生意気な後輩を泣かしたい! 作:もっふもっふもふ
「そうしたらアイツ、なんて言ったと思いますか? 『教えるワケないじゃないですか、デリカシーないんですか?』って言って来やがったんですよ! 舐めてると思いません!?」
「ふふ、そうね」
昼休みの保健室。日頃の溜まった鬱憤の片鱗を表すように机から身を乗り出して、僕は目の前の山形先生に言葉を投げ掛けた。
山形先生は、そんな怒りを前面に押し出す僕をのほほんと優しい笑みで見据えている。正直、今の話の中で優しさを見せる場面や、笑えるポイントなどこれっぽっちもなかったのだが……ちゃんと聞いてくれているのかな。話を聞き流す人でもないのは知っているが、ちょっと心配になる。
「先生あの……勝手に愚痴を溢しておいてなんなんですが、今の話で笑えるところありましたか? 引かれる勢いで悪口を言い放ったんですけど」
「そうね……話の内容というよりも、その子──
「なっ」
今の後輩に滅茶苦茶舐められトークを聞いてその感想!? やっぱりこの人、凄く優しくて良い先生ではあるけど、少しズレてるところがあるッ。どこをどう解釈したら、僕と後輩の仲が良いなどという結論に達するんだ。一番ありえない到達点だろうそれは。
「もう、なにを聞いていたんですか先生!? 僕とアイツの仲が良いなんてナイです! 全くもってありえません!」
「ふふ、そうかしら?」
「そうです! 僕とアイツは水と油、犬猿の仲なんです! 相性は最悪という認識に改めてください、解かりましたか!?」
「ええそうね、解ったわ……ふふ」
解ってないなこの感じ。顔が完全にのほほんとしている。これは、意固地になる微笑ましいものを見ているときの先生の反応だ。今の言い合いで何故その顔になるんですか、おかしいじゃないですかッ。
「三月さんは貴方といるとき、とても楽しそうよ? 普段、あそこまで砕けた言葉と笑顔を見せる子じゃなかったから、初めて見たときは驚いてしまったもの。これは貴方に心を開いてくれているって証明じゃないかしら?」
「舐められてるだけです、それ以外のなにものでもないですよ。それに、笑顔なんてアイツそこら中に振り撒いてるじゃないですか。友達多いし人気者ですもん、アイツ……ふんッ」
「あら、妬いているの?」
「違います!!」
妬いてないし、そもそも妬く理由がないじゃん! ちょっとムカついただけだし! 本当にそれだけだし!
「と、とにかく! 僕とアイツの仲は最悪なんです! これだけはちゃんと押さえておいてくださいね、テストに出ますから!!」
「ふふ、解ってるわよ」
「〜〜〜!! き、今日はこれで失礼します! 明日また確認しますからね! 復習しておいてくださいさようなら!!」
「ええ、気を付けて戻るのよ」
絶対まともに理解していない笑顔の山形先生に頭を下げ、僕は保健室を後にするのだった。
◆
放課後。
今日こそは勝ちを掴み、あの生意気っ子をぶち泣かすぞという強い闘志を胸に秘め、僕は空き教室へと向かっていた。
今回の勝負には凄く自信がある。……いや、いつもの勝負も自信はあると言われればあるのだが、今回は更にあるのだ。今日ばっかりは、勝利を手にすることができるはずだろう間違いない。
何故なら、今回の勝負のテーマは──
「えー、三月さん今日も遊べないの?」
「うん、今日もとても大事な用事があるんだ。ごめんね」
その憎たらしくも聞き覚えのある声に、ピタリと足が止まった。今の声は……。
気になって声のした方へとバレないようにソッと顔を向けると、やっぱり予想通りの人物、雰囲気の違いはあるものの後輩! とその友人がいた。友人さんは、後輩とは違うベクトルのとんでもない美少女だった。たまげたな……。
「最近ずっとじゃんか〜。アタシ三月さんがいないと寂しくて死んじゃうよ、いいの?」
「あはは、大袈裟だね。私が居なくても他の人達は貴方を独りにしないよ。だから安心して」
「それはそうだけどそういう問題じゃなくてさ……やっぱり三月さんと遊びたいもん」
綺麗な金髪を指で弄りながら、友人さんが言う。
遠目で見ても解るほどに『私、不満です』と顔に描いてあるな……。
「それにアタシだけじゃなくて、他のクラスメイトの子たちも三月さんともっといたいって思ってるよ、絶対。まあ、一番は100アタシだけどね」
「そっか……ふふ、嬉しい」
『ありがとう』と、頬を綻ばせて喜びの感情を見せる後輩。その輝くような絢爛な笑みに、友人さんも頬を赤らめている。
……僕と接するときとのギャップが凄すぎて、混沌が凄い。最早あの人は誰ですかレベルだ。僕があんな言葉を言った日には、絶対に揶揄われて煽られていたことだろう。容易に想像がつく。
「そ、そうだ。用事って学校ですることなんだよね? だったらアタシも手伝うよ。それならせめて、一緒に帰るくらいなら──」
「それは大丈夫」
「え、で、でも」
「気持ちはとても嬉しい。けどこればかりは、『他人』を立ち入らせたら私も私がどうなっちゃうか解らないんだ。時間も掛かることだし、私
悲しげな笑みと口調で、後輩が告げる。
友人さんも、そんな表情を見せられてしまっては強引に突っ込むこともできないようだった。
「わかった、今日のところは引き下がるよ。……けど、手伝って欲しいことや困ったことがあったら、いつでも言ってね。最悪、アタシじゃなくてもいいからさ。三月さんの味方は沢山いるよ。だから独りで抱え込もうとしないで、絶対に」
「うん、1番に貴方を頼るよ。約束する」
「! ……そ、そっか、よかったッ」
後輩の言葉に満足したのか、『じゃ、じゃあまた明日ね』と、頬を緩めた友人さんは帰っていった。
……なんか、微妙に話が食い違っていた気がするんだけど、気のせいかな。温度差が凄かったような。空気もどこか重かったし。
後輩の雰囲気がいつもと違いすぎて、僕的には寒気がずっとやばかったんですけれどもね。ぷ、あははは……は。
………。
ま、まあ、細かいことは置いとくとして。覗き見していることがバレたら絶対面倒だし、まずは早く部屋に向かお──
「──で、いつまで覗き見してるんですか、弱々の弱先輩?」
「ヒュ」
僕に背中を向けた状態で、いつの間にか普段と同じ雰囲気になった後輩が、静かにそう呟いた。
う、後ろに目でも付いてるのかコイツ? ニュータイプか?
「誰でも解かりますよ。だって先輩の視線、凄く煩かったですもん」
「は、はあ!?」
視線が煩いってどういうことだよ!
「それにしても……影から遠巻きに私のことを覗き見るなんて先輩、アナタって人は……」
「ゔ。そ、それに関しては悪かったと思ってい」
「場所が違うでしょう?」
「る!? ちょ、お、おまえなにをっ!」
視線を下に向けたその一瞬。あっという間に間合いを詰められ、後輩に腰を抱き寄せられる。その結果、僕の視界の全てには後輩の端正な面貌しか見えなくなった。
何のつもりかまるで解らず動揺しまくる僕を見つめ、後輩はにんまりと意地悪く嗤う。そして、言う。
「見たいのなら、もっと近くで見てください」
「───」
どこか妖麗な声色と言葉。それに対し、声にならない声が溢れた。性格上、100%揶揄っているとワカる後輩相手に。情けなくも、無様に。溢れて、しまった。
あーもー……いっそ殺せぇ!!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!