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「はぁ……」
「こうも見当たらないのね……流石はレアアイテムだわ」
SBCグロッケン、その総督府ロビーにて。
ソファに腰を下ろし、如何にも私はとても疲れていますという疲労感と憂鬱を表した溜息を吐いて、アキツとシノンは揃って天を仰いでいた。
GGOのプレイヤーとして更に名が知れ渡り、かなり知名度が上がってきたアキツではあるが、しかしその本命は未だ手に入らずだった。
ライキリG7―――刀の形をした実体剣。アキツがGGOでシノンと出会い、その情報を聞いた当時から欲して止まないレアアイテムである。
アキツがGGOを始めてから早くも1ヶ月半もの時間が過ぎた。
数少ない和服衣装の装備も手に入れ、ステータスも良い具合に育ってはいるにも関わらず、しかしその目当てである武器だけが手に入らない日々。
はっきり言って―――かなり苦痛であった。
「各マップを歩き回り、その都度ダンジョンを見付けては攻略……途方もないわ。これじゃあ何年掛かるか分からないわよ」
「うむ……情報集めもしてはいるが、これといって目星いものもない。手詰まりと言う他ないな」
「ここまで来ると嘘情報なんじゃないかって疑いてくなるわね」
「否定出来ないのが痛い所だな……あの
かつてのゲーム時代、よくお世話になった情報屋の少女をアキツは思い出す。
彼女の情報収集能力、情報の裏取り、情報の信頼性はどれも素晴らしいものだった。ダンジョンや装備、クエストなど様々な場面において、その情報はよく役立ってくれた。
彼女から買った情報のお陰で切り抜ける事が出来たクエストや事件は数多い。アキツにとって未だ根強く感謝の感情が残り続けている友人の一人だ。
だが、シノンはジト目になってアキツを睨んだ。どうやら何か気に食わなかったらしい。
「……また前のゲームの友達の話?」
「ん? あぁ、前のゲームで情報屋を営んでいた友人が居てな。とても優秀でな、俺も
「ふーん……」
「うん? 何故、君が不機嫌になるんだ?」
ジト目になったシノンに、アキツは心底不思議な様に首を傾げた。
何か不機嫌にさせる様な事を言っただろうか? 自分が思う限りでは、その様な会話はしていなかった筈なのだが。
「別に。何でもないわよ」
「足を蹴りながら言われても説得力がないぞ。何か気に障る様な言葉でもあったか?」
「だから、何でもないって言ってるでしょ」
「む……そうか。君がそう言うなら、俺からはもう何も言えまいよ。気の済むまで蹴ってくれ、君がそうするのなら俺が何か粗相を働いたのだろう」
「―――……はぁ」
その優しさに、その自尊心の低さに、シノンは溜息を吐いてしまう。
彼は何も悪くないのだ。勝手に自分が不機嫌になってしまっているだけ、それを八つ当たりしてしまっているだけ。嫌な女だ、と自己嫌悪する。
前のゲーム。名前も思い出せないそのゲームが、きっと今の彼を形作ったのだろうとシノンは予想していた。非は全て自分にこそあり、非を作った自分は謝罪と償いをすべきである―――そういう思考を持つ様になった原因。
話を聞く限りでは、かなり殺伐とした内容という事は確か。だが……
(話を聞く限り、全部
彼女の予想は殆ど当たっていた。というか、否定出来る所が全く無い。正解と言っても良い。
彼がそのゲームで知り合い、友人と言える様になった者はその大半が女性である。女友達六人、男友達は四人しか居ないという男女比率の差が完成してしまっている。
ちなみに、このGGOにおいては今の所フレンドと呼べる存在はシノンと闇風だけである。
……彼と知り合い、早くも1ヶ月半。その人柄を知れた様で、しかし実際には全く知れていなかった。
リアルでもGGOでも友人が少ない彼女に出来た数少ない友人である彼の事を、しっかり知る事が出来ていなかった。だが、彼を知っている友人は他にも居る。それが複雑だったのだろう。
「女の子の前で別の女の子の話は、あまりするものじゃないって事よ〜」
何とも言えない空気が漂っていた二人に、声が掛かる。
二人が揃ってその声の方を向くと、其処には三人のプレイヤーが立っていた。
自分達が座っている席の間にいつの間にか立っていた、銀髪の女性アバター。その後ろには、白髪に黒眼を持った長身の、無表情の男とその男の隣に立つ桃色髪の少女が立っていた。
「む、そうだったのか。確かに配慮に欠けていた。すまない、シノン」
「いや、別に謝る程の事じゃないわよ……はぁ。いいのよ、私が悪いんだから。それで―――『無冠の女王』とも呼ばれるプレイヤーが、一体何の用かしら?」
銀髪の女性プレイヤーの名を、ツェリスカ。
このGGOで『無冠の女王』という異名を持ったソロプレイヤーであり、特定のスコードロンに所属する事はせず、大会にも不参加を決め込んでいる事からそう呼ばれる様になった、GGOでも名の知れたプレイヤーだ。
「ふふ、そう警戒しなくても良いわよ〜。人の彼氏さんを取る趣味は無いもの〜」
「……はっ、なっ、はぁッ!?」
ボンッ! と爆発した様に、シノンは顔を赤くした。
彼氏? 彼氏ってあの彼氏? いやいや、何を言っているんだこの女王様は。いったい何処をどう見ればこの剣術馬鹿と私が彼氏彼女の間柄に見えるって言うの―――!?
有り得ない有り得ない。ぶんぶんと首を振るシノンを見かねて、アキツが訂正する様に首を横に振った。
「俺とシノンは恋仲ではないぞ。彼女とはGGOで初めて知り合った、仲の良い友人だ」
「あら、そうなの? 少し前にナンパを撃退してたから、てっきり恋仲なのかと思ったのだけれど」
「恋仲でなくとも、友人がしつこく輩の絡まれていたならば、助けて当然だ。俺でなくとも、誰でもする当たり前の事だ。俺はそれをしたに過ぎない」
「あらあら、何処かで聞いた様な台詞だわ〜」
「確かに、前に似た様な台詞を聞いた気がするわねぇ……」
「……そうか」
二人の視線を気にも留めず、白髪の青年は短くそう答えて黙り込んだ。
寡黙な青年だ。だが、何故だか近寄り難い雰囲気は無い。しかし、何処か内なる強さを秘めた様な気配がある。
アキツには、既に経験があった。極稀に居るものだ―――こういう青年の様な、想像もつかない
じっとアキツが青年を見ていたのを、挨拶も碌にしないのが癪に障ったと勘違いしたのか、青年の隣に立つ少女が慌てて謝罪した。
「ごめんなさい、此奴結構無口だから! でも悪い奴じゃないの、誤解しないであげて?」
「いや、癪に障ったとかそういうのではないんだ。誤解させて申し訳ない。……何処かで見た事がある様な気がするんだが。シノン、彼に見覚えは……シノン?」
「へっ!? あっ、何?」
トリップしていた意識に彼の声が掛かり、驚いた所為で上擦った声が出て体が跳ねるシノン。その様子はまさしく猫の如くだった。
「いや、彼に見覚えはないかと聞こうとしたんだが……大丈夫か?」
「あぁ…ごめんなさい。少し考え事をしてて……って、貴方―――」
「……? 俺は初対面の筈だが……何処かで会ったか?」
「確か、MMOトゥデイに出てたわよね? レアアイテム《
―――
長距離移動、高度移動を可能とするレアアイテム《UFG》だけに留まらず、GGOに存在している数少ない実弾の架空武器《ロングストローク》をも手に入れた凄まじいリアルラックの持ち主として、MMOトゥデイに出演した
「何と……有名人だったか。それで、その様な御仁が我々に如何な要件で?」
「……ライキリG7を探していると聞いた。俺達は、それがある場所に心当たりがある」
「! 本当か?」
「……あぁ。俺達も、探しているアイテムがある。だが、三人では攻略は不可能だ」
「ふむ……つまりは、交渉という訳だな? 俺達が探しているライキリG7の情報を与える代わりに、そのアイテムがあるとされるダンジョンの攻略に協力しろ、と」
「……勿論、此方も協力する。ライキリG7は、ダンジョンのボスがドロップすると聞いた。情報を与えるだけでは信憑性に欠ける……フェアじゃない。だから、案内と攻略も含めて、協力する」
「おぉ…! それはありがたい。此方としても、願ってもない申し出だ」
「なんか、私達を置いてめっちゃ話進んでるんだけど……」
「ふふ、彼ならいつもの事でしょ? それにしても、ちょっとあの子は素直過ぎるというか、不用心が過ぎる気がするけれど……」
「えぇ……美徳だけど、ちょっと困るのよね」
「…お互い苦労してるわね。私はクレハ。貴方は?」
「シノンよ。私としても詳しく聞きたいわ、教えてもらっていい?」
「勿論よ〜。協力関係はフェアじゃないと」
男は男同士で、女は女同士で。
かくして、遂に剣士が剣聖へと至る為の鍵となるもの―――GGO唯一の刀型実体剣であるレアアイテム『ライキリG7』を手に入れる為の話し合いが、総督府で行われるのであった。
アファシスは未登場。イツキは分からん。