生意気な後輩を泣かしたい!   作:もっふもっふもふ

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9話 後輩と今日の僕は

 

 

 今日こそは

  こうはい泣かし

    でんせつへ

 

 今日も絶好調、敗北なんてありえない。そんな満ちあふれる自信を表した五・七・五を脳内で唱え、僕は正面にいる後輩へ高圧的に笑ってみせた。

 今日の僕は昨日の僕よりも強い。まずはそれを、挨拶代わりの煽りで解らせよう。僕の圧倒的センスによる挨拶で、後輩の顔を怒りで真っ赤に変化させてやろうじゃないか。ふふん!

 

「さて、今日でお前の勝利記録は途絶え、惨めで無様な敗北の歴史が刻まれるワケだけれど……何か言い残すことはあるかい? 聞くだけ聞いてやるよ。泣き喚いた後じゃ話なんて出来ないもんなあ可哀想に。ふふん!」

「あ、その顔すごく可愛い。写真撮ってもいいですか? 撮りますね」

「!? お、おいヤメロォ!!」

 

 あんなに綺麗に煽ったのに、まるで堪えてない……どころか、楽しそうにこっちにスマホを向けてくる後輩。あれほどコケにされたら普通はもっと顔真っ赤にするだろ、なんで全然効いてないのっ。

 

「子どもが乱暴な言葉を使っても、背伸びしてて微笑ましいとしか思えませんよ」

「……こ、子どもならね。けれど、僕のような大人が使う分には──」

「それが子ども✕可愛いの融合体である先輩なら尚のことです」

「貴様それどういう意味じゃゴラァ!!」

「あはは、沸点ひっく。顔が真っ赤になってますよ。せーんぱい♪」

「ッ!!」

 

 しまったッ。煽って顔を真っ赤にさせる筈が、僕のほうが逆にムカつきを煽られていた。これじゃあいつもの僕と変わらないじゃないか。今日の僕は昨日の僕よりも強い、誰が何と言おうと強いんだ。だから昨日までと同じ轍を踏まないよう、冷静に落ち着いて主導権を取り返さねばッ。

 

「ふ、ふん……負けて泣き喚く前フリとしては優秀なんじゃないの? お前の煽りも」

「ほんとうですか? ありがとうございます!」

「褒めてないが!?」

「え、私の煽りは優秀だって言ってくれたじゃないですか」

「その前の言葉聞いてたかな? 『負けて泣き喚く前フリ』として優秀って言ったんだよっ。つまりは煽ったの! 解るかな?」

「すみません、よくわかりません」

「なんでさ!!」

 

 なにが解らないの、お前を煽ったつってんだよ僕はよ。めちゃくちゃ分かりやすい答えだろうがっ。なんでこんなにも通じないんだ?

 

「先輩の煽りは、ムカつくよりもカワイイが勝っちゃってるんですよね。優位に立とうと必死になって考えている言葉に、不安が隠しきれてない潤った瞳。それと最初の自信満々なドヤ顔とか。全部の要素が特効で堪らないというか。先輩の煽りを煽りじゃなく、可愛い食べられ文句に昇華しちゃってるんです」

「僕は可愛くねーし、僕の煽りは食べられ文句でもねーよ!」

 

 ていうか食べられ文句ってなに!? 初めて聞いたんだが! 

 

「先輩が私のことを、煽って怒り状態にするのは無理ってことですよ。他の人間ならまだ可能性も0ではなかったかもしれませんけど、先輩だけはダメです」

「な、なにがダメなんだよ。僕はちゃんとお前をコケにした言葉を使ったじゃんっ」

「はー、また同じことを言わせるおつもりですか? バカ先輩バカ」

「バカで囲うなし!」

 

 怒り状態になるぞお前いいのか、いいの!? いやコイツからすれば、僕が怒るのなんていつものことだし意にも介さないか、寧ろ喜ぶ可能性まである。煽るだけでこんなにこっちが消耗するとは、本当に厄介な奴だっ。

 

「くっ……ど、どうせお前も痩せ我慢をしているだけでしょう? 本当はめちゃくちゃ効いてるのを、隠そうと必死に頑張っているワケだ。ふふ、お努めご苦労様です♪」

「今の『ふふ、お努めご苦労様です♪』のところを、もう一回言ってもらってよろしいでしょうか? ちょっと録音したいんで」

「なに目的で!?」

「あと出来れば、もう少しだけ可愛く媚びるような感じで言っていただけると助かります。別バージョンも幾つかほしいのですが──」

「言わないし! つーか別に媚びる目的で言ってねーよ!!」

 

 さっきからちょいちょい挟んでくるけどコイツ、一体なにを言っているの? なにがシたいのかまるで理解できないんだがっ。

 

「僕は真剣に煽ってんだよ、もっと真面目に聞いてくれないかなッ」

「聞いてますよ。先輩と話しているときが、間違いなく私の中で一番の真剣です。……ふふ、私は真剣に先輩をバカにしてるんです!」

「いい笑顔で言うな!!」

 

 なんだその幸福を噛み締めるかのような輝く笑みはッ。使う場面を間違えてるんだよ言葉も笑顔も全部お前は。完全に舐めてやがる、このクソガキめっ。

 

「も、もういい、このままじゃ埒が明かない! 今日の勝負を始めるぞ!」 

「はーい、対戦よろしくです」

 

 ピシッと敬礼のポーズをする後輩。それに向けて、僕はドンッと手を差し出した。

 

 ……後輩がこんなにも余裕綽々なのは、僕がコイツに下に見られているからだ。どれだけ僕を煽っても、最終的には武力で制圧できると高を括られているからだ。けれど、そいつが大きな間違いであったということを、この勝負ではっきりと解らせてやろう。そして、その時こそ渾身の煽りを披露してやる。

 

 今日の勝負のテーマは──  

 

「腕相撲だ、構えろ」

 

 今日の僕は、昨日の僕より強い。即ち、腕力も大幅に向上して強くなったということ。今や、目の前の後輩よりも遥かに僕の力は高まった。

 

 その証拠を今、ここでお見せしよう。

 

 口の達者さはともかく、腕力ではどうかな? ふふん! 此度の勝負、勝つのは稀代の腕相撲マスターであるこのワシよ!

 

「勝負後、お前が机に突っ伏し、悲しみにくれる姿が目に浮かぶようだわ! あーはははははははははは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」 

 

 勝負後。僕は机に突っ伏していた。

 

「即オチ2コマみたいですね。言ってたことは当たっているワケですし、良かったじゃないですか」

「なにもよくないし、頭無でんなっ」

 

 優しく撫でてくる後輩の手を払い除け、僕はギリィと歯を鳴らす。

 『力』が……あまりにも搭載している『力』のレベルが違いすぎた。腕だけじゃなく身体全体で押し込もうとしたのに、てんで動く気配がなかった。可怪しい、絶対オカシイよこんなのっ。

 

「今日の僕は、昨日の僕より強いはずなのに……なんで、どうして勝てないんだッ」

「今日の先輩より、今日の私の方が強いからですね」

「うぐっ」

「そもそも、どのような勝算があって私に力勝負を挑んできたんですか? 力比べなんて、先輩の最も苦手な分野じゃないですか。少しでも勝負を接戦にしたいのならば、もっと先輩の得意分野で挑んでくれば──あ、先輩の『得意』とか存在しませんでしたごめんなさい」

「ぶっ潰すぞクソガキ!!」

 

 悔しい悔しい悔しい! これだけいいように煽られて、手も足も出ずに負けるだなんて怒りでどうにかなってしまいそうだ。不甲斐ない、絶許にも程があるッ。

 

「あ、明日、明日は覚えてろよっ。明日の僕が今日の僕よりも強くなり、必ずやお前の喉笛を掻っ切ってやるからな覚悟しろ!!」

「明日、ですか。……ふふ、愉しみにしてますね♪」

「っ、だから頭を撫でるなと──」

「もう、暴れないでください、髪がくしゃくしゃになってしまいます。まあ、それはそれで可愛いんですけど、今は整えたい気分なんです。解ってくれましたか? Loser先輩」

「き……き、貴、様ッッッ」

 

 頭に血が上る。

 

 しかし、言っていることは間違っていない。今日の僕は確かにLoserだ。だから、明日は絶対に。

 

「僕が勝──」

「動かないでください、今とてもいいところなんです。Loser」

「………」

 

 ぶち泣かす。

 





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