生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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4話 後輩と図書室

 

 

 図書室。

 それは、数多くの種類の本を保管し取り扱う場所。本を借りたり、読むことのできる素晴らしいスペースである。 

 図書室は、騒がしい教室よりも静かで落ち着けるし、自分の考えに没頭できる。なので、物凄く重宝している。ここで本を読み過ごす時間は、僕にとってオアシスにも等しいのだ。……だというのに。

 

「……なんで僕をずっと見てんのさ。図書室に来たんだから、本を読めよ本を」

「お気になさらず」

「いや気になるわ」

 

 何故か僕の真正面の席には、生意気な後輩がニコニコと満面の笑みで座っているワケでして。

 来るのは、別に構わない。此処は学校の図書室であり、生徒ならば誰であろうと利用する権利があるから。

 けれど、同時に解せない。……なんでお前は態々僕の前の席に座るの? 見渡してごらん? 空席めっちゃあるじゃん。もっと離れた場所に座ってよ、人が全然居ないとはいえ、お前めちゃくちゃ目立つんだよ。それに、ガン見されていたら気が散ってしょうがない。チラ見程度なら許容できたが、ガン見はもう普通に邪魔だ。

 なんなんコイツ、僕の憩いの時間を潰しに来たのか?

 

「本を読むワケでもなく、勉強をするワケでもない。何がしたいんだよお前は。目的はなにさ」

「目的、ですか。……ふふ、それを今叶えている真っ最中です」

「……はあ?」

 

 ワケがわからない。僕を見つめて何が叶うっていうのさ。自分でいうのも何だが、得られる物は何一つ無いぞ。またおちょくってるのかコイツ。大事な本を読んでいるっていうのに、集中がまるで出来ないじゃないか。

 

「それ、先輩の読んでいる本って、『なぞなぞ』を纏めた問題集ですか?」

「え、ああ……うん。そうだけど」

「可愛いモノを読んでいるんですね。なぜ、その本をチョイスしたのでしょうか?」

「……ッ」

 

 若干香る煽り気味のその問いに、僕は言葉を詰まらせた。何故ってお前さ……そんなの、言えるワケ──

 

「もしかして……私に『なぞなぞ』を出題するため、ですか?」

 

 おいコイツ鋭いぞ。折角沈黙で乗り切ろうと思ったのに、ほんの数秒で看破してきやがったッ。誰だよ答えは沈黙って言った奴は。完全にアウトだよっ。

 

「図星ですか。……ふーん」 

「な、なんだよその含ませは。わ、悪いか?」

「いえ、別に。ただ、お昼休みを献上してまで私一人のために藻掻くなんて、随分と健気で可愛らしいことをしているなぁ、と」

「張っ倒されたいのかお前は」

 

 案の定、にやにやした顔で煽られた。だからバレたくなかったんだよっ。こうなることが火を見るよりも明らかだったからなもう!

 まさか、憩いの場である図書室にまで煽りの魔の手が伸びてくるなんて、想像したくもなかった。平穏を司る神は一体何処へ行ってしまったのだろうか。

 

「先輩って、アレですよね。事あるごとに私の心の平穏をかき乱していますよね。それって、弁解の余地なく有罪判決が出てしまうくらい、とても罪深いことだと思うんです。だから、先輩──謝ってもらってもいいですか?」

「いやなんで!? 僕がお前に謝らなければいけない要素どこにもないだろうが!!」

 

 なぜ故お前がその台詞を言うんだ。客観的に物を見て、寧ろそれは僕の台詞じゃないのかッ。心の平穏を乱しているのも、現在進行形でお前のほうだろう。なんなのコイツ、なにこの傲岸不遜さは。一体どういうことなの?

 

「あはは、やだなぁ先輩、真に受けないでくださいよ。冗談に決まってるじゃないですか♪ ……1割くらいは」

「それだけ!? なら残りの9割は本気なんじゃん!!」

「なに当たり前のことを大きな声で言っているんですか? 当然じゃないですか、少しは反省してください」

「おまえっ……だから、僕のどこに反省する要素が──んッ!!」

 

 納得が出来ず言い返そうと前のめりになったその直後。僕の唇に、僕の発言を遮るべく後輩の人差し指が添えられた。

 いや、止め方ッ……。

 

「シー。お静かに……此処は図書室ですよ? 人が居ないとはいえ少しは声の大きさに気をつけてください。わかりましたか? 先輩」

「〜〜〜〜!!」

 

 い、苛つくんですけどコイツ! 宥めるように頭を撫でてくるんじゃねーよっ!!

 一体、誰のせいだと思ってんのさっ。畜生、やっぱり心の平穏をかき乱しているのはお前の方だろ。断じて、どう考えても僕の方ではないッ。今回に限っては絶対全部お前が悪いっ。僕は何も悪くない!

 

「人は自身の過ちを認めることで、一つ大人へと成長していくものなのですが……先輩はまだまだ可愛い子どもですからね、仕方ありません。今回のことは目を瞑りましょう」

「……僕が大人で良かったな。僕が子どもだったら、感情の赴くままにお前へ襲い掛かっていただろうよ」

「ごめんなさい先輩。私はどちらかと言うと受けではなく攻めなので、先輩の要望には応えられません」

「なんの話!?」

 

 話を掻き回さないと死ぬ呪いにでも罹ってんのかお前は! 頼むから今すぐ治してくれそんなゴミにも等しい病っ。

 

「さて、補給も済んだことですし私はそろそろ教室に戻りますね」

「……どこまでもマイペースな奴だなお前は。あと、補給ってなにさ? 本も持ってないし、他になんか補給出来るようなもの図書室にあったっけ?」

「はい、とても大事なモノです。これで世界が明るく、私はどこまでも幸せになれるでしょう」

「なにそれなんか怖いモノでも取り込んだんじゃないよね!?」

「そうですね、ある意味では怖いモノですかね。……一度嵌ってしまえば、もう二度と抜け出せなくなってしまう『ヤバい奴』です」

 

 それだけ言うと、後輩は愉しげな笑みを浮かべ、手を振りながら図書室を出ていった。

 あ、荒らすだけ荒らして帰って行きおったわ、あのガキ。台風か何かなのかな。

 

 よく解らない疑問も最後に落していったし。『ヤバい奴』ってなに? 取り込むと幸せになれるって……それもうヤクじゃないの? 図書室にあるワケないが。

 うーん……アイツも相応に苦労しているってことだろうか。そのような素振りは微塵も見せないけど。しかし、もしそうなのだとしたら今後、後輩と過ごす時間は少しだけ──

 

 ガラリッと音が響く。

 

「──先輩、一つ伝え忘れたことがありました」

 

 音につられ振り返ると、さっき出ていったばかりの後輩がいた。え、なぜ。

 

 つかつかと小走りで近づいてきた後輩は、僕の耳元にそっと顔を寄せてくる。

 ちょ、な、な、なにさっ。

 

「先輩……あの、今日もボコボコにしてあげますから。絶対、来てくださいね?」

 

 『約束ですよ?』と小声で囁くと、今度こそ後輩は駆け足気味に図書室を去っていったのだった。

 

 ……え? アイツ、まさか煽るためだけに態々戻ってきたの? だとしたら凄いムカついちゃうんですけど。

 『ヤバい奴』に頼らなくちゃ駄目なくらい切羽詰まっているのなら、ほんのちょっとは気を使おうかなと思っていたのだけれど。……やっぱり、止めだ。アイツだけは僕が仕留めよう、確実に。

 

 決意を胸に、僕は本を片付けに向かった。

 

 





ここまで読んでくださり、ありがとうございました! 
感想、お気に入り登録、高評価もありがとうございます。とっても美味しいです。
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