生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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6話 後輩と印象

 

 印象というモノは、その人の常日頃の生活態度であったり、コミュニケーション力、外見、人柄等に直結している。

 

 いい加減で不真面目な人の印象は当然良くはならないし、優しく真面目な人の印象は決して悪くないものになる。

 

 解りやすく、普通の帰結である。けれど、果たしてそれらの印象がその人の全てなのであろうか? 外面だけが良かったり、猫を被るのが上手な人間はこの世の中、一定数以上は確実にいる。例えば、学校の人間の評価が、清楚で天真爛漫、誰に対しても優しく、微笑みが儚くも夢幻的で美しい。男女問わず見惚れてしまう──という本人の本来の性格とカオとは隔絶した、とんでも評価を賜っているあのクソガキ後輩。

 

 見た目で誤解されやすい人だって、絶対にいる筈だ。例えば、色んな場所でしょっちゅう子どもに間違えられる僕だったり僕だったり最後に僕だったり。

 

 つまり、何が言いたいのかというと。

 

「印象なんて、その人が勝手に見た目や内面に貼り付けた分厚い壁のような虚像を見て決めた情報であって、本質とは程遠いよね。うんうん。所詮、獣の戯言。僕の心には響かない」

「響いてるんですね……可哀想にっ」

「響いてないし、その解りやすい悲痛顔止めろッ」

 

 眉を寄せ、パッと見で演技だとわかる顔で同情をしてくる後輩。

 こんな解りやすい演技でも、コイツの友人や学校の奴らは騙されているのだから、印象値が本質とはまるで違う、遥か彼方へ飛んでいってしまっているのだろう。僕より頭良い奴ばっかりの癖に、頭お花畑かな? やっぱり偏見という名の虚像はゴミ、はっきりわかんだね。

 

「どいつもこいつも第一印象だけで僕のことを舐め腐りやがって……マジふざけんなし。ブッ飛ばされてーのかクソ野郎共が」

「うわぁ……不貞腐れすぎて、ふてぶてしくなってますよ、先輩。珈琲飲みます? 落ち着きますよ。あ、オレンジジュースかりんごジュースの方がよかったですか?」

「子ども扱いするな子ども扱いするな絶対に子ども扱いするんじゃねぇ僕は高2だぞ!!」

「知ってて言ってるんですけど」

 

 余計悪いわ!

 

「先輩、そういうイジられやすい態度ばかり取るから、相手も調子に乗るんですよ。ここは一回、ガツンと言ってみたらどうですか? 私を子ども扱いしないでって。そうすれば相手も話を聞いてくれると思います」

「……お前にはいつも言っているし、ついさっきも言ったんだがな」

「私は初めから聞いた上で先輩を舐めているんですから、態度を改めるワケないじゃないですか。当たり前のことを言わないでくれません?」

「ちょっとは悪びれてくれない?」

 

 何を言っているんだコイツ? みたいな純粋な瞳で僕を見ないでくれるかな。僕が間違っているみたいじゃん。間違ってないよね? 僕は正常だよね? 全部目の前のクソガキが悪いんだよね?? 

 

「私は攻略不可なんで、もっと他の人に言ってみたらどうですかね。そうですね、例えば保健室の山形先生などはどうでしょうか。先輩、しょっちゅう調子に乗ってお菓子を貰ってますから」

「な、なんで知ってるのさ!?」

「見てたからに決まってるじゃないですか」

「どこで!?」

 

 先生がお菓子をくれるのは僕と先生が二人の時だけだぞっ。お前なんぞ、保健室のどこにもいなかった。まさか、隠遁のスキルまで備えているのか。だとしても、なぜ保健室を見張ってるんだよ、意味が解らない。怖い、怖すぎて怖いよコイツ。

 

「先輩の思い描く印象の基準がどんなモノかは解りませんが、大人の教員からお菓子を貰って喜ぶのは、些か以上に子どもっぽいと言えるのではないでしょうか。そこら辺はどうお考えなんですか?」

「うっ……お、大人だってお菓子は好きだろ。それに、山形先生には色々お世話になっているし、折角のご好意を断ることなんてできるワケないじゃんっ」

「本当に少しでも断るつもりがあったのでしょうか。間髪いれることなく、カワイイ笑顔でお菓子を受け取っていたように私は記憶しているのですが。アレは私の目の錯覚だったんですかね」

「………」

 

 喉につっかえたありふれた言い訳を吐き出せない。

 ……コ、コイツ、一体どこまで知っているんだ? 先生と二人だけだと思って、気を抜きすぎたかっ。お菓子、特に甘いものが好きなんだよ僕は。人生苦いことばっかりだから、たまにある先生とのお菓子デーくらい甘く気を抜いたって良いじゃんかっ。何で勝手に見てるのさ。

 

「あらら、黙っちゃいましたか。ごめんなさい、虐めすぎでしたね。少しムキになっちゃいました。チルルチョコをあげますので、どうか機嫌を直してください」

「……」

「いりませんか?」

「……いる」

「ふふ、そういうところがカワイイ子どもだと称されるんですよ」

「うっさい」

 

 一言喧しい後輩を横目に、受け取ったチルルチョコを口の中に放りこむ。瞬間、濃厚で味わい深いチョコの甘みが、口いっぱいに広がった。

 ああ、本当に甘くて美味しい。僕の苦い今を癒せるのは、この海の如く広く深い甘味しかないね。

 

「先輩って本当に美味しそうに食べますよね。見ていて微笑ましいです」

「……煽ってんのか」

「違いますよ。でも先輩にそんなつもりはなくとも、他人が抱く先輩の印象って、まだまだ理解には程遠くはありますがやっぱりそれほど間違ってもいないなぁ、と。だって先輩って、怒ったりしてもお菓子あげといたら簡単に沈めるじゃないですか。ほんとチョr……チョロカワイイです」

「やっぱ煽ってんなお前!」

 

 要は子どもって言いたいんだろうクソが!! あと『チョロい』のところを更に酷く言いかえんなや!!

 

「大体お前は僕のことを子ども扱いするが、僕から言わせればお前の方がよっぽど子どもだかんな!」

「……へー。例えばどんなところが?」

「どんな……ていうか、お前年下の後輩じゃん!! つまり僕より子ども! 僕の方が大人! 年齢的に! はい勝った!!」

「なら先輩は、その自分より子どもの後輩に勝負を挑み、無様に敗北を積み重ね続け、更には勉強等を教えてもらっているということになりますね。……あの、情けなくはないんですか?」

「………」

 

 完璧に返されるバズーカ並みの威力のカウンター。さてはコイツ、僕を沈める気だな? 僕じゃなければ沈没してたよ絶対。

 

「チルルチョコまだありますけど……食べます?」

「……たべる」

 

 沈み落ち込む船を立て直すため、後輩の差し出したチルルチョコを食べることのみが、僕に出来る唯一の抵抗だった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、溢したらダメなので、次は私が食べさせてあげますね♪」

「お前僕のこと何歳児の設定で見てんだこら!? 印象値バグってんのか!!」

 

 

 





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