしていて面白いですから。先輩限定で』と、後輩はくつくつと嗤った。コイツ……純粋に性格悪すぎるんじゃないかな。煽りカスが、上等じゃおらッ。
「……いいよ、後悔させてやる」
「はい、させてください。出来るものなら」
完全に舐めてるな。その余裕、絶対に引っ剥がしてやるッ。覚悟しろ。
「だーるまさんがころんだ!」
「……」
そうして、バチバチとした雰囲気の中、僕と後輩の勝負が始まったワケなのだが……。
「だーるまさーんがころんだ!」
「……」
「だるーまさーんがころんだ!」
「……」
「だるまーさんーがころんだ!」
「……」
一体全体、どういうつもりなのか。このガキ、開始直後の位置から全く動こうとしないのである。ずっとこちらを見つめながら、ニコニコと微笑みを浮かべているのだ。一歩たりとも動かないなんて、ちょっと想像していなかった。
何かの作戦、か? いや作戦なら、もう少しアクションを見せるべきだろう。これじゃあ一生勝敗がつかないじゃないか。互いに膠着状態が続くだけだぞ。
……後輩の思惑が、読めない。何かあるのは間違いないが。しかし、このままでは本当に決着がつかない。もう三十分もやってるんだぞ? 『だるまさんがころんだ』って、こんな長時間するゲームじゃないんだよ。もっとこう、徐々に近付く感じとかを楽しんでするモノなんだよ。なんでずっっと動かないのさ?
後輩とやっていると、遊びの本質がわからなくなる。狙ってやってるの? だとしたら何のために? ひょっとして、ただの嫌がらせ? ……ああ、もう! なんで『だるまさんがころんだ』でこんな心理戦っぽくならなきゃダメなのさ。耐久戦にも限界があるんだよっ。
「だるまさんがころーんだ!」
「……」
「だるまーさんがころんだ!!」
「………」
「だーるまさんがころんだ!!!」
「…………」
「だるまさんがころんだ!!!!」
「……………」
「だるまさんがころんだって言ってんだよ!!」
「………………」
クソが、全く反応しやがらないッ。不気味なくらいに平静だ。せめて表情くらい変えてよ。なんでずっと笑ってるの? ……もう、いいさ。そっちがその気なら、無理矢理にでもゲームを動かしてやろうじゃないかッ。喋るペースを格段に落として、相手が動きたくなるように誘導しよう。そうすれば、現在の不気味すぎる状況は変わる筈。
後輩よ、どんな考えにしろ、お前の思惑通りに僕が動くと思うなよ。僕はお前に勝ちたいんだ。だから、お前の想像を絶対に超えてみせる。今こそ、勝つために必要な大胆さを発揮するときなのだ。すぅ。
「だーーるーまーさーんーがころーーんむぅ!?」
「はーい、私の勝ちー♪」
そして、振り返った瞬間。僕は、いつの間にか超至近距離にまで近づいてきていた後輩に頬を指でプニっとされる形で、敗北を喫していた。え……えっ。
「そ、そんな、どうやって……」
「走って近づいて、先輩の柔らかい頬をプニッただけです。考えれば解るでしょう。……ふふ、それにしても先輩、思考が丸わかりすぎます。いつ痺れを切らすのか、手に取るように解りましたよ」
「な、なっ」
「大方『ゲームを動かしたい、私の想像を超えたい』、とでも考えていたんでしょう? けどざんねんでした。先輩の行動はぜーんぶ私の思惑に則っただけの脳死選択です♪」
『こんな単純な誘導に騙されるなんて、ほんとに脳ミソついてるんですかぁ?』と、ニヤニヤと愉しそうに言われる。
ウソ、つまり僕の思考や行動は、全部コイツに誘導されたモノだったってこと? 全て、コイツの掌の上だったの? あ、りえない、そんなの。だってそれじゃあ、僕は道化みたいじゃないかッ。
「信じるかどうかは先輩の勝手なんですけどね。詳しく説明する気もありませんし。でも、どれだけ弱々な頭を回そうとも結果は変わりませんよ、先輩の敗北です」
「……う、ぐ」
「ふふ、あれほど堂々と粋がっておいて結局はこの有り様だなんて……どうします? 一回泣いておきますか? 頭を撫でて慰めてあげますが」
「泣かないし、そもそも既に撫でてんだろうが!!」
にやけ面が本当に腹立つ。泣かしてやりたいっ。今回の勝負も自信はあったのにさ。謎の耐久戦で負けるなんて、解るワケないじゃん……クソッ。
「あ、それと罰ゲームのことなんですけど」
「!! そうだった、罰ゲームがあったんだったなッ。ぐ……き、今日はなにさ? また、膝枕? それとも別のこと?」
「いえ、今日はナシでいいですよ」
「……へ?」
思いも寄らない返事に、僕は目を見開いた。
ナシって……うそマジで? 僕としては神経を擦り減らさずに済むワケだから、非常に助かるのだけれども……。一体どういう風の吹き回しだ? またトラップか?
「な、なしって……本当にいいの?」
「はい、とても充実した30分を過ごせましたので。それで手を打ちます」
「充実って……お前ただ僕を見つめながらニコニコと突っ立ってたじゃないか。逆にしんどいだけの時間だろ」
「……はあ。先輩はやっぱりなんにも解っていませんね。気の毒になるくらいです」
「はあ!? じ、じゃあ何が充実してたっていうのさ!!」
「言うワケないじゃないですか。デリカシーないんですか?」
「テ、テメェッ」
ブ、ブチ泣かしてぇこのクソガキッ。次だ。絶対次はボコしてやるッ。
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