生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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30話 後輩と宣戦布告

 

 

 

 普段と同じ放課後。

 

 身体を伸ばしながら、目の前で大きな欠伸をする後輩を僕はジト目で見つめていた。

 清々しいほど大きい欠伸だ……するのは別にいい。しかし完璧な美少女を気取るなら、もう少し弁えた欠伸をしろよ。ほんと包み隠さないというか、遠慮がないな。

 

「先輩に見られたところで何の支障もありませんからね。寧ろご褒美じゃないんですか? こんな美少女の様子中々拝めませんよ」

「んなもん率先して見たいとも思わねぇよ」

「強がってませんか?」

「強がってないっ」

 

 強がってみせる要素どこにもないだろうがッ。そもそもお前の欠伸なんて数え切れないくらい見てきてるし、記憶にも焼き付いちゃってんだよこの残念美少女がッ。

 

「……ふあぁ」

「声を抑えろ声を……なにお前、寝不足なの?」

「んー……多少は。ここ数日夜遅くまで人体実験をしているので仕方ありませんね。今日は早く寝ることにします」

「お前今なにシてるって?」

 

 聞こえちゃいけない不穏な単語が聞こえたぞ。……大袈裟な表現ってことにしとくか……深掘りしちゃったら面倒臭そうだし。

 

「兎も角、体調管理には気を付けろよな。お前に倒れられたら予定が狂うんだよ」

「あはは、心配してくれるんですか? ほんと、愛い奴め」

「違うっ。お前を泣かすために考えた作戦の数々を無駄にしたくないだけ」

 

 折角考えたモノをお披露目する機会が消失するなんて許せるワケないだろ。

 全ては僕のため。お前の体調の心配なんぞ二の次だ、一々調子乗ってんじゃねーよッ。

 

「んー……しかし、良いものですね。こうして何のしがらみもなく可愛いモノを愛でることができる時間というのは。この時間だけで『世界』を構築できれば、人生は『幸福』のみのモノになるでしょうね」

「もう鬱陶しい幸福論はゴリゴリだぞ。頭痛くなってくる」

「あはは、先輩には綺麗な世界しか見せないので安心してください。汚物は除去しますんで」

 

 『お任せあれ!』と、両手でピースサインをしながら微笑み掛けてくる後輩。

 なんだ、その変なテンションは……やっぱり寝不足だなコイツ。絶対頭が回ってない。

 

「今日は解散しよっか……そんで帰って寝ろ。寝て明日万全な状態にしろ」

「えー……帰っても『自分磨き』をするだけなんですよねぇ。それも大分把握出来てきましたし、そのようなことよりも先輩と一緒に居た方がよっぽど身体に良いですよ。絶好調になるまであります」

 

 後輩は、頬に指先を添えて愉しげに左右に揺れ始めた。

 コイツ、己が何を言っているのか解ってんのか? 普段あんなに僕のことを『あざとい』だのなんだの言ってるのに、自分だって恥ずかしいくらいにあざといじゃんっ。

 

「寝不足だろうとお前はそうやって直ぐに僕をからかおうとするんだ。タチが悪いったらないね。……ふん、アホっ」

「……。……ヤッばいなぁ……自制心、効かなくなってるのに……そういう反応しちゃうんだ」

「? どうした」

「いいえ。只、先輩はもっと危機感を持った方がよろしいかと」

「なにさ急に」

 

 僕ほど危機察知能力と自己管理能力に長けた人間も居ないだろうよ。そうじゃないと、僕の面倒な人間関係の綱は渡れなかったからな。

 因みに面倒筆頭はお前だぞ、アホ三月。

 

「私の言い草が納得いかないようですね。顔に表れてますよ」

「ふん、お前の言い草に納得したことなんてないよ。いつもお前が強引だから、大人な僕が紳士的に譲歩してやってるだけだ。感謝しろよなマジで」

「………」

「な、なんだよその顔」

 

 僕がふんぞり返って大人らしく言ってやった直後。さっきまでの笑顔を消し、無表情で後輩が僕のことを見据えてきた。

 なにかを致命的に間違えて、癇に障ることがあったときの表情だ。い、今のやりとりでその表情になる要素どこだ? 僕は一つも間違ったこと言ってないよね!?

 

「はぁ……そろそろ優しくするだけじゃなくて、本気で躾けた方がいいかなぁ……このメスガキ」

「おい待て誰がメスガキだ!?」

 

 ガキでもないし、メスでもねーよ僕は! いい加減にしろよアホアホ小娘!

 

「他人を無作為に扱って自分のことを見つめ直すようになってから、私思うようになったんです。……私の感情が暴走しそうになる原因、大体先輩が悪いなって」 

「お、お前全然自分を見つめ直せてねーじゃん……」

 

 まず“他人を無作為に扱う”ことへの違和感を持ってくれ。一番悪いのは絶対にお前なんだよ。そこは譲れない。

 

「多少の荒療治は必要と考えて、『印』を付けて他者を牽制、及び悪意を持つ者を捻り潰したりしてきましたけど……肝心の先輩が私の行為を“からかい”と捉えて、虫を寄せ付け続けていては埒が明きません」

「虫て……お前、ほんとに早く寝た方が良──」

「だから、今正直に宣戦布告します」

 

 後輩が、ピシリと人差し指を僕の方へと向ける。僕の言葉を遮ってまで浮かべたその表情は、真剣さと覚悟の灯った、他人を茶化してばかりの後輩らしくない顔だった。

 正直に宣戦布告って一体なんだよ……目が据わってるし、何徹目のテンションだこれ?

 

「この勝負だけは負けられない。私、他人も自分もどうでも良いと思って投げやりになってばかりの欠陥品ですけど。こんな私でも、負けたくないと心の底から願える『勝負』があるんです」

「し、勝負……?」

 

 変わった空気に僕は息を呑む。今回はまた一段と信念の籠もった声色だ。コイツにもあるんだな……負けたくないと感じる勝負が。

 

「今まで先輩はバカで能無しのボケナスだから、言っても理解できない、もしくは真面目に受け取らないと思って時期を見計らっていました。……でも、勝負内容くらい伝えておかないと、先輩は私のことを意識しまくっても最後の最後で『負けてくれない』と判断したんです。解りますか、つまりコレは嘘でも冗談でもないということです」

 

「え、は、はあ?」

 

 つ、つまりどういうことだってばよ? いまいち要領を得ない。序盤の罵倒がムカつきすぎて、それと後半の内容を結び付ける行為に僕は難儀した。いや本当にムカつくなコイツ。

 

 僕のそんな様子に気が付いた後輩は、やれやれと首を振った。

 

「考えて解る必要はありません。先輩の能力以上のものを求めるつもりは初めからないので」

「くっ……そいつはそいつで舐められてるみたいで腹が立つ」 

「“みたい”ではなく、舐めてるんです」

 

 余計に腹立つわ!

 

「『厄介な芽』というのはそこらかしらにあるものです。ずっと手をこまねいていては、本当に大切なモノを取り零してしまうことだってあります。まだまだ雑踏処置が済んでない現状では、その可能性もとても高い。……貴方は猫みたいに自由気ままだから」

 

 『まあ、そこがカワイイんですけど』と、三月はクスクスと笑った。

 

 結局何が言いたいんだよコイツはっ。僕の理解力が乏しいとは言うが、三月だって本題を逸らしてばかりでマトモに取り合おうとしないじゃないか。

 あとさっさと自分の家に帰って寝てほしい。さっきから目がキマってて怖いんだよお前ッ。休息を取れ休息を。

 

「本題に入ろうよ、長ったらしい話は好きじゃないんだ。僕に仕掛けたい勝負があるのなら、その内容を言ってくれ。もし眠いってのならそっちを優先していい……寧ろしろ。宣戦布告くらい、いつだって……その、受けて立ってやるしッ。僕がどうせ勝つからな!」

「………はあ」

「おいなんで今ため息を吐いた?」

「いやぁ別に……只、今すぐ押し倒してブチ◯したいなぁって」

「お前本当に寝た方がいいよ!!?」

 

 自称・超絶美少女が言っちゃいけないこと言ったよこの娘! こんなにもストレートな表現、面と向かって吐かれたの生まれて初めてだわ!

 

「まあ、いいです。今は宣戦布告のみで留めておいてあげましょう。何度でも言ってあげるので、聞き取れなかったり理解できなかったりしたら言ってくださいね!」

「この流れでするのか……いいよ、どーぞ」

 

 爆弾発言も束の間、三月は満面の笑みで話を続ける。

 

 この娘……本当に大丈夫か? 見た所問題しかないが。不安になる僕を尻目に、彼女は真剣な表情を浮かべて……ハッキリと透き通る綺麗な声色でソッと呟いた。

 

 

 

 

 

 

私が、完膚なきまでに日和のことを落としてみせる

 

「────」

 

貴方に絶対、私のことを『好き』と言わせてみせるから。これが、私から貴方への宣戦布告。命を懸けてでも勝ちたい真剣勝負の内容だよ

 

 

 

 

 

 

 

 絢爛な笑みと共に自信満々に告げられた宣言。

 

 それは、どこまでも澄んだ色を見せる美しい夕焼け雲のように、胸に残る言葉だった。

 

 落とす……落とす……おとす……オトス!?

 

 落とすって、あの『落とす』って意味か!?

 だ、だって『好き』と言わせてみせるって言ってるんだからそういう意味だよね?

 

 な、な、なんで!? み、三月にとって僕は体の良いストレス発散の玩具くらいのものじゃなかったのか!?

 

 い、今までこんなこと言われたことなくて……か、からかってんだよね? いつもみたいにからかってるんだよね!? け、けどさっき嘘でも冗談でもないって言ってた気が……しかしそれが嘘の可能性も捨てきれないしッ。わ、解らない、心の整理がまるでつかない、どうすれば良いのか解んないよもう!! 

 

 唐突なキャパオーバーになるほど凶悪な台詞に、僕の心はパンクした。

 

「あはは、面白い反応。可愛すぎるでしょ、ほんと」

「う、う、う、うるさい黙れ! ぼ、僕は可愛くないっ!」

「いや、カワイイですよ。世界一カワイイ

「う、ぐ、うぐおぉッ」

 

 ヤバいほど『真剣』な三月の落としに掛かる言葉に、僕は狼狽えまくる。

 

 

 

 や、奴はそう、寝不足! だから三月に負けたわけじゃない。ドキドキもズキズキも全部勘違いだ! 

 そんな、意味の分からない暴論を並べ立てて、自分に言い聞かせることしか今の僕には出来なかった。

 

 

 

 

 

 

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