生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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5話 後輩と雨の日

 

 結構、雨は好きな部類だ。

 シトシトと降り注ぐ雨音も。波紋を描く水面も。草木を潤し育てる甘雨も。……見ていて心が安らぐから。しかしそれは、風情を楽しむ余裕があり、尚且つ雨の対策をしっかりと行った場合限定の話である。

 

 今、放課後というこのタイミング。しかも傘を持ってきていない+後輩にボロクソに負けて意気消沈している最中にザーザーと降られるのは、少々空気を読んでほしいと思わざるをえなかった。

 

「………はぁ」

「何時にも増して落ち込んでますね、先輩。負けるのなんて、先輩からすれば最早日課みたいなモノだと思いますが。どうかしたんですか?」

「……お前は雨の日でも変わらないな、ほんとクソ生意気」

「雨の日でも変わらず弱っちい先輩と一緒に居ますからね。……あはは、そんな顔で睨みつけても全く怖くありませんよ。寧ろ可愛さが跳ね上がっちゃうだけです」

「可愛くねーし、頭撫でんなッ」

 

 天気云々関係なく、このガキは本当に生意気だなッ。じめじめとした憂鬱な気分だろうと、普段通りに煽ってきやがる。

 しかし、コイツをいくら睨みつけようと雨が降り止むこともなければ、解決案が思い浮かぶワケでもない。……今日はずぶ濡れで帰るしかないか。全くもってやってられないね。

 

「……はあーあ」

「何回も溜息を吐くと運気が逃げますよ? 元々0に近しかったモノが、マイナス値に突入しちゃってもいいんですか?」

「うっさい、好きにさせろ」

「もー、へそを曲げないでくださいよぉ。……しかし、先輩の元気が何故ないのかは大凡の見当がつきます。傘を忘れたとかそんなのでしょう?」

「………うっ」

 

 ピンポイントをなぜこうも一発で当てられるんだよコイツは。外したところ見たことないし、もう怖えーよ。隠し事が意味を成さないのマジでなんとかしろッ。

 

「……なんでわかるのさ」

「さあ? なぜだと思います?」

「……あ! エスパーだか──」

「エスパー説は前も違うって言いましたよね何度言えば理解するんですかそれともちゃんと理解する気がないんですかそれならそうとはっきり言ってください身体に無理矢理教え込んであげますから」

「わ、解ったからマシンガン止めろッ!」

 

 息継ぎもなしに、よくそこまで言葉が続くなっ。くっ、マシンガン連射と瞳の圧が強すぎて、身体が勝手に一歩後退してしまったじゃないか。ふ、不覚だ……。

 

「今回は、先輩が解かり易すぎるんです。降り止まない雨空を何度も気にして見上げては、溜息の繰り返し。誰であろうと、ある程度の察しはつきますよ」

「うぐっ」

「ぷっ。反応が良かったり、物事に対する感性が豊かなのも考えものですね? 私は、先輩のそういうところ嫌いじゃないですけど」

「っ、頬を突っつくな!」

 

 なに僕の顔を見てわろてんねん! 舐め腐った反応を隠そうともしないなこのクソガキ。ぐ、微笑みながら頬をプニプニするんじゃない、何が愉しいんだよ!

 

「ふふ、けれど、それほど悲観的に現状を鑑みる必要はありませんよ。だって、私が傘を持っているじゃないですか♪ なので先輩が雨に滴る心配はありません!」

「……は、はあ? なんでお前が傘を持っていると、僕がびしょ濡れにならないことに繋がるんだ? あ、まさか傘を貸してくれるってこと!? お、お前、いつからそんな先輩思いに──」 

「違います。あの……あんまり巫山戯ていると、骨の髄まで喰い荒らしますよ。先輩の分際で」

「先輩の分際で!?」

 

 お前ほんとに口悪いな!? 分際なんて、初めて面と向かって使われた気がするぞっ。先輩って単語と合わせて使用して良い言葉じゃないだろそいつ!

 

「で、でもお前の傘を使った方法なんでしょ? この方法以外に、僕はどうやって一人で濡れずに帰宅ができるのさ? 他にはなんにも思いつかないけれど……」

「はー。何故、別々に帰るのが前提なのでしょうか。常識的に視野を広げて考えてください。この場合、私と先輩が同じ傘に入って帰れば万事解決じゃないですか」

「……………え?」

 

 思いも寄らない提案に、僕はピシリと固まった。

 あ、え、え、そ、それって……つまり。

 

「……あ、相合傘ってこと!?」

「はい。これなら双方に利があり、先輩の求める結末に辿り着くことができます」

 

 「完璧な案だと思いませんか?」と、後輩が輝く笑顔で言葉を弾ませた。

 い、いや確かに僕が雨に濡れないという点は、叶えられるかもしれないけれどもっ。別の問題が発生するだろう。女子と、しかも後輩と一緒にリア充スペクタクルイベントである相合傘で帰るって、色々とアレすぎるしっ。

 ……て、提案自体は助かるが、流石にちょっとそれはね、うん。

 

「や、やっぱり僕は大人しく濡れて帰──」

「では、早速行きましょう。雨は待ってはくれませんからね!」

「ちょっ、おい待て引っ張るな! 僕は一人で──て、力強いなほんとにお前はもう!!」

 

 なんでコイツはこんなにも人の話を聞かないんだよ! 元気溌剌にもほどがあるでしょうが! あ、あああ、ほんとに一回待──

 

 

 

「……お前が待ってくれるワケないよね、知ってた」

「なに肩を落としているんですか。私のような美少女と同じ傘を共有出来ているというのに」

 

 そして、現在。全ての抵抗を圧倒的な力(物理)で無に帰された僕は、何故かニコニコと機嫌の良い後輩と共に帰路へと着いていた。

 淡泊な色合いの傘をくるくると回しながら、後輩は事あるごとに肩をグイッと寄せてくる。一々顔が近いんだよッ。

 

「あ、また離れようとしてますね? 折角私が傘を提供しているというのに、濡れちゃったらどうするんですか。もっと寄ってきてください」

「ち、近いのにも限度があるだろうよっ」

「? 限度は充分に守っているつもりなのですが」

「どこがさ!? 肩を寄せ合うのはまだ解る! けれど、顔まで態々覗き込んで近付ける必要はないだろ!!」

「なにを言っているんですか? 顔を見なければ、先輩の羞恥に悶える可愛い様子が伺えないじゃないですか、馬鹿なんですか」

「お前そっちが本音だな!?」

 

 こういうのに慣れず狼狽える僕の醜態を眺め、ほくそ笑むのが目的だったのかっ。よく思い付くな、この性格ネジ曲がり腹黒ガールが! 

 

「も、もうこの際お前の目的や性根のネジ曲がり具合は置いとくとして、だ。人には適切な『距離感』というモノがあるだろう。そいつをちょっとは意識しろと言っているんだ!」

「私に膝枕までした先輩が、適切な『距離感』について語るんですか? 片腹痛いですね」

「ふぐぉっ、き、貴様ぁ!!」

 

 火の玉ストレート止めろや! 効果抜群すぎて瀕死になっちゃうでしょうがッ。

 

「先輩の言い分は解ります。距離感は、人と人との関係を構成するうえで、とても重要な要素です。そこに、疑いの余地は微塵もありません」

「だ、だったらもう少し僕との距離を──」

「しかし、だからこそ足りないんです」

「足りな……え、どういうこと? ……は!? ま、まさかまだ距離があるとでもいいたいのかお前は!?」

「ふふ、はい。まだまだずっと遠いですね! だから、いつかはその距離を無くします、絶対に。……けれど、今はこのくらいで我慢しておいてあげましょう」

 

 「感謝してくださいね? 先輩♪」と、後輩はこちらを煽るように、小憎たらしい表情で僕の頬を緩やかに撫でていった。

 ……こ、これでまだ距離が遠いという解釈なのかコイツ。距離感以前に、価値観どうなっているんだよホント。

 

 やっぱり住む世界が違うな、カースト最上位お化けは。世界がバグらないように、僕だけは絶対適切な距離感を守り続けないと……。

 

 降り注ぐ雨、後輩と二人肩を寄せ合い歩く相合傘の中。僕の心には、鋼のごとく固い誓いが立てられるのだった。

 




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