僕針捏造最終回なの

某掲示板用なの

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僕針捏造最終回

勇者と魔王の一騎討ちは、魔王城の最奥にある玉座の前で行われた。

 

「はぁっ、はぁっ……」

一騎討ちのことを知ったマヌルが最深部にたどりついた時、勝敗は既に決していた。魔王と勇者は共に床へと倒れている。しかし、魔王の身体は半分以上が決壊しており、もう原型をとどめていなかった。マヌルが入るなり、魔王だったものは光の塵となって消えた。

「大丈夫!?」

マヌルが勇者に駆け寄る。致命傷を負った彼女の体もまた、光となって消滅を始めていた。

「そんな……死なせるものか!」

マヌルの瞳に忌む目の紋章が浮かび上がる。残り少ない薬草をアトムスフィアで渡すが、効果はなかった。HPが0となった相手には、回復アイテムはもう意味をなさない。例えこの場で神薬を生成したとしても、手遅れにしかならないだろう。方法はもう、一つしか残っていなかった。

「……よし」

マヌルの顔に決意がみなぎる。深呼吸をすると、消えゆく勇者の心臓に左手を合わせる。右手には幾度となく使ってきた針を握りしめると、力強く振り下ろした。天獄の縫い針が手の甲を貫通し、勇者の心臓へと刺さる……

 

 

「マヌル!どうしてここに」

「よかった、ちゃんと目が覚めたみたいだ」

勇者が目を覚まして初めに見たものは、居なくなったはずの幼馴染の顔であった。

「……ああ、終わったんだ。最期に君の顔が見られてよかった」

魔王と相討ちになり致命傷を負った記憶はしっかりと持っている。勇者はこの光景を走馬灯と結論づけた。微笑みを浮かべた勇者はマヌルを抱きしめる。

「あれっ?」

腕の中には夢ではなく現実の感覚が伴っていた。勇者は意外そうに首を傾げる。

「もしかして夢か何かだと思ってるの?」

マヌルは勇者の肩を優しく引き剥がした。声の調子も、表情も昔と変わっていなかった。

「パーティーを抜けた後、武器に呪われちゃってさ。この武器の能力を使って君を蘇生させた」

烙印が刻まれた左手を触り、マヌルはステータス画面を見せる。

 

【装備中の武器ステータス】

天獄の縫い針  ☆3

クラス:伝説級

攻撃力:1

特殊効果:固定1ダメージ

特殊効果:呪い(装備解除不可)

特殊効果:“天医無縫” 対象を蘇生する。(使用後、装備者のHPを0にし、この武器を「縫い針」に変更)

 

 

「ちょっと待って、これ……」

黙って画面を見ていた勇者だったが、最後の一文を見るとみるみる血の気が引いていった。開示されているマヌルのHPを見れば、「0」の文字が煌々と輝いている。

「うん、この能力を使った。僕はもうじき死ぬし、この針もただの針に変わる」

「そんな……何でこんなことを!」

「僕の命ひとつで君が救えるならどうって事ないよ」

涙を浮かべて取り乱す勇者にも、マヌルは平然とした様子で答えている。そうしている間に、マヌルの身体が光を帯び始めた。

「嘘……やめて」

「仕方ないじゃないか。あ、忘れるところだった。これ」

存在が朧となっていくマヌルは、懐から拳ほどの大きさのものを取り出す。握られているのは美しく輝く王石であった。

「これは『賢者の石』。持っている人を守護してくれる筈だ。ずっと君に渡したかった」

勇者へと賢者の石を差し出すマヌル。勇者は震える手で受け取ろうとした……が、何を思ったか、それを床に叩き落としてしまった。

「ちょっと、どうして?」

「……いらない」

拾い上げてまた石を差し出すマヌルに、勇者の口から搾り出すような声が漏れた。

「マヌルともう会えなくなるのに、こんなモノ貰ったって何も嬉しくない!せっかくまた会えたと思ったのに!」

堰を切ったように涙を流す勇者が、消えゆくマヌルの裾を縋り付く。服を濡らす彼女の涙に、マヌルもどう声をかけたらいいか分からなくなった。

「そんなに泣かれると僕も苦しい……」

思わず苦笑いを浮かべるマヌル。その瞬間、手に握っていた宝石が光を放ち始めた。謎の光に、二人は息を呑んで見守る。そのまま光は強さを増し続け、最高潮に達したとき、パリンと音を立てて石が割れた。手から抜け落ちた破片も、床に落ちるなり塵となって消えていく。同時に、決壊を始めていたマヌルの放つ光が無くなった。

「どういう事……?」

突然の出来事に、勇者が困惑の色を見せる。少し自らの身体を確認したマヌルは何が起きたのかを察した。

「なるほど。石が僕の願いに反応して守ってくれたんだ。もう少しだけ君といたいと思っちゃったみたい」

「じゃあ……」

「ここでは僕は死なないと思う」

マヌルの言葉に、勇者の顔が綻んでいく。二人は黙ったまま熱く抱擁を交わした。

 

「さて、せっかく二人とも生き残れたんだから、これから君と一緒に帰らなきゃだね」

手を離したマヌルはもう一度ステータスを開く。魔王を倒したので、新しい魔物はもう生まれない。だが、魔王城にはまだ多くの強力な魔物が徘徊している。帰りも戦いは避けられない。開かれたマヌルの画面を見ると、0となったHPは1に戻っていた。続けて装備品を確認する。

 

【装備中の武器ステータス】

縫い針  ☆1

クラス:最低級

攻撃力:1

特殊効果:なし

 

「やっぱり、さっきのでコレは正真正銘ただの針になった」

マヌルは手元に残った「縫い針」を眺める。装備から外すこともできるし、投げたところで以前のように戻ってくることはない。

「僕の剣も戦いでもう折れてるし、MPも空っぽだ」

勇者は床の上で粉々になった剣の破片に目配せする。ステータスでも、彼女のMPはもう0になっていた。世の摂理を超える蘇生の影響か、マヌルの有り余るMPも同様に0となっている。

「用意したアイテムはここに来るまでにだいぶ使っちゃって、回復用の薬草ぐらいしか残ってない」

「つまり、今の僕たちの武器は攻撃力1の針しかないってことか」

「そうだね」

「でも大丈夫。帰ろう。もう一人きりじゃないから」

 


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